澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

安心して叩ける「水に落ちた舛添」をどこまで打つべきか

政治資金収支報告書虚偽記載問題についての舛添要一都知事による釈明記者会見は、火に油を注ぐ結果となった。まずは、世論の反応の健全さを肯定評価したい。

都庁ホームページの「知事の部屋」で、動画として繰りかえし見ることができるし、発言の全文が文字に起こされてもいる。知事には相当に辛い内容だが、早期にアップしたことにはそれなりの敬意を表さねばなるまい。
  http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2016/160513.htm

舛添バッシング一色ともいうべき、この世論の反応は、政治資金公開制度が正常に作動した結果といってよい。これが、政治資金の動きを公開することによって、政治や政治家を「国民の不断の監視と批判の下に晒す」ことの効果だ。彼は、既にレイムダックであり、水に落ちた犬となっている。もはや彼のいうことに、何の説得力もない。リーダーとしての仕事はできない。

政治資金規正法には、世論の監視に期待するだけではなく、「政治資金の授受の規正その他の措置を講ずる」こいう側面もある。規正によって、「政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与する」ということ。

こちらは、知事が主宰する政治団体の政治資金収支報告書虚偽記載を犯罪として処罰することを想定している。私は、水に落ちた犬を寄ってたかってむち打つ仲間に加わろうという趣味はないが、いくつか、やや不正確なコメントが見られるので、次のことだけを記しておきたい。

※「政治資金規正法の虚偽記載罪は、政治団体の会計責任者(あるいは会計責任者の職務を補佐する者)の身分犯で、政治団体の代表者(舛添)の犯罪ではない」
第一次的にはそのとおりである。しかし、舛添の私的なホテルの宿泊費支出を「会議費用」として収支報告書に記載したことに、舛添が絡んでいないはずはない。結局は、共同正犯(刑法60条)が成立し、同法65条1項(身分犯の共犯規定)により、舛添についても虚偽記載罪(政治資金規正法25条1項)が成立する。

※「報告書への虚偽記載罪は故意犯なので、『間違いだった』で済まされてしまう。」
これも間違い。政治資金規正法27条2項は、「重大な過失により、…第25条第1項の罪(虚偽記載)を犯した者も、これを処罰するものとする。」となっている。

※「報告書を事後に訂正すれば、虚偽記載罪は結局不可罰となる」
とんでもない大間違いである。虚偽を記載した報告書の提出によって、犯罪は完成する。その後の訂正は、犯罪の成否に何の関わりも持たない。「訂正すれば問題がないだろう」とは、いかな軽率者も口にしてはならない。むしろ、事後の訂正は、犯罪の自認にほかならない。

※「有罪になつても必ずしも公民権停止とはならない。執行猶予がつけば、あるいは罰金刑の場合は公民権停止を免れる」
これも不正確な言なので、条文を掲記しておく。
政治資金規正法第28条1項 (第25条・虚偽記載)の罪を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から五年間公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
 また、(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)選挙権及び被選挙権を有しない。

同条2項は、禁錮刑実刑に処せられた者については、「その裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間+5年間」が、執行猶予の場合は、「その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間」が公民権停止期間としている。

もっとも、以上の「5年」は原則で、裁判所は判決で、これを短縮することもゼロとすることも、情状によっては可能である。

選挙で選出された地位にある現職者は、公民権停止の効果としてその職を失う。

※なお、舛添に「会計責任者の選任・監督に過失(重過失である必要はない)があれば」、最高50万円の罰金に処せられる(25条2項)。これにも、原則5年の公民権停止がつくことになる。

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ところで、舛添バッシングに関して、傾聴すべきブログの記事を目にした。
以下は、宮島みつやという論者による筆の冴えである。タイトルは、「舛添より酷かった石原慎太郎都知事時代の贅沢三昧、登庁も週3日!それでも石原が批判されなかった理由」というもの。
  http://lite-ra.com/2016/05/post-2228.html

…この問題では、舛添都知事をフクロ叩きにしているマスコミがなぜか一切ふれない事実がある。それは、東京都知事の豪遊、税金での贅沢三昧が、石原慎太郎・都知事の時代から始まっていたということだ。いや、それどころか、1999年から2012年まで続いた石原都政での知事の“公私混同”は舛添都知事を遥かに上回っていた。たとえば、04年、「サンデー毎日」(毎日新聞出版)が「『知事交際費』の闇」と題した追及キャンペーンを展開したことがある。「サン毎」が情報開示請求を通じて明らかにしたのは、高級料亭などを使って一回に数十万単位が費やされていた「接遇」の実態だった。これは、他の知事と比べても突出したもので、しかも相手の顔ぶれを見ると、徳洲会理事長の徳田虎雄氏や文芸評論家の福田和也氏など、ほとんどが石原氏の友人やブレーン。ようするに石原氏は“お友達”とのメシ代に税金を湯水のごとくぶっ込んでいたのだ。

 さらに、海外視察も豪華すぎるものだった。石原氏は01年6月、ガラパゴス諸島を視察しているが、公文書によれば、その往復の航空運賃は143万8000円、もちろんファーストクラスを利用していたとみられる。しかも、この視察で石原氏は4泊5日の高級宿泊船クルーズを行なっており、本人の船賃だけで支出が約52万円。この金額は2人部屋のマスタースイートを1人で使った場合に相当するという。なお、随行した秘書などを含む“石原サマ御一行”の総費用は約1590万円だった。

 訪問国や為替レートを考えると、これは、今問題になっている舛添都知事と同じ、あるいは、それ以上の豪遊を税金を使って行っていたといっていいだろう。ところが、当時、この「サンデー毎日」のキャンペーン記事を後追いするメディアは皆無。世論の反応も怒りにはならず、追及は尻すぼみに終わった。

 ご存知のとおり、石原氏は芥川賞選考委員まで務めた大作家であり、国会議員引退後、都知事になるまでは、保守論客として活躍していたため、マスコミ各社との関係が非常に深い。読売、産経、日本テレビ、フジテレビは幹部が石原べったり、「週刊文春」「週刊新潮」「週刊ポスト」「週刊現代」も作家タブーで批判はご法度。テレビ朝日も石原プロモーションとの関係が深いため手が出せない。

 批判できるのは、せいぜい、朝日新聞、毎日新聞、共同通信、TBSくらいなのだが、こうしたメディアも橋下徹前大阪市長をめぐって起きた構図と同じで、少しでも批判しようものなら、会見で吊るし上げられ、取材から排除されるため、どんどん沈黙するようになっていった。

 その結果、石原都知事はどんな贅沢三昧、公私混同をしても、ほとんど追及を受けることなく、むしろそれが前例となって、豪華な外遊が舛添都知事に引き継がれてしまったのである。

 にもかかわらず、舛添都知事だけが、マスコミから徹底批判されているのは、今の都知事にタブーになる要素がまったくないからだ。それどころか、安倍政権の顔色を伺っているマスコミからしてみれば、舛添都知事は叩きやすい相手なのだという。

「安倍首相が舛添都知事のことを相当嫌っているからね。舛添氏は第一次安倍政権で自民党が参院選で惨敗した際、『辞職が当然』『王様は裸だと言ってやれ』と発言するなど、安倍降ろしの急先鋒的存在だった。安倍首相はそんな舛添氏の口を塞ごうと内閣改造で厚労相にまで起用したが、内心ではかなり舛添に腹を立てていた。都知事になってからも、五輪問題で安倍の側近の下村(博文・前文科相)を批判したり、憲法問題で『復古的な自民党改憲草案のままなら自分は受け入れられない』などと発言をする舛添都知事のことを、安倍首相はむしろ目障りだと感じていたはず。だから、今回の件についても、舛添が勝手にこけるなら、むしろいいチャンスだから自分の息のかかった都知事をたてればいい、くらいのことを考えているかもしれない。いずれにしても、官邸の反舛添の空気が安倍応援団のマスコミに伝わっているんだと思うよ」(政治評論家)

 実際、普段は露骨な安倍擁護を繰り返している安倍政権広報部長というべき田崎“スシロー”史郎・時事通信社解説委員なども、舛添に対してはうってかわって、「外遊なんてほとんど遊びだ」と激しい批判を加えている。

 一方で、石原元都知事にその贅沢三昧のルーツがあることについては、今もマスコミはタブーに縛られ、ふれることさえできないでいる。

 舛添都知事の不正を暴くのは意味のあることだが、「マスコミもやる時はやるじゃないか」などと騙されてはいけない。強大な権力やコワモテ政治家には萎縮して何も言えず、お墨付きをもらった“ザコ”は血祭りにする。情けないことに、これが日本のメディアの現状なのである。(宮島みつや)

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なるほど、舛添バッシングの構造は、こんなものかも知れない。少なくとも、こんな側面がある。私は、舛添擁護論に与しないし、告発も躊躇しないが、以上の指摘は心しておきたいと思う。
(2016年5月14日)

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Published in 土曜日, 5月 14th, 2016, at 22:17, and filed under ジャーナリズム, 都政.

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