東京都教育委員諸君、そして小池百合子知事、原告教員の怒りの声に耳を傾けよ。
「日の丸に向かって起立し、君が代を斉唱せよ」との強制には従えないという国民はけっして少なくない。強制でなければ起立してもよいが、強制となければ立てないという人もいる。自分は起立するが強制には賛成しがたいとするのが、ごく普通の考え方のようだ。
東京の公立校では、卒業式や入学式において式に参加する教職員には「起立・斉唱」を命じる職務命令が発せられる。それでも従うことができないとする教員が、あとを断たない。
この強制の発端となったのが、悪名高い「10・23通達」である。かつて、都立高は「都立の自由」を誇っていた。その象徴が、日の丸・君が代の強制とは無縁なことだった。自由とは、権力からの束縛を受けないこと。日の丸・君が代は、国家権力の象徴なのだから、日の丸・君が代強制の受容は、自由の放棄にほかならない。
2003年10月23日。右翼石原慎太郎が都知事2期目のこの時期に、トンデモ知事のお友だちが教育委員を乗っ取り、トンデモ教育委員会が日の丸・君が代の強制を始めた。以来、職務命令違反として懲戒処分を受けた教員は延べ480名に上る。そして、知事が交代しても、強制は続けられている。
起立できないとする教員の理由は千差万別であって一括りにはできない。それぞれの歴史観・国家観・戦争観などの思想・信条による場合もあれば、自分の信仰が日の丸・君が代への敬意表明を許さないという方もあり、教育者としての信念から教育に国家主義的統制を持ち込ませてはならないとする方もある。また、外国籍の生徒との触れあいからその生徒の民族的アイデンティティーを尊重しなければならないという立場からの不起立の例も少なくない。
懲戒処分を受けた者の多くが、処分取消の訴訟を提起して争う。今のところ、判決の趨勢は、「処分量定が戒告にとどまる限り、行政裁量の範囲内として違法とは言えない」「しかし、処分対象の教員に具体的な法的不利益が及ぶ減給・停職となれば量定過酷に過ぎて、裁量権の逸脱濫用に当たり違法となる」というもの。つまり、裁判所は減給以上は取り消すが、戒告は取り消さないのだ。
我々は、違憲判断をしない司法を強く批判している。憲法の砦としてのその職責を放棄した情けない裁判所、裁判官なのだから。しかし、その裁判所でさえ、減給・停職処分は違法として取り消していることを重視しなければならない。
東京都教育委員会は、裁判所から「違法だから取り消す」と判決されるような処分をしたことを恥じなければならない。責任を感じなければならない。なによりも違法な処分をして迷惑をかけた教員に真摯な謝罪をしなければならない。
さて、東京「君が代」4次訴訟原告団14名のうち6名が、減給・停職の処分を受けた者。その6名が求めた処分取消請求に対して、9月15日東京地裁判決は、予想されたとおり6名全員の処分取消を認容した。そして、そのうちの5名について、都教委は敗訴を認めて控訴を諦めた。残る1名についてだけ都教委は争いを続けるというが、これで5名の原告については処分取消が確定した。遡って処分はなかったものとなり、給与は再計算されてカットされた分は、年5%の遅延損害金を付して返還されることになる。
その5名が、本日(10月9日)早朝、東京都教育委員会に対して、「謝罪を求める申入書」を配達証明付きの郵便で発送した。その全文を下記に紹介する。怒りがほとばしる謝罪要求となっている。
役立たずの都教委諸君。まずは、この謝罪要求に真摯に耳を傾けたまえ。そして、あなた自身の責任だということを自覚したまえ。この教員たちは、自分の職責から逃げずに、自分の良心をつらぬいた尊敬すべき人々だ。その真剣な謝罪要求を、保身のために無視するのは、卑怯きわまる。恥を知る人間として、ものを考えたまえ。そのためには、最低限、原告らが都教委を訴えた訴訟の判決書きを読みたまえ。もし、判決内容がよく理解しかねるということなら、あなたが依頼した被告側の弁護士に解説を求めたまえ。仮に原告側弁護士の意見や解説を聞きたいということなら、いつでも応じることを約束する。
そのうえで、原告らに謝罪するかしないか、君たちの良心に従った回答をしたまえ。
もう一度委員5人全員の名を挙げておく。あなた方は飽くまで教育行政の主体なのだ。組織に隠れて逃げる無責任を決めこむことができない立場にある。にもかかわらずお飾りに過ぎないと言われることを甘受されるのか。当事者意識ゼロ。職責意識ゼロ。憲法感覚ゼロ。教育に関する見識ゼロ。それでいて、報酬だけは受け取ろうという根性を恥ずかしいとは思わないか。そう言われ続けてよいと思っているのか。
中井敬三
遠藤勝裕
山口 香
宮崎 緑
秋山千枝
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2017年10月8日
東京都教育委員会委員長 中井敬三 殿
東京「君が代」4次訴訟原告団
A
B
C
D
E
東京「君が代」第4次訴訟勝訴確定にともなう謝罪を求める申し入れ書
私たちは、2014年3月17日に東京地方裁判所に提訴してから3年を闘い、9月15日佐々木判決により、減給・停職処分を取り消された原告である。
都教委は敗訴したが、原告らを控訴することができなかった。それにより、A-減給10分の1・1ケ月、B-減給10分の1・6月、C-減給10分の1・1ケ月、D-減給10分の1・6月、E-停職6ヶ月、の各処分取り消しが確定した。
2003年10月23日に発令されたいわゆる「10・23通達」により、卒・入学式で「日の丸・君が代」を強制され、不当な懲戒処分を受けた結果、私たち原告は多大な精神的・肉体的苦痛を味わった。
都教委は、減給・停職処分は「裁量権の逸脱・濫用で違法」であると判断が下ったことを真摯に反省し、原告らに心からの謝罪をせよ。
都教委は、懲戒処分の通知の時には、原告らの自宅まで来たのであるから、原告の自宅へきて謝罪せよ。その上で、返金せよ。
都教委は、君が代1次訴訟以降、不起立行為に対する減給及び停職処分は「違法である」と断罪され続け、最高裁から、処分行政の見直しを諭されてきた。
にもかかわらず、今回処分を取り消された中で1名だけ控訴した。司法をも無視する暴挙である。即刻控訴を取り下げよ。
9月15日判決で処分を取り消され、都教委が控訴を断念せざるを得なかった2名の現職原告に対して、再処分をするな。
以上申し入れる。10月13日までに下記へ回答を求める。
〈連絡先〉東京「君が代」裁判弁護団 事務局
(2017年10月9日)