岩手三陸沿岸の「浜の一揆」
本日、岩手県漁民組合(組合長・藏?平)の組合員等38名を代理し、岩手県庁の水産振興課を窓口として達増拓也岩手県知事に対して、固定式刺し網によるサケ漁の許可を求める申請書を提出した。申請人らの所在地は、沿岸の各地に広くわたっている。申請人ら漁民は、このサケ漁の許可を求める運動を「浜の一揆」と呼んでいる。
本日の申請は第一次分であり、続いて近々に第二次分50名余の申請を予定しており、さらに第三次申請も想定されている。漁民のサケ漁の許可申請は、その生計と生業を維持するための切実な要求に基づくものであるだけでなく、震災後の沿岸地域経済復興に資するものであり、漁業法の理念に基づいた正当な要求でもある。
秋から冬にかけて漁期となるサケは、岩手県の漁業における基幹魚種とされる。ところが、奇妙なことに岩手県においては一般漁民はこれを採捕することを許されていない。県内では、サケはそのほとんどが大規模な定置網漁業によって採捕されるが、定置網漁業の経営主体は漁協と実質的に一部漁協の幹部であって、岩手の一般漁民は豊富なサケを目の前にして漁に加わることができない。また、この時期、サケ以外にめぼしい採捕魚種はない。
東日本大震災によって壊滅的打撃を受けた岩手県沿岸の漁民にとって、秋サケ漁禁止の事態が継続する限り、岩手三陸漁民の後継者の育成はおろか、現在の漁業の継続自体が不可能となっている。一般漁民において可能な「固定式刺し網」漁による秋サケの採捕を可能とすることが、漁民の生計を維持し、生業を回復して継続するために死活的に重大な要求なのである。
岩手県漁民組合は、2011年10月の結成以来、今日まで、一般漁民に固定式刺し網によるサケ漁を許可するよう県や国の水産行政に陳情や請願を重ねて粘り強く求め続けて来た。しかし、その思いは行政に届かぬままいたずらに時が経過するばかりで、すでに漁民の困窮は、これ以上漫然と行政の変化を待つことができない事態にまで至っている。本日の申請は、行政不服審査法や行政事件訴訟法による法的手続きまで視野におくものである。知事は、漁民に背を向けることなく、「浜の一揆」の要求に応えなければならない。申請人ら漁民の生存権を擁護する立場に立脚し、震災後の沿岸地域経済復興の観点をも踏まえ、また本来あるべき民主的な漁業行政の理念に則って、速やかに本申請を許可すべきである。
そもそも、三陸の漁民に、「サケを捕ってはならない」とする現行の水産行政のあり方が不自然で、不合理というほかはない。県境を越えれば、宮城県でも、青森県でも、その沿岸の漁民は当然の権利として、固定式刺し網によるサケ漁に勤しんでいるのである。申請人らは、これまでこの不自然で不合理な岩手県の水産行政に甘んじてきた。しかし、震災後の生活苦はその不合理を耐え難いものとして、今ようやくにして公正な漁業資源の配分を要求する法的手続きに至ったものである。
漁業法は、漁業生産力の民主的発展を法の目的としている。具体的には、水産資源を保護して漁業の持続性を確保すること、および有限な水産資源の平等で合理的な配分を目的として掲げ、これを法第1条は、「漁業の民主化を図ることを目的とする」と表現している。当然に、岩手県の水産行政も、この法の理念に基づくものでなくてはならない。
最大の問題は、水産資源の平等で公正な配分の実現にある。「漁業の民主化」が必要であり、その民主化の要求運動が「浜の一揆」と呼ばれる所以である。漁協が必ずしも民主的組織ではなく定置網によるサケの漁獲が一般組合員の利益として還元されない現実がある。また、漁協幹部が実質的に個人として定置網漁を営んで巨利を得ている現実もある。
漁民の目から見て、県の水産行政は漁民の利益に配慮するものとなっていない。むしろ、水産行政幹部の天下り先組織の有力者の利益のための行政としか映らない。
漁民のすべてに公正に秋サケ漁を解放せよ。その要求の実現まで、「浜の一揆」は続くことになる。
(2014年9月30日)