澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

首相答弁は正しい日本語であるか? 論理整合性を持っているか?

(2023年2月14日)
 いま、通常国会が開かれています。衆議院予算委員会での質疑を素材に、正しい日本語の勉強をいたしましょう。

 岸田文雄さんは内閣総理大臣の立場にあって、政府の政策全般について野党の質問に責任をもって答弁しなければなりません。もちろん、岸田さんを厚く支える官僚のスタッフがあってこそできることですが、最後は岸田さんがその肉声で語らなければなりません。その岸田さんの答弁は、正しい日本語になっているでしょうか。

 素材は、まず、2023年2月1日衆院予算委員会での、性的少数者や同性婚問題をテーマにした質疑での、岸田さんの次の答弁です。

 「(同性婚の法制化については)極めて慎重に検討すべき課題だ。こうした制度を改正することになると、日本の国民全てが大きな関わりを持つことになる。社会が変わっていく問題でもある。すべての国民にとっても家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」

 その2日後に、荒井勝喜首相秘書官がこの岸田答弁に関連して、オフレコの場ながら記者団に、「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「秘書官室もみんなが反対している」「同性婚を認めたら国を捨てる人がでてくる」と発言して世の耳目を集めたことは、ご存じのとおりです。

 荒井秘書官更迭後の2月8日の予算委員会で、岸田さんは2月1日答弁の真意を問われます。立憲民主党の岡本章子さんは、「当事者からは非常にネガティブな表現として受け止められている」として、首相に謝罪と撤回を求めました。

 これに対する岸田首相答弁は以下のとおりです。

 「同性婚制度の導入は、国民生活の基本に関わる問題であり、国民一人ひとりの家族観とも密接に関わるものであり、その意味で全ての国民に幅広く関わる問題であるという認識のもとに『社会が変わる』と申し上げた。決してネガティブなことを言っているのではなく、もとより議論を否定しているものではない」
 「国民各層の意見、国会における議論、あるいは同性婚に関する訴訟の動向、また地方自治体におけるパートナーシップ制度の導入、運用の状況を注視していく必要がある。こうした慎重な検討が必要、議論が必要という意味で申し上げた」

 さて、皆さん。この2月8日首相答弁は、正確な日本語として読みとることができるでしょうか。また、首相答弁としてふさわしい内容でしょうか。それぞれご意見をどうぞ。

 「ハイ、私の率直な意見ですが、この日本の首相は日本語がお上手ではないように思います。2月1日の発言が、同性婚の法制化についてのネガティブな意見であったことは明らかではありませんか。そのことを否定する2月8日答弁は間違いです。仮に、岸田さんが同性婚の法制化についてポジティブなご意見であれば、『迅速に法制化を実現します』と言っているはずで、『極めて慎重に検討すべき課題だ』というのは、ポジティブな意見ではないということです。日本の首相は、そんなことも分からない人なのでしょうか」

 「私も、似たような意見ですが、私が強調したいのは、同性婚を『社会が変わってしまう課題』だと言っていることです。『社会が変わってしまう』という言葉づかいは、ネガティブな方向に変わることと理解するしかありません。ポジティブで望ましい方向への変化は、日本語ではけっして『変わってしまう』とは言わないものです。単に『社会を変える課題』ならポジティブなニュアンスが出てきます。『社会を変える切っ掛けとなりうる課題』『社会変革を展望する課題』など、明確なポジティブ表現を避けての岸田さんの物言いは、明らかにネガティブではありませんか」

 「私は、反対の意見です。正しい日本語の使い方があるという前提がまちがつていると思います。どう突つかれても、あとで弁明ができ、逃げおおすことのできることが、上手な言葉の使い方であって、岸田さんの2月1日答弁も2月8日弁明も、破綻一歩手前で踏みとどまっており、それなりによくできた言葉づかいだと思います。
 だれが考えたって、岸田さんは、1日段階では同性婚否定論を述べ、その後止むなく荒井秘書官を更迭した時点で意見を変えたのです。しかし、自分に非があるという印象を最小限に抑えるために、撤回も謝罪も拒否して首尾一貫した体裁を装ったのです。なかなかの日本語の使い手と言うべきではないでしょうか」

 「それはおかしい。正確な論理は正しい言葉でのみ語られる。国民をごまかし、たぶらかし、目くらましするための、嘘の言葉は正しい言葉づかいではない。まずは、岸田首相発言の論理構造あるいはその破綻を正確に見抜くための言語能力が必要だが、それだけでは足りない。こんな不誠実な答弁をして恥じない政権トップに大いに怒る姿勢を持たねばならない」

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