澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

権力者が「愛国」を口にするとき ー 民主主義は危機のさなかにある。

(2021年3月14日)
全人代が終わった。中国当局は、もっぱらコロナを抑え込んだ実績を強調し、引き続いての経済発展の喧伝にこれ努めているが、日本の各紙は香港問題に関心を寄せて報道している。

この全人代が採択した「決定」は、賛成2895票、反対0票、棄権1票であった。恐るべき、中国共産党の中央集権体制である。この国に異論の存在は許されない。ということは民主主義は存在しないのだ。

朝日は、北京からの特派員記事に、「香港の選挙制度改変採択して閉幕 民主派排除へ」と見出しを打っている。リードは、「中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は11日、香港の選挙制度改変に関する決定などを採択し閉幕した。「愛国者による香港統治」の名の下、香港民主化の柱だった選挙から民主派が排除されることで「一国二制度」の形骸化は一層深まることになる。」としている。

また、読売の報道は、「香港の選挙制度見直し採択、中国全人代閉幕…李首相「愛国者による香港統治を堅持するため」と題して、「中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)は11日、香港の選挙制度の見直しなどを採択して閉幕した。習近平シージンピン政権が掲げる「愛国者による香港統治」に基づき、中国共産党・政府に批判的な民主派を香港政界から排除するのが狙いだ。香港に高度な自治を認めた「一国二制度」は空文化する。」と報じている。他紙も大同小異。

新制度では、立法会(議会)選挙など各種選挙の立候補者を「愛国者」かどうかで事前に選別する「資格審査委員会」を新たに設けるという。それだけではなく、大多数が親中派で構成されるとみられる「選挙委員会」に立法会選の立候補者指名の職権を与えるともいう。

一昨年(19年)の香港区議会(地方議会)選挙では民主派が議席の8割超を獲得して圧勝した。これを香港の民意と見るべきが常識的な態度。しかし、中央政府に不都合な民意は認められないのだ。だから「愛国者」排除となる。共産党の指導に従う者だけが「愛国者」と認められて立候補可能となり、共産党の指導に従うことに疑念を持たれれば、「非愛国者」として立候補はできないのだ。我が国敗戦前の「非国民」という言葉を思い出させる。

全人代閉幕直後、李克強首相が記者会見をした。これが、「愛国者による香港統治を堅持する」方針を語っている。以下が、その該当部分。但し、On-lineアプリを使っての翻訳で、日本語の出来は悪い。

われわれは、引き続き「一国二制度」、「香港人による香港管理」、高度な自治方針を全面的かつ正確に貫徹し、憲法と基本法に厳格に基づいて事を運び、特別行政区が国家の安全を守る法律制度と執行メカニズムをしっかりと実行し、特区政府と行政長官が法に基づいて施政することを全力で支持することを明確に提起した。

先ほど、全人代が香港の選挙制度の充実について決定を下したとお聞きになりましたが、決定は非常に明確で、「一国二制度」の制度体系を堅持し、充実させ、終始「愛国者による香港統治」を堅持することであり、「一国二制度」の長期的な安定を確保するためでもあります。

昨年、香港は多くの衝撃を受けましたが、香港各界が手を携えてできるだけ早く疫病の発生状況に打ち勝ち、経済の回復的成長を実現し、民生を改善し、香港の長期的な繁栄と安定を保つことを希望します。中央政府は引き続き全力で支援していきます。

愛国とは、おぞましくも危険な言葉だ。とりわけ、権力者が使う「愛国」は国民欺罔の手段として警戒しなければならない。李克強がいう「愛国」とは、中国共産党の指導に従順であることに過ぎない。「愛国者による香港統治」とは、「中国共産党の指導が貫徹した香港統治」というだけのことであって、民主主義とは縁もゆかりもない。

民主主義の政治過程では、国民が国家を作るのであって、その反対ではない。国民が国を作る手段が選挙であって、《全ての国民が選挙に参加して国を作る》のである。国家が国民に選挙参加の資格を選別することはあり得ない。

だから、「愛国者による香港統治を堅持する」とは、香港の民主主義を根絶やしにするという宣言なのである。《「一国二制度」、「香港人による香港管理」、高度な自治方針を全面的かつ正確に貫徹し、憲法と基本法に厳格に基づいて事を運び》とは、《「一国二制度」は形だけのものにする、「党中央による香港管理」を徹底する、「北京が支配する香港の自治」方針を全面的かつ正確に貫徹し、厳格に中華人民共和国憲法をに基づいて事を運ぶ結果として香港基本法を空文とする》ということなのだ。

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