澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

<デタラメだぞ>ツィートに見える、河野太郎の扇動者としての危険性。

(2021年1月23日)
<うあー、NHK、勝手にワクチン接種のスケジュールを作らないでくれ。デタラメだぞ>

これが、河野太郎(行革担当相)の1月20日朝のツイートだという。ツイートとは言え、国会議員の国民に対するメッセージである。この乱暴なものの言い方には驚くしかない。しかも、新ワクチン担当大臣が、公共放送NHKのワクチン接種報道に<デタラメだぞ>というのだから穏やかでない。

河野太郎は、NHKのどんな放送内容を、<勝手で、デタラメ>と言ったのだろうか。興味をもってそのツィッターを検索してみてまた驚いた。<うあー、NHK、勝手にワクチン接種のスケジュールを作らないでくれ。デタラメだぞ>が、全文である。NHKが、いつ放送した、どのような報道内容の、どこがどうデタラメなのか、何の説明もない。NHKの報道を訂正して真実を国民に伝えようという真摯さはカケラほども見受けられず、NHKに無責任な悪罵を投げつけているだけとしか評しようがない。口をとんがらした、幼稚園児の口ゲンカを想起させる。

その動機に思い当たる節がないわけではない。毎日の記事が、上手にまとめている。

 「河野氏とNHKには因縁がある。NHKは昨年(2020年)5月6日、防衛省が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田市内への配備を事実上断念したと報じた。ところが、当時、防衛相だった河野氏は翌7日に「フェイクニュース。朝からフェイクニュースだと伝えているのに、夜のニュースでも平気で流す。先方にも失礼だ」とツイートした。この時もNHK批判が相次いだが、その後、事態は次第にNHKの報じた方向に傾き、河野氏は6月15日に自ら配備停止を表明している。」

同じ、毎日の記事(「ファクトチェック 本当にデタラメなのか 河野太郎行革相が批判したNHKワクチン報道を検証した」)によると、河野の<デタラメ>批判の対象は、どうやら一般人に対するワクチン接種の時期をめぐるNHKの報道内容のようなのだ。

「NHKは、20日朝の「おはよう日本」の中で、「早ければ5月ごろから一般の人への接種を開始する案も出ている」と伝えた。この部分は午前6時4分と午前7時7分の2回、全く同じ内容が放送されていた。河野氏の「デタラメ」ツイートは2回目の放送直後の午前7時8分。反射的にツイートした可能性がある。」

毎日記事は、「厚生労働省の公表資料に類似スケジュールが出ていた」「主要メディアが軒並みNHKと同様の報道をしている」ことを説得的に説明している。しかし、仮にそのような資料や同様の報道がなかったとしても、それなりの取材に基づく報道を<デタラメ>とは言えまい。しかも、NHKの報道は決してスケジュールを断定するものではない。

事態を傍目で眺めれば、河野は「オレの承認していないことを勝手に報道するな」と恫喝しているだけのことである。いや、恫喝は不正確かも知れない。駄々を捏ねている、というのが適切な表現であろうか。NHKや、同じ報道をしたメディアには、いささかの萎縮もあってはならないと思う。

河野は、自らが権力の側にあるという自覚と、その自覚に基づく謙虚さに欠けている。メディアへの統制の危険に無頓着なこの政治家、未熟で危険と指摘せざるを得ない。これ以上、権力の中枢に近づかせてはならない。

さらに問題なのは、この「〈デタラメ〉・ツィート」に対する社会の反応である。「このツイートは9万回以上リツイートされ、23万の「いいね」がついている。リプライ(返信)にはNHK批判と河野氏批判がせめぎ合っている。」という。これは、身震いするほど恐ろしいことではないか。ネットの世界には、こんな愚かなツイートを真に受けて、NHK批判に飛躍する多くの、煽動されやすい人々が現実に存在するのだ。

毎日が報じている例では、<えぇ…国民から受信料徴収して間違った情報流してるんですかNHKは…><受信料徴収してる『公共放送』 大臣がTwitterで情報発信しなければデタラメだと気付けず情報混乱しますよね…>などという反応。NHKが、何を、どう間違えたかの特定もないままの付和雷同。これが河野太郎支持者たちなのだ。

われわれは、トランプのTwitterによる情報発信を冷ややかに眺めてきた。トランプのツィートは、〈理由もなくメディアのニュースをフェイクと断じ〉、実は〈自らがフェイクを発信するもの〉だった。そのトランプの発信に無条件に耳を傾け、これを信じることによって、トランプを支えた人々の存在が、フェイク・ツィートを可能にした。

あれは、対岸の火事ではない。侮って批判を怠ると、我が国にもトランプ亜流を誕生させることになりかねない。河野太郎も、要警戒の一人である。もっとも、毎日が次のような理性にもとづく適切な批判のリプライを紹介していることに、救われた思いである。

 <(NHKの報道は)きちんと厚生労働省の発表を踏まえての報道です。ご自身が厚生労働省の発表を把握していなかったからのご発言ではないでしょうか。しっかり各省庁の動向を把握された上で、公人としてデラタメ発言はデタラメでしたと謝罪するか、Twitterをお取り消しされた方がよいと思います>

なお河野は、1月23日までに、デタラメでしたとの謝罪も、Twitterの取り消しも、実行していない。

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