新藤義孝・衆院憲法審査会与党筆頭幹事の、強引な審査会議事運営に抗議する。
(2022年12月10日)
本日で臨時国会が閉幕となった。政権を揺るがした統一教会問題は、生煮えの「被害者救済新法」成立で、いったん休戦となるが、もちろんこれで幕引きにはならない。問題の本質は、「反共」という理念を共有する、カルト集団と、保守政治勢力、なかんづく安倍派との癒着にある。
統一教会は、岸・安倍・安倍の3代やその周辺の政治家と結びつくことによって、違法・不当な伝導強化活動を可能とし、信者からの収奪を重ねてきた。なによりも、その癒着の実態を白日の下に曝さねばならない。とりわけ、安倍晋三や細田博之と教団との癒着は徹底的に洗い出さねばならない。その調査の中から、真に実効性ある被害者救済策が構築されることになるだろう。
なお、国会閉幕後に、日本の防衛問題についての大議論が始まる。政府・与党は《敵基地攻撃能力の保有》の名で、国是とされてきた《専守防衛》論を放擲することになる。その上で防衛費の対GDP比2%を実現し、大軍拡大幅増をやってのけようというのだ。国会が終了しても、政府の動向から監視の目を離すことはできない。
ところで、各国会会期の終了時に確認しておかねばならないことは、各院の憲法審査会の動向である。明文改憲に向けて、事態は進展したのか、しなかったのか。
昨年7月10日参院選投開票直後には、衆参両院で圧倒的な「改憲派議席」を獲得した岸田政権が「黄金の3年間」を手にしたのだと喧伝された。自・公だけでなく、維新も国民も改憲派の旗幟を鮮明にしてきている。25年参院選まで国政選挙はない。改憲勢力は、この間なら明文改憲に向けての強引な国会運営ができる。憲法審査会はその,強引な表舞台となるのではないか。
結論から言えば、深刻な事態というまでには至っていない。政権与党は、統一教会との癒着の実態を追及され常に受け身の姿勢を余儀なくされた。しかも、円安・物価高の経済情勢である。とうてい、積極的に明文改憲を推し進めるだけの余裕も清算も持ち得なかった。
しかし、両院の審査会が議論を停止していたわけではない。自民党改憲案4項目中の「緊急事態」条項については立憲・共産を除く委員の一定の議論が交わされた。のみならず、12月1日衆院審査会の場に、唐突に「論点整理」表が提出されて、衆院法制局の職員がその表の説明さえしている。彼ら・改憲派は、隙あらば遠慮なく…改憲へ向けての執念を表面化するのだ。下記の「緊急声明」が、事態の顛末と意味についてよくまとめている。
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緊急事態下の国会議員任期延長に関する衆議院憲法審査会の運営及び議論の在り方に抗議する法律家団体の緊急声明
2022年12月9日
1 誤解を生じさせかねない姑息なやり方に抗議する
本年12月1日の衆議院憲法審査会において、衆議院法制局が、緊急事態における国会議員任期延長に関する各党会派の発言を論点ごとに整理した資料を提出し、橘幸信法制局長が20分にわたり説明を行った。
これは、自民党の新藤義孝委員(与党筆頭幹事)が、個人的な議論のとりまとめを行うために、衆議院法制局にその資料作成を依頼したものであり、予めの幹事会では、法制局長が資料説明をすることについては合意がなく、いわば不意打ち的に強行したものである。
衆議院法制局に説明させることで、審査会において議論が進展しているかのように見せかけて改憲をすすめようとする姑息なやり方である。事実、一部のマスコミ(NHK)は、1日衆議院法制局が主張を整理した資料を説明したことを伝えて、「衆議院の憲法審査会で論点整理まできた。」「そろそろ仕上げの仕事に入っていかなければならない。」とする自民党茂木敏充幹事長の発言を報道している。
このような姑息なやり方は、与野党の合意に基づき審査会を運営するとした慣例に反し、国民世論を誤って誘導しかねない危険なものであり、自民党には猛省を求める。
2 議員任期延長改憲のみを議論することは根本的に誤りである
衆議院法制局資料からも明らかなように、緊急事態の国会議員任期延長改憲の議論は、その前提に問題があり、重要な問題についての議論が抜け落ちている。
改憲推進派は、国会機能(国会の立法機能・行政監視機能)の維持のために、議員任期延長の改憲が必要であると口をそろえている。しかし、国会機能の維持が必要であることは、改憲派の問題とする任期切れ直前に大規模災害等が発生した場合だけではなく、議員任期が十分に残っている場合も、国会の閉会中または開会中に、大規模災害等の緊急事態が発生すれば同様に問題となる。国会の機能維持というのであれば、現に開会中の国会で委員会を招集し、閉会中であれば内閣が適切に臨時会の召集を求め(憲法53条前段)、あるいは、野党議員の求めに応じて内閣が国会を速やかに召集し(憲法53条後段)、政府が国会議員の質問に十分に答えて議論を尽くすことが必要である。これはいわゆる平時であっても全く同様である。
問題は、内閣が自分に都合が悪いときは国会を開かない、与党多数派が短時間で委員会審議を打ち切り、野党の質問に政府側が真摯に答えようとしない現状である。国会の開会が内閣の専断となっていて、国会(国会議員)が統制できていないこと、与党多数派が十分な国会審議に応じようとしない現状こそが問題の核心である。
この現状に鑑み、憲法に照らして国会機能を全うするためには、たとえば憲法53条後段に基づき臨時会を召集させることを強制する仕組みなど内閣に憲法を守らせる方途や、国会議員が国会の開会について一定の権限を持つような改革案を憲法審査会で議論することこそが求められている。
改憲推進派は、この本質的な議論に応じようとしていない。国会議員の任期切れが迫りしかも、その時に大規模地震などの緊急事態が発生し、その上、日本全土にわたり広範にかつ長期間、選挙が実施できない場合といった(確率的には極めて低く想定し難い)事態に限って、国会機能の維持のために議員任期延長の改憲が必要だと主張している。改憲をするためだけの議論であり、国会機能の維持など本心では念頭にないことが明らかである。
仮に国会議員の任期延長について改憲を行ったとしても、国会が開かれるとは限らない。参議院の緊急集会も、憲法上は「内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる」(憲法54条2項)とされているため、現状では、内閣が緊急集会を確実に召集する保証はない。むしろ自民党などの改憲派は、緊急事態を口実に選挙を避けて権力を温存したうえで、国会を開かず、緊急政令等の内閣や首相の権限により都合よく政治を執り行うことを緊急事態条項を創設する改憲により目指しているとみるほうが正確である。
3 国会機能の維持のため論点を一から整理しなおすことが必要
12月1日の衆議院憲法審査会で、立憲民主党の中川正春委員が、「緊急事態の中での議員任期延長というほんの一部分のみにこだわるということではなく」「権力の暴走を民主的に防ぐための歯止めをどのように憲法を含む法体系の中に準備しておくかということ、この問題を総合的に議論する必要がある」と指摘した点は正鵠を射ている。
内閣の暴走により国会の機能が果たせていない現状の改革こそが喫緊の課題であり、国会機能の維持を理由に任期延長についての改憲のみを取り上げる議論の在り方は、根本的に間違っていると言わざるを得ない。衆議院憲法審査会は、議論すべき論点を一から整理しなおすことが必要である。
以上