小池都知事よ、関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への嫌がらせをやめよ
小池百合子・小池都政にガマンがならない理由のひとつに、その頑なな歴史修正主義の姿勢がある。浜矩子が言うとおり、「安倍政治と小池政治は全く瓜二つ」である。かつての日本が近隣諸国の民衆に何をしてきたかについて、真摯な認識の意欲をもっていない。口先だけはダイバーシティ(多様性)を標榜しながら、民族的少数者への配慮はない。ヘイトスピーチをこととする人物や集団を拒絶する潔癖さがない。
その象徴的な出来事が、「9.1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」への対応である。1973年の第1回追悼式典以来、歴代の都知事が追悼文を送ってきた。人間としての心あれば、当然の行為というべきだろう。あの、右翼・石原慎太郎でさえも欠かしたことがない。にもかかわらず、小池百合子はこの追悼文の送付を辞めた。極右の都議会議員・古賀俊昭の議会での質問に呼応してのことである。
そればかりではなく、今年は、式典の主催者に不当な誓約書の提出を求めるに至っている。この誓約書の提出なければ、会場の使用許可をしないというのだ。これまで式典が荒れたことも、問題を起こしたこともないのに、である。歴史的な事実の重み、これまでの追悼式の経緯、誓約書の内容と効果などに鑑みれば、小池知事の追悼式典への不当な嫌がらせとしか考えられない。
以下は、5月18日付の「追悼式典実行委員会」声明、そして、本日(5月28日)付「自由法曹団東京支部」声明である。ぜひ、お読みいただきたい。
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声 明
2020年5月18日
9.1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会
実行委員長 宮 川 泰 彦
記
9.1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会(以下、当実行委)は、東京都立横網町公園内に建立されている朝鮮人犠牲者追悼碑前で、毎年9月1日、関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典を執り行っている。
横網町公園は、1930年に関東大震災の犠牲者を追悼することを目的として開園した「慰霊の公園」である。朝鮮人犠牲者追悼碑も、こうした公園の趣旨に合致するものとして、関東大震災50年を迎えた1973年(昭和48年)に当時の都議会全会派の幹事長も参加する建立実行委員会によって建立され、都に寄贈されたものである。
当実行委は、碑が建立された1973年以降、毎年、都との事前打ち合わせを踏まえ使用許可を得て、厳粛且つ平穏に追悼式典を執り行ってきた。式典には、小池都知事が取り止めるまでは歴代の都知事から追悼文が送付され、近年では総理大臣経験者やソウル市長、宗教者や学者などからもメッセージが寄せられるようになった。また昨年(2019年)は700人が参列するなど、虐殺犠牲者を悼み、二度と繰り返すまいと誓う場として、広く認められるようになっている。
そして、この追悼式典が、公園管理に関わる大きな問題を指摘されるようなことは、これまでなかった。
ところが昨年9月以降、東京都は、2020年の追悼式典使用許可申請に対して、使用許可条件について整備中だとして、当実行委の申請受理を3回にわたり拒否し、12月24日には、「横網町公園において9月1日に集会を開催する場合の占有許可条件について」(以下、「条件」)と題する文書を当実行委に示してきた。
それによると、毎年9月1日の横網町公園では、「関東大震災に関連した追悼行事等の集会に関する占有許可申請が複数」あり、昨年は「集会参加者によるトラブルが発生」したため、公園利用者の安全のために条件を付すこととしたという。「複数」とあるように、「条件」は、9月1日に横網町公園で式典や集会を行うすべての団体に向けられたものである。
「条件」の具体的な内容は、「公園管理上支障となる行為は行わない」「(都の大法要と重なる時間は)拡声音量装置は使用しない」「(集会で使う拡声器は)当該参加者に聞こえるための必要最小限の音量とすること」などである。
問題なのは、東京都が、これを遵守する旨の都知事宛ての誓約書を提出することを求めていることである。しかも、この誓約書には「下記事項が遵守されないことにより公園管理者が集会の中止等、公園管理上の必要な措置を指示した場合は、その指示に従います。また、公園管理者の指示に従わなかったことにより、次年度以降、公園地の占用が許可されない場合があることに異存ありません」とある。
こうした内容の誓約を求めることは、本来自由・自主である集会運営を萎縮させる恐れがある。そもそも一般通念上、誓約書を書かせるというのは非常に重い要求である。まして、式典を中止させられたり不許可にされたりしても「異存ありません」との誓約を求めるのは、よほどのことである。ところが当実行委は、都が示したような「公園管理上支障となる行為」等を行ったことはないのである。
当実行委は、今年2月、「条件」が示す一つ一つの内容について、朝鮮人犠牲者追悼式典がそれに反する行いをしたことはあるかと文書で質した。すると、都は、そのすべてについて「今回設けた条件に概ね合致している」として、「今後も、概ね昨年同様の式典を開催いただけると考えております」と、文書で回答した。追悼式典のあり方には従来のままで基本的に問題がないというのである。だとすればなおさら、当実行委に誓約書の提出を求める必要性も合理的理由も見当たらない。なぜ当実行委が、このような誓約を、都知事に対して行わなければならないのか。
都の要請の背景には、2017年より、朝鮮人犠牲者追悼式典と「同日同時刻」にあえてぶつけるかたちで、同じ横網町公園内で行われている、右翼団体「そよ風」主催の「真実の関東大震災石原町犠牲者慰霊祭」と称する集会がある。毎日新聞動画ニュースサイトが「追悼の場に『ヘイトスピーチ』 9月1日、朝鮮人犠牲者追悼式典」と伝えたように、この集会では、「不逞朝鮮人」が「震災に乗じて略奪、暴行、強姦」を行い、「日本人が虐殺されたのが真相」だなどと演説し、さらに拡声器を故意に朝鮮人犠牲者追悼式典の方向に向け、それを大音量で流すといった、まさに「トラブル」を引き起こしている。
東京都が示した「条件」の内容は、東京都自らが文書で回答したとおり、追悼式典については全く問題にならないものだが、一方、「そよ風」の行動についてはその多くが当てはまる。この「条件」は、「そよ風」主催の集会を念頭に置いたものだと理解できなくもない。
しかし、だとすればなぜ「そよ風」に対して個別に問題行動について注意するのではなく、何の瑕疵もない当実行委とセットにして、双方に誓約書を書くことを求めるのか。
なぜ、震災時の虐殺犠牲者を「不逞朝鮮人」と貶めることを目的として現にトラブルを惹起している集会と、震災時の朝鮮人虐殺犠牲者を厳粛に追悼してきた式典を同列に扱い、集会を中止させられたり不許可にされたりしても「異存ありません」などと誓わせるのか。「慰霊の公園」という横網町公園の趣旨に照らして、都の意図に対する疑念は膨らむばかりである。
当実行委は、今後も毎年、関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典を厳粛に執り行っていく。東京都に対しては、2020年9月1日関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典開催に関する当実行委の占有許可申請を直ちに受理すること、および、当実行委に対する前記誓約書要請を撤回し昨年までと同様の占有許可を速やかに行うことを、強く求めるものである。
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9・1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典の開催につき不当な誓約書の提出を条件とすることを撤回し、占有許可を求める声明
自由法曹団東京支部は、自由法曹団(1921年創立、憲法と人権、平和と民主主義の問題にたずさわる弁護士が約2000名以上加入し、全都道府県で活動している団体)の東京支部として、都内の約460名の弁護士が結集している団体で基本的人権の擁護、平和・民主主義の発展を目指し、諸活動に取り組んでいます。
9.1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会が毎年9月1日に開催している関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典につき占有許可の条件として提示した誓約書の提出要求を撤回するよう求めます。
趣 旨
東京都は9.1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典の開催場所である東京都立横網町公園の占有許可申請に対して実行委員会に提示している占有許可の条件(「公園管理上支障となる行為は行わない」「(都の大法要と重なる時間は)拡声音量装置は占有しない」「(集会で使う拡声器は)当該参加者に聞こえるための必要最小限の音量とする」、「遵守されないことにより公園管理者が集会の中止等、公園管理上の必要な措置を指示した場合は、その指示に従います。また、公園管理者の指示に従わなかったことにより、次年度以降、公園地の占用が許可されない場合があることに異存ありません」との内容の不当な誓約書の提出を占有許可の条件とすることを撤回し、同委員会へ直ちに占有許可してください。
理 由
本追悼式典は、関東大震災時に殺害された朝鮮人犠牲者を追悼するものであり、虐殺犠牲者を悼み、二度と繰り返すまいと誓うものです。朝鮮人が武装蜂起や放火をするといったデマで、自警団や軍隊、警察による殺傷事件が起き、中央防災会議の報告書は、朝鮮人らの犠牲者数は約十万五千人であり、震災死者の「1?数%」と指摘しています。こうした悲劇を踏まえ、横網町公園に1973年、朝鮮人犠牲者追悼碑が建立され、40年以上追悼式が行われてきました。式典は毎年厳粛に静かに執り行われており、管理上の支障や混乱が生じたことは全くありません。
今回の都による異例の条件付与は、朝鮮人虐殺を否定する団体が2017年から追悼式と同時間帯に「慰霊祭」を開くようになったことがその要因であると考えられます。都は誓約書の提出を要求する理由として、2019年追悼式典の会場付近でトラブルが生じたことを挙げていますが、「不逞朝鮮人」などの言葉で犠牲者を貶め、静謐であるべき追悼の場を妨害する者の言動は、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例に定める不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)に該当することが明らかであり、このような団体と本追悼式典との双方に混乱の原因があるかのようにいう行政の対応は、本追悼式典を妨害する団体を不当に利するものというほかありません。
小池百合子都知事は、歴代の都知事が行ってきた式典への追悼文の送付を取りやめ、また、追悼碑にある犠牲者数などについてはさまざまな意見があると述べて明白な虐殺についても諸説あるかのような極めて消極的な姿勢を示しています。関東大震災の朝鮮人虐殺が事実であることは明白であるにもかかわらず、「虐殺否定論」に利する態度をとることは、悲劇を繰り返すまいと積み重ねてきた東京の追悼の歴史が、壊されてしまいかねないものと憂慮します。
自由法曹団東京支部は、東京都に対し、2020年9月1日関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典開催に関する主催団体の占有許可申請を直ちに受理すること、主催団体に提示した誓約書要請を撤回し昨年までと同様の占有許可を速やかに行うことを強く求めます。
2020年5月28日
自由法曹団東京支部
支部長 黒岩哲彦
(2020年5月28日)