さあ選挙 共闘候補に声援を とは云ふものの お前ではなし
(2021年10月16日)
江戸の狂歌師・蜀山人の作が、
『世の中に 人の来るこそ うるさけれ とは云ふものの お前ではなし』
内田百?がそのパロディをつくって、両作とも人口に膾炙するところとなった。
『世の中に 人の来るこそ うれしけれ とは云ふものの お前ではなし』
ともに人情の機微に触れて、実によくできている。いずれも総論と各論の対比ではあるが、目の前の「お前」にとっては、本歌では婉曲に、パロディでは直接に、否定の評価をされて辛いところ。
総選挙を目前にした巷では、安倍菅路線からの脱却こそが天の声であり、民の声でもある。その実現のためには、野党共闘が必要で、選挙協力が望ましいことは誰にも分かる理屈。しかし、大所高所からの総論だけでは選挙はできない。現場は動かない。
総論は正論で反対しがたいが、現場の活動家も選挙民も将棋の駒ではない。自分の支持政党とは異なる候補者への投票を依頼するのだ。簡単にできることではない。選挙活動の担い手を納得させる手続や具体策が不可欠ではないか。
ちなみに、私の地元の「有力野党共闘候補者」(現職)のビラが甚だしく無内容。これまでの安倍菅政権への批判の気迫が感じられない。念のためにホームページを覗いてもみた。
9月8日に合意した「衆議院総選挙における野党共通政策」についての言及はまったくない。むしろ、憲法については、こんな具合だ。
「憲法を尊重し、21世紀の日本にふさわしい憲法について広く議論を進めます。従前の司法手続きで解決できない憲法上の問題(自衛権、解散権、1票の格差等)について、国民とともに積極的に議論します。」
これは、明らかに改憲派の言い回しである。共通政策は、この点を次のように言っており、懸隔は大きい。
「安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの法律の違憲部分を廃止し、コロナ禍に乗じた憲法改悪に反対する」「核兵器禁止条約の批准をめざし、まずは締約国会議へのオブザーバー参加に向け努力する」「地元合意もなく、環境を破壊する沖縄辺野古での新基地建設を中止する」
外にも、共通政策にあって、この予定候補者の政策にない主なものは、「原発のない脱炭素社会」「最低賃金の引き上げ」「富裕層の負担強化」「日本学術会議の会員を同会議の推薦通りに任命する」などなど。
野党の共通政策は、とてもよくできている。よくできているという意味はいろいろあるが、何よりも安倍菅政権9年の負の実績への対抗軸を設定するものであり、自公政権の継続を断ち切りたいとする選挙民の期待を集約するものである。野党共闘の候補者は、これこそが選挙民からの付託された基本政策と厳粛に受けとめていただきたい。
その上で、各選挙区ごとに、共闘候補者と各政党や選挙母体が、この共通政策を有権者に訴えることを再確認する手続ないしはセレモニーが欲しい。そうでなければ、野党共闘は現場を盛り上げる力をもちえない。絵に描いた餅におわる恐れさえある。