澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

猪瀬都知事に、自首をお勧めする。

私が選択した職業は「代言人」ではなく、「弁護士」である。弁護士は、権力から訴追を受ける者に寄り添うことを職務とする。いかなる犯罪者といえども、権力の前には裸の弱者でしかない。その弱者に徹底して味方することを通じての人権擁護と社会正義の実現とが法の期待するところ。

在野・反権力の立場にあって、人を訴追するのではなく弁護することが習いとなり性ともなっている。だから、人には甘い。その人の弁明が身に沁みて分かってしまう。徹底的に人を追い詰め、責任を明らかにすることは、正直なところ性に合わない。言葉を換えれば、いじめられる側に立つことが本分だ。寄ってたかっていじめる側に立つことは本意でない。

もっとも、世の中にはいじめる側に立つことに快感をおぼえる人種もいる。ときには、人をつるし上げることが得意だと吹聴する愚かなゴロツキにもお目にかかる。また、こういう輩と無神経に付き合っていることのできる人も少なくない。私には虫酸が走る。

私にとって、猪瀬直樹という人物は権力を背負った典型的ないじめる側の存在だった。傲岸不遜なその態度は、批判を遠慮してはならないと思わせるもの。しかし、今や、彼はいじめられる側に落ちている。水に落ちた犬を打つのは、私の流儀ではない。むしろ、彼のためにどうすればよいかを考えたい。

最善のアドバイスとして、猪瀬さんに自首をお勧めする。
まずは、請託があったことを認めての受託収賄罪(刑法197条1項後段)の自首。徳洲会側から、都政での便宜を計らっていただきたいとの依頼があってこれを承諾し、その見返りに5000万円を受領したことを認めてのもの。請託を認めなければ、単純収賄罪(刑法197条1項前段)の自首だ。心許す弁護士と相談されるがよい。

自首とは、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に、捜査機関に対して犯罪を犯した旨を自発的に申告することをいう。自首が成立すれば刑の減軽事由となる(刑法第42条1項)。犯罪が捜査機関に発覚したあとでは自首にならない。だから、自首は一刻も早い方が良い。もっとも、仮に自首の要件を欠く場合にも、酌量すべき情状としては期待しうる。

単純収賄罪について、自首すべき犯罪事実とは、「東京都副知事である猪瀬が、副知事としての職務に関連して事実上の影響力行使の対象となっている東京電力病院入札業務に関して、2012年11月20日、徳田虎雄から賄賂として5000万円を収受した」というもの。

単純収賄罪(法定刑は5年以下の懲役)は、請託の存在を要件とせず、公務員の不正行為も要件ではない。猪瀬が徳洲会に「便宜を図った」か否かは、犯罪成立には無関係である。唯一、賄賂の収受と職務との関連性だけが要件である。その要件で、職務の公正に対する社会の信頼という保護法益を損うに十分とされているのだ。

ここでいう職務は、必ずしも「法令に明記された職務」に限られない。「法令に明記されていない職務」であっても、あるいは、「職務に密接に関連する行為」(「準職務行為」や「事実上所管する行為」)でも、さらには「事実上の影響力を利用して行われる行為」をも含むとするのが判例の立ち場である。

もちろん、東電病院の売却や入札業務は、東京都の業務ではなく、株式会社である東電の業務ではある。しかし、東京都は東電の大株主としてその動向に絶大な影響力を持ち、猪瀬は副知事として自ら東電の株主総会に乗り込んでまでして、東電病院売却を決定させている。この件については猪瀬自身が職務に関連する大きな影響力を持っていたというべきである。この影響力の行使において、職務の公平性についての社会的信用を毀損してはならない。

昨年11月6日に、猪瀬が徳田虎雄に面会した際、徳田は猪瀬に、東京電力病院の取得を目指す考えを伝えた。このとき猪瀬は、自らが東電に売却を迫ったことを話したという。この阿吽の呼吸がぴったりあったその直後(11月20日)に、5千万円は提供された。このことは、関係者の話でわかった旨報道されているが、捜査機関のリークの可能性も高い。おそらく、事実なのであろう。

とすれば、徳洲会が、猪瀬が副知事としての職務権限を背景とする東電の入札事務への影響力に期待して、5000万円を提供したものと考えられ、猪瀬はこれを収受したものというべきである。それなら、収賄罪の職務関連性の要件は充足されたことになる。もちろんそれだけでなく、医療行政上の許認可や、補助金等への配慮への期待も、暗黙の応諾もあったであろう。

なお、11月6日に、請託があれば、罪は加重されて懲役7年以下となる。また、5000万円の提供が、仮に貸金であったとしても、金融の利益自体(しかも、無利息・無担保)が賄賂に当たる。

猪瀬さん、ぜひ、自首を。
(2013年12月18日)

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Published in 水曜日, 12月 18th, 2013, at 23:57, and filed under 未分類.

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