都議会民主党の「品格」が問われているー都議戦の争点その5
連邦最高裁ホームズ判事の「思想の自由市場」論に倣えば、「選挙とは、公約という商品販売の市場競争」にほかならない。公正な経済市場というモデルを想定して、市場における消費者の自由な選択こそが豊かな経済社会をつくり出す、そのような比喩が選挙という政治的事象にもあてはまる。「自由で公正な市場」になぞらえられた、「自由で公正に徹した選挙制度」のもとでこそ、選挙民の利益に適合する議会が実現する。
各党、各政派、各候補者が、「公約という商品」を美しくラッピングして選挙民に提示する。政党や候補者だけなく、その支持者(つまりは選挙民自身)も売り子となって宣伝戦に主体的に参加する。購買者としての有権者は、それぞれの商品が自分のニーズに適合するものかどうか、似た商品においてはその品質の差異をじっくりと見極め、さらに各商品の対価(公約実現のための財政負担)を勘案して、賢い消費者としての選択をしなければならない。
このとき、消費者としての賢い目は、公約の字面を追うだけではたりない。売り手自身をもよく見つめ、その信用を吟味しなければならない。「この商品の売り手からは、以前にも商品を買ったことがある」「しかし、買わされたのは欠陥商品だったではないか」「今回の商品が一見見栄え良くても、この業者からは二度と買ってはならない」というのが、賢い消費者の当然の選択。いわば、商品の品質だけでなく、売り手業者の品質もが検討の対象となるのだ。
東京都の選挙民は、長らく「自民党」という老舗から提供される公約の購入者だった。最近では、のれん分けした支店を含めた「自公商店」の商品をほぼ無自覚で購入してきた。なにしろ、「いまでこそ国政は『自公政権』だが、都議会ではそのはるか前から『自公与党体制』が都政を支えてきたのだ」(「都政新聞」)という事情がある。
前回、2009年7月の前回都議戦での有権者の選択は、それまでと次元を異にするものとなった。老舗の商品の陳腐・欠陥に明確なノーを突きつけた。そして、マニフェストという魅力的なラッピングの新興商店民主党の商品に鞍替えした。本日のブログは、その新興商店の業者としての信用性、すなわち「品質」の吟味である。
前回選挙の結果を概観してみよう。
東京都の選挙人登録者はおおよそ1000万人。前回選挙の投票率は、総選挙の前哨戦との位置づけもあって55%と高く、前々回に比して10ポイントも急伸した。ざっと550万人の有権者が投票所に足を運んだが、その投票先は以下のとおりである。
自由民主党 146万票(26%) 獲得議席38(?10)
公明党 74万票(13%) 獲得議席23(+ 1)
民主党 230万票(41%) 獲得議席54(+20)
生活者ネット 11万票( 2%) 獲得議席 2(? 2)
日本共産党 71万票(13%) 獲得議席 8(? 5)
大雑把な総括は、「自民の大敗、民主の勝ち過ぎ」である。勝ちすぎた民主は、自民からだけではなく、共産からも議席を奪って第1党となった。市場における商戦での自民大敗の原因は、消費者の利益に奉仕する姿勢を忘れてしまった傲りの体質にある。旧態依然の自民店舗には魅力的な商品がなくなって、消費者がノーを突きつけたからである。
では、勝ちすぎ民主が売り出した、大当たりの目玉商品とはなんであったか。少なくとも、築地市場移転反対・新銀行東京撤退・都立小児病院の廃止反対・オリンピック招致慎重の4点を挙げることができる。
まず、築地市場を江東区豊洲地区に移転する都の計画についての公約についてである。
当時の東京新聞のアンケートに各党がどう回答したか。
『自民』
移転を進めるべきである。築地市場は、施設の老朽化とアスベストや耐震性の危険性が高く狭いため現在地での再整備は不可能。豊洲の土壌汚染問題は最先端技術・工法の活用により高い安全性を確保。都民の台所を支えるには、交通利便で広い豊洲新市場が必要。
『民主』
築地市場の移転については、移転予定地から高濃度の汚染物質が検出されるなど、安全性が確認されていません。また、関係者の合意も得られていないことから、強引な移転に反対します。現在地再整備について、あらためて検討すべきです。
『共産』
都民の台所である市場を、重大な土壌汚染の広がる場所に移転させることは絶対に許されません。都民の不安の声の広がりは当然です。食の安全を守るために、豊洲移転はきっぱり中止し、築地市場は現在地で再整備すべきです。
自民が豊洲移転推進、共産が反対を明確にし、民主は曖昧ながらも当時多くの都民に豊洲移転反対派と認識され、安全を求める都民の票を獲得した。繰り返すが、「きっぱり中止」の共産党票までも蚕食した。
ところが、翌10年の3月議会で、民主党は築地市場移転の経費を盛り込んだ知事の新年度予算に賛成してしまった。1年たたぬうちに公約を破って都民を裏切ったのだ。
新銀行東京問題はどうか。これも、東京新聞のアンケートへの回答を引用しよう。
「質問・都は新銀行東京の経営再建を支援しています。都が取るべき今後の対応についてどう考えますか」
『自民』
今後も中小零細企業に支援を行うべきである。現在でも約一万社に融資を行っており、この半数の約五千社は他の金融機関から融資を受けることが難しい企業であり、これらの企業の存続と従業員やその家族十五万人を支えるため必要。今後も新銀行再建を支援する。
『民主』
昨年の四百億円の追加出資も、この都議選を乗り切るまでの場当たり的な延命措置で、知事のメンツを守るために存続させているにすぎません。都民の税金がさらに毀損(きそん)することのないよう、事業譲渡や株式の売却などを含め、早期に撤退すべきです。
『共産』
新銀行東京は完全に破綻(はたん)状態です。自治体が銀行業に手を出すこと自体が大問題であり、設立に賛成した自民、公明、民主の責任は重大です。速やかに処理し、都は撤退すべきです。
自民の「再建支持」に対して、民主は「早期撤退」である。共産とちがわないほどに、毅然とした態度を示した。しかし、この姿勢は今や影も形もなくなっている。
「新銀行東京や築地市場移転は公約にしません−−。民主党都連は14日、都議選に向けたマニフェストを発表した。…4年前に『都政最大の問題』だとして反対した新銀行の存続や市場移転には触れておらず、第1党に躍進した前回とは内容が大きく様変わりした」(5月15日毎日)という体たらくである。
「都立小児病院統廃合問題」(3病院を廃止して新たな小児総合医療センターを整備する計画)については、自民・公明が賛成、民主・共産は、廃止後の地域医療体制に懸念があるなどとして反対した。ところが、都議選直後の09年の12月議会で民主党は三つの都立小児病院を廃止するという都の方針を容認し、存続を求める都民の請願を自民・公明とともに反対して不採択にしてしまった。これも公約違反の裏切り。
そして、「2016オリンピック招致である」
東京新聞アンケートでは、各党の公約は以下のとおり。
『自民』
支持します。オリンピックの開催は経済効果として全国で三兆円、都内で一兆八千億円と推計され、景気浮揚や雇用創出がなされる。緑あふれた元気で住みやすい東京を創(つく)り、世界一低炭素の環境都市を次の世代に残す。再び子供たちに夢と希望と感動を与えたい。
『民主』
オリンピック招致は支持します。多くの都民やアスリートたちの夢は否定すべきものではありません。しかし、それは決して無条件の支持ではなく、平和の祭典オリンピックの理念を体現するとともに、公共投資等のムダを省いたものでなければなりません。
『共産』
支持しません。石原都政は、五輪招致を口実に、一メートル一億円もの外環道路など大型開発に九兆円もの税金をつぎ込むからです。いま都政が最重点に取り組むべきは、巨大開発ではなく、都民の暮らし・福祉・雇用を守ることです。
自民推進・共産反対、その中間に民主が位置する。「無条件の支持はしない」「公共投資のムダを省け」が、当時の都民には反対の姿勢に映った。
いま、その公約の面影は影も形もなくなっている。
以下は赤旗の指摘である。
民主党が、東京都議選(23日投票)で「理不尽をただす」と大書した法定ビラ「東京民主党2013マニフェスト」を配布しています。日本共産党の小池晃副委員長は14日、この法定ビラの現物を掲げて「理不尽をただすというなら、まず自らの公約違反をただすべきだ」と厳しく批判しました。
小池氏は「民主党は、前回小児病院廃止反対、築地市場移転反対を言いながら、選挙が終わった途端に賛成に変わりました」と指摘。「選挙で言ったことと正反対のことをすることこそ、一番理不尽ではないか。まず自らを正すべきではないでしょうか」と訴えました。
自公という老舗は前回都議選で消費者から拒絶された。これにとって替わった新興店舗民主は、結局のところアフターなしの欠陥商品の販売で成績を伸ばしたに過ぎない。商品の品質の欠陥は、売り手の品質の欠陥でもある。失われた信用の回復は極めて困難となる。自分の販売した商品に責任の持てない事業者は市場から淘汰されざるを得ない。
民主党の公約違反は極めて深刻な問題である。このような羊頭狗肉商法が大目にみられるようでは、日本の選挙民は愚弄され続けるしかない。選挙における公約遵守の努力は、政党としての品格を保持する最低限のモラルである。日本の民主々義の成熟度を測るバロメータとして、公約実現についての選挙後の姿勢を吟味しよう。
こと都議会民主党に関する限り、今回選挙の公約を吟味する必要もない。商品の品質ではなく、売り手の事業者としての品質自体が失格だからである。政党としての品格を欠いていると指摘せざるを得ない。
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『「維新の会」を支持する人に初めて出会った』
選挙が近づくといつもすることがある。知り合いを訪ねて、季節のご挨拶がてら、また新聞の購読をお願いがてら、候補者の人となりを紹介し選挙のことを話し込む。これを、戸別訪問ではく、個々面接という。
無理をして遠くまで出かけたりはしない。隣近所のお知り合いをお訪ねする。以前はこれがおっくうで仕方なかった。この頃はツラの皮が厚くなったのか年の功なのか、あまり抵抗がなくなった。私には「失うべき職」はなく、「失うべき人間関係」もいまさらない。今あるものですでに十分だと思いいたった時、「言いたいことは言える」「言わなきゃ残念」という気分がわき起こってきた。そこで、顔を合わせればご挨拶する方まで、訪問の範囲が拡がって、ポツポツと歩いている。
今日も多くの方とほぼ話がかみ合って、所期の目的を達成することができた。しかし、お一人だけ大変興味深い対話をすることができた。
ここ文京区は、革新・リベラル派の強い土地柄。地元の町会長さんも「九条の会」の会長さん。怪しげな意見と出会う機会はめったにない。本日は、そのめったにない機会に遭遇した。なんと、「維新の会」を支持すると明言する方に初めてお目にかかったのだ。いや、お珍しい。
会話をはじめた時には、何とかスムーズに話が進みそうな気配だった。しかし、どうにも奥歯にものが挟まったような感じである。持ち前の好奇心がうずき出して、精一杯話を引き出す努力をしてみた。
この方、『老人のシルバーパスは、いらないと思う』というあたりから、日頃思っていることを率直にお話ししはじめた。そして、『自衛隊を強くして国を守らないと外国からバカにされる』とおっしゃる。
「でもね、武力でものごと解決しようとすると、軍隊の衝突になりますよ。あなたの息子さんを軍隊にやれますか」『うちの子はやらないわよ。給料もらっている自衛隊員がいけばいいじゃない』「えっ?自分の子はやらない。他人の子ならいいんですか」
「そんな危険は自衛隊員の給料にはみあわない。いざとなれば、きっとみんなやめちゃう。そしたら、徴兵制になっちゃいますよ」『…』
『とにかく、石原さんや橋下さんはものをはっきり言うから好きだ』「従軍慰安婦発言はどう思いますか」『慰安婦の人たちはお金のために好きで行った人たちでしょう』「ほとんどは工場で働かせるとか言われて騙されて連れて行かれたんですよ。そんな境遇に陥った方を気の毒とは思いませんか」『今頃になって賠償金ほしさにあれこれ言ってけしからんと思う』
『共産党は、いつもは来ないで選挙の時だけ話をしに来る。不愉快だ』「維新の方とは日頃お付き合いがあるんですか」『付き合いなんかなにも無いわよ。ともかく、私はもちろん、家族中もみんな共産党の支持はしないよ』
わたしの好奇心はこの程度で満たされた。「やはり、お話ししてみないと人は分からないものですね。今日は、お話しできて良かった」と挨拶して引き上げた。
石原や橋下を支えているこういう人がいるのだ。保守というほどのまとまった考えがあるわけではない。自己中心的で、身勝手で、人に対する思いやりがなくて、不必要に攻撃的な人。少数ながらも、そして影響力は小さいながらも、新大久保で韓嫌デモをしている人だけでなく、ごく身近に。