これが「親密な同盟国・アメリカ」の戦争だ?映画「ドローン・オブ・ウォー」の恐怖
久しぶりに映画館に足を運んだ。観たのは「ドローン・オブ・ウォー」。作品としての出来よりは、この戦闘がフィクションではなく事実であることという重みに圧倒された。これが、戦争法で日本と固く結ばれた「同盟国アメリカ」の無法の実態だ。一見をお勧めしたい。
アフガニスタンの「テロリスト」に対する「標的殺害」が、12000キロ離れたアメリカ本土で行われている。現地では、上空遙かにドローン(機種はプレデター)が地上を旋回しつつ標的の監視を続ける。そのドローンに操縦者の姿はなく、操縦桿を握って標的にミサイルを撃ち込むのは、ラスベガス空軍基地の冷房の効いたコンテナのなかの「パイロット」たち。そのアメリカ空軍兵士たちは、眉ひとつ動かすことなく、淡々と指1本で標的殺害の任務を遂行していく。害虫をひねり潰すように。観客の背筋は凍るが、これは近未来空想物語ではなく、現実に現在アメリカ軍が行っていることだという。この作品の映画化にはスポンサーがつかず、アンドリュー・ニコル監督が苦労して自分で資金集めをした。さもありなんという内容だ。興行的な成功を願わざるを得ない。
主人公はもとF-16戦闘機パイロットの空軍少佐。朝、子どもたちを学校に送ったあと自家用車で出勤し、階級章をつけた軍服を着て8時間の戦闘任務に就く。勤務の後には美しい妻の待つマイホームへ帰宅する。
戦闘はモニターとコントローラーで行われ、テレビゲームと寸分変わらない。戦闘につきものの汗と血も飛び散らないし、すざましい爆音もない。巻き上がる爆風は画像の中だけのこと。静かに行われる一方的虐殺である。一瞬のうちに殺された者には何が起こったかわからない。非対称戦闘の極限の図だ。
先日、ドローン攻撃ではないが、アフガニスタン北部のクンドゥスで「国境なき医師団」の病院が空爆され33人もの死者が出たという報道があった。抗議を受け、10月6日アフガン駐留米軍司令官が誤爆を認め、米国防総省長官が犠牲者に深い遺憾の意を表した。治療と安全の場であるはずの病院において、血や肉が飛び散り、轟音が響く阿鼻叫喚の光景が繰りひろげられた。国境なき医師団は「ここは病院だ、攻撃をやめろ」と1時間にわたって連絡をとったが無駄だったと言っている。
映画の中でも、主人公の逡巡を無視し、戦争犯罪ではないかという不安を押しつぶす命令が出される。テロリストとされた標的だけでなく、その家族、攻撃後に救助に集まってきた非戦闘員、女性や子ども、葬列に集まってきた人々までも、容赦なく殺害される。「不都合な攻撃については記録を残すな」という命令さえ頻繁に出される。国境なき医師団の抗議で2015年10月3日のアメリカ軍の殺害攻撃の不当性は世界に広く知られたが、開戦以来人知れず殺害されたその他の民間人犠牲者の数は想像を絶する多数にのぼるようだ。そのなかには、ドローンによる容赦ない攻撃の犠牲者も数多くいるだろう。
良心のかけらが残っていた主人公は、自らが安全な立場で屠殺同然の戦闘をすることに耐えられず、戦地勤務を希望するが叶えられない。そして、徐々にPTSD(心的外傷後ストレス傷害)におちいる。子どもを抱きしめながら、庭でバーベキューパーティをしながら、どこまでも晴れ渡るロスアンジェルスの青空を不安げにみあげる。アフガンの人たちは空爆を恐れて、空が曇ることを願って生きているという。
その後主人公にはお定まりの家庭崩壊がおこる。しかし、主人公が退役してもピンポイント戦闘の空軍志願兵は、いくらでもゲームセンターでスカウトできるという。実戦の経験などいらない。3,4日のゲーム指導で安全に闘う空軍兵士は大量生産できるのだ。少しでも想像力と人間性があり、戦闘に耐えられない者はふるい落とされ、精神異常のサイコパス連中だけが残っていく。
「我々がアメリカをテロリストから守っているのだ」「我々が攻撃をやめても相手がやめるはずはない」「しかし、我々の攻撃がさらなるテロリストをつくり出している」「そのうち自爆テロをしている者や子どもも我々同様ドローンを持つだろう」「お互いに終わりの無い殺しあいを永遠に続けなければならない」という映画の中の会話が不気味だ。アメリカがコンピューター戦争を続ければ、中東のテロリストだけでなく、必要とあらば、ロシアも中国も北朝鮮もドローン戦争に参加するだろう。
インドは、アメリカのドローンをコンピューター操作によってほぼ無傷で捕獲し、その能力を誇示した。インドも、ドローン戦争に参戦することになるかもしれない。核戦争よりずっと殺しのハードルは低いのだから、世界中で「ドローン・オブ・ウォー」が繰りひろげられる時代が来るかも知れない。
戦争法を持つに至った日本である。他国から敵とみなされる事態となれば、見上げた空が晴れていれば、攻撃を覚悟しなければならない不安な日々が待っている。映画「天空の蜂」ほど大仕掛けな脅しなど必要ない。敵国やテロリストのドローン一機と指一本に震え上がらなければならないことになる。恐ろしい現実だ。
(2015年10月12日・連続924回)