澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

日中国民感情軋轢の危険を克服するために

日中相互の国民意識についての「共同世論調査」の結果が話題となっている。毎年の調査で今回は9回目だそうだが、昨年まではさしたる話題にならなかった。今回調査結果の話題性は、両国間の国民感情の軋轢が危険水域にまで達していることを如実に物語っている。同時に、この調査結果は、平和を破壊する方法と平和を維持する方法を示唆するものともなっている。

同世論調査は、「言論NPO」と「中国日報社」との日中共同作業として、今年5月から7月にかけて両国で実施されたもの。調査の目的を「日中両国民の相互理解や相互認識の状況やその変化を継続的に把握すること」によって、「両国民の間に存在するコミュニケーションや認識のギャップの解消や相互理解の促進のための対話に貢献すること」という。その意図や良し。

調査結果は、日中両国民とも、相手国に対する印象をこれまでになく悪化させていることを浮き彫りにした。以下、日本側調査主宰者によるコメントを〔〕で紹介する。

〔今回の調査では、日本人と中国人の相手国に対する印象はともに昨年よりも大幅に悪化し、日本人の中国に対する「良くない印象」は90.1%、中国人の日本に対する「良くない印象」は92.8%と、いずれも9割を超え、過去9回の調査で最悪の状況になっている〕
この「いずれも9割を超え」という数値には驚かざるをえない。両国の経済交流も人的交流も確実に拡大している。相互に触れあう機会が増大しながら、相手国に対する印象を急激に悪化させているのだ。国民的規模における好悪の感情は、一方的にではなく相互作用として形成される。いま、その相互作用が悪循環に陥っている。仔細に見ると、中国人の対日感情がより厳しい。

〔日本人の7割近くは中国を「社会主義・共産主義」と理解し、「全体主義(一党独裁)」や「軍国主義」が3割台で続いている。一方、中国人で今年最も多かったのは、現在の日本を「覇権主義」と見る人の48.9%で昨年の35.1%から大幅に増加した。また、「軍国主義」とみる人も昨年(46.2%)よりは減少したものの、41.9%と4割を超えている。日本を「平和主義」の国とみる中国人は6.9%しかいない。〕
我々は、近隣の民衆からどう見られているかについて、鈍感に過ぎるのではないだろうか。「平和憲法をもち、軍事大国とはほど遠い穏やかな日本」とのイメージはまことに希薄。中国から見た日本は、「覇権主義・軍国主義国」であって、「平和主義国家」ではない。これは、深刻な事態ではないか。

〔日本人の半数程度は、中国人を「勤勉だが、頑固で利己的、非協調的で信用できない」などと見ている。中国人の7割は、日本人は「好戦的で信用できず、利己的」と見ており、半数以上が「怠慢で、頑固で不正直で非協調的」と思っている。両国民ともに相手国への印象の悪化に伴い、国民性に対する評価を全面的に悪化させている。〕
これも、深刻な調査結果。お互いが人格的な悪罵の交換にまで至っている。戦争を起こすには、相手国とその国民への憎悪が必要だ。根拠のない悪印象・侮蔑が憎悪にまでいたって、その温度が紛争に着火する。頑固・利己的・非協調的・信用できない・好戦的・怠慢・不正直…どれも何の根拠もない決め付け。精一杯の悪意だけが飛び交っている。危険な兆候と言わざるをえない。

〔日本人は半数が、「日本と中国の間で軍事紛争は起こらないと思う」と見ているが、中国人の半数以上は日中間で軍事紛争がいずれ起きると思っている。〕
詳しく見ると、中国世論では、「数年内に軍事紛争が起こると思う」が17.4%、「将来的には起こると思う」が35.3%。これも、衝撃的な数値である。対して、日本世論は、「数年内に軍事紛争が起こると思う」が2.4%、「将来的には起こると思う」が21.3%。中国ほどではないが、この数値も危険を警告するものと言えよう。到底無視しえない。

問題の焦点である日中関係悪化の原因については次のとおりとされている。
〔日本人が中国に「良くない印象」を持つ最も大きな理由は「尖閣諸島を巡り対立が続いているから」で5割を超え、昨年よりも増加している。その他、「歴史問題などで日本を批判する」、「資源エネルギー、食料の確保などでの中国の自己中心的な行動」などが半数近くで続いている。中国人は「日本が魚釣島、周辺諸島の領土紛争を引き起こし、強硬な態度を取っている」が77.6%で最も多い。「中国を侵略した歴史をきちんと謝罪・反省していない」も63.8%で6割を超えており、昨年(39.9%)を大きく上回っている。〕
日中両国民が考える日中関係の最大の懸念材料は「領土問題」である。が、これだけではない。非常に興味深いのは、共同調査が「懸念材料」とした16項目についての重要度が、日中両国国民でみごとに整合していることである。領土問題に次いでは、「中国の反日教育」対「日本の歴史認識歴史教育」、「中国のナショナリズムや反日感情」対「日本のナショナリズムや反中感情」、「中国メディアの反日報道」対「日本メディアの反中報道」、「中国の政治家の反日感情を煽る言動」対「日本の政治家の反中感情を煽る言動」がそれぞれ対応している。

どちらの国民も、相手側が不当な加害者で自国が被害者と思い込んでいる。相手国側が先制的で攻撃的であり、自国側は防御的な態度と考え、ともに被害感情が大きい。関係悪化の原因は、すべて相手国側にあると考えてもいる。さらに注目すべきは、自国民のみが信頼できる正確な情報に接しており、相手国の国民は不正確な情報に操られている、と考えている。

おそらくは、このあたりに平和の維持と崩壊の分岐がある。平和を築くためには国民間相互の信頼関係が必要だ。信頼関係の形成には、相手の言い分に耳を傾ける姿勢が必要である。我々も、尖閣問題についての日本側の言い分は、耳にタコができるほど聞かされてきたが、中国側の言い分を生で聞く機会には恵まれない。しかし、中国側に言い分がないはずはない。中国のメディアの日本報道の内容についても良くは知らない。立場を代えてみれば、おそらくは中国の民衆も同じことだろう。日本のことを十分には知らないはずだ。

このままでは、相手国の言動の片言隻句をとらえて、軍事的な防衛行動をとらざるを得ないとし、その悪循環から一触即発の事態を迎えかねない。愚かなこととではないか。

まずは、相互に相手の置かれた状況をよく知ること。相手の言い分を理解すること。相手の説明や弁明に耳を傾けること。相手を尊重するところから、相互理解と相互の信頼が生まれ、友好関係を築くことができる。近隣諸国との友好関係を抜きにして日本の未来はない。おそらくは、中国にもそれがあてはまるのだと思う。
(2013年8月5日)

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Published in 火曜日, 8月 6th, 2013, at 01:02, and filed under 未分類.

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