澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「さざ波発言」がもたらした、官邸への大波。

(2021年5月11日)
 本日も、茅渟の海が波立っている。「大阪、死亡者過去最多55人」「大阪の新規感染者数974人」という速報。波立っているのは大阪湾ばかりではない。全国津々浦々の波が高い。コロナ死者数は1万人を超えた。失業者も、倒産件数も、自殺者も夥しい数に及んでいる。人々の不安も並大抵なものではない。「医療崩壊」「ワクチン敗戦」などという言葉に背筋が寒くなる。明らかに、日本の社会全体が大波に曝されている。

 この深刻な事態を「この程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」とツイッターに投稿した信じがたい人物がいる。コロナ禍を話題にして、「笑笑」という言葉を発する神経が理解しがたい。ところが、政権におもねって、この発言の肩を持つ一群の人々がいるという。人の痛みの分からない、心のない人々というほかはない。

 心ない人の存在は社会に絶えない。世の中に無数にある心ない発言の全てに対応することはできない。しかし、このツィートを発した人物が内閣官房参与となれば、看過することができない。しかも、首相の側近にあって、「経済・財政政策」を担当しているというのだから、なおさらのこと。

 こんな心ない、こんな理解し難い神経の持ち主が、政府の「経済・財政政策」に関与する立場にあるのだ。いや、こんな人物が政策立案に関わっているからこその、国民に冷たい心ない政府の政策ではないのか。

 この男、?橋洋一。そのツィートの内容には、いくつもの問題がある。まず、その姿勢の不真面目さである。コロナ禍に苦しむ多くの人々の心の痛みに思いを致すことのできない、決定的な人間性の欠陥を指摘せざるを得ない。言うまでもないが、政治や行政に携わる資格はない。

 さらにこのツィートの、政権による失政糊塗の意図を見なければならない。つとに指摘されてきた、医療を市場原理に放置した失敗、PCR検査態勢の遅れ、ワクチン敗戦の責任、非科学的な経済優先策。その結果として医療崩壊を招いた安倍・菅政権の失政に全く無反省であるだけでなく、失政による国民の被害を過小評価して、「笑笑」でごまかそうという意図が透けて見える。

 いま、急速に東京オリパラの開催中止を求める世論が大きくなりつつある。高橋はこれにブレーキを掛けたかったのだ。しかし、結果は反対になった。政権のコロナ対策に対する真剣さの不足の原因が、「これで五輪中止とか笑笑」という本音にあることが明瞭になったのだから。やっぱり、五輪こそがコロナ対策のガンなのだ。

 菅が、またしても「高橋洋一は私とは別人格」と言っても通用しない。こんな人物を見込んで、官邸の「経済・財政政策」担当参与においているのだ。菅は果たして「コロナはさざ波程度」「五輪中止とは笑笑」と言った人物を用い続けるつもりだろうか。

 高橋のツィートは、英・米・独・仏・伊・カナダ・インドと日本の新規感染者数の推移のグラフを示してのものだった。そのツイートの内容は真実と言えるものだろうか。新規感染者数の推移だけを見ることに合理性があるだろうか。また、その見方は正確だろうか。コロナ禍の被害実態を世界に比較して、本当に「日本はこの程度の『さざ波』」と評しうるだろうか。

 いまや反対論が優勢である。5月9日のTBS「サンデーモーニング」で、ある医師がこう語っている。「大阪では毎日1000人以上の感染者が出て、40?50人の方が亡くなり、入院・治療を受けられる方はわずか10%なんですね。残りの人たちは検査も治療もろくに受けられないような状況で放置されているような状況が続いていて、その状況が全国に広がろうとしている」「諸外国と比べて、大阪だけの死亡者は場合によってはインド、アメリカ、イギリス、ヨーロッパよりも多いような状況なんです。非常に深刻で悲惨な状況です

 高橋は、本日(11日)ツイッター上で釈明した。「世界の中で日本の状況を客観的に分析するのがモットーなので、それに支障が出るような価値観を含む用語は使わないようにします」。主観的な表現のあったことは認めたわけだが、問題のツィートを撤回せず、謝罪もしていない。

 このような人物を経済政策の助言者として任命した菅義偉の責任を問わねばならないが、このような発言後もなお高橋を罷免せずに任用し続ける責任は、さらに厳しく問われなければならない。

 菅内閣の支持率は着実に減り続けている。この高橋の「さざ波発言」は、さらに支持率を下げる恰好の材料となった。このさざ波、大波となって内閣に大きな被害をもたらすに違いない。

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