澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

統一教会を「解散命令」に追い込むための要件

(2022年9月17日)
 本日の赤旗、トップ記事の見出しが「法に基づく解散命令を」「統一協会 霊感商法対策弁連が声明」となっている。要旨次のとおり。

 「統一協会(赤旗はこう表記する)による被害救済に取り組んできた全国霊感商法対策弁護士連絡会が(9月)16日全国集会を開き、オンラインと合わせて約200人が参加した。被害の実態や協会と政治との関係、被害撲滅に向けた規制の在り方などについて意見を交わし、教団に被害信者への謝罪と損害賠償を求めた上で、宗教法人法に基づく解散命令の請求を行政に求める声明を採択した。」

 「冒頭で代表世話人の山口広弁護士は『統一協会は単なる宗教団体ではない。資金づくりを担う事業部門や、各国の政権に何が何でも食い込もうとアプローチする政治部門、新聞などで主張を発信する部門などを添えた複合体だ』と指摘。」

 「同じく代表世話人の郷路征記弁護士がオンラインで、協会が続けてきた伝道・勧誘の問題点を解説。『宗教団体の伝道であることを隠したまま「先祖の因縁」などで恐怖感・不安感をあおる。身近な人に相談もさせず、「やめる自由」を事実上なくして信仰させてしまう。信仰の自由を侵害している』と指摘した。」

 この弁連の活動には、深い敬意を表したい。

 同じ赤旗1面に、「『安倍元首相忘れない』 韓国の統一協会が声明」という記事がある。韓国の統一協会が、安倍晋三の死去に関し、「平和運動を推進しながら、不意の死をとげた安倍晋三元首相に対して深い哀悼の意を表します。朝鮮半島の統一と世界平和のビジョンを提示し、前・現職首脳と共にその意志を表明した安倍元首相の崇高なる犠牲を家庭連合は絶対に忘れません」と、韓国の主要日刊紙に全面広告したのだという。

 その統一教会の声明のなかで、「全国霊感商法対策弁護士連絡会を特定の政治的意図をもった団体だと事実無根の攻撃をしました」と赤旗が紹介している。統一教会、大いに弁連憎しなのだ。それにしても、「特定の政治的意図」とはいったい何のことだろうか。自民党に不利になる活動を、すべからく「特定の政治的意図」によるものと攻撃したいのであろう。

 弁連には、最大限に司法を活用して被害を救済し、さらに被害の根絶に向けた活動を期待したい。

 統一教会による被害を根絶するための最大の手段が、宗教法人法81条の「解散命令」である。これが本日の赤旗記事の見出しになっている。「解散命令」とは宗教法人法上の法人格を剥奪すること。そのことによって宗教団体としての統一教会が消滅するわけでも宗教活動ができなくなるわけでもない。しかし、統一教会は所有権主体とも取引主体ともなれなくなる。「解散命令」には、財産関係の清算手続が続くことになる。そして、宗教法人に与えられている税法上の優遇措置を失うことにもなる。影響は死活的に大きい。

 宗教法人法81条1項(解散命令)を確認しておこう。
 「裁判所は、宗教法人について左の各号の一(ひとつ、の意味)に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
 一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
 二 第二条に規定する宗教団体の目的(注・宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成すること)を著しく逸脱した行為をしたこと(以下略)

 条文に明らかなとおり、解散命令は裁判所が出す。行政機関は出せない。裁判所が自ら職権でも出せるが現実には考え難い。常識的には、所轄庁の請求があって裁判所が動くことになる。所轄庁は、都道府県知事あるいは文科大臣である。利害関係人(たとえば、債権者)も請求の資格をもっているが、証拠を揃えるのは容易ではない。

 解散命令のハードルは高い。同条1項1号は、単なる法令違反では足りず、「著しく」公共の福祉を害すると「明らかに」認められる行為あることを要件としている。法令違反は必ずしも刑事罰を意味しないが、明らかにその主体は宗教法人でなければならない。

 これまで、解散命令が発せられたのは2件とされている。宗教法人オウム真理教に対するものと、霊視商法で詐欺被害輩出を重ねた宗教法人明覚寺に対するもの。いずれも、最高裁まで争われて、解散命令が確定している。オウムの最高裁決定が1996年、明覚寺は2002年である。以下に、両事件を概観して、統一教会への適用を考えて見たい。

 問題は大きく2点ある。第1点は法81条1項(解散命令)の要件であり、第2点が、この条文あるいは解散命令の憲法20条適合性の有無である。

 この第2点は、日本国憲法の柱の一つともいうべき信教の自由という重要理念の理解に関わる。その基準の定立如何は、国民の信教の自由保障と、既成宗教のあり方に大きな影響を与える。慎重の上にも慎重な判断が求められて当然である。

 その重要な問いに対する最高裁の結論は、今のところは以下のとおりである。

 「大量殺人を目的として計画的、組織的にサリンを生成した宗教法人について、宗教法人法81条1項1号及び2号前段に規定する事由があるとしてされた解散命令は、専ら宗教法人の世俗的側面を対象とし、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容喙する意図によるものではない。右宗教法人の行為に対処するには、その法人格を失わせることが必要かつ適切であり、他方、解散命令によって宗教団体やその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は解散命令に伴う間接的で事実上のものにとどまるなど判示の事情の下においては、必要でやむを得ない法的規制であり、日本国憲法第20条1項に違反しない。」(宗教法人オウム真理教解散命令事件)

 第1点(法81条1項(解散命令)の要件)については、まずオウム事件ではこう判断されている。

 「宗教法人の代表役員及びその指示を受けた多数の幹部が、大量殺人を目的として、多数の信徒を動員し、宗教法人所有の土地建物等の物的施設と多額の資金を使い、大規模な化学プラントを建設して、サリンを計画的・組織的に生成したことは、当該宗教法人の行為として、宗教法人法81条1項1号及び2号前段所定の解散事由に該当する。」(第1審・東京地裁決定、第2審東京高裁も、最高裁も是認)

 なお、オウムの解散請求は、検察官及びオウム真理教の所轄官庁たる東京都知事鈴木俊一両名からのものである。

 一方、宗教法人明覚寺の解散命令事件は、1999年12月所轄官庁(文化庁)が、詐欺刑事事件判決を根拠に「組織ぐるみの違法性が認められる」として和歌山地裁に解散命令を請求したもの。和歌山地裁は解散命令を発し、明覚寺はこれを不服として最高裁まで争ったが棄却されて確定している。

 解散命令の要件具備判断の要点を抜き書きしてみる。

 「前記認定の各詐欺はいずれも相手方(宗教法人明覚寺)に属する満願寺もしくは龍智院という末寺を舞台として行われたものであるところ、その実行行為者及び件数が多数に及んでいることだけからみても、上記各詐欺が組織的に行われていたことが強く窺える」「さらに、前記各詐欺行為は、被害者が満願寺のチラシを見るなどして相談に訪れたことがその端緒になっているところ、そのチラシは、満願寺が独自に作成したものではなく、相手方代表者たる西川義俊の指示ないし決裁を経て、相手方の本部において関連会社に発注して作成したものである」「相手方では、教師特別錬成命令書が作成され、教師の目標数値が(騙取)金額をもって設定されていた」「相手方代表者西川義俊が自ら、金員騙取に向けた欺罔文言を羅列したトーク集なるものを作成した上、これを全体会議に集まった教師や住職らに配付していた」「騙取にかかる金員の振込送金を受ける場合には、相手方が管理する口座宛とされ、予定されていた金員の送金がない場合には、担当僧侶らに問い合わせるなどしていた」「各詐欺の実行行為者は、いずれも明覚寺の系列寺院において話術訓練等を受けていること」が認められる。

 「これらの事実を総合すれば、各詐欺行為は、もはや相手方に属する僧侶等による個人的犯罪ということは到底できず、宗教法人たる相手方が主体となって行ったものというべきである。
 そして、その被害件数及び被害額が極めて多数・多額に及んでいることからして、著しく公共の福祉を害するものであることは明らかであるし、組織的に詐欺行為を行うことが宗教団体の目的を著しく逸脱したと認められる行為であることは多言を要しない。」

 以上の判断が判例の水準である。統一教会に解散命令を請求するに関しても類似の事実を積み重ねが必要であろう。是非とも、組織的な違法を炙り出す努力を期待したい。

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