澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

ウラディミール・プーチン、ロシアの《法治主義》を論ず

(2021年1月29日)
ロシアにだってね、《法の支配》も《法治主義》もあるんだよ。《立憲主義》って考え方もね。えっ? 「ウッソー」とは失礼な。ちゃんと「ロシア憲法」だってある。その憲法には、思想・表現の自由も、「平穏な集会・デモの自由」も書いてある。本当だよ。だから、国民誰もが政権に反対して「平穏に」集会やデモをする自由を持っている。驚いちゃいけない。ロシアって、ツァーリ独裁の帝政時代とは違うんだ。

だから、私が、ずーっと権力を掌握し続けるための法をつくるには一苦労だった。憲法を改正しなくちゃならなかったし、それに、大統領経験者が罪を犯しても生涯にわたり訴追されない権利を保障する法律を作るのも楽じゃなかった。その楽じゃない手続を、全て完了したのだから、もう何の問題もない。ツァーリ独裁ならそんな面倒なことをしなくてもよかったんだけど、いや、文明とは面倒なもの。

アレクセイ・ナワリヌイ? 彼はなんにでも反対するヘンな奴でね。憲法改正についても、大統領終身不訴追の立法にしても、「クーデターだ」とか、「憲法違反だ」と騒いでいた。明らかに、人民の意思に反した行動ではないか。おかしいだろう。もちろん、彼にも人権はある。それは否定できない。でも、人権があるってことはだね、なんでも勝手にできるってことではないんだよ。人は、厳格に法が認める範囲でしか行動できない。どこの国でも、おんなじだろう。

昨年(2020年)8月、彼は国内を旅客機で移動中に体調が悪化してベルリンの病院に入院した。問題がこじれたのは、ドイツ政府の仕業さ。ナワリヌイに神経剤ノビチョクによる毒殺が図られた「明確な証拠」があると発表したんだからね。それで、ナワリヌイも調子に乗って、「ロシア当局が自分を暗殺しようとした」「プーチンの指図だ」と主張を始めた。冗談じゃない。私が指図したのなら、今ごろ彼が生きているはずはないじゃないか。

ドイツから帰国した彼が、モスクワの空港で待ち構えていた官憲に逮捕され拘束されたが、これは私の指示によるものではない。法が命じたからだ。彼は、有罪の判決を受けて3年半の禁固刑を言い渡され執行猶予中の身だ。しかも執行猶予期間中、定期的に出頭義務を課せられている。この義務に違反したからの身柄拘束だ。法治国家として当然のことじゃないか。どうして出頭できなかったか? そんなことに私は興味はない。

ナワリヌイの身柄拘束に対して、彼の釈放を求める抗議集会とデモが起こった。1月23日のことだ。「少なくとも全国約125都市で」「全国で25万?30万人が参加」「プーチン政権下の抗議活動では過去最大規模」などと報道されているが、これは不許可の違法集会だし、違法デモだ。違法は、断固取り締まらなければならない。それが、《法治主義》だ。だから、治安当局が3700人以上を逮捕したっていうのは当然だろう。

治安当局が参加者を警棒で殴打するなどの映像が流され、外国からの非難の声も上がったが、あれはためにするものだ。「米連邦議会議事堂乱入事件の容疑者には最長禁錮20年となる重罪の容疑で捜査が進んでいる」というじゃないか。違法行為が許されないのは、どっちもどっち。違法なデモを取り締まるのは平穏な社会秩序を維持するためには当然のことだろう。

ナワリヌイは、自らの政治的な野心を押し通すために違法を重ねているんだ。違法を断固取り締まるのが、法治主義ではないか。しかも、このデモは、合法的な政権に対する危険をもたらすものとしても徹底して取り締まらねばならない。

それからもう一つ。ナワリヌイは、黒海沿岸にプーチン宮殿なるものがあると吹聴している。私が、「1000億ルーブル(約1400億円)相当の宮殿などを所有している」として、その宮殿の動画を公表している。あまつさえ、特定の実業家の名を上げて、この宮殿を「史上最大の賄賂」とまで言っている。明らかに、市民を洗脳しようとしているのだ。

しかし、「私も近親者もここで示された財産のどれも所有していない。過去に所有したこともない」。これで、この話は終わりだ。では、いったいあの建物は、誰が何のために建設したか、調べれば分かるだろうって? 私には、そんな無意味なこと時間を費やす暇はない。

最後にはっきりさせておこう。表現の自由を行使する権利は誰にもある。しかしそれは、飽くまで「法が認める枠」の中でのことだ。その枠外に出るものはすべて危険なものとして、禁じられる。それが、ロシアの《法治主義》だが、私の見るところ、世界中を見わたしてどこの国もおんなじだ。大して変わるところはない。そうだろう。

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Published in 木曜日, 1月 28th, 2021, at 19:57, and filed under 立憲主義.

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