スラップの提訴受任は、弁護士の非行として懲戒事由になり得る ー 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第193弾
(2021年7月12日)
日弁連の機関誌を「自由と正義」という。毎月全会員に送付されるこの雑誌で最も読まれているのは、巻末の「懲戒処分公告」である。多くの会員が襟を正し、心して読んでいる。
全弁護士の強制加盟組織である弁護士会は自治を保障されている。その自治権の主要な柱の一つとして、弁護士の非行に対する懲戒は弁護士会が行うことになっており、法務省からも裁判所からも懲戒されることはない。弁護士に非行ありと主張する誰もが、当該弁護士の所属する単位弁護士会に懲戒を請求することができる。
最近号(21年6月号)にも、各単位弁護士会がした13件の懲戒公告が並んでいる。懲戒となる弁護士の非行パターンはいくつもあるが、今月号の公告例で少し珍しい事例に興味を引かれた。スラップの防止に関わると思われるこの事例をご紹介したい。
懲戒処分の公告
第二東京弁護士会がなした懲戒の処分について、同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第1号の規定により公告する。
記
1 処分を受けた弁護士
氏 名 I M
登録番号 28×××
事務所 東京都港区芝以下略 ○○法律事務所
2 処分の内容 業務停止2月
3 処分の理由の要旨
被懲戒者は、ウェブサイト運営者Aの訴訟代理人として、Bに対し、ウェブサイトの利用代金を請求する訴訟を提起するに当たり、懲戒請求者がBの代理人としてAに通知していた内容等から、上記訴訟の提起がAの詐欺的取引を助長することに当たる可能性を認識すべき状況にあったのだから、Aに対して資料を徴求する等して事実関係を検討した上で、Bの主張に反証できる可能性が相当程度存在すると判断できなければ訴訟提起の受任には消極であるべきであったにもかかわらず、十分な調査を行わないまま、2016年11月21日、Bに対して訴訟を提起してAの違法行為を助長した。
被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第5条等に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4 処分が効力を生じた年月日 2020年10月30日
2021年6月1日
日本弁護士連合会
被懲戒者である弁護士は、業者Aからの依頼を受けて、Aからの依頼のとおりにBを被告とする債権回収の訴訟を提起した。それが、弁護士としての非行に当たるというのだ。しかも、ペナルティは業務停止2か月とけっこう重い。
なお、弁護士職務基本規程第5条とは、「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」という倫理的な信義誠実原則を定める条項である。
問題は、どうやら依頼者Aが悪徳業者でBがその被害者であったらしいということ。その旨は、Bの代理人弁護士からAに対して通知があったのだから、少し調査をして見れば「Aからの依頼は受任すべきではない」と分かったはずではないかという状況だった。弁護士会はそう判断してAの代理をして提訴した弁護士を懲戒処分としたのだ。弁護士たるもの、依頼者の要望の通りの訴訟活動をしていればよいとはならない。引き受けてはならない事件の受任が懲戒事由となり得る。公益性の高い弁護士の業務である、違法を助長する業務は避けなければならない。
これは、スラップ訴訟に当てはまる。今村憲という第二東京弁護士会所属の弁護士は、DHC・吉田嘉明からの依頼を受けて、依頼者DHC・吉田嘉明の要望の通りに、私(澤藤)を被告とする訴訟(「DHCスラップ訴訟」)を提起しみごとに敗訴した。のみならず、その後の攻守ところを変えた「反撃訴訟」判決で、DHCスラップ訴訟の提起自体が違法と認定され最高裁で確定した。
しかも、重要なことは、反撃訴訟判決がスラップ提訴を違法と判断とした理由である。反撃訴訟一審判決はこう言っている。
「DHC・吉田嘉明の提訴は、客観的に請求の根拠を欠くだけでなく、DHC・吉田嘉明はそのことを知っていたか、あるいは通常人であれば容易にそのことを知り得たといえる。にもかかわらず、DHC・吉田嘉明は、敢えて訴えを提起したもので、これは裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に当たり、提訴自体が違法行為になる」
とすれば、この懲戒事案に当てはめれば、「今村憲は、事実関係を検討した上で、予想される澤藤の主張に反証できる可能性が相当程度存在すると判断できなければ当該スラップ訴訟提起の受任には消極であるべきであったにもかかわらず、十分な調査を行わないまま性急に、あるいは通常人であれば容易に知りうる勝訴の見込みないことを知りながら、澤藤に対して訴訟を提起してDHC・吉田嘉明の違法行為を助長した」と言えるのだ。DHC・吉田嘉明は当時私を含めて10件のスラップを濫発しており、今村憲はそのすべてに関わっている。悪質性は高いと指摘せざるを得ない。
スラップ被害をなくす有力な方法が、受任弁護士を懲戒処分とすることである。但し、懲戒請求には除斥期間の定めがある。「懲戒の事由があったときから3年を経過したときは、懲戒の手続を開始することができない」(弁護士法63条)とされているから、今回のスラップについての懲戒請求はできない。この次、同じことがあれば、躊躇なく懲戒請求をしなければならないと思う。