ミャンマーの事態を他山の石に
(2021年5月6日)
ミャンマーで国軍のクーデターが起きたのが2月1日のこと。あれから3か月余が経過した。クーデターに抗議する民衆の抵抗に胸が熱くもなるが、既に路上で虐殺された人が750人を超えるという。この深刻な事態に胸が痛んでならない。
この事件は軍事組織の危険性を示して余りある。軍隊とは、いかなる命令にも逡巡することなく服従して行動することを組織原則とする。命令一下、同胞をも標的に発砲するのが軍隊であり兵なのだ。
国民大多数の抗議と批判に晒されながら、国軍は民衆を弾圧し続けている。まさしくその本質を露呈しているのだ。日本の国民は、これを他山の石としなければならない。軍隊とはかくも恐るべき存在である。躊躇なく民衆に銃を向ける。そして、現実に発砲し大量殺人者となる。
そのミャンマー国軍が日本人ジャーナリストを逮捕し、「虚偽ニュース」流布の罪で起訴したことが大きな話題となっている。このことも、もう一つの他山の石である。自民党の改憲草案の中に、緊急事態条項が含まれている。国家の緊急時には、国会を停止して行政権が人権を制限しうるとする。その極限が軍司令官に立法・行政・司法の三権を委ねる戒厳令である。今、ミャンマーで、自民党改憲草案が想定した事態が現実に進行しているのだ。
今の日本では、不十分ながらも「報道の自由」が保障されている。万全ではないにせよ、国民は知る権利の恩恵を享受している。しかし、それはけっして所与のものでも万古不易のものでもない。不断の努力なければ、「報道の自由」も「表現の自由」も、知る権利の享受も危ういのだ。ミャンマーの現状のごとく、いともたやすく蹂躙されてしまう。
元日経の記者だったジャーナリストの北角裕樹さんは、ヤンゴン市内の自宅で4月18日に逮捕された。その後外部との連絡が絶たれていたが、同月23日に刑務所に収監されていることを日本大使館が確認した。しかし、被疑事実も罪名も弁護人が選任されたか、接見が可能であったかも一切不明である。
そして、北角さんは5月3日に起訴になったと報道された。皮肉なことに、5月3日は国連が定めた「世界報道自由デー」である。逮捕されたジャーナリストは北角さんばかりではない。現在約50人が拘禁中だという。
このジャーナリスト諸氏は、貴重な国際社会の目であり耳である。この人たちの勇敢な取材活動のおかげで世界はミャンマーで起こっている出来事を知ることができる。だからこそ、国軍はジャーナリストを目の仇にするのだ。
起訴罪名は、「虚偽のニュース流布の罪」と「入国管理法違反罪」であるという。いずれも、具体的な公訴事実は明らかにされていない。「虚偽ニュース流布」の罪は、2月1日のクーデター後に刑法を改正して新設されたもので、最高刑は禁錮3年だという。
北角さんは、国軍に対する批判的な姿勢で取材し報道をしていたという。当然に国軍にとっては好ましからぬ存在と映る。起訴罪名の「虚偽のニュース流布の罪」における「虚偽」とは、国軍にとっての不都合な「真実」をいうものであろう。
これから裁判が正式に開かれるというが期日は未定だという。弁護人は付くのだろうか、通訳はどうだろうか。傍聴はできるのだろうか。人権保障のために、刑事訴訟の諸原則が守られねばならない。しかし、クーデターも戒厳令も、人権弾圧の手段である。ミャンマーの事態を見つめ、日本国憲法「改正」という企みの恐ろしさを教訓としてくみとろう。