澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「次選挙2度と間違いいたしません」ー投句川柳欄に見る戦争法批判の国民世論

「仲畑万能川柳」(略して「万柳」)欄は、毎日新聞の名物である。川柳こそは庶民の文藝。俳句という高踏趣味に畏れをなす人も、川柳となれば親しめる。誰だってちょっと指を折ってみたくもなる。だから投句川柳欄を持つ紙誌は数知れない。その中で、専門誌は別として、毎日「万柳」欄の規模を凌駕するものはないだろう。質も高い。

とはいうものの、「万柳」欄の時事・政治ネタの量と質はイマイチなのだ。最大の欠点は紙面掲載が遅いこと。せっかくの素材の鮮度が落ちて、伸びた蕎麦状態での掲載となることがしばしばである。

それでも、この度の戦争法問題、ようやく万柳欄を賑わしている。10月10日(土)と11日(日)の掲載句全36句を、勝手にネタ分類して並べ直してみる。

☆政治ネタ(20句)
 強行が破壊していく民主主義   神戸 中林照明
 多数決そこまでやっていいんかい 大阪 佐伯弘史
 多数決なんでも出来ます違憲でも 太宰府 可坊
 頭数最も発揮される国会(とこ)  矢板 次男坊
 ねじれてたほうがよかった国会は 湖西 宮司孝男
 丁寧な説明聞かず会期終え    千葉 びんちゃん
 次選挙2度と間違いいたしません 射水 江守正
 中国に?アメリカにでしょ負けたのは 香芝 シャウザウ
 美容院初めて政治談議した    東京 寿々姫
 学生の褌借りる民主党       西脇 八重子の子
 1年も経てば忘れるさと自民    湖西 宮司孝男
 平和の党支持母体にも背を向ける 横浜 クロさん
 いわゆると断固で出来た安保法  中間 哀路兄
 ならぬものならぬと言えぬ法制局 生駒 鹿せんべ
 じいちゃんが赤紙のこと話し出し  糸島 宮崎善輝
 訪米とゴルフが好きな安倍総理  東京 ほろりん
 自民党ナンバーツーが見当たらず 越谷 小藤正明
 侍(もののふ)は野田氏一人か自民党 安中 坂東太郎
 沖縄の返し忘れたままの空    八王子 佐々木冬彦
 責任は誰にも無くて稼働する   春日井 斎藤清美

☆国際ネタ(2句)
 この国に生まれただけでもうけもん 会津若松 遠藤剛
 難民にやっぱし神は不平等     大崎 髀肉嘆

☆五輪スポーツ・ネタ(8句)
 東京で出た世界新建設費      仙台 はらほろひ
 新しいことば覚えたエンブレム   福岡 鳥の声
 ベルギーと聞いて連想エンブレム  福岡 ナベトモ
 エンブレムグリコの下に五輪入れ  泉佐野 興好爺
 マイナンバーカードデザイン大丈夫? 秦野 マッキー
 五郎丸初めて知って初めて見    津 紅金魚
 ラグビーで三大新聞スポーツ紙   横浜 ジラム  
 真央の名をスピンさせても真央と見え 柏原 ミストラル

☆企業ネタ(2句)
 あんなテがあったかさすがVW   鴻巣 雷作
 東芝を見限りそうなサザエさん   和歌山 かぎかっこ

☆結婚ネタ(2句)
 福山が結婚ライバルひとり減り   名古屋 伊藤昌之
 わが妻は福山などに動じない    横浜 おっぺす

☆ノンジャンル(2句)
 何もない戦後にあった解放感    福岡 猫懐
 カレンダー見てるよに咲く彼岸花  鎌ケ谷 ありの実

いつもは満載の社会ネタ、職場ネタ、家族・夫婦ネタ、老齢ネタ、学校ネタ、恋愛ネタがなく、圧倒的に政治ネタ。それも、戦争法への批判が大多数。政治ネタに次いで五輪ネタの句数が多いが、さして面白い句はない。

野暮は承知で、少々の解説をこころみたい。

 強行が破壊していく民主主義   
 多数決そこまでやっていいんかい 
 多数決なんでも出来ます違憲でも 
 頭数最も発揮される国会(とこ) 
 いわゆると断固で出来た安保法  
 丁寧な説明聞かず会期終え    
 中国に?アメリカにでしょ負けたのは 

以上7句は、安倍内閣と自公による民主主義の形骸化と立憲主義の破壊を弾劾している。「アメリカにでしょ」の句は、戦争法提案の根拠とされた中国敵視政策への批判。これを採用した選者のセンスは見上げたもの。

批判さるべきは安倍だけではない。与党の数の暴力を可能としたのは選挙民である。そこで、
 ねじれてたほうがよかった国会は 
という嘆きとなり、
 次選挙2度と間違いいたしません 
と反省することになる。自公候補に票を投じたことは疑いもなく間違いだったのだ。この国民の反省と、
 1年も経てば忘れるさと自民
という自民(公明も)のうそぶきとの勝負となる。まずは、来夏の参院選で切り結ばねばならない。

注目すべきは、戦争法案反対運動の広がりである。
 美容院初めて政治談議した    
 じいちゃんが赤紙のこと話し出し
 
普段はオシャレ談義をする場で、この度は「戦争怖いね」「安倍さんってイヤな感じ。アブナイね」と話しが弾んだという。また、これまで黙していたじいちゃんも、いよいよ語らねばならぬときと悟ったというのだ。

 学生の褌借りる民主党      
これは、シールズの活躍へのコメントたが、投句者も選者も小意地が悪い。

そして安倍・自民党への批判が
 訪米とゴルフが好きな安倍総理  
 自民党ナンバーツーが見当たらず 
 侍(もののふ)は野田氏一人か自民党
 
野田聖子を党内唯一のもののふと言う。すると他はすべからく怯懦の徒か。
公明党への批判は、
 平和の党支持母体にも背を向ける 
法制局への批判もある。
 ならぬものならぬと言えぬ法制局 

戦争法以外の政治ネタは、沖縄と原発である。
 沖縄の返し忘れたままの空    
 責任は誰にも無くて稼働する   

以前の句で、次のようなものもあった。いずれもぎょっとさせる内容。
 政治家がみんな軍服着てる夢      鎌倉 狩野稔
 戦士にはさせぬと母は男(お)の子抱く 寝屋川 きよつぐ

この万能川柳欄に表れている庶民の感覚は健全である。明らかに今世論は、安倍政権と自公与党の暴走に怒り、あるいは危うさを感じている。前回選挙で与党に議席を与えすぎたことを反省し、次は与党に票をやりたくないと考えている。この怒りや危惧を持続できるか否か、それが我が国の民主主義の歴史に大きな影響を与えそうなのだ。

なお、本日(10月12日)の万柳欄は、通常モードに戻った。
時事・政治ネタは、次の一句のみ。
 バカだなアなんで戦争したと孫   西宮 B型人間

そのとおりだ。子や孫から「バカだなア」と言われぬように、「アベ政治を許さない」運動をしっかりとやり遂げたい。
(2015年10月12日・連続925回)

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