澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

風雲急を告げるなかでの、地域の『共謀罪』反対集会

ただいま、大谷昇文京春闘共闘会議議長から「STOP共謀罪、安倍暴走政治を許さない! 5・18 文京区民集会」の主催者としての開会のご挨拶がありました。引き続いて共謀罪法案審議の内容についての報告と学習に移ります。

主催者のご挨拶にもありましたように、はからずも風雲急を告げる事態での共謀罪反対集会となりました。本集会には、特別ゲストとして、暴走する安倍内閣の暴走法務大臣金田勝年さんをお招きいたしております。野党や市民からは「歴史に先例のない無能な法務大臣」と酷評されながら、数の力で救われてホッとしておられる金田法務大臣から、上程されている「共謀罪法案」の内容について、ご説明をいただきたいとの企画です。

ご紹介申しあげます。こちらが金田法務大臣です。実は、澤藤大河弁護士が法務大臣になりきって、共謀罪についてのご質問をいただき、ホンモノの法務大臣よりはるかに上手に、分かり易く共謀罪法案について、解説してもらいます。

もっとも、金田法務大臣は「共謀罪法案」という言葉を使いません、正確には「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」なのですが、どういうわけかこの法案を、提案者である内閣は「テロ等準備罪法案」と略称しているのです。政府の言い分がいかにインチキであるか、法務大臣自らに語っていただくことにいたします。

この金田法務大臣から説明を引き出す質問者役には、結束して共謀罪法案の廃案をめざす立場にある4野党の中から、日本共産党の福手ゆう子さんにお願いいたしました。実は、4月15日にも、同じ会場でよく似たシナリオで、福手さんに法務委員会での質問者役をお引き受けいただいたのです。これが、大変好評でしたので地元の大規模な集会に本日もう一度の登場をお願いした次第です。

その質問と回答のあと、金田法務大臣ご自身が、パワーポイントを駆使して、共謀罪の危険な本質と政権のねらいを解説します。そして、若干の質疑や意見交換のあと、集会アピールを採択して、デモ行進に移ることにいたします。

なお、皆様ご存じのとおり、共謀罪法案は3月21日閣議決定を経て国会上程され、衆議院法務委員会で審議が続いています。本日5月18日、つまり今日が法務委員会の強行採決かとの観測が報じられておりましたが、昨日17日に4野党共同の金田法務大臣不信任決議案が提出されて、現在審議がストップしております。

本日、午後1時開会の衆院本会議で同不信任決議案の審議が行われ、提案理由、賛成討議、反対討議を経て、先ほど残念ながら否決されました。場合によっては、明19日に法務委員会で自民・公明・維新の3党が強行採決し、週明けの23日にも、衆院通過となるかも知れないとの報道が飛びかっています。

是非とも、本集会で共謀罪の危険性を確認し、法案阻止の決意を固めようではありませんか。

では、質疑をお二人にお任せかせしますので、どうぞ。

Q 日本共産党の福手ゆう子でございます。
本日は、金田法務大臣には、わざわざ地域の共謀罪反対集会にご出席いただきありがとうございます。
最初にお伺いしますが、まだまだ議論が煮詰まらない法案審議ではありせんか。民主主義の常識から言えば、明日の強行採決などあってはならないこととと思いますが、大臣のお考えを聞かせてください。
A 審議が煮詰まったか否かは、私ではなく、法務委員会の委員長と、理事の皆さんが決めることですから、責任あるお答えは控えさせていただきます。
でも、ここは国会ではないから、本音をしゃべらせてもらえば、まあ、いつまでもだらだらと質疑を繰り返していてもしょうがない。衆議院では、30時間の審議があれば採決してもいいだろうとは思っています。委員会審議時間はもう26時間を超えていますから、30時間までは、もう少しの我慢と辛抱。それが過ぎたら、もう、こっちのもの。

Q なるほど、呆れたお考え。不信任決議案の中に、あなたのことを「国務大臣としての資質の欠如ぶりは、憲政史上例を見ないものと言っても過言でない」といっていることが、まことに的確であることがよく分かりました。
時間がありませんので、本論に移ります。大臣。なぜ、今、共謀罪の新設が必要なのでしょうか。
この共謀罪法案が成立すれば、広範な犯罪について、実行行為がなくとも共謀あるいは準備行為の段階で刑罰を科すことが可能になります。当然に、捜査も可能となります。つまりは犯罪の着手がなくとも、常に一般の市民に逮捕や捜索の危険が生じることになります。私たちの生活が、常に捜査機関の監視のもとにおかれることにもなりかねない。
とりわけ、政府が好もしいと思わない団体の行動については、恣意的に監視し取り締まることができるようになってしまいます。つまり、治安立法として、また弾圧法規として利用される危険な法案ではありませんか。だから、国民の強い反対を受けて、過去に3度も提案されながら、その都度廃案に追い込まれてきたではありませんか。
にもかかわらず、今回、4度目の法案提出となったその理由を明確に述べていただきたい。
A お答えのまえに、一言申しあげます。
今、あなたのご質問に「共謀罪法案」という法案名が出てきました。しかし、「共謀罪法案」ではございません。正確には「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」でありまして、これを提案者である内閣は「テロ等準備罪法案」と略称しているわけででございます。
法律の名称は、正確におっしゃっていただきたい。あなた方は、すぐにレッテルを貼りたがるが、これまで3度廃案となった「共謀罪法案」と今回提案の「テロ等準備罪法案」とはまったく違うものであることを最初に申しあげておきます。

Q えっ? では、これまで3度廃案となった「共謀罪」と、今回提案の内閣が「テロ等準備罪法案」という法案が、どう違うのか。そこから、ご説明をいただきましょうか。
A まず、分かり易いところでは、テロ等準備罪の対象となる犯罪の数が違います。
共謀罪法案では、実行行為への着手がなくても共謀の段階で処罰される犯罪の数は、676もあったのです。今回は、これをわずか91本の法律の、たった277罪に絞り込んだのです。どうです。676を277ですよ。全然違うでしょう。

Q 数の違いは大したことではありません。これこそ現代版「五十歩百歩」というべきでしょう。刑法や憲法の大原則を崩していることが問題なのではありませんか。
A いや、もちろん数だけというわけではありません。何が犯罪で、何が犯罪ではないかかが大変明瞭になったのです。
ご存じのとおり、「共謀罪」という罪を新たにつくろうということではありません。277の今ある罪を、「共謀」の段階でつかまえようと言うことです。具体的には、今ある組織的犯罪処罰法という法律に、6条の2という、分かり易い条文を新設することにしました。どんなに分かり易いか、その新設条文を読み上げてみましょう。

「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮」

どうです。分かり易いでしょう。あとは、別表四と、別表三に書いてある277の罪のリストを探し、条文をよく読めばよいのです。しかも、捜査機関が濫用しないよう、厳格にいくつもの縛りがかけられていることがよくお分かりでしょう。

Q よくお分かりでしようと言われても、ちっとも、分からない。
「人を殺す」「人を傷つける」「財物を窃取(せっしゅ)する」という条文の記載なら、分かり易い。この共謀罪はことさらに分かりにくく作られているではありせんか。こんな条文がどう使われるのか、不安でなりません。
本筋に戻って、いったいなぜ、いま4度目の法案提出となったのかその理由をお聞かせください。

A これは、国際組織犯罪防止条約の批准のために必要な法案であると考えております。
この法案が成立すれば、条約の批准ができます。そうすることで、効果的に国際的な組織犯罪を防止し,テロをも防止することができます。
この条約は平成15年9月に発効しています。この条約については,同年5月にその締結について国会の承認を得ておりますが、我が国としても,早期に批准することが必要です。我が国も,国際社会の一員として,この条約を早期に批准し,国際社会と協力して,一層効果的に国際的な組織犯罪を防止するため,この条約が義務付けるところに従い,「テロ等準備罪」を新設する必要があることをご理解ください。

Q 国際組織犯罪防止条約、これはテロ対策とは無関係でしょう。だいたい何年に締結された条約ですか。
A 平成12年です。

Q 西暦2000年ですね。2001年の9・11事件の前年のことじゃないですか。テロが国際的な関心事になる前の条約ですよ。この条約はパレルモという都市で締結されて、パレルモ条約とも呼ばれているわけですが、パレルモとは、イタリア、シチリア島の最大都市でマフィアの本拠地といわれているところ。マフィアやヤクザ、そういう組織犯罪を対象にした条約ではありませんか。経済的なマネーロンダリングを防止することを主たる目的とした条約であって、政治的なテロを対象にした条約ではないことをお認めいただきたい。
A あなたは、よく勉強なさっているようですが、組織的な犯罪に対する対応は、経済的なマネーロンダリング防止だけではなく、この際、今や待ったなしのテロ対策を盛りこんだ方がよいに決まっていると考えています。

Q 新たな刑罰法規を作ろうというのですから、差し迫った必要性がなくてはならないわけです。我が国に、テロが差し迫っているというのでしようか。日本がテロの脅威にさらされているという具体的な根拠をお示しください。
A 世界中で、不安定な地域がたくさんあります。これだけ安全保障体制が揺らいでおるわけでありまして、先進諸国、たとえばアメリカでの9・11事件、イギリス・ロンドンでの連続爆破テロ、フランス・パリでの出版社襲撃事件などが起こっているわけです。
日本だけが、これらの事件に目を背けていていいのでしょうか。自由と民主主義・人権という共通の価値を守るために、憎むべきテロリストとの戦いに、日本だけが安穏としていることはできないのです。

Q 世界の情勢を聞いているのではありません。立法事実として、つまり、新たな法律を作らなければならない根拠として、日本にテロの具体的な危険があるかとお聞きしています。
A それはいろいろな考え方がありえます。日本人が、イラクやシリアで誘拐され、殺害される事件も起こっている。

Q 日本でのテロが差し迫っている状況にあるのかと聞いています。
A 我々は、テロの脅威から、国民を守るべき責務を負っております。常に備えなければならないのです。オリンピックも迫っております。安全なオリンピックを開催するためにも、どうしてもテロ等準備罪は必要なのです。

Q 日本にテロが迫っていると、あなたですら言えないような状態で、どうして包括的な共謀罪が必要と言えるでしょうか。
国連のテロ防止関連条約は13件あり、日本はすべてその批准を終え、それに対応した国内法の整備もできているではありませんか。たとえば、「テロリズム資金供与防止条約」「プラスチック爆薬探知条約」「核物質の防護に関する条約」「空港不法行為防止議定書」「海洋航行不法行為防止条約」「プラスチック爆薬探知条約」「爆弾テロ防止条約」などなど。テロ対策の法整備はきちんとされており、共謀罪法案が成立しなければテロ対策がされていない訳ではありません。
どうして、屋上屋を重ねるような、「共謀罪」の新設が必要でしょうか。
A 政府といたしましては、国民をテロから守る責務を負うものです。何重に屋を重ねても、念には念を入れて、国民の安全を守る法律を作ろうとしているわけでございます。

Q 問題は、不必要な法律というだけのものではなく、国民の人権を侵害する有害な法律であるということなのです。この共謀罪法案、もし成立してしまったら、犯罪の実行とは無関係に、ただ話し合っただけで処罰されてしまうのではありませんか。
A そういう印象操作はやめていただきたい。絶対にそんなことは、ないのであります。先ほど読み上げた条文に書いてあったとおり、まずは、組織的犯罪集団の団体の活動でなければ、処罰されることはありません。しかも、共謀が成立しただけ、つまり計画しただけでは犯罪が成立しないことは、法文上明らかであります。「準備行為」が必要なのです。一般の方が話しているだけで犯罪者になるなど、絶対にあり得ません。

Q では「組織的犯罪集団」から、お伺いします。労働組合や、市民団体が組織的犯罪集団に当たることはないのでしょうか。
A 組織的犯罪集団だけしか、対象とならないことは、明文で規定しております。
適法な活動をしている労働組合や、その他の団体は、その目的が犯罪はないのですから、当然対象とはなりません。繰り返しますが、この法律はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団を取り締まるのが目的で、一般の方には無関係なのです。

Q 更にお尋ねします。既に存在する適法な団体の目的が、ある時点から犯罪目的に変化したと認定することはあり得ないのですか。
A 一般論としてお答えすると、この法律は組織的犯罪集団の組織的行為だけを処罰対象とし、一般人は対象とならないことは申しあげたとおりです。しかし、もしこれまでは合法的な活動をしていた団体が、ある時点から犯罪を企む集団となったとすれば、すでにその集団の構成員は一般人ではないのです。適法な団体の目的が、ある時点から犯罪目的に変化することがないとは言えません。

Q おや、大変な答弁が出た。つまり、「この法律が罰するのは、一般国民ではない」という意味は、「この法律が罰するときには、既に一般人ではないからだ」と、こういうことではありませんか。これでは、何の縛りにもならないではありませんか。
A あなたの解釈は、あまりに一方的で偏っているのではないでしょうか。重大犯罪を目的とする団体に、それと知って属しているということは、一般国民の目から見て、一般人とは呼べないことは通常の感覚ではないですか。

Q 企業でも、市民団体・労働組合、サークルでも、適法な通常の団体が、ある時点から犯罪目的だと認定されることはありうるのだから、国民誰でも、共謀罪の犯罪者になり得るということじゃないですか。
A 重大な犯罪を計画している団体に属して、具体的な重大犯罪を計画していたらできるだけ早期に、摘発せられるべきは当然ではありませんか。

Q ついに、国民の誰もが共謀罪適用の対象になりうることが分かりました。しかも、犯罪目的があるかどうか、計画があるかどうか、捜査段階では、判断するのは、裁判所ではなく、捜査機関。つまりは警察になるわけです。その結果、警察が、国民生活に監視の目を光らせ、あらゆる団体が犯罪目的をもっていないかを調べる。これは、まさに現在の治安維持法ではないか。
A 全くそうではございません。
治安維持法は、私有財産制を否定し、国体を変革しようとするという、思想そのもの、つまり、犯罪とは切り離して、特定思想を有する団体を結成すること、加入することを処罰する法律でございます。
今回の、テロ等準備罪は、思想のみを処罰するのものではありません。準備行為という外に表れた具体的行為の存在を要求しています。

Q いったい、その準備行為とは、どのようなものだというのですか。
A 先ほど、分かり易い条文を朗読したなかに書いてあったじゃありませんか。もう一度その部分だけを読見上げて見ましょう。
「資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」というものです。

Q 「資金又は物品の手配」と言えば、ATMから現金を下ろすこと、コンビニで買い物をすること、日常の行為じゃないですか。「関係場所の下見」と言えば、散歩も花見も含まれる。これじゃ誰もがつかまるじゃないですか。

A だから、一般人か、怪しい奴か、常日頃から警察が監視しておけばよいのですよ。監視を徹底させておきさえすれば、きのこ狩りでも、双眼鏡をもって花見をしても、一般人は安心なのです。怪しいやつだけをつかまえるのです。

Q 結局は怪しいか怪しくないかは、捜査機関が判断する。政府に批判的な活動をしていると、犯罪を行っているとして、捜査の対象とされかねない。しかも、計画と準備で犯罪が成立するのだから、団体監視を常に行うことが主たる捜査方法になることは明白ではありませんか。団体に対する警察の監視、団体内部でも密告を恐れて活動が萎縮する。これこそ治安維持法そのものではないですか。
A あなたは、少し感情的になっておられる。お答えしたとおり、一般人が処罰されることはないのです。
治安維持法だって、一般人は処罰されることはなかったわけですよ。天皇制を否定したり、社会革命をたくらむような、当時の国賊・非国民を取り締まったわけで、けっして善良な一般人が取り締まりの対象となったわけではないのです。

Q 具体例でお伺いしましょう。
労働組合が、団体交渉での使用者側の姿勢が不誠実だ、のらりくらりの回答でいっこうに進展しない。もう我慢できない。みんなで社長をカンヅメにしててつやの交渉をやろうと相談をした。徹夜になりかねないから、おにぎりを買っておこうとコンビニで買い物をした。つまり、物品の手配です。
277の対象犯罪の一つに、組織的監禁罪がはいっています。すると、おにぎり購入の時点で、共謀罪が成立し、その後交渉は急転妥結して徹夜交渉にはならなかった。それでも犯罪は成立するということになりませんか。
A 乱暴な組合員たちですね。日常的な監視が必要だとは思いますが、共謀罪で処罰できるかどうか、「テロ等準備罪」として処罰可能かどうか、なんともお答えのしようがない。

Q つまり、犯罪が成立しうるから検討が必要だということですね。
A それはそのとおり。犯罪が成立するか否かは、常に微妙な事実の問題を含んで諸般の事情をよく調べなければなりません。

Q 諸般の事情をよく調べるとは、つまり、とりあえず逮捕や家宅捜査をしなければならないと言うことではありませんか。
A それは、そのとおりであることもあれば、そうではないこともある。一概には申しあげられないところです。

Q 結局、共謀罪は成立しうる、少なくとも、絶対に共謀罪が成立しないわけではないということを確認しました。
共謀罪は、国民の自由な団体活動のみならず、表現の大幅な萎縮を生み出し、思想・信条の自由を侵害する、違憲なものであることが明白になりました。けっして成立させるわけにはいきません。
戦前の悪名高い治安維持法で大弾圧を受けたのは、共産党だけではありせん。出版人も、労働組合員も、平和運動も、教育運動も、宗教家もでした。
私たちは、日本国の主権者として、絶対にこのような弾圧法規の成立を許しせん。あくまで、この法案の廃案を求める国民運動の先頭に立つ覚悟を述べて、締めくくりの言葉とさせていただきます。会場の皆様のうちで、共謀罪の廃案にご賛同いただける方には拍手を
A お答えのまえに、一言申しあげます。
今、あなたのご質問に「共謀罪法案」という法案名が出てきました。しかし、「共謀罪法案」ではございません。正確には「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」でありまして、これを提案者である内閣は「テロ等準備罪法案」と略称しているわけででございます。
法律の名称は、正確におっしゃっていただきたい。あなた方は、すぐにレッテルを貼りたがるが、これまで3度廃案となった「共謀罪法案」と今回提案の「テロ等準備罪法案」とはまったく違うものであることを最初に申しあげておきます。

Q えっ? では、これまで3度廃案となった「共謀罪」と、今回提案の内閣が「テロ等準備罪法案」という法案が、どう違うのか。そこから、ご説明をいただきましょうか。
A まず、分かり易いところでは、テロ等準備罪の対象となる犯罪の数が違います。
共謀罪法案では、実行行為への着手がなくても共謀の段階で処罰される犯罪の数は、676もあったのです。今回は、これをわずか91本の法律の、たった277罪に絞り込んだのです。どうです。676を277ですよ。全然違うでしょう。

Q 数の違いは大したことではありません。これこそ現代版「五十歩百歩」というべきでしょう。刑法や憲法の大原則を崩していることが問題なのではありませんか。
A いや、もちろん数だけというわけではありません。何が犯罪で、何が犯罪ではないかかが大変明瞭になったのです。
ご存じのとおり、「共謀罪」という罪を新たにつくろうということではありません。277の今ある罪を、「共謀」の段階でつかまえようと言うことです。具体的には、今ある組織的犯罪処罰法という法律に、6条の2という、分かり易い条文を新設することにしました。どんなに分かり易いか、その新設条文を読み上げてみましょう。

「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮」

どうです。分かり易いでしょう。あとは、別表四と、別表三に書いてある277の罪のリストを探し、条文をよく読めばよいのです。しかも、捜査機関が濫用しないよう、厳格にいくつもの縛りがかけられていることがよくお分かりでしょう。

Q よくお分かりでしようと言われても、ちっとも、分からない。
「人を殺す」「人を傷つける」「財物を窃取(せっしゅ)する」という条文の記載なら、分かり易い。この共謀罪はことさらに分かりにくく作られているではありせんか。こんな条文がどう使われるのか、不安でなりません。
本筋に戻って、いったいなぜ、いま4度目の法案提出となったのかその理由をお聞かせください。

A これは、国際組織犯罪防止条約の批准のために必要な法案であると考えております。
この法案が成立すれば、条約の批准ができます。そうすることで、効果的に国際的な組織犯罪を防止し,テロをも防止することができます。
この条約は平成15年9月に発効しています。この条約については,同年5月にその締結について国会の承認を得ておりますが、我が国としても,早期に批准することが必要です。我が国も,国際社会の一員として,この条約を早期に批准し,国際社会と協力して,一層効果的に国際的な組織犯罪を防止するため,この条約が義務付けるところに従い,「テロ等準備罪」を新設する必要があることをご理解ください。

Q 国際組織犯罪防止条約、これはテロ対策とは無関係でしょう。だいたい何年に締結された条約ですか。
A 平成12年です。

Q 西暦2000年ですね。2001年の9・11事件の前年のことじゃないですか。テロが国際的な関心事になる前の条約ですよ。この条約はパレルモという都市で締結されて、パレルモ条約とも呼ばれているわけですが、パレルモとは、イタリア、シチリア島の最大都市でマフィアの本拠地といわれているところ。マフィアやヤクザ、そういう組織犯罪を対象にした条約ではありませんか。経済的なマネーロンダリングを防止することを主たる目的とした条約であって、政治的なテロを対象にした条約ではないことをお認めいただきたい。
A あなたは、よく勉強なさっているようですが、組織的な犯罪に対する対応は、経済的なマネーロンダリング防止だけではなく、この際、今や待ったなしのテロ対策を盛りこんだ方がよいに決まっていると考えています。

Q 新たな刑罰法規を作ろうというのですから、差し迫った必要性がなくてはならないわけです。我が国に、テロが差し迫っているというのでしようか。日本がテロの脅威にさらされているという具体的な根拠をお示しください。
A 世界中で、不安定な地域がたくさんあります。これだけ安全保障体制が揺らいでおるわけでありまして、先進諸国、たとえばアメリカでの9・11事件、イギリス・ロンドンでの連続爆破テロ、フランス・パリでの出版社襲撃事件などが起こっているわけです。
日本だけが、これらの事件に目を背けていていいのでしょうか。自由と民主主義・人権という共通の価値を守るために、憎むべきテロリストとの戦いに、日本だけが安穏としていることはできないのです。

Q 世界の情勢を聞いているのではありません。立法事実として、つまり、新たな法律を作らなければならない根拠として、日本にテロの具体的な危険があるかとお聞きしています。
A それはいろいろな考え方がありえます。日本人が、イラクやシリアで誘拐され、殺害される事件も起こっている。

Q 日本でのテロが差し迫っている状況にあるのかと聞いています。
A 我々は、テロの脅威から、国民を守るべき責務を負っております。常に備えなければならないのです。オリンピックも迫っております。安全なオリンピックを開催するためにも、どうしてもテロ等準備罪は必要なのです。

Q 日本にテロが迫っていると、あなたですら言えないような状態で、どうして包括的な共謀罪が必要と言えるでしょうか。
国連のテロ防止関連条約は13件あり、日本はすべてその批准を終え、それに対応した国内法の整備もできているではありませんか。たとえば、「テロリズム資金供与防止条約」「プラスチック爆薬探知条約」「核物質の防護に関する条約」「空港不法行為防止議定書」「海洋航行不法行為防止条約」「プラスチック爆薬探知条約」「爆弾テロ防止条約」などなど。テロ対策の法整備はきちんとされており、共謀罪法案が成立しなければテロ対策がされていない訳ではありません。
どうして、屋上屋を重ねるような、「共謀罪」の新設が必要でしょうか。
A 政府といたしましては、国民をテロから守る責務を負うものです。何重に屋を重ねても、念には念を入れて、国民の安全を守る法律を作ろうとしているわけでございます。

Q 問題は、不必要な法律というだけのものではなく、国民の人権を侵害する有害な法律であるということなのです。この共謀罪法案、もし成立してしまったら、犯罪の実行とは無関係に、ただ話し合っただけで処罰されてしまうのではありませんか。
A そういう印象操作はやめていただきたい。絶対にそんなことは、ないのであります。先ほど読み上げた条文に書いてあったとおり、まずは、組織的犯罪集団の団体の活動でなければ、処罰されることはありません。しかも、共謀が成立しただけ、つまり計画しただけでは犯罪が成立しないことは、法文上明らかであります。「準備行為」が必要なのです。一般の方が話しているだけで犯罪者になるなど、絶対にあり得ません。

Q では「組織的犯罪集団」から、お伺いします。労働組合や、市民団体が組織的犯罪集団に当たることはないのでしょうか。
A 組織的犯罪集団だけしか、対象とならないことは、明文で規定しております。
適法な活動をしている労働組合や、その他の団体は、その目的が犯罪はないのですから、当然対象とはなりません。繰り返しますが、この法律はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団を取り締まるのが目的で、一般の方には無関係なのです。

Q 更にお尋ねします。既に存在する適法な団体の目的が、ある時点から犯罪目的に変化したと認定することはあり得ないのですか。
A 一般論としてお答えすると、この法律は組織的犯罪集団の組織的行為だけを処罰対象とし、一般人は対象とならないことは申しあげたとおりです。しかし、もしこれまでは合法的な活動をしていた団体が、ある時点から犯罪を企む集団となったとすれば、すでにその集団の構成員は一般人ではないのです。適法な団体の目的が、ある時点から犯罪目的に変化することがないとは言えません。

Q おや、大変な答弁が出た。つまり、「この法律が罰するのは、一般国民ではない」という意味は、「この法律が罰するときには、既に一般人ではないからだ」と、こういうことではありませんか。これでは、何の縛りにもならないではありませんか。
A あなたの解釈は、あまりに一方的で偏っているのではないでしょうか。重大犯罪を目的とする団体に、それと知って属しているということは、一般国民の目から見て、一般人とは呼べないことは通常の感覚ではないですか。

Q 企業でも、市民団体・労働組合、サークルでも、適法な通常の団体が、ある時点から犯罪目的だと認定されることはありうるのだから、国民誰でも、共謀罪の犯罪者になり得るということじゃないですか。
A 重大な犯罪を計画している団体に属して、具体的な重大犯罪を計画していたらできるだけ早期に、摘発せられるべきは当然ではありませんか。

Q ついに、国民の誰もが共謀罪適用の対象になりうることが分かりました。しかも、犯罪目的があるかどうか、計画があるかどうか、捜査段階では、判断するのは、裁判所ではなく、捜査機関。つまりは警察になるわけです。その結果、警察が、国民生活に監視の目を光らせ、あらゆる団体が犯罪目的をもっていないかを調べる。これは、まさに現在の治安維持法ではないか。
A 全くそうではございません。
治安維持法は、私有財産制を否定し、国体を変革しようとするという、思想そのもの、つまり、犯罪とは切り離して、特定思想を有する団体を結成すること、加入することを処罰する法律でございます。
今回の、テロ等準備罪は、思想のみを処罰するのものではありません。準備行為という外に表れた具体的行為の存在を要求しています。

Q いったい、その準備行為とは、どのようなものだというのですか。
A 先ほど、分かり易い条文を朗読したなかに書いてあったじゃありませんか。もう一度その部分だけを読見上げて見ましょう。
「資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」というものです。

Q 「資金又は物品の手配」と言えば、ATMから現金を下ろすこと、コンビニで買い物をすること、日常の行為じゃないですか。「関係場所の下見」と言えば、散歩も花見も含まれる。これじゃ誰もがつかまるじゃないですか。

A だから、一般人か、怪しい奴か、常日頃から警察が監視しておけばよいのですよ。監視を徹底させておきさえすれば、きのこ狩りでも、双眼鏡をもって花見をしても、一般人は安心なのです。怪しいやつだけをつかまえるのです。

Q 結局は怪しいか怪しくないかは、捜査機関が判断する。政府に批判的な活動をしていると、犯罪を行っているとして、捜査の対象とされかねない。しかも、計画と準備で犯罪が成立するのだから、団体監視を常に行うことが主たる捜査方法になることは明白ではありませんか。団体に対する警察の監視、団体内部でも密告を恐れて活動が萎縮する。これこそ治安維持法そのものではないですか。
A あなたは、少し感情的になっておられる。お答えしたとおり、一般人が処罰されることはないのです。
治安維持法だって、一般人は処罰されることはなかったわけですよ。天皇制を否定したり、社会革命をたくらむような、当時の国賊・非国民を取り締まったわけで、けっして善良な一般人が取り締まりの対象となったわけではないのです。

Q 具体例でお伺いしましょう。
労働組合が、団体交渉での使用者側の姿勢が不誠実だ、のらりくらりの回答でいっこうに進展しない。もう我慢できない。みんなで社長をカンヅメにしててつやの交渉をやろうと相談をした。徹夜になりかねないから、おにぎりを買っておこうとコンビニで買い物をした。つまり、物品の手配です。
277の対象犯罪の一つに、組織的監禁罪がはいっています。すると、おにぎり購入の時点で、共謀罪が成立し、その後交渉は急転妥結して徹夜交渉にはならなかった。それでも犯罪は成立するということになりませんか。
A 乱暴な組合員たちですね。日常的な監視が必要だとは思いますが、共謀罪で処罰できるかどうか、「テロ等準備罪」として処罰可能かどうか、なんともお答えのしようがない。

Q つまり、犯罪が成立しうるから検討が必要だということですね。
A それはそのとおり。犯罪が成立するか否かは、常に微妙な事実の問題を含んで諸般の事情をよく調べなければなりません。

Q 諸般の事情をよく調べるとは、つまり、とりあえず逮捕や家宅捜査をしなければならないと言うことではありませんか。
A それは、そのとおりであることもあれば、そうではないこともある。一概には申しあげられないところです。

Q 結局、共謀罪は成立しうる、少なくとも、絶対に共謀罪が成立しないわけではないということを確認しました。
共謀罪は、国民の自由な団体活動のみならず、表現の大幅な萎縮を生み出し、思想・信条の自由を侵害する、違憲なものであることが明白になりました。けっして成立させるわけにはいきません。
戦前の悪名高い治安維持法で大弾圧を受けたのは、共産党だけではありせん。出版人も、労働組合員も、平和運動も、教育運動も、宗教家もでした。
私たちは、日本国の主権者として、絶対にこのような弾圧法規の成立を許しせん。あくまで、この法案の廃案を求める国民運動の先頭に立つ覚悟を述べて、私の質問を終わります。

お願いいたします。

盛大な拍手をありがとうございました。

(2017年5月18日)

 

 

 

 

 

 

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