平然とウソ ー これがアベ流印象操作
一昨日(5月25日)の緊急宣言解除首相記者会見。アベ晋三の自己弁護・自己宣伝に終始した白々しさだけが印象に残る不快なものだった。
その中での、記者との以下の遣り取りに注目したい。具体的な回答を求める記者の質問に、(1) まともに答えない、(2) 抽象的な言葉の羅列ではぐらかす、というアベ回答の常套手段がよく現れている。なお、引用は官邸のホームページから。
(記者)東京新聞、中日新聞の後藤です。
政府の緊急事態宣言が出されているさなかの賭けマージャンで辞職した黒川前東京高検検事長の問題についてお伺いします。
捜査機関や政府に対する信頼を大きく損なう重大な事案であるにもかかわらず、国民から処分が甘いという批判が相次いでおります。総理は先ほど、批判は真摯に受け止めるという発言がありましたが、そうした厳しい国民感情を踏まえても、今回の訓告の処分が適当で、満額で6,000万円とも言われる退職金がそのまま支払われることに何ら問題はないと考えているのでしょうか。
また、法務省は、国家公務員法に基づく懲戒が相当と判断していましたが、官邸が懲戒にはしないと結論づけたというような報道もありますが、処分の前にどのような協議が官邸となされていたのか、その点についても詳しくお聞かせください。
記者の質問は次の2点である。
(1) 6,000万円もの退職金を(満額)支払うことに問題はないと考えているのか。
(2) 処分の前に、(官邸と法務省との間で)どのような協議がなされていたのか。
敷衍するなら、(1)は、「これだけの問題を起こした黒川に、6,000万円もの退職金を(満額)支払う」ことについて、「アベさんよ、国民感情に鑑みて、あなたはそれでよいと考えているのか」という糾問である。回答は、「イエス」か「ノー」。あるいは「当然」、「やむを得ない」などを想定している。
(2) は、黒川処分の経過について、官邸の言ってることとは食い違う報道もあるから確認したい。官邸と法務省との間で、処分の前にどのような協議がなされたのか、詳しく聞かせていただきたい、というもの。こちらは、いわゆる「開かれた質問」。具体的な経緯についての詳細な説明が求められている。
これに対するアベ答弁はどうであったか。まず、端的に答えねばならない(1)をスルーして、(2)について答えようと、何かをしゃべっている。以下のとおり。
(安倍総理)
黒川氏の処分については、先週21日に法務省から検事総長に対し、調査結果に基づき訓告が相当と考える旨を伝え、検事総長においても訓告が相当であると判断をして、処分したものと承知をしています。
私自身は、森法務大臣から、事実関係の調査結果を踏まえて処分を行ったこと、その上で、黒川氏本人より辞意の表明があったので、これを認めることとしたいとの報告がありまして、法務省の対応を了承したものであります。もちろん、対応を了承しておりますので、この処分について総理大臣として、行政府の長として、責任を持っているところでございます。
国民の御批判に対しては、これも真摯に受け止めなければならないと、この上は、法務省、検察庁において信頼を回復するために全力を尽くさなければならないと、私も全力を尽くしていきたいと思っています。
アベ晋三、「処分の前に、(官邸と法務省との間で)どのような協議がなされていたのか」と聞かれて、「処分の前に協議などなかった」とは言わない。言えないのだ。記者だけでなく、国民の多くが、「官邸と法務省との間で摺り合わせがあり、協議が調ったから、《検事総長において訓告とし、内閣に報告をした》と形を整えた、と考えている。記者の質問は、そんな分かりきったことを聞いていない。聞きたいのは形が整えられる以前の経過だ。それが、「処分の前にどのような協議がなされていたのか詳しく聞きたい」という問になっている。
これに対してみごとなまでの「ゼロ回答」である。国民を舐めているとしか、言いようがない。確かに、何かをしゃべってはいるのだが、聞かれたことにはけっして答えない。全ては、摺り合わせができた後の話ばかり。これは、無能の極みか、高等戦術なのだろうか。いずれにしても、こんなことを聞かされれば、大いに苛立つしかない。
「再質問禁止ルール」での、形ばかりの記者会見だったが、質問をスルーされて、さすがに記者が食い下がった。
(記者)退職金については、そのまま支払われることは問題ないでしょうか。
(安倍総理)退職金については、訓告処分に従って減額されているというふうに承知をしています。
これは、「高額な退職金が減額なくそのまま支払われることを、国民感情に照らして問題ないと考えているのか」という、重ねての質問。これに対する、アベの「訓告処分に従って減額されているというふうに承知をしています」は、噛み合わない変な答弁。噛み合わせようという意識があれば、「訓告処分に従って○○○万円も減額されていますから、国民も納得してくださるものと考えています」としなければならない。
ところが、アベはそうは言えないのだ。訓告は国家公務員法にもとづく不利益処分ではなく、《公務員の非違に対する上司の指導監督措置》に過ぎない。法的根拠を要せず、法的効果ももたないとされる。だから訓告には、行政手続法に定める事前の聴聞手続きも不要で、法的な救済手続も用意されていない。そもそも不利益性がないとされているからだ。
従って、「訓告処分に従って退職金減額」はありえない。それでも、あるかのごとく平然と言ってのけるのが、アベの常套手法。印象操作を得意とするアベのアベたる所以なのだ。
この点について、昨日(5月26日)の衆院法務委員会で、森雅子法相は、「自己都合退職」となるため定年退職の場合より約800万円減額されていると説明した。何のことはない、「自己都合の退職だから」「定年まで勤務して退職する場合に比較すれば、」「約800万円減額」になる、というのだ。訓告だから減額ではない。
アベ晋三が言った「訓告処分に従って退職金減額」は嘘なのだ。「減額」という言葉が意図的に使われている。訓告を受けたことは、退職金の額にまったく影響はしていない。だから訓告「処分」という言葉の使い方もおかしい。本来から言えば、黒川は2月7日定年退職だったはず、その時点での退職金から、金額を具体的に示せないが、かなりの金額を「増額されている」はずなのだ。
メディアは、慎重に「首相と法相の発言が食い違いを見せた」というが、「食い違い」ではない。法相の答弁のとおり、「(訓告の場合は)処分自体で支給額は影響を受けない」のだから、アベの印象操作は、明らかな嘘である。
なお、常習賭博の黒川を懲戒処分としなかったことは、どんな事前の協議があったにせよ、あるいはなかったにせよ、懲戒処分権者である内閣の責任である。これは免れようがない。にもかかわらず、その内閣の長の地位にあって、明らかな嘘をつき、軽い訓告で済ませたことを法務大臣・検事総長の責任と転嫁する印象操作を重ねるみっともない人物。そんな人物を、われわれは長年にわたって行政のトップに据えてきたということなのだ。
(2020年5月27日)