朝日にもいた、アベに擦り寄る忖度記者。
(2022年4月8日)
いうまでもないことだが、ジャーナリズムの神髄は権力に対する批判にある。多くのジャーナリストがそのことを肝に銘じて、自らの姿勢を糺している。取材のために権力と接しても権力との距離を保たねばならないとし、権力に擦り寄ることを致命的な職業倫理違反であり恥としている。
しかし、どこの世界にも例外というものがある。国政を私物化し嘘とごまかしで固めた安倍政権に擦り寄った恥を知らない「忖度ジャーナリスト」として、TBSに山口敬之、NHKに岩田明子、東京新聞に長谷川幸洋、そして時事通信に田崎史郎などが知られてきた。
まさか朝日には…。いや、朝日にもいたのだ。その記者(編集委員)の名を、峯村健司という。昨日、朝日がその旨を明らかにし、1か月の停職処分とした。このことを「朝日新聞社編集委員の処分決定 「報道倫理に反する」 公表前の誌面要求」という見出しで報じている。
峯村は何をしたのか。朝日の調査によれば、以下のとおりである。
「(週刊ダイヤモンド)編集部は外交や安全保障に関するテーマで安倍氏にインタビューを申し入れ、3月9日に取材を行った。取材翌日の10日夜、峯村記者はインタビューを担当した副編集長の携帯電話に連絡し、『安倍(元)総理がインタビューの中身を心配されている。私が全ての顧問を引き受けている』と発言。『とりあえず、ゲラ(誌面)を見せてください』『ゴーサインは私が決める』などと語った。副編集長に断られたため、安倍氏の事務所とやりとりするように伝えた。記事は3月26日号(3月22日発売)に掲載された」
朝日の記事は、「公表前の誌面を見せるように要求した峯村記者の行為について、報道倫理に反し、極めて不適切だと判断した」と述べている。「極めて不適切」どころではなかろう。奇妙奇天烈、摩訶不思議というしかない。なお、このインタビューで安倍は、「核共有の議論をタブー視してはならない」と語ったのだという。
なぜ、安倍晋三本人なり安倍事務所が直接ダイヤモンド編集部に「ゲラを見せていただけないか」と申し入れをせずに、峯村に依頼したのか。峯村が背負っている朝日のブランドに着目したからとしか考えようはない。朝日の依頼なら、ダイヤモンド社は応じるのではないか。
ダイヤモンド社編集部は怒った。怒りの矛先は朝日に向けられ、「編集権の侵害に相当する。威圧的な言動で社員に強い精神的ストレスをもたらした」との抗議になって、朝日の調査が開始された。
朝日は、「政治家と一体化して他メディアの編集活動に介入したと受け取られ、記者の独立性や中立性に疑問を持たれる行動だったと判断し、同編集部に謝罪した」と公表している。当の峯村は、「安倍氏から取材に対して不安があると聞き、副編集長が知人だったことから個人的にアドバイスした。私が安倍氏の顧問をしている事実はない。ゲラは安倍氏の事務所に送るように言った」と説明している。
峯村は「安倍氏とは6年ほど前に知人を介して知り合った。取材ではなく、友人の一人として、外交や安全保障について話をしていた。安倍氏への取材をもとに記事を書いたことはない」と説明している。どうやらこの記者、「折りあらば、安倍のために一肌脱いで、貸しを作っておこう」と思っていたようだ。
毎日は、「朝日新聞編集委員 処分 安倍氏記事 事前に誌面要求」と報じた。その中で、「峯村氏は反論」という小見出しで、「重大な誤報を回避する使命感をもって説得し、『(安倍氏の)全ての顧問を引き受けている』と言った。安倍氏からは独立した第三者として助言する関係だ」と峯村の言い分を紹介している。
NHKは、「朝日新聞 記者を処分 安倍氏記事事前に閲覧週刊誌に要求」と見出しを付け、東京新聞は、共同配信の記事として、「安倍晋三元首相の記事、事前に見せるよう要求 朝日新聞が編集委員を懲戒処分」としている。
本日の赤旗は、この件を社会面のトップで扱っている。「安倍元首相と『朝日』編集委員 週刊誌に“圧力” 『核共有』記事 公表前点検要求」という見出し。リードだけを紹介しおきたい。
自民党の安倍晋三元首相が、週刊誌に掲載される自身のインタビュー記事を公表前にチェックするよう朝日新聞の編集委員に依頼していたことが7日、明らかになりました。朝日新聞社は同日、峯村健司編集委員(47)が週刊誌側に公表前の誌面(ゲラ)を見せるよう求めたことを公表しました。同社は「政治家と一体化して」他メディアに圧力をかけたと受け止められる行動だったとして峯村氏を停職1カ月の懲戒処分にしました。(取材班)
この峯村という記者、今月20日には朝日を退社する予定という。さて朝日退社後も、「安倍の番犬」という大きな名札を付けて、「ジャーナリスト」として職業生活を継続しようというのだろうか。やっていけるほど日本の言論界は甘いのだろうか。