澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「アベノマスク訴訟判決」を手掛かりに、アベ政治の負のレガシーを総括しよう。

(2023年3月2日)
権力者はレガシーを欲する。その地位を退いたとき、あるいは棺を覆ったとき、そのレガシーが定まる。立派なレガシーもあれば、とんでもない負のレガシーもある。承継するにせよ、批判し反省材料にするにせよ、まずはこれを正確に見定めるべきが国民の責務である。

ところが、最低の為政者は、負のレガシーを正直に国民の目に晒してはならじと覆い隠そうとする。安倍晋三がその典型であり、今はその負のレガシーの隠滅に安倍後継政権が必死になっている。

安倍晋三という政権担当者は、自分のしていることがよほど疚しかったと見える。ウソとゴマカシと隠蔽の手口で知られた。それゆえにこそ、いったい彼が何をしたのか、正確に検証しなければならない。ところが、その隠蔽体質が、政権を退いたあとの負のレガシーの総括を困難にしている。その最たるものが、無為・無策・無能の極致と揶揄されたアベノマスク問題である。

天下の愚策アベノマスクの、製造と配布と保管と廃棄に、いったい幾らのカネがかかったのか。誰がどれだけ儲けたのか。それが正当なものなのか否か。どのような規準と経緯で業者を選定し、どう単価を設定し、どのように契約の履行を確認し、違約にはどんなペナルティを科したのか。コストに見合う成果があったのか。その検証をしようにも、基礎資料がない。

なんということだろう。すべては国民が拠出した公金である。細大漏らさず、国民には知る権利がある。怪しい安倍晋三の息のかかった公金の支出であればなおさらのことである。行政が進んで事情を明らかにしないのだから、情報公開制度の利用に頼らざるを得ない。

制度に精通した神戸学院大学の上脇博之教授が、安倍晋三の在任中から、アベノマスク問題に取り組んだ。ところが、開示請求をしても、なかなか文書が出て来ない。ようやく出てきたものも、肝心なところが墨塗りなのだ。あるいは、あるはずの資料がないとされる。やむなく弁護団を組んでの大阪地裁への行政訴訟の提起となった。

その訴訟は二つあった。
?単価や数量を不開示とする決定を争い開示を求める訴訟(「単価訴訟」、2020年9月28日提訴)
?契約締結経過に関する文書を不存在とした決定を争い開示を求める訴訟(「契約締結経過訴訟」、2021年2月22日提訴)

「単価訴訟」について、一昨日(2月28日)大阪地裁は判決を言い渡した。慰謝料を求める国家賠償請求を除いて、開示請求に関しては完勝となった。45通の文書の一部不開示をすべて違法とし、開示を命じたのだ。その意義は大きい。

この日の原告と弁護団の声明はこう言っている。

「判決は、政府の「アベノマスク」の購入単価や数量は情報公開法5条2号(法人情報)や同条6号(国の事務事業情報)の非開示情報には該当しないとし、これらを不開示とした厚生労働大臣(当時加藤勝信氏)及び文部科学大臣(当時萩生田光一氏)の各決定を違法として取り消し、同部分の開示を命じました。」

「約500億円もの巨額な税金を使用し、一部の業者にのみ随意契約で巨額の利益を与え、国民の大半が利用しなかった安倍政権のコロナ対策の典型的な失敗事例である「アベノマスク」配布事業について、キチンと全ての情報を国民に明らかにし国民的総括、反省をする機会を、政権及び中央官庁は隠蔽し奪ってきました。本判決は、司法が政権・中央省庁のこのような隠蔽体質を断罪し、これらの情報をすべからく国民に明らかにすることを命じたものであり、重要な意義があります。」

また、会見で弁護団(阪口徳雄団長)は、「500億円という巨額の税金が投じられた政策について、まずはデータがないと是非を検討すらできません。2年半かかって長いトンネルの入口にやっと立てた。これからが本丸です」と語っている。

3年前の「アベノマスク」配布を思い起こそう。当時の首相安倍晋三の思いつきで全戸配布した布マスク。汚れや虫の混入が発覚して大騒ぎになり、予定より遅延して配布したころには、既に市場に不織布マスクの供給が戻り始めていた。介護施設や妊婦向けを含め計約2億9000万枚を調達し、21年度末までに少なくとも約502億円を投じた。厚労省の調査では、検品対象の15%に当たる約1100万枚が不良品。国は22年、余った約7100万枚を希望者に配って在庫を処分した。

この巨費を無駄にした愚策の経過を徹底して明らかしなければならない。そして、こんな人物を責任ある立場に就けた国民の判断の過ちも、しっかりと確認しなければならない。

岸田文雄首相は1日の国会で「(控訴について)さまざまな観点から適切に判断する」と述べているが、控訴は止めた方がよい。その方が、内閣支持率を幾分かでも回復することになるだろう。上脇教授の言うとおり、「国民の大半が使わなかったアベノマスク事業を総括する必要がある。国は控訴しないで、まずは国民に情報を開示した上で、第三者による検証を進める」のが妥当なところ。

上脇さんの行動は、怒りをエネルギーにしているように見える。不正に対する怒り、民主主義を壊すものへの怒りである。願わくは、国民全体で、この不正な為政者に対する怒りを共有したいものと思う。アベノマスク訴訟が、アベ政治の巨大な負のレガシー総括の端緒となり、国民の怒りの口火になってもらいたいとも願う。

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