澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「建国記念の日」首相メッセージ。官邸発表の不正確版と、その修正版と。

(2023年2月11日)
 本日は、「建国記念の日」である。戦前は紀元節だった。おそらく伝統右翼にとっての最も重要な日。何しろ、根拠に欠けるとは言え、天皇制の起源の日なのである。この日、初代の天皇神武が大和の樫原で就任したとされる。もちろん史実ではなく、後世に編まれた神話であり、伝承の世界の出来事。近代天皇制政府は1873(明治6)年太政官布告で紀元前660年2月11日とした。いまは、閣議決定でなんでも出来る。明治政府は太政官布告で歴史を確定したのだ。

 その紀元節の日を、戦後の保守政権が、大きな反対運動を押し切って「建国記念の日」とした。戦前と戦後の断絶が不徹底で、実は連続しいることの証左の一つである。

 かつては、国史として教えられたことではあるが、いま初代天皇の実在を信ずる者はない。それでも天皇教の信者や右翼にとっては、天皇の家系と日本という国家との起源が同一ということがこの上なく重要なのだ。もっと正確にいえば、そのような神話や伝承を国民の多くが受容することが重要なのだ。

 本日、岸田首相は、以下のとおりの「『建国記念の日』を迎えるに当たっての内閣総理大臣メッセージ」を公表した。

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 「建国記念の日」は、「建国をしのび、国を愛する心を養う」という趣旨のもとに、国民一人一人が、我が国の成り立ちをしのび、今日に至るまでの先人の努力に思いをはせ、さらなる国の発展を願う国民の祝日です。

 我が国は、四季折々の豊かな自然と調和を図りながら、歴史を紡ぎ、固有の文化や伝統を育んできました。今日、科学技術・イノベーション、文化芸術をはじめ、多くの分野で我が国は国際社会から高い評価を受けています。

 長い歴史の中で、我が国は幾度となく、大きな困難や試練に直面しました。先人たちは、その度に、勇気と希望を持って立ち上がり、明治維新や高度経済成長など、幾多の奇跡を実現してきました。そして、自由と民主主義を守り、人権を尊重し、法を貴ぶ国柄を育ててきました。一人一人のたゆまぬ努力と国民の絆の力によって築かれた礎の上に、今日の我が国の発展があります。そのことを決して忘れてはならないと考えます。

 このような先人たちの足跡の重みをかみしめながら、国民の命と暮らしを守り、自由のもたらす恵沢を確保し、全ての人が生きがいを感じられる社会の実現を目指します。そして、今を生きる国民の皆さんと共に、直面する課題に立ち向かい、将来の我が国国民に対し、世界に誇れる日本を繋いでいきたいと考えます。「建国記念の日」を迎えるに当たり、私はその決意を新たにしています。

 「建国記念の日」が、我が国の歩みを振り返りつつ先人の努力に感謝し、さらなる日本の繁栄を希求する機会となることを切に希望いたします。

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 この岸田のメッセージには、皇祖皇宗も天皇も建国の謂われも出てこない。もしかすると、右翼にとっては不満なのかも知れないが今やそんな時代ではない。一方、憲法も国民主権も平和も出てこない。何よりも敗戦によって「国」は、その成り立ちの原理を根底から変革したのだ、ということが語られていない。その意味では、まことに不正確で不十分だと思う。以下のように述べるべきではないだろうか。

 「建国記念の日」は、「建国をしのび、国を愛する心を養う」という趣旨の国民の祝日とされています。しかし、国とは何か、建国とは何をいうのかについては、国民一人々々の意見を尊重しなければなりません。また、公権力の行使に携わる立場にある者が、「国を愛する心を養うべき」とすることが、実はたいへん危険なことではないのかとも考えられます。さらには、かつては政府が富国強兵のスローガンをもって、「さらなる国の発展」を実現すべく、国民に対して号令を掛けたことはは深く反省しなければなりません。

 我が国は、四季折々の豊かな自然と調和を図りながら、歴史を紡ぎ、固有の文化や伝統を育んできました。他国の歴史や文化に敬意を払いつつ、わが国固有の文化にも誇りをもちたいと思います。しかし、最近、科学技術・イノベーション、文化芸術、表現の自由、ジェンダー平等、LGBTへの寛容度等をはじめ、多くの分野で我が国は国際社会から大きな遅れを指摘されるに至っています。その責任の多くが、近年の政権のあり方にあることは明確であると深く反省せざるを得ません。

 近代の歴史の中で、我が国の為政者は幾度となく大きな過ちを犯してきました。その最大のものは、我が国が起こした近隣諸国に対する侵略戦争と植民地支配です。聖戦の名によって国民を動員しての戦争は未曾有の惨禍を内外に残し、天皇主権の軍国主義国家は消滅したのです。

 そうして、新たな日本国憲法を採択して、天皇主権を排し、国民主権のもと新たな平和国家として再生したのです。これをもって、建国というべきではありませんか。そしていま、広範な国民が、憲法を改正しようという旧勢力の動きに抗して、自由と民主主義を守り、人権を尊重し、法を貴ぶ国柄を育てつつあります。

 権力を担い、国を動かした先人たちの誤りは誤りとして確認し、再びの過ちを繰り返さない反面教師としながら、何よりも国民の命と暮らしを守り、自由のもたらす恵沢を確保し、全ての人が国家にとらわれることなく、生きがいを感じられる社会の実現を目指さねばなりません。そして、今を生きる国民の皆さんと共に、直面する課題に立ち向かい、将来の我が国国民に対しても幸福を保障する日本を繋いでいきたいと考えます。「建国記念の日」を迎えるに当たり、私はその決意を新たにしています。

 「建国記念の日」が、我が国の歩みを振り返りつつ、権力を担った先人の過ちを直視するとともに、市井の人々の努力に感謝し、さらなる日本の繁栄を希求する機会とするよう、国民のみなさまにお誓い申し上げます。

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