澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

甘利明は不起訴相当、秘書2名は不起訴不当。政治家秘書は「トカゲの尻尾」だという検察審査会議決。

7月29日、東京第四検察審査会から連絡があって足を運び、被疑者甘利明外2名に対するあっせん利得処罰法違反告発事件の審査申立に対する議決書を受領した。

被疑者甘利明は「不起訴相当」となった。この結果、甘利に対する訴追の道は断ちきられたことになる。到底納得できない。
清島と鈴木の秘書2名は、「不起訴不当」。検察は捜査をやり直すことになるが、強制起訴の道は断たれている。
政治家秘書は「トカゲの尻尾」。これを切り離すことで政治家は生き延びることができる。そのような見本となった検察審査会議決である。

とはいうものの、少なくも秘書については、あっせん利得罪が成立することを認めた議決。それなりの意義はある。甘利についての不起訴相当の判断は、秘書との共謀の立証がないからというもの。秘書限りの犯罪とされたわけだ。

経過は次のとおり。
上脇博之政治資金オンブズマン共同代表(神戸学院大学教授)らが、被疑者甘利明と秘書2名を告発したのが本年4月8日。同告発に対して東京地検特捜部は、5月31日付けで不起訴処分とした。これを不服として、6月3日付で東京検察審査会宛に審査申立書が提出され、被告発人甘利明らの起訴の有無は、東京第四検察審査会の11名の審査員の判断に委ねられていた。その申立の代理人弁護士は49名。その筆頭が大阪弁護士の阪口徳雄君。私も代理人のひとりである。

6月3日の私のブログの表題は、「甘利不起訴ー検察審査員諸君、今君たちに正義の実現が委ねられている」というものだった。再掲しておきたい。

検察審査員諸君、あなたの活躍の舞台ができた。せっかくの機会だ。このたびは、あなたが法であり、正義となる。政治の浄化のために、民主主義のために、勇躍して主権者の任務を果たしていただきたい。

不起訴処分と同時に、甘利の政治活動への復帰が報じられている。甘利本人にとっても、起訴は覚悟のこと、不起訴は望外の僥倖と検察に感謝しているのではないか。不起訴処分は、限りなくブラックな政治家を甦らせ、元気を与えるカンフル剤となる。それだけではない。政治家の口利きは利用するに値するもので、しかも立件されるリスクがほぼゼロに近いと世間に周知することにもなる。

これでは、あっせん利得処罰法はザル法というにとどまらない。あっせん利得容認法、ないしはあっせん利得奨励法というべきものになる。

こんなことを許してはならない。巨額のカネが動いたのは事実だ。甘利自身、薩摩興業の総務担当者から、大臣室で現金50万円、地元神奈川県大和市の甘利事務所で50万円を直接受けとっている。この金が口利き料としてはたらいたことも明らかではないか。薩摩興業は、最終的にはURから2億2000万円の補償金を得ている。この現金授受と口利きの事実、口利きの効果が立証困難ということはありえない。「知らぬ存ぜぬ」は通らない。「秘書が」の抗弁もあり得ない。

有罪判決のハードルが、もっぱら構成要件の解釈にあるのなら、当然に起訴して裁判所の判断を仰ぐべきである。有罪判決となれば、立法の趣旨が生かされる。仮に法の不備から無罪となれば、そのときには法の不備を修正する改正が必要になる。いずれにせよ、検察審査会は単に不起訴不当というだけではなく、国民目線で、起訴相当の議決をすべきである。そうでなければ、政治とカネにまつわる不祥事が永久に絶えることはないだろう。

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審査申立書のまとめの部分を抜粋しておきたい。
1 本件は政権の有力政治家の介入事件である
 本件告発事件は、閣僚として政権の中枢にある有力政治家(被疑者甘利明)事務所が、民間建設会社の担当者からURへの口利きを依頼されて、URとのトラブルに介入して、その報酬を受領したという、あっせん利得処罰法が典型的に想定したとおりの犯罪である。同時に、口利きによる報酬であることを隠蔽するために、政治資金規正法にも違反し、不記載罪を犯した事件である。
2 あっせん利得処罰法の保護法益
 あっせん利得処罰法の保護法益は、「公職にある者(衆議院議員等の政治家)の政治活動の廉潔性ならびに、その廉潔性に姑する国民の信頼」とされている。政治の廉潔性に対する国民の信頼と言い換えてもよい。本件の被疑者甘利明の行為は、政治の廉潔性に対する国民の信頼を著しく毀損したことは明白である。
 しかも、通例共犯者間の秘密の掟に隠されて表面化することのない犯罪が、対抗犯側から覚悟の「メディアヘの告発」がなされ、しかも告発者側が克明に経過を記録し証拠を保存しているという稀有の事案である。世上に多くの論者が指摘しているとおり、この事件を立件できなければ、あっせん利得処罰法の適用例は永遠になく、立法が無意味だったことになろう。
 被疑者らが、請託を受けたこと、したこと、URの職員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと、さらにその報酬として財産上の利益を収受に疑問の余地はないと思われる。
3 検察の不起訴処分は政権政党の有力大臣であった者への「恣意的」で「政治的」な不起訴処分である
 検察は国民の常識から見て起訴すべき事案を、もし報道されているように検察官が「権限に基づく影響力の行使」を『言うことを聞かないと国会で取り上げる』などという違法・不当な強い圧力を行使した場合に限定した解釈をしたというのであれば、その解釈は被疑者が政権政党の有力大臣であったことによる『恣意的』で『政治的』な限定解釈であると断じざるを得ない。
 第1に「権限に基づく影響力の行使」を『言うことを聞かないと国会で取り上げる』などのような一般的な制限的解釈は正しくはない。条文に「その権限に基づき不当に影響力を行使」したとか言う「行為態様」に関して一切の制限をしていない。
 権限に基づくという影響力の行使とは、行為態様が強いとか弱いとかいうのではなく、国会議員が有する客観的地位、権限に基づき影響力の行使を言うのであって、その影響力の行使の「態様」を制限していないのである。それをあたかも「影響力の行使」の「態様」について『言うことを聞かないと国会で取り上げる』などという制限的な態様を解釈で補充することは検察の極めて恣意的な解釈であると同時に検察の「立法」に該当する。あっせん利得処罰法の保護法益は前記に述べたように政治家はカネを貰って斡旋行為をすることを禁じた法律であり、政治家などの政治活動の廉潔性ならびに、その廉潔性に対する国民の信頼が毀損された場合は処罰する法律であって、その権限の行使態様には一切の制限がないのである。確かに一般の国会議員等が関係機関に要請した場合または口利きのみの行為を罰することは正しくない。しかし、国会議員等の要求、口利きであつてもその「行為」の報酬としてカネを貰うという「議員等とのカネでの癒着による権限に基づく影響力の行使」行為を罰するのであつて、通常の政治家の要請行為を罰するものではない。
 第2に本件の場合は安倍政権の有力大臣であり政治家の「要請」行為であったからこそ、UR側は当初は補償の意思がなかったのに2億2000万円まで大幅に補償額を上乗せして支払っているのである。この結果=社会的事実は甘利大臣側がどのような言葉で要請したかではなく、安倍政権の有力政治家が有する「権限に基づく影響力の行使」という客観的な地位、権限があったからこそ、UR側は飛躍的に補償額を上乗せしたのである。『言うことを聞かないと国会で取り上げる』と言ったとか、言わなかったかの問題でなく、当時の甘利大臣の飛ぶ鳥を落とす「地位」「威力」「権限」があったからこそ、UR側も要求に応じたのである。例えが悪いが巨大な指定暴力団の有力幹部が横に座つているだけで一言も発しなくてもその「威力」に負けて要求に応じるのと同一の構造である。
 第3に、本件は決して軽微な事案ではない。「週刊文春」などの報道によれば、被疑者甘利らが、本件補償交渉に介入する以前には、UR側は「補償の意思はなかった」(週刊文春)、あるいは「1600万円に過ぎなかった」とされている。ところが、被疑者らが介入して以来、その金額は1億8000万円となり、さらに2億円となり、最終的には2億2000万円となつた巨額の事件であり、甘利側が貰った金額も巨額である。今回の事件は、有力政治家の口利きが有効であることを如実に示すものであり、これを放置すると多くの業者などが、政権政党の有力大臣や有力政治家に多額のカネを払い、関係機関に「口利き」を要請する事態が跋扈することになろう。これを払拭するために、本件については厳正な捜査と処罰が必要とされている。

※本件のような、政権政党の有力大臣や有力政治家による口利きがあったことが明白な事件においてあっせん利得処罰法の適用ができないということになれば、「公職にある者(国会議員等の政治家)の政治活動の廉潔性ならびに、その廉潔性に対する国民の信頼」を保護することなど到底できないことになる。そして、今後政治家による「適法な口利き」が野放しとなり、国民は政治活動の廉潔性を信頼することがなくなり、政治不信が増大することとなる。
 口利きによる利益誘導型の政治が政治不信を招き、それを防止するために制定されたあっせん利得処罰法の趣旨を十分理解したうえで、検察官の不起訴処分に対して法と市民の目線の立場で「起訴相当」決議をしていただきたく審査請求をする次第である。ちなみにあっせん利得処罰法違反で500万円を受領した事件の時効は本年8月20日に満了する。早急に審査の上、起訴相当の議決をして頂きたい。
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7月29日に交付を受けた議決書の全文を資料として掲載する。

平成28年東京第四検察審査会審査事件(申立)第5号(第5号申立事件)
申立書記載罪名 公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反,政治資金規正法違反
検察官裁定罪名 公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反,政治資金規正法違反
議決年月日    平成28年7月20日
議決書作成年月日 平成28年7月27日

議決の要旨
  審査申立人 上脇博之
  審査申立代理人弁護土阪口徳雄外 48名
  被疑者  甘利明  清島健一  鈴木陵允

  不起訴処分をした検察官
   東京地方検察庁 検察官検事 井上一朗
  議決書の作成を補助した審査補助員 弁護士 岡村英郎
  上記被疑者らに対する,公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反,政治資金規正法違反被疑事件につき,平成28年5月31日上記検察官がした不起訴処分の当否に関し,当検察審査会は,上記申立人の申立てにより審査を行い,次のとおり議決する。
議 決 の 趣 旨
 本件被疑事件について,
 1 被疑者甘利明に対する各不起訴処分は,いずれも相当である。
 2 被疑者清島健一に対する公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被疑事件のうち後記被疑事実1(1)及び同2(3)についての各不起訴処分は不当,その余の不起訴処分はいずれも相当である。
 3 被疑者鈴木陵允に対する公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被疑事件のうち後記被疑事実2(3)についての不起訴処分は不当,その余の不起訴処分はいずれも相当である。

議 決 の 理 由
第1 被疑事実の要旨
 被疑者甘利明(以下「被疑者甘利」という。)は衆議院議員であって,政治団体である自由民主党神奈川県第13選挙区支部(以下「第13選挙区支部」という。)の代表者であるもの,被疑者清島健一(以下「被疑者清島」という。)は,被疑者甘利の秘書であって,第13選挙区支部の会計責任者であったもの,被疑者鈴木陵允(以下「被疑者鈴木」という。)は被疑者甘利の秘書であったものであるが
1 被疑者甘利及び被疑者清島は,共謀の上,平成25年5月9日,神奈川県大和市内所在の大和事務所において,A社の交渉担当者であったBから,国が資本金の二分の一以上を出資している独立行政法人Cが実施する道路整備事業に関し,独立行政法人CとA社の補償契約に関して請託を受け,被疑者甘利の衆議院議員としての権限に基づく影響力を行使して,独立行政法人Cに対し,A社に補償金を支払うようあっせんしたことにつき,その報酬として
(1) 同年8月20日,同事務所において,Bから現金500万円の供与を受けた。
(2) 同年11月14日,東京都千代田区内所在の被疑者甘利の大臣室において,Bから現金50万円の供与を受けた。
2 被疑者甘利,被疑者清島及び被疑者鈴木は,共謀の上,平成26年2月1日から平成27年11月までの間,Bから,独立行政法人CとA社の産業廃棄物に係る補償契約に関して請託を受け,被疑者甘利の衆議院議員としての権限に基づく影響力を行使して,独立行政法人Cに対し,A社に補償金を支払うようあっせんすることにつき,その報酬として
(1)平成26年2月1日,前記大和事務所において,Bから現金50万円の供与を受けた。
(2)平成26年11月20日,Bから現金100万円の供与を受けた。
(3)平成27年中,Bから,53回にわたって,現金合計795万円の供与を受けた。
(4)平成27年6月頃及び同年11月頃,Bから,パーティー券代名目で現金合計40万円の供与を受けた。
(以上につき公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(以下「あっせん利得処罰法」という。)違反)
3 被疑者甘利及び被疑者清島は,共謀の上
(1)第13選挙区支部の平成25年におけるすべての収入及び支出等を記
載した報告書(以下「収支報告書」という。)を提出するに当たり
ア 実際は,平成25年8月20日に500万円の収入があったのに,100万円の寄附収入があった旨虚偽の記入をした。
イ 実際は,平成25年9月6日に自由民主党神奈川県大和市第2支部(以下「大和市第2支部」という。)に100万円の寄附をしたのに,その記載をしなかった。
(2)第13選挙区支部の平成26年における収支報告書を提出するに当たり
ア実際は,平成26年11月20日にBから50万円の収入があったのに,その記載をしなかった。
イ実際は,被疑者甘利に対する個人的な贈与であったのに,平成26年2月4日に第13選挙区支部が寄附を受けた旨虚偽の記入をした。
(以上につき政治資金規正法違反)

第2 検察審査会の判断
 当検察審査会が本件不起訴処分を不当とする理由は,次のとおりである。
1 被疑事実1(1) について(あっせん利得処罰法違反)
? 前提事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア Bは,平成25年4月頃,A社の総務担当者として独立行政法人Cとの間の,独立行政法人Cによる道路用地取得に関する補償交渉(以下「補償交渉1」という。)に関与することになったが,同年5月頃に独立行政法人Cが検討していた補償金額はA社が主張する補償金額を大きく下回っていた。
イ Bは,同年5月頃,神奈川県大和市内にある被疑者甘利の大和事務所に赴き,被疑者清島に対し,A社と独立行政法人Cとの補償交渉1について,独立行政法人Cに働きかけ,A社が要求する額の補償金を支払わせるよう陳情した。この際,まずA社が独立行政法人Cに対してこの補償交渉1に関する内容証明郵便を送り,その後に大和事務所が独立行政法人Cに接触することになった。
ウ 被疑者清島から依頼を受けたD秘書は,同年6月頃,事前に予約を入れないまま独立行政法人C本社を訪れ,その職員が応接室にてD秘書と面談した。D秘書は,この職員に対しA社が送付した内容証明郵便に対する回答の状況を問い,独立行政法人Cの担当部署において検討している旨の回答を得た。
エ A社は,同年8月,独立行政法人Cとの間で補償契約を締結し,同月中に,独立行政法人Cから,同契約に基づく補償金の一部金の支払いを受けた。
オ Bは,前項の補償金の支払いを受けた日に,被疑者清島に供与するための資金として現金を受け取り,大和事務所に赴いたが,被疑者清島に手渡しだのは現金500万円であった。
 被疑者清島は,Bと協議レ最終的に,このうち300万円を個人的に受領し,残り100万円を県議会議員に寄附することとした。
カ なお,関係証拠上,前記のとおり独立行政法人Cにおいて補償交渉1に関する補償金額を増額することとしたのは,独立行政法人Cにおける算定方法や範囲等の見直し等がきっかけとなっており,D秘書との面談がきっかけとなったと窺わせる証拠はない。
(2) 被疑者清島について
  検察官は,被疑事実1(1) について被疑者清島を不起訴としたが,以下アないしウの理由から,この検察官の判断は,納得できるものではなく,改めて捜査が必要であり,不当である。
ア 第1に,あっせん利得処罰法違反における「請託」とは,「その権限に基づく影響力を行使」してあっせんすることを依頼するまでの必要はないと解されているところ,Bが被疑者清島に独立行政法人Cとの補償交渉1についてあっせんを依頼したこと,被疑者清島がこれを了承したことは関係証拠から明らかであり,「請託」の事実が認められる。
イ 第2に,あっせん利得処罰法違反における「その権限に基づく影響力を行使」したと認められるためには,あっせんを受けた公務員等の判断に影響を与えるような態様でのあっせんであれば足り,現実にあっせんを受けた公務員等の判断が影響を受けたことは必要ないと解されているところ,あっせんを受けた公務員等の判断に影響を与えるような態様の典型例として職務権限の行使・不行使を交換条件的に示すことが挙げられるが,この典型例に当たる行為が認められないからといって,直ちに「その権限に基づく影響力を行使」したといえない訳ではない。当該議員の立場や地位,口利きや働きかけの態様や背景その他の個別具体的事案における事情によっては,公務員等の判断に影響を与えるような態様の行為と認め得る。
被疑者清島は,前記のとおり,A社から独立行政法人Cに対する内容証明郵便が送付された後に,D秘書に独立行政法人Cにその確認をするように依頼レD秘書は,事前の約束もなしに独立行政法人C本社を訪れてその職員と面談して,A社と独立行政法人Cとの本件補償交渉に関する内容証明郵便への対応を確認したが,A社と独立行政法人Cとの補償交渉という民事的な紛争の場面において,対立する一方当事者であったとしても,相手方の都合も問かないまま突然,直接の担当部署でもない相手方の本社に訪問しても対応を断られるのが通常と思われる。D秘書は,あくまでも第三者に過ぎないが,衆議院議員で,有力な国務大臣の一人である被疑者甘利の秘書であるからこそ,応接室に通され,独立行政法人C本社の職員らと面談し,前記の確認をできたとみるのが自然である。D秘書が単に事実確認をするだけであれば,電話を独立行政法人Cの担当部署にかければ十分であり,事務作業としても効率的なはずである。しかしながら,D秘書は,敢えて事前の約束もなしに独立行政法人C,しかもA社との補償交渉を直接担当している訳ではない独立行政法人C本社に乗り込み,面談を求めたのは,そういった行動が独立行政法人Cの判断に影響を与え得るものと判断しているからであると考えるのが自然である。他方,独立行政法人C本社職員がわざわざ自らの業務時間を割いて,D秘書と面談し,補償交渉1に関する説明をしたのも,それをしないと不利益を受けるおそれがあるからと判断したとみるのが自然である。
また,被疑者清島としても,補償交渉1の補償金額が増額された経緯を認識していないとしても,それに関して500万円もの高額の現金を受領したのであるから,それ相応の行為をしたという認識があったと考えるのが自然である。
ウ 第三に,Bが被疑者清島に供与した現金500万円の趣旨は,その交付日が増額された補償金の支払日と同一であること,供与された現金が500万円と高額であることを考慮すると,その交付の趣旨は,補償交渉1に関する補償金額が増額されたという結果に対する報酬,謝礼であるとみるのが自然である。
(3) 被疑者甘利について
 以上のとおり,被疑事実1(1)について被疑者清島に関する再捜査が必要であるが,被疑者甘利が被疑者清島との間で前記の被疑者清島の一連の行為について共謀していたことを窺わせる証拠はない。
 よって,被疑事実1(1)について被疑者甘利を不起訴とした検察官の判断は相当である。
2 被疑事実1(2) について(あっせん利得処罰法違反)
 関係証拠によれば,A社代表取締役のEが平成25年11月14日にBらA社関係者と共に被疑者甘利の大臣室を訪れ,被疑者甘利に直接現金50万円を手渡した事実が認められるものの,この訪問の目的や経緯も考慮すると,この現金50万円がA社と独立行政法人Cとの間の補償交渉1に対する報酬や謝礼として供与されたものとは認められない。
 よって,被疑事実1(2)について,被疑者甘利及び被疑者清島をいずれも不起訴とした検察官の判断は相当である。
3 被疑事実2(1),(2)及び(4)について(あっせん利得処罰法違反)
  関係証拠によれば,平成26年から平成27年頃にBが被疑者甘利に現金50万円を手渡したこと,Bが被疑者清島に現金100万円を手渡したこと,Bがパーティー券代金として各現金0万円を支払ったことが認められる。
しかし,関係証拠から認められるこれらの供与の経緯を考慮すると,A社と独立行政法人Cとの補償交渉をすることの報酬や謝礼として供与されたものとは認められない。
よって,被疑事実2(1),(2)及び?について被疑者甘利,被疑者清島及び被疑者鈴木をいずれも不起訴とした検察官の判断は相当である。
4 被疑事実2(3)について(あっせん利得処罰法違反)
巾被疑者清島及び被疑者鈴木について
検察官は,被疑事実(3)について被疑者清島及び被疑者鈴木をいずれも不起訴としたが,以下アないしウの理由から,この検察官の判断は納得できるものではなく,改めて捜査が必要であるから,不当である。
ア被疑事実(3)の前提となる現金の供与について,関係証拠によれば,被疑者清島及び被疑者鈴木が,平成27年中,Bから,多数回に渡り現金の供与を受け,その合計額は多額なものとなっていることが認められる。この現金の供与は,多数回のことであり,関係者による記録や記憶に不正確ないしは曖昧な点があるとしても,そういった事実が一切存在しないとか,Bを含む関係者において意図的に虚偽の事実を作出したと疑うべき明確な事情は認められない。
イ関係証拠によれば,Bが,この間,被疑者清島に対し,A社の代表取締役の知人に関する事柄やA社に関する別の事柄も相談していた事実が認められるものの,この現金が供与されている間,Bが継続して相談していたのはA社と独立行政法人Cとの道路建設工事の実施に伴う損傷修復等に関する補償交渉(以下「補償交渉」という。)であること,多額の現金供与に経済的に見合う事柄は補償交渉であることを考慮すると,この継続する現金供与の主要な目的は,A社と独立行政法人Cとの補償交渉に関レ被疑者清島や被疑者鈴木においてあっせん行為をすることの報酬,謝礼であるとみるのが自然である。
被疑者清島や被疑者鈴木も,繰り返しの現金提供を受けていること,その間,A社と独立行政法人Cとの補償交渉について相談を受け,関与していたのであるからBによる現金供与の目的を理解していたはずである。
そうすると,双方とも,Bによる現金供与の主要な目的があくまでA社と独立行政法人Cとの補償交渉に係るあっせんすることの対価と理解していると認められる以上,あっせん利得処罰法違反における「請託」を受けて,あっせんしたことの報酬,謝礼として現金供与が行われたとみるのが自然である。
ウ被疑事実(3)は,「あっせんをすること」,すなわち将来あっせんすることの報酬,謝礼として現金の供与を受けたという行為に関するものである。
関係証拠によれば,Bと被疑者清島との間に,独立行政法人Cへの働きかけの方法として具体的な合意,協議の事実までは認められないものの,被疑事実1田に関する補償交渉1の経緯,その際補償金額が増額したことの対価としてBから被疑者清島に対し500万円もの現金が渡されたことも踏まえると,Bが,A社と独立行政法人Cとの補償交渉について,甘利事務所によって独立行政法人C担当者の判断に影響を与えるような働きかけを求めていたことは容易に認めることができる。
他方,被疑者清島も,Bにおいて,被疑事実1(1)同様に,甘利事務所による働きかけによってA社が主張する額の補償金が支払われるようあっせんすることを求めていることを知っていたから,こそ,その対価として多数回に渡り現金の供与を受けていたと認めるのが自然である。被疑者鈴木も,Bから現金供与を受ける中で,被疑者清島から,Bの意図につき説明を受け,認識していたとみるのが自然である。
(3)被疑者甘利について
以上のとおり,被疑事実(3)について被疑者清島及び被疑者鈴木の関係で再捜査する必要があるといえるが,その一連の行為について,被疑者甘利が被疑者清島,被疑者鈴木の一方又は双方と共謀していたことを認め得る証拠はない。
よって,被疑事実(3)について被疑者甘利を不起訴とした検察官の判断は相当である。
5 被疑事実2(3)について(政治資金規正法違反)
関係証拠によっても,被疑事実2(3)のような収支報告書の虚偽記載,不記載があったと認められない。
よって,被疑事実2(3)について被疑者甘利及び被疑者清島をいずれも不起訴とした検察官の判断は相当である。
6 結論
以上のとおり,被疑事実1(1)について被疑者清島を不起訴としたこと,被疑事実(3)について被疑者清島及び被疑者鈴木を不起訴としたことには納得できないため,検察官に再捜査及び再考を求める必要があり,その他について不起訴とした検察官の判断が相当であると判断したから,前記議決の趣旨のとおり議決する。
東京第四検察審査会
以 上
(2016年8月2日)

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