「安倍家」の凋落に世襲政治の愚を見る。
(2023年2月10日)
本日の毎日新聞朝刊(1面・3面)に、「消えゆく安倍家」の大型記事。「山口4区に後継者不在」「保守王国山口、政争の果て」「安倍家窮状に岸家葛藤」「親子の決断、世襲批判も」のサブ見出しが付いている。
https://mainichi.jp/articles/20230210/ddp/001/010/001000c
「22年7月の安倍氏の銃撃事件を受け、政界から「安倍家」の名前が消える。水面下では、同族の岸家から安倍氏後継を迎える案も模索されていた。運命に翻弄された一族の葛藤と決断を追う」というのがリードに当たる記事。「消えゆく安倍家」「安倍家窮状」「安倍系の退潮」と、安倍一族の凋落が語られている。
先週日曜日の2月5日に下関市議選があった。改選前、市議会の自民系会派は、安倍晋三系の「創世下関」(9人)と、林芳正系の「みらい下関」(11人)に分かれていた。今回市議選で、安倍系「創世」の現職2人が立候補せず、さらに現職2人が落選した。また、安倍系の新人3人が出馬したが、当選したのは1人だけ。一方、林系「みらい」は現職全員が当選。さらに、林系の新顔4人のうち、2人が当選している。「林が太って安倍細る」の趣だが、さしたる意味のあることでもなかろう。
そんな状況での、「安倍家」と「岸家」の事情が語られている。これに「林家」が絡んだ構図。ほとんど、ヤクザ組織の跡目問題である。時代錯誤の馬鹿馬鹿しい限りだが、保守王国の特殊性というよりは、これが日本の政治の現状なのだ。あらためて、我が国の民主主義の成熟度を考えさせられる読み物になっている。
関係者の最大関心事は、安倍晋三死去に伴う今年4月の衆院山口4区(下関市、長門市)補選である。ここに、だれを擁立するか。安倍後援会では、安倍・岸一族からの立候補を切望した。が、結局適わなず、「安倍家」の名前が政界から消えることにもなった。政治銘柄「安倍ブランド」の消滅である。
山口4区補選の安倍後継を巡っては、当初、妻・安倍昭恵が本命視されたが固辞。その後、晋三の母・洋子が「後継者は孫がいい」と語ったといううわさが広まり、安倍後援会は「3人の孫」のうち誰かの出馬を期待した。3人とは、安倍晋三の兄・寛信の長男▽安倍の弟岸信夫氏の長男・信千世▽信夫の次男――だという。
3人の孫のうち、まず浮上したのは安倍姓を持つ寛信の長男だった。だが、本人に立候補の意思がなく、安倍後援会は擁立を断念した。後援会は次に岸信千世に打診したが、岸家は「2区の人たちへの仁義がある」などとして断った。岸家としては信夫の体調不良もあり、長男の信千世を4区補選に出す考えはなかった。信夫の次男も「(興味が)ない」とのこと。
その後4区補選の候補者擁立作業は難航した。前田晋太郎・下関市長、江島潔参院議員、杉田水脈衆院議員の名前などが次々と浮上しては消えた。「やはり信千世さんを招きたい」として、安倍家の血を引く信千世への期待が高まったが、信千世は父の跡目を継いで2区の補選に出馬する。こうして、4区補選に、安倍・岸一族は出ないことになった。
安倍晋三も、岸信介の血を引く3代目の世襲政治家である。その跡目をさらに、「安倍・岸」一族につなげようというアナクロニズム。
岸信夫は、2月7日に議員辞職した。その補選に長男の信千世が出馬することが確実視されている。当然に、世襲批判に曝されることになる。
しかし、岸信千世は、世襲について7日の出馬記者会見で問われ、こう答えたという。
「こういう(世襲政治家の)家庭環境にあったからこそ、政治の課題、地域の課題について真剣に考える機会が昔からあった」
どっぷりと世襲政治家の家風に浸った苦労知らずの人物の言う「政治の課題」「地域の課題」とは、いったい何だろうか。いかにして地盤・票田を固めるか、どうしたら先代から受け次いだ支持者の利益を擁護できるか、その利益擁護を票につなげるにはどうするか、この地盤をそのまま次に承継するにはどうすればよいのだろうか。真剣に考えていたというのは、そんなことのみに違いない。