澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

高須克弥さん、みっともない「スラップ訴訟」はお止しなさい。

(2020年11月8日)
医学・医師・医療・医薬の「医」の本字は、「醫」である。説文解字によれば形声文字で、音符の「殹」は「エイというまじないの擬声語」(大漢語林)、これに薬草を作る酒ないし酒器の「酉」を添えてできた文字であるという。

「醫」の文字の成り立ちからも、医学や医師は、呪術(マジナイ)から経験科学として発展したことが読み取れよう。どの字書にも、「醫」の字義の一つとして「かんなぎ」(巫女)が上げられていることも、その事情を表している。

今の世の医師が呪術師や巫女であってはならず、すべからく冷静な論理的思考のできる自然科学者でなくてはならない。ところが、いまだに呪術師然として恥じない医師がおり、そのことに無批判な世論もある。ここでいう呪術とは、反科学を意味する。あるいは反科学的な姿勢や態度をいう。

高須克弥という人物がいる。医師とのことだが、呪術師ないし予言者気取り。こう報じられている。

高須克弥院長 米大統領選でトランプ氏優位の報道に「全てが僕の予言通りにすすんでいる」(2020年10月31日 19時10分 東スポWeb)

 高須クリニック院長の高須克弥氏(75)が(10月)31日、ツイッターを更新。米大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ大統領(74)の優位が報じられたことを受けて、自身の見解を語った。

 高須院長は「全てが僕の予言通りにすすんでいる。当たりすぎて怖い。トランプ勝利。大阪都構想勝利。愛知県知事リコール勝利」と驚きの様子。続けて「もうすぐ僕は死んじゃうのかな…これは別に怖くはないけどね」とした。

この人は、10月31日前のどこかの時点で、「三つの予言」をしたのだ。
(1) 11月1日大阪都構想(正確には「大阪市廃止」)住民投票で、賛成派が勝利する。
(2) 11月3日アメリカ合衆国大統領選挙でトランプが勝利する。
(3) 11月4日提出期限の「愛知県大村知事リコール」署名運動が成功する。

その予言のことごとくがハズレたことが、本日までに明らかになった。予知能力などまったくないことが明らかになった、と念を押すほどのこともない。当たり前のことだ。

予言はずれの責任を取ってもらおうというのではない。自らが発起人になっておこなった「大村愛知県知事リコール」運動について、批判を許さないという姿勢を問題にしたいのだ。

この人物、歴史修正主義に親和性が高く、天皇に対する思い入れが過剰である。その反面、日本国憲法の諸価値には関心のないごとくなのだ。

彼自身のこんなツィッターがある。(2019年12月8日付)

12月8日は奇しくも太平洋大戦の開戦日である。
。故郷は焦土て化し、防空壕て生まれた僕は、いま生きておれるぬは昭和天皇陛下の御聖断のおかげだと思います。(ママ)

世に蔓延している、「開戦は臣下の責任。敗戦の決断は朕の手柄」という珍妙な論理の信奉者なのだ。なるほど、それゆえの大村知事リコール運動なのか。

もちろん、個人として天皇を崇拝することも賛美することも、思想・良心の自由であり、その表現の自由も日本国憲法によって保障されている。しかし、自分の思いを他に強制することはできない。

高須が発起人となった大村愛知県知事リコール運動は、同県で2019年に開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」を巡る対応に問題があったとして、実行委員会会長を務めた大村知事の解職を求めたもの。天皇に対する「不敬」表現への公金支出を問題にしている構図なのだ。

11月4日、その署名簿が県下の各市町村選挙管理委員会にに提出された。朝日の報道では、「愛知県の大村秀章知事のリコールを目指す美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長らが4日、集まった署名を各市区町村の選挙管理委員会に提出した。県選管によると各選管で計7万6462筆(午後8時現在)を受け取ったという。」「県選管によると、名古屋市千種区1万388筆(9月1日時点の有権者の約7・9%)、日進市2854筆(同3・9%)など。同日までが提出の締めきりだった市区町村すべてに署名は提出されたという。」

リコール失敗は明らかだ。愛知県下の行政も、県民の多くも、このコロナ禍のさなかにおける知事リコールに関心が向かなかったのは当然と言えよう。

それでも、高須はこの日午前、報道陣に「最低でも80万筆以上あると実感がある」と話したが、集計中として署名総数は明かさなかった。朝日は、「署名総数明かさず」と見出しを打っている。

そして、昨日(10月7日)、高須はリコール運動の終了を表明。署名は解職の賛否を問う住民投票実施に必要な法定数に届かなかった。これで、大山鳴動もせずに、一件落着かと思ったが、続編の幕が開けた。

「解職の賛否を問う住民投票には9月の県試算で法定数86万6500人超の署名が必要だが、4日提出した署名は計43万5231人分と約半分にとどまり、成立が困難な状況だった。」と報じられたのだ。さて、署名総数43万5231人は信じられるだろうか。署名数が法定数に達していれば、有効署名数を確認しなければならない。しかし、法定数に達していないことは明らかで、選挙管理委員会が無駄な確認作業をすることはない。

あいちトリエンナーレ展の芸術監督を務めた津田大助が、以下のように疑問を呈した。

 中止はいいんですが集めた43万5000人の署名、複数の選管から「同じ筆跡の署名が大量にある」という報告があったり「署名してないのに自分の名前入ってた」という報告も聞こえてきて事実なら健全な民主主義を阻害する大問題なのでメディアはぜひこの件の追加取材お願いします。

 この、津田のツィートにおかしなところはない。高須の名誉毀損の事実を断定する叙述はなく、高須を侮辱・揶揄する文言も一切ない。「事実なら健全な民主主義を阻害する大問題」であることに異論はあり得ない。「メディアはぜひこの件の追加取材お願いします。」も、極めて常識的な提案ないし意見でしかない。

ところが、これに対する高須の反応が異常である。ボルテージが異様に高いのだ。「痛いところを衝かれた」と思っているのだろうか。あるいは「天皇陛下に不敬を重ねるつもりか」との思いだろうか。

こんな報道がされている。

高須院長が怒り、津田氏に謝罪要求…署名「同じ筆跡」不正疑惑に「非常に不愉快」
2020/11/08 10:10デイリースポーツ

高須クリニックの高須克弥院長が8日、ツイッターに投稿。断念を表明した、大村秀章愛知県知事の解職請求運動を巡り、ジャーナリスト津田大介氏が「不正」を疑うツイートを行ったとして、「根拠のないケチをつけられて非常に不愉快である。謝罪を求める」と抗議した。

高須氏は「津田くんには僕が不正投票するような人間に見えるか。僕は断じて不正はしない」と反論。「津田くんは選挙管理委員会の誰もが知らないはずの情報を知ってるんだ」とも記し、「謝罪を求める」とした。

さらに、「デマ流して妨害しただけでなく、再挑戦の妨害を始めた津田くんとその一味。早く謝罪したまえ」「遅れたら次は法廷だ。癌で僕が弱っていると思ってなめるな」と投稿したという。

これは、常軌を逸している。恫喝と言うほかはない。「謝罪しなければ次は法廷だ」という脅しは最近流行だが、タチが悪くみっともない。これで、本当にスラップ訴訟を提起したら、提訴自体が不法行為となって逆に高須が損害賠償せざるを得ないこととなる公算が高い。

そもそも、高須は「公明正大」を原則にし署名は公開で集計を行うとしていたという。2020.10.28の「夕刊フジ」の取材にこう言っていたのだ。

 リコールの署名集めを担う受任者も8万人を突破したようです。2011年の名古屋市議会リコールでは、受任者1人あたり9.8人の署名を集めていることから、必要な署名約85万人分も現実味を帯びています。

 来月4日には選挙管理委員会へ署名を提出する必要があります。高須院長は「公明正大」を原則にしていることから、これまでの署名は公開で集計を行う予定だそうです。
 高須院長は「夕刊フジさん、ぜひ来てください。何もインチキしないで、今ある署名を集計しますから」と自信たっぷりでした。」

高須の側が、朝日・毎日・中日などの大手メディアにしっかり公開して署名数の集計を行っていれば、こんな疑惑は生じようがなかったのだ。グレタ・トゥーンベリに倣って、こう申し上げよう。

「裁判なんてばかげている。怒りをコントロールする自分の問題に取り組んでから、友人と映画でも見に行くべきだ。落ち着け。落ち着け!」 「その上で、冷静に不正疑惑を晴らす手段を考えたまえ」

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