「邪教」はとうてい許せない。しかし、「サタン」はもっと怖い。
(2022年7月31日)
安倍晋三の銃撃事件以来、旧統一教会の反社会性がクローズアップされ、自民党とりわけ安倍派の政治家とこの反社会的組織との癒着が大きく問題視されている。
私も、統一教会を徹底して批判しなければならないと思ってはいる。しかし、これを権力によって弾圧してしまえ、法人格を取り消せということにはいささかの躊躇を感じる。戦前の天皇制政府による宗教弾圧を連想し、権力の暴走を懸念するからだ。そう、私は何ごとによらず優柔不断なのだ。
一方で、果断極まりないのが中国当局である。昨日(7月30日)配信の共同通信記事によれば、中国は「旧統一教会は『違法な邪教』」とし、「安倍氏銃撃で一掃の正当性強調」なのだそうだ。これだけの見出しでは少々分かりにくいが、「中国共産党はとっくの昔に、統一教会を邪教として一掃済みである。今回の安倍銃撃事件で、党の正しさが証明された」ということ。
中国当局が統一教会を、非合法の「邪教」(カルト)と認定したのは1997年のことだという。そのことによって、日米と違って、中国は統一教会の自国への浸透を防ぎ得た。この当局の対応は正しかったと宣伝しているわけだ。ゼロコロナ政策を思い起こさせるこのやり方に、強権的な宗教政策がより強まると懸念する声も出ているという。
中国には、「中国反邪教ネット」というサイトがある。もちろん、事実上公安当局が運営している。安倍銃撃事件以来、そのサイトでは、代表的な邪教として扱われる気功集団「法輪功」と並んで、旧統一教会を批判する記事が多くなっているという。
共産党系の環球時報(英語版)は14日付紙面で「安倍氏暗殺は中国のカルト一掃の正しさを示した」と強調。「(山上徹也容疑者が)もし中国で暮らしていれば、政府は彼が正義を追求するのを助け、この宗教団体を撲滅しただろう」とし、日米などは「中国の(カルト排除の)努力を『宗教上の自由への迫害』だとゆがめている」と反発した。
これは注目に値する記事ではないか。中国政府(共産党)は、宗教団体に悪徳商法や高額献金授受の事実あれば、躊躇なく『この宗教団体を撲滅した」というのだ。中国政府(共産党)は、そうすることが「正義」と信じて疑わない。「中国の(カルト排除の)努力を『宗教上の自由への迫害』だとゆがめて」はならない、という立場なのだ。
だから、共同配信記事は、示して示してこう締めくくっている。
「中国では一党支配の下、憲法が記す信教の自由は『ゼロに近いのが実態』(中国人カトリック専門家)との指摘もある。非合法化された法輪功や新興宗教だけでなく、プロテスタント系家庭教会なども抑圧されてきた。弾圧を受けた法輪功メンバーを支援してきた弁護士は『日本の旧統一教会の問題は、非公認の宗教活動を一層弾圧する良い口実を政府に与えた』と分析した。」(共同)
以上のとおり、中国(共産党)は統一教会を「邪教」として、弾圧も撲滅も躊躇しない。一方、統一教会の側は、反共(反共産主義)を教義としており、その教義によると、中国共産党は「サタン」とされている。
自民党と癒着し信者からは財産と真っ当な人生を奪った「邪教」と、人権と民主主義の弾圧をこととしてきた「サタン」と。どちらも唾棄すべき存在だが、暴力装置を駆使しうる「サタン」の方がより怖いというべきだろう。たまたま、本日の毎日新聞朝刊のトップ記事は、「数千枚の顔写真が語る、ウイグル族抑圧 新疆公安ファイルを追う」「当局、宗教色を問題視」である。その内容は、中国当局のイスラム教徒に対する弾圧。とても、近代国家のやることではない。