澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

別件DHCスラップ訴訟の和解調書から見えてくるもの ー「DHCスラップ訴訟」を許さない・第60弾

DHC・吉田嘉明が私のブログ記事を名誉毀損として、6000万円の慰謝料支払いや謝罪文などを求めているのが「DHCスラップ訴訟」。実は、DHC・吉田が起こした同種訴訟は、少なくも10件ある。だから、私の事件を正確に特定するためには、「DHCスラップ訴訟・澤藤事件」とでも言わねばならない。他に少なくとも9件の「別件スラップ訴訟」が提起されたことが各訴訟のスラップ性を如実に表しているのだ。

「少なくも10件」というのは、東京地裁への提訴年月日や事件番号を弁護団が把握している事件の数だ。本当のところ、DHC・吉田はいったい何件のどんな訴訟を提起したのか、それがどのような審理の進展となっているのか、正確なところは分からない。本来は、その件数や内容を明らかにして、全体像を把握することが、DHC・吉田のそれぞれの提訴が持つ意図や違法性を判断することに有益である。

だから、私の弁護団は原審において、「本件訴訟がスラップ訴訟であることを証明するため」として、DHC・吉田に対して「本件と同時期に、同種の高額の金銭賠償を求める名誉棄損訴訟を何件提起したか」を明らかにするよう釈明を求めたが、DHC・吉田側は頑なにこれを拒否した。自分がした巨額の賠償請求訴訟の件数すら、明示できないとしたのだ。

それでいて、それぞれの訴訟の進展が自分に有利だと思われる判決や和解になると、これを援用するというご都合主義。都合の悪い判決や和解には、口をつぐんでいるのだ。DHC・吉田が、私に対する本件提訴がスラップでない証しとして別件の和解調書や判決書を証拠提出するのであれば、求釈明に応じて吉田の手記を巡る名誉棄損訴訟の全貌(提訴件数、内容、審理の現状)を明らかにすべきが当然ではないか。

昨日(12月19日)のブログでは、DHC・吉田が控訴審で提出してきた判決書に基づいて、「判決が認定した『DHCに対する行政指導の数々』ー『DHCスラップ訴訟』を許さない・第59弾」を掲載した。この判決は、DHC吉田が通販業界の業界紙発行元を被告として提起した1億円の損害賠償請求訴訟のもの。驚くべきは、判決が認定した行政のDHCに対する数々の行政指導と、これに対するDHCの対応である。DHC吉田が「厚労省の規制チェックが煩わしい」という理由と、吉田が「官僚と闘う」というその闘い方の実態がよく見えるではないか。こういう集積された情報は、消費者行動の判断要因としてきわめて有益である。ぜひとも、公益のために拡散していただきたいと希望する。

本日は、控訴審になってDHC・吉田側が提出してきた、別件DHCスラップ訴訟での和解調書についてご報告したい。これまた、突っ込みどころ満載なのだ。

提出された和解調書によれば、東京地裁民事第7部で本年9月27日に原告DHC・吉田と、被告となったジャーナリスト(あるいは政治評論家)の間で訴訟上の和解が成立した。実は、事件番号が2件付いている。この被告はDHC・吉田から2件のスラップ訴訟を提起され、その2件が併合審理されて、和解に至ったのだ。

その内の1件は2014年4月14日提訴で請求額は6000万円(第1次事件)、もう1件が同年6月16日提訴で請求額は4000万円(第2次事件)というもの。合計1億円の請求に対する和解金額は30万円、率にして0.3%である。両訴訟の印紙代だけで合計34万円を上回る。弁護士費用どころか、印紙代に足りない和解金額なのだ。もっとも、謝罪文とウェブ記事の削除条項があって、検討を要する。

和解条項本文は下記のとおりである。
和解条項
1 被告は,原告らに対し,本件和解金として,30万円の支払義務があることを認める。
2 被告は,原告らに対し,前項の金員を平成27年○月○日限り,原告ら指定の下記口座に振り込む方法により支払う。ただし,振込手数料は被告の負担とする。
3 被告は,原告らに対し,原告吉田嘉明が渡辺喜美に対して8億円を貸し付けたことに関し,被告が平成26年月14日までに作成した記事について,事実と異なる部分があったことにつき,謝罪する。
4 被告は,原告らに対し,平成27年10月1日から同月31日までの間,別紙1謝罪広告目録記載の謝罪広告をする。
5 被告は,原告らに対し,平成27年10月1日限り,別紙2削除記事目録記載の記事を削除する。
6 原告らはその余の請求をいずれも放棄する。
7 原告ら及び被告は,原告ら及び被告との間には,本和解条項に定めるもののほか何らの債権債務がないことを相互に確認する。
8 訴訟費用は各自の負担とする。

対澤藤訴訟でのDHC・吉田側の証拠説明書には、立証趣旨が次のように記されている。
「本件(澤藤事件)同様,控訴人吉田による8億円の貸付の動機について,「何か『見返り』をアテにしていたはずである。」などと述べるブログ記事を掲載した政治経済評論家と控訴人(DHC・吉田)らとの間で,ブログ記事の記載が『事実の摘示』であることを前提とした訴訟上の和解が成立した事実等」

しかし、この和解調書でそこまで読み取ることは不可能である。和解条項中には、確かに被告の記事に「事実と異なる部分があった」とは記載されてはいるものの、被告が認めた「事実と異なる記載」の特定はなく、どこがどのように事実と異なるかは明示されていないのだ。

1億円請求訴訟における被告の座にあることの重圧は相当のものである。私は同じ立場にある者としてその心理がよく分かる。「この重圧から直ちに逃れられるのであれば、30万円の支払いは安いもの」と被告が考えたとしても、おかしくはない。仮に、一審で全面勝訴判決を得ても、DHC・吉田は必ず控訴するだろう。上告審も考えなければならない。裁判は長引く、仕事には差し支える。金もかかる。通常、この種の事件で弁護士に支払うべき控訴審着手金が30万円で済むとは考えられない。金を厭わず裁判を仕掛ける相手だけに、被告が30万円で決着をつけようという選択をしたことは肯けるところ。これも、スラップの恫喝効果というべきであろう。

しかし、被告もプライドを捨てたわけではない。謝罪文は、次のとおりごくあっさりとしたものである。被告の記事のどこにどのような「事実と異なる部分があった」のか、ことさらに曖昧にされている印象を拭えない。
「株式会社ディーエイチシー会長吉田喜明氏が渡辺喜美氏に対して8億円を貸し付けたことに関し,私が平成26年4月14日までに掲載した記事に事実と異なる部分があったことにつき,謝罪する。」

むしろこの謝罪文において注目すべきは、「平成26年4月14日までに掲載した記事」に限定して「事実と異なる部分があった」としていることである。前述のとおり、和解は併合した2事件について行われている。「平成26年4月14日」とは、第1次事件の提訴日であって、実は6月16日提訴の第2次事件については、被告は謝罪もせず記事の削除にもまったく応じていないのだ。

だから、和解条項第3項は、その反対解釈として「原告吉田嘉明が渡辺喜美に対して8億円を貸し付けたことに関し,被告が平成26年4月15日以後に作成した記事については,事実と異なる部分があったことは認められず、削除も謝罪もする必要はない」と合意をしたと読むべきなのだ。このことに鑑みれば、4月14日までの記事について「事実と異なる部分があった」は、実は和解で収めるための口実つくりの条項と解すべきであろう。

第2次事件は、被告とされたジャーナリスト氏の経済誌への寄稿記事である。当該雑誌(「L誌」としておく)は14年7月14日号で、発売は同年6月3日である。この号に掲載された被告の記事は、前掲和解条項の「被告が平成26年4月14日までに作成した記事について,事実と異なる部分があったことにつき,謝罪する」の範疇からは明示的に除かれている。もちろん、記事の削除もない。第2事件の請求原因は、和解条項第6項で「原告らはその余の請求をいずれも放棄する」の「その余」とされ、完全に解決済みの問題とされたのだ。

第2次事件の対象とされた記事を掲載した「L誌」はA4版本で、問題とされたのは「『タニマチ』ではなく ただの『金貸し』」と題する2頁分の記事。このなかの8個所の記述が名誉を毀損するものとして問題とされた。既に、和解解決のあった現在、この記事の紹介に躊躇すべき問題はなくなった。「当該記事がいったんは名誉毀損として提訴の対象とされたが、記事の削除も訂正もないまま、明示的に『事実と異なる部分』とする範疇から外されて和解に至った」記事の内容として紹介することに意義がある。

DHC・吉田側の第2次事件訴状請求原因における主張では、まず、「『タニマチ』ではなく ただの『金貸し』」というタイトルが名誉毀損だと言った。

さらに7個所の記述が名誉毀損ないし侮辱に当たると主張されたのだが、記事中の問題箇所を、理解のために前後のまとまりも含めて以下の部分だけを引用しておきたい。

「渡辺前代表は、千葉県一の金持ちになった吉田会長に、いわゆる伝統的な『タニマチ』の姿を思い描き、政治資金をアテにした。『タニマチ』とは、無償でスポンサーになり、後援して贔屓の人間を可愛がる人のことをいう。だが、吉田会長には、『タニマチ』になる気はなく、化粧品・サプリメント製造販売の監督官庁である厚生労働省、とくに「厚生省」に顔が利く政治家の一人として、渡辺氏の『利用価値』に着目したにすぎなかった。
渡辺前代表の亡父・渡辺美智雄元蔵相が、『厚生大臣』歴があったことから、厚生省に築いていた人脈や利権が渡辺前代表に引き継がれているのではないかと錯覚し、利用価値を感じていたフシがある。」

「吉田会長は、「主務官庁である厚労省の規制チェックは他の省庁と比べても特別煩わしく、何やかやと縛りをかけてくる」と不満を述べている。しかし、元々、業者に対する取締り行政を主な使命とする監督官庁である厚労省が、国民・消費者の健康被害を防ぐために製品製造に関して厳しい基準を設けて製品をチェックし、監視するのは当たり前だ。」

「(吉田会長は)監督官庁が持っている規制を緩和・撤廃してもらうのに政治家を利用する『新しいタイプの政商』たらんとしたということだ。所詮は、『ただの金貸し』にすぎなかった」

以上の記述は、至極真っ当で常識的な論評というべきではないか。この記述が、DHC・吉田の名誉を毀損し不法行為を構成するものと提訴されたが、和解成立に際してはまったく無傷のまま残ったのだ。現在でも、この雑誌の当該号の在庫を注文して読むことができるわけだ。

特に注目すべきは、澤藤事件においてこの和解調書を提出した立証趣旨がこだわっている「吉田による8億円の貸付の動機について」の記述である。和解したジャーナリストの「L誌」の記事は、「吉田会長には、『タニマチ』になる気はなく、化粧品・サプリメント製造販売の監督官庁である厚生労働省、とくに「厚生省」に顔が利く政治家の一人として、渡辺氏の『利用価値』に着目したにすぎなかった。」「(吉田会長は)監督官庁が持っている規制を緩和・撤廃してもらうのに政治家を利用する『新しいタイプの政商』たらんとしたということだ。所詮は、『ただの金貸し』にすぎなかった」と、動機を語ってこれが和解によって無傷で残ったということなのだ。

この和解は、DHC吉田の行為を批判した私のブログ記事の主張を補強するものでこそあれ、否定材料にはならない。「DHCスラップ訴訟・澤藤事件」の控訴審に、いったいなんのために提出してきたのか、またまた首を傾げざるを得ない。

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   DHCスラップ訴訟12月24日控訴審口頭弁論期日スケジュール
DHC・吉田嘉明が私を訴え、6000万円の慰謝料支払いを求めている「DHCスラップ訴訟」。本年9月2日一審判決の言い渡しがあって、被告の私が勝訴し原告のDHC吉田は全面敗訴となりました。しかし、DHC吉田は一審判決を不服として控訴し、事件は東京高裁第2民事部(柴田寛之裁判長)に係属しています。

その第1回口頭弁論期日は、
 クリスマスイブの12月24日(木)午後2時から。
 法廷は、東京高裁庁舎8階の822号法廷。
ぜひ傍聴にお越しください。被控訴人(私)側の弁護団は、現在136名。弁護団長か被控訴人本人の私が、意見陳述(控訴答弁書の要旨の陳述)を行います。

また、恒例になっている閉廷後の報告集会は、
 午後3時から
 東京弁護士会502号会議室(弁護士会館5階)A・Bで。
せっかくのクリスマスイブ。ゆったりと、楽しく報告集会をもちましょう。
 表現の自由を大切に思う方ならどなたでもご参加ください。歓迎いたします。
(2015年12月20日・連続第994回)

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