澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

愛国心は危険だ。触ると火傷する。暴発して身を滅ぼすことにもなりかねない。

(2023年2月12日)
 「建国奉祝派」というものがある。日本会議だの、神社本庁だの、自民党安倍派だの…。今年も各地で奉祝行事が報告されているが、盛り上がりには欠けるようだ。盛り上がりには欠けるものの、それなりに行事は続いているというべきか。伝統右翼のイデオロギーは、統一教会とともに健在なのだろうか。これを支える民衆の意識はどうなっているのだろうか。実はよく分からない。

 右派の論調のトレンドを見るには、まず産経新聞である。分かり易い。昨日の「主張」(社説)が、「建国記念の日 美しい日本を語り継ごう」というもの。何とも、色褪せた「美しい日本」。要するに、愛国心の押し売り、押し付けであるが、愛国心の鼓吹が国防や軍拡に直結していることに、今さらながらギョッとさせられる。

 「美しい日本」という言葉は、社説の最後の結びとして出て来る。「いまこそ、日本を美しいと思い、守ろうとする心を語り継ぐ意義は大きい」と言うのだ。自ずから湧き起こる『日本を美しいと思う心』ではなく、『無理にでも、日本を美しいと思い、守ろうとする心』である。愛国心の強制が語られている。

 建国記念の日に関してはこういう。
 「国を愛するには、建国の物語を知らねばなるまい。日本書紀によれば辛(かのと)酉(とり)の年(紀元前660年)の正月、初代天皇である神武天皇が大和の橿原宮で即位し、日本の国造りが始まった。現行暦の2月11日である」

 「国を愛する」ことが当然の善だという大前提。そして、「建国の物語を知れば、国を愛するようになれる」と言わんばかりの非論理。と言うよりは、信仰と言ってよい。

 「以来日本は、貴族の世となり武士の世となっても、ただ一系の天皇をいただく国柄を守り続けてきた。19世紀に西洋列強がアジア諸地域を次々に植民地化するようになると、明治維新により天皇を中心に国民が結束する国家体制を築き、近代化を成し遂げた。時の政府が2月11日を紀元節の祝日と定めたのは明治6年で、そこには、悠久の歴史をもつ国家の素晴らしさを再認識し、国民一丸となって危機を乗り切ろうとする意味があった。」

 恐るべし産経。いやはや、目の眩むような、恥ずかしげもない皇国史観。「素晴らしい天皇」教であり、「美しい日本」教の信仰でもある。いまごろ、こんなアナクロのマインドコントロールに引っかかる、産経読者もいるのだろうか。

 美しい日本も、愛国心の押し付けも、これまで言い古されてきた。この産経主張のトレンドは、愛国心の涵養が国防や軍拡と直接に結びついていることなのだ。
 
 「ウクライナの戦闘は、国を愛し守ろうとする意志がいかに大切であるかを教えてくれた。寡兵のウクライナ軍と市民の懸命な戦いに世界は瞠目し、当初は及び腰だった支援が次々に寄せられた。もしも将来、日本が同じ惨禍に見舞われたとき、同じような意志を示しうるだろうか」という書き出しは、いつもながらの、「侵略されたらどうする」論の繰り返しだが、これが愛国心と結びつけられる。

 「祝日法では『建国をしのび、国を愛する心を養う』日とされている。ウクライナ情勢だけでなく、台湾有事への懸念など東アジア情勢も厳しさを増す中、改めてその思いを深める必要があろう」

 「戦争を肯定するつもりは毛頭ない。むしろその逆だ。国を愛し守ろうとする意志を持つことが、他国に侵略の野望を抱かせない抑止力となる」という論法。日本は他国に侵略の野望を一切有せず、他国のみが日本に侵略の野望を抱いているという前提。

 「日本の建国を祝う会」も、明治神宮会館(東京都渋谷区)で行われた奉祝中央式典で、大原康男会長は主催者代表あいさつで、「我が国では政府主催の式典は行われていない」。教育基本法上の教育の目標「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という項目を挙げた上で、「政府主催の奉祝式典を開催すべきだ」と強く訴えたという。こちらも、愛国心の押し売りである。

 12月16日閣議決定の「国家安全保障戦略」の中に、次の一文がある。
 「2 社会的基盤の強化
 平素から…諸外国やその国民に対する敬意を表し、我が国と郷土を愛する心を養う。そして、自衛官、海上保安官、警察官等我が国の平和と安全のために危険を顧みず職務に従事する者の活動が社会で適切に評価されるような取組を一層進める」

 今や、権力をもつ者は、愛国心と国防とを、不即不離・表裏一体と意識している。これまでにも増して、愛国心の鼓吹は危険なものとなった。愛国心は危ない。触ると火傷する。暴発して身を滅ぼすことにもなりかねない。

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