湯島天神、宗教であるようなビジネスであるような。
(2023年1月29日)
大寒であるが立春は近い。寒い中で、梅が咲き始めている。この時季は梅祭り準備中の湯島天神がよい。梅は風流でもあるが、なによりも観梅無料が魅力。
とは言え、境内の混雑ぶりに驚かされる。けっして善男善女の梅見の参詣というわけではない。合格祈願・学業成就祈願なのだ。昇殿参拝の順番を待つ人々が長蛇の列を作っている。そして奉納の絵馬の数に圧倒される。「○○大学合格祈願」「孫の△△が、××中学に合格できますように」の類いの庶民の願いが、この社に渦巻いているのだ。
何やら真剣にお祈りしている人がいる。祈願をし絵馬を奉納すれば、願はかなうと本気になって信じているような雰囲気。そんな姿はいじらしくもあるが、一面不気味でもある。
境内で放送が繰り返されている。こう聞こえたのだが、空耳でしかなかったかもしれない。
「合格祈願・学業成就祈願は、けっして神さまが結果を約束するものではございません。万が一不合格となっても、神さまは責任をもちません。祈願の際の奉納金の返還はいたしません。不合格は自己責任とおあきらめいただき、自助努力の上、次の祈願をされ、次の奉納金をお納めください」
「各学校の入学試験合格者には定員の枠があり、合格を祈願する方は定員の何倍もいらっしゃるのですから、天神様と言えども、合格祈願の皆様全員を合格させるのはもとより無理なことでございます。皆様、そんなことは百も承知で、願を掛け奉納金をお納めいただいていることと存じます。もちろん、天神様も、お祈りの効果などを過大に吹聴したりはいたしません」
「もっとも、祈祷料などにランクを付けさせていただいてはおりますが、祈祷料の多寡と合格率との相関関係については、あるともないとも申し上げようはございません。ですから、『高額祈祷料を奉納したのに何の効果もなかった。せめて半額を返せ』などいうクレームは受け付けておりませんので、予めご承知おきください」「むしろ、当社ではなく、この世の不幸禍は、すべて先祖の因縁によるもので、この因縁を解いて家族の幸福を獲得するためには、何千万円もの高額寄附が必要という、マインドコントロールの宗教もございますので、お気をつけください」
だれもが、気休めとは思いつつ、それでも合格祈願・学業成就祈願に人が押し寄せる。これは宗教だろうか、ビジネスだろうか。はたまた悪徳商法では。庶民の願いや悩みを上手に掬い取った、このビジネスモデルの成功に驚嘆するしかない。
なお、湯島天神の梅の見頃予想は2月中旬以降とのこと。2月8日?3月8日までの「文京梅まつり」の舞台となる。
なお、この神社で祀られている「天神」は、怨霊となって醍醐天皇を殺した王権への反逆神である。民衆は、天皇を呪い殺した天神を崇拝した。これは、興味深い。
右大臣菅原道真は藤原時平らの陰謀によって、謀反の疑いありとされてその地位を追われ大宰府へ流される。左遷された道真は、失意と憤怒のうちにこの地で没する。彼の死後、その怨霊が、陰謀の加担者を次々に襲い殺していくが、興味深いのは最高責任者である天皇(醍醐)を免責しないことである。
道真の祟りを恐れた朝廷は、道真の罪を赦すと共に贈位を行い、993(正暦4)年には贈正一位左大臣、さらには太政大臣を追贈している。
もっとも、宗教は時の権力に擦り寄って生き抜いてきた。今、ネットで読める社伝には、反逆の影もない。