澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

朝日バッシング集会の「卑劣な犯罪」激励発言

昨日(11月13日)の「週刊金曜日」ネットニュースが報じている。去る10月25日、「『朝日新聞を糺す国民会議』結成国民大集会」なるものが、東京・永田町で開催されたとのこと。同記事の標題は、「植村氏への“脅迫煽る”元議員も―『朝日』叩きで集会」となっている。

同報道は、この集会での3人の発言を紹介している。
まず、この集会の基本性格を明確にする藤岡信勝発言。
「藤岡信勝・拓殖大学客員教授は今後の争点は『二つある』として、第一に、従軍“慰安婦”問題の『土台になる(日本国への)朝鮮人強制連行のデマそのものを打ち砕かなければいけない』などと持論を展開。第二の争点は『南京事件』であるとして、来年『終戦70年』を前に歴史戦が激しく闘われることになるのは間違いなく、そこでは『必ず南京事件、南京大虐殺(の史実をめぐる応酬)がむし返されます』と述べ、『週刊文春』や本誌で近日、藤岡氏と本多勝一本誌編集委員による誌上公開討論が予定されていると告知した」

そして、私が驚いた土屋敬之発言。
「土屋たかゆき・前東京都議会議員は、元『朝日新聞』記者の植村隆氏が非常勤講師を務める北星学園大学(札幌市)に今年9月、何者かが植村氏を辞めさせなければ大学に危害を加えるなどと脅迫した事件に触れ、『(同大学に)抗議が殺到して、彼(植村氏)はなんと言ったかというと「大変な脅迫を受けている」(と訴えたが)、冗談じゃないですよ!』『だって国賊でしょ? 売国……でしょ?』などと脅迫行為を支持するともとられかねない発言を繰り広げた」

そして、もうひとり。
「ジャーナリストの大高未貴氏は『左巻きの連中』を『歴史捏造主義者』などと揶揄したが、自身の『捏造』記事をめぐり、現在、韓国・ソウル大学の名誉教授から『出版物による名誉毀損罪』で告訴されている件(本誌10月17日号で既報)への言及はなかった」

この集会の決議文をネットで読むことができる。
「朝日新聞は、日本軍の兵士が朝鮮人女性を『強制連行』し、『従軍慰安婦』にしたとの吉田清治『証言』を報道し、その嘘とねつ造が明らかになっても訂正謝罪することなく、30年以上も放置して来ました。その結果、世界中の人々は、日本の兵士が、朝鮮人女性を『強制連行』し、『性奴隷』のごとく扱ったかのような認識とイメージを抱くようになりました。朝日新聞のねつ造報道によって、世界で最も軍律厳しく道義心の高かった皇軍兵士は、野蛮で残酷な誘拐犯や強姦魔のごとき犯罪者扱いをされたまま、日本人の名誉と誇りを傷つけられて来ました(以下略)」

「世界で最も軍律厳しく道義心の高かった皇軍兵士」とは一驚に値する。彼らの心情(願望というべきか)を素直に吐露するものとして甚だ興味深い。

もちろん、「吉田清治『証言』を報道し」たのは朝日だけではない。産経も読売も毎日もなのだ。とりわけ産経は熱心だった。読売も当時は良心的な記事を書いていた。これは周知の事実。朝日だけをバッシングの対象とするのは理不尽極まる。とりわけ、植村隆元記者は、吉田清治証言紹介記事とは無縁なのだ。

さらに、この決議が興味を惹くのは、「日本を取り戻す」「戦後レジームからの脱却」「戦後体制脱却」が繰り返されていること。安倍政権や自民党と同じフレーズを使って、親和性がアピールされているのだ。安倍自民党は、かつての「保守」政党ではなく、この集会の参加者と同質の極右政党と化していることをよく表している。

この集会では、「日本と日本人の名誉と誇りを取り戻す」ことが繰りかえし強調された。「『戦後日本』ではなく、本来の『日本』が動き出した」「『世界市民』ではなく、『日本国民』が起ち上がった」などとされている。また、この日の集会で代表者に選出された渡部昇一は、「朝日新聞の社長と関係者は、国連ビル前で切腹してもらいたいくらいだ」とまで発言している。

最も注目すべきは先に見た土屋敬之発言である。週刊金曜日は品良く、「脅迫行為を支持するともとられかねない発言」と手心を加えているが、誰が見ても「犯罪容認発言」であり、「犯罪者にエールを送る発言」でもある。国賊や売国者には脅迫があってしかるべきとする見地から犯罪者を激励する発言ではないか。

かつて石原慎太郎がテロ容認発言をして物議を醸した。
右翼少年による浅沼稲次郎・元社会党委員長の刺殺事件に対して「こんな軽率浅はかな政治家はその内天誅が下るのではないかと密かに思っていたら、果たせるかなああしたことにあいなった」と言い、また、外務省の田中均外務審議官の自宅ガレージに右翼が爆発物を仕掛けた事件に関して、「何やってんですか。田中均というやつ、今度、爆弾を仕掛けられて、当ったり前の話だ」と発言している。

土屋発言も同様だが、法が支配する社会において許容される限度を明らかに超えた発言である。法秩序を逸脱し、人権や人身を攻撃する暴言として許容してはならないのだ。

私は、北星学園大学への匿名脅迫状の発送を威力業務妨害罪に当たるとして、その犯人に厳正な捜査と処罰を求めた告発人弁護士380名のひとりである。共同代表のひとりでもある。この卑劣な犯罪を容認し、公然と激励する発言者を許しがたい。もちろん、このような発言を組織した集会もだ。

朝日バッシングの尖兵になっているのは、匿名脅迫状発送の卑劣な犯罪者にシンパシーをもつ、このような集会の参加者なのだ。必要な批判を遠慮してはならないと思う。
(2014年11月14日)

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