澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

野党共闘をどう見るかー18・19歳の意見と向き合う

昨日(6月23日)の毎日新聞朝刊。「参院選で有権者になる20歳未満の男女各50人の計100人に野党共闘について聞いた」という記事。回答した92人の意見分布と9人の個別意見を紹介している。「野党共闘に「賛成」と答えたのは28人。「反対」は18人で、最も多かったのは「その他」の46人だった。」という。新有権者の意見を知ることは極めて有益である。

もっとも、やや漠然とした問に、必ずしも噛み合わない回答になっているとの印象を避けられない。野党共闘は憲法改悪阻止ないしは立憲主義の回復を主たる目標とするもの。もう少し具体的には、「7・1閣議決定」と「戦争法の廃止」を主たる共通課題としている。だから本来は、野党の共闘が共通課題とした理念や政策への賛否を明確にしたうえ、その後に、その目的に照らして共闘が意味あるものか否かについて意見を聞くべきではなかったか。そうすれば、もう少し整理された分かり易い意見を聞くことができたのにと思う。

それでも、記事が述べているとおり、それぞれの回答者の真剣さが伝わってくる。僭越ながら、個別の意見に向き合い検討してみたい。

賛成意見(28人中の3人の意見)
◆共闘は無理だと思っていた。自分たちの政策を横に置いても改憲を阻止したい真剣さが初めて見えた気がする。今回の選挙の争点には、過去にない重みのあることが分かった。……………………北海道・大学生・男19
◇澤藤コメント 至極真っ当な見解ではないか。各政党がそれぞれの理念や政策を有していても、明文改憲を許してしまえば取り返しのつかないことになる。したがって、「各政党独自の政策を横に置いても改憲を阻止するという一点で共闘する」姿勢を積極評価している。「今回の選挙の争点には、過去にない重みがある」というのは、明文改憲がかかった選挙だという理解なのであろう。論評の必要がない。

◆実際に憲法改正阻止ができるかどうかは疑心暗鬼の部分もあるが、与党対野党というわかりやすい図式で、報道もわかりやすくなった。以前より関心を持って見られるようになった。………………………埼玉・大学生・女19
◇澤藤コメント 「実際に憲法改正阻止ができるかどうかは疑心暗鬼」とは、「今次の野党による選挙共闘成立くらいのことでは、憲法改正阻止を実現すること難しいのではないか」ということのようだ。だから回答者は改憲阻止を望む立場なのだろう。ところが、野党共闘の成立の積極評価を「改憲阻止の目標」に照らしては語らず、「与党対野党というわかりやすい図式で、報道もわかりやすくなった」「以前より関心を持って見られるようになった」という傍観者としてのメリットを語るレベルで終えている。できれば、もっと積極的な当事者意識が欲しいところ。当事者意識とは、主権者意識と言い変えてもよい。

◆さまざまな意見を言う人が集まれば、団体として幅が出ると思う。一つの意見、政策を訴える一つの党よりも柔軟な対応をしてくれそう。…熊本・高校生・男18
◇澤藤コメント 共闘のメリットを「幅」「柔軟な対応」に求めて評価する意見。現今の風潮では、「決められない政治」「優柔不断」が攻撃されている。とりわけ右派から民主主義的政治過程の手続的加重が嫌われる時代である。そのようなときに、意見の異なるさまざまな人びとの集合自体に価値を認める見解は、民主主義の原点に立ち帰る素敵なものだ。とはいうものの、あまりに抽象的な一般論としてしか語られてないことが気にかかる。果たして、なんのためのどのような共闘かを認識したうえで、問題を煮詰めての結論なのだろうか。

反対意見(18人中の3人の意見) 
◆党是が全く違う政党が一緒に戦って、与党を倒した後に何ができるのか疑問が残る。………………福島・大学生・男18
◇澤藤コメント これは、果たして自分の意見なのだろうか。与党の共闘攻撃をオウム返しに口にしているだけのようで、読む方に気恥ずかしさが残る。野党の選挙共闘は、本当に「党是が全く違う政党が一緒に戦」ってるのだろうか。自・公という「党是が全く違う政党」でさえ、それなりに共闘しているではないか。4野党は、改憲阻止、立憲主義や平和主義・福祉重視の理念、あるいは成長よりは分配を重視する経済政策において、立場は近いというべきではないか。「与党を倒した後に何ができるのか」ですって? 与党を倒せるところまで闘えたらたいしたものではないか。もし、与党を倒すことができれば、そのあとには新たな連立政権を作る道が開けるだろう。

◆4党は主張が大きく異なるのに選挙のために組むのはおかしい。一致しているのは安保法制廃止と改憲阻止くらいで、消費税や自衛隊への考え方もバラバラだ。……………兵庫・専門学校生・男18
◇澤藤コメント 問題は2点。「消費税や自衛隊への考え方がバラバラなまま、安保法制廃止と改憲阻止で、選挙のために組むことがおかしい」か。そして、本当に、「4野党が一致しているのは安保法制廃止と改憲阻止くらいで、消費税や自衛隊への考え方もバラバラ」なのか。
 共闘とは考え方の違う者が、小異を捨てて大同に就くことだ。「消費税や自衛隊への考え方」を小異とし、「安保法制廃止と改憲阻止」を大同として、選挙民に訴えることは少しもおかしくない。むしろ、小異にこだわって、大同を生かすことができなくなることこそが有権者の期待を裏切ることになるというべきだろう。
 「4野党の消費税や自衛隊への考え方はバラバラ」だろうか。消費税については当面8%維持で一致できる。問題は、福祉政策の財源確保のため税制をどうするかに各党の政策のバラエティはある。しかし、そのバラエティが共闘の障壁となるものではない。自衛隊について、その存在を違憲とするのは共産党だが、同党は性急にその解散を求めないと明言している。自衛隊の海外派兵阻止の一点を4野党の大同とすれば、共産党の自衛隊の存在を容認することは小異に過ぎず、共闘の一致点設定の支障とはなっていない。

◆たくさんの政党があり、それぞれ考えがあるのに、共闘でいろいろな政党の良さが薄れるのではないか。………………………福岡・大学生・女18

◇澤藤コメント これは、ご自分の意見なのだろう。多様な政党の存在を肯定するもっとなご意見。しかし、議会制民主主義においては、結局は選挙による議席数がものをいうことになる。多数の小政党は、大同団結することなしには、結局のところ議会に議席をもつことができない。ご意見はリアリティに欠けるものではないだろうか。譲れるところは譲って、共通する重要課題で選挙共闘をすることは、結局は、部分的にはせよ小政党の考え方の良さをさを生かす道となるのではないだろうか。しかも、今は歴史の分岐点となりかねない重大事態。憲法を守りきらないと、「いろいろな政党の良さ」を発揮する基盤が失われかねない。

「その他」の意見(46人中の3人の意見)
◆どちらともいえない。与党に強引な政治をさせないためには良いと思う。ただ、これまでの野党はまとまって、ばらけてを繰り返している印象が強く、まとまりきれないのではないか。……………………青森・団体職員・男18

◇澤藤コメント これは、野党共闘は評価する立場。その理由を「与党に強引な政治をさせないため」と明確にして、自分の見解の論理性を一貫させている。しかし、「まとまりきれないのではないか。」と共闘の継続性を問題として悲観している。私は思うのだが、今は事前に悲観している余裕などない。改憲はこの国に取り返しのつかない事態をもたらしかねない。それなら、悲観も楽観もなく、改憲阻止のための共闘をせざるを得ないのではないか。この回答者の立場からは、もっと共闘を積極評価してもよいのではないかと思えるのだが。

◆興味がない。最近の政治家は汚職など問題が目立ち、信頼できないので何をしようと変わらないんじゃないかと思う。………………………栃木・大学生・男18

◇澤藤コメント そのような気分も分からないではない。でも、あなたが政治を見放せば、今の政治を消極的に支持したことになる。それこそが、アベ政権の思う壺。汚職にまみれた政党や政治家、信頼できない政治を、批判して欲しい。そうしなくては政治は変わらない。不愉快な社会も変わらない。そのことはあなた自身の将来にはね返ってくる。

◆よく分からない。どの政党も日本の未来ではなく政権を握ることしか考えていないから、同じようにしか感じない。………………………山梨・高校生・男18
◇澤藤コメント 本来政党とは、「日本の未来」を考えるべきで、「政権を握る」ことを自己目的化してはならない。おっしゃるとおりだと思います。
今、「日本の未来」を揺るがす大きな問題が起きようとしています。それが、日本国憲法の改正(改悪)問題。あなた方の先輩世代の有権者が、いま政権与党を勢いづかせて、平和や人権、民主主義を壊す改憲を現実的な課題としています。これを放置しておくことは、軍国主義がのさばった、自由のない戦前の時代を再来させかねません。野党共闘は、政権を握ることを目的としたものではなく、かけがえのない憲法を変えさせないためのものだと理解していただきたいのです。
(2016年6月24日)

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