学術会議任命拒否問題の解決なくして、国民の信頼を得ることはできない。
(2021年10月1日)
短命であった菅政権がやってのけた愚行の最たるものが、学術会議の推薦者6名に対する「任命拒否」である。あの衝撃からちょうど1年が経過した。事態は基本的に動いていない。
この国の政治の土壌には、少しはマシな民主主義が根付いていたと思ったのが、甘い幻想に過ぎなかった。それを思い知らされたことが、1年前の「衝撃」だった。この国の国民は、権力というものを制御しえていない。この国の権力は、国民の意思とは無関係に、自らの意思を強権的に問答無用で貫徹しているのだ。
憲法の理念を無視し、行政の透明性も説明責任もどこ吹く風。まったく別の論理で、権力の専断が行われている。これに対する司法的手続による対抗はなかなかに困難である。本来は、国民こぞって政権に対する批判の嵐がなくてはならないが、菅の首をすげ替えるだけで、権力の連続性は保持されようとしている。
菅に代わる新政権の評価における試金石が、宙に浮いたままになっている学術会議の推薦者6名を任命できるかにかかっている。岸田政権でも良い、連立野党による新政権ならなおさら良い。不透明で恣意的な任命差別をやめ、直ちに学術会議による推薦者を任命して欠員のない学術会議の構成を実現すべきである。
学術会議は、昨年の10月2日には、形式上の任命権者である内閣総理大臣宛に、簡潔な下記要望書を提出している。
第25期新規会員任命に関する要望書
令和2年10月2日
内閣総理大臣 菅 義偉 殿
日本学術会議第181回総会第25期新規会員任命に関して、次の2点を要望する。
1.2020年9月30日付で山極壽一前会長がお願いしたとおり、推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい。
2.2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち、任命されていない方について、速やかに任命していただきたい。
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この学術会議の立場は、現在もまったく揺るぎがない。
昨日(9月30日)、日本学術会議の梶田隆章会長は、25期の活動開始から1年にあたっての談話を発表し、このことを確認した。
同日、オンラインで開いた記者会見で、梶田会長は「文字通り試練の1年だった」「一刻も早く解決したい」と振り返った上、改めて、同会議が一貫して6人の即時任命と拒否した理由の説明を求めると同時に、首相には任命の責務があると指摘してきたことを強調した。
さらに感染症や気候変動の危機に触れ、「科学的知見を尊重した政策的意思決定がこれまでにも増して求められる現状にあって、日本の科学者の代表機関としての本会議が科学者としての専門性に基づいて推薦した会員候補者が任命されず、その理由さえ説明されない状態が長期化していることは、残念ながら、科学と政治との信頼醸成と対話を困難にする」と指摘し、「相互の信頼にもとづく対話の深化を通じて現在の危機を乗り越える努力が重ねられることを強く希求」すると結んだ。
まったく異議のあろうはずはない。この事件は、国民の菅政権に対する呪詛となって短命に終わらせた。菅に代わる新政権を誰が担うことになろうとも、この問題を解決せずに、国民からの信頼を獲得することはできない。