澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

不見識きわまれり、弁護士会広報紙にアパホテルの提灯記事。

(2020年7月5日)
昨日(7月4日)のこと、東京弁護士会から会報「リブラ」が届いた。それに、6ページの「関弁連だより」が同封されている。これを見て驚いた。巻頭を飾っている記事が、どうみても「アパホテルの宣伝」なのだ。百歩譲っても「アパホテル提灯インタビュー」だ。右翼・改憲派として名高い、あのアパホテルである。南京虐殺はなかったと言って憚らない歴史修正主義のあのアパホテル。人権擁護を使命とする弁護士会が取りあげる代物ではない。

関弁連ホームページに、「従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。」とある。その第1回の企画が、よりにもよって、アパホテルなのだ。不見識にもほどがある。

怒り心頭だが、関弁連とは何か。アパホテルとは何か。そして、何故アパホテルの提灯記事が、「関弁連だより」にふさわしくないのか、順を追って語らねばならない。

弁護士会は弁護士法にもとづく公法人であり、全弁護士が会員となる強制加入団体である。どの国家機関からも統制を受けることのない自治組織であることを特徴とし、個別の弁護士は、その業務の遂行に関しては弁護士会からのみ指導監督を受け、最高裁からも官邸からも法務省からも容喙されることはない。全国に、52の単位弁護士会があり、これを統括する日本弁護士連合会(日弁連)がある。

弁護士法にもとづく単位会と日弁連との間に、公法人ではない「中2階」の組織がある。通例「弁連」というようだが、全国8高裁の管轄内単位弁護士会の連合体である。

その8弁連のうち最大の規模をもつのが、「関東弁護士会連合会、略称「関弁連」である。東京高等裁判所管内13弁護士会によって構成されている。分かりにくいが、東京の三弁護士会(東京・第一東京・第二東京)と、神奈川県・埼玉・千葉県・茨城県・栃木県・群馬・山梨県・長野県・新潟県・静岡県の各弁護士会の連合組織。「関弁連に所属する弁護士の数は約2万人で,日本の弁護士の約60%が関弁連に属しています」という。

その歴とした弁護士団体広報紙のトップ記事、しかも新企画「関弁連がゆく」の第1回がアパホテルなのだ。いったい「関弁連はどこへ」ゆこうというのだ。

「たより」のトップに大きな顔写真、アパホテル創業者夫婦の次男で専務だという人物。冒頭に、「アパホテルと言えば,アパ社長こと元谷芙美子社長の笑顔のポスターで皆様にもお馴染みのことと思いますが,今回は,元谷芙美子社長のご子息であり,アパホテルで専務を務めていらっしゃる元谷拓さんに,アパホテルの色々をうかがってまいりました。」という、歯の浮くようなおべんちゃら。

2ページにわたるこのインタビュー記事には、人権も平等も、排外主義も歴史修正主義も、そして右翼政治家支持問題も改憲も、まったく出て来ない。要するに、アパホテルが問題企業とされてきた論点を全て素通りして、気恥ずかしいヨイショの質問に終始しているのだ。これは、弁護士会の品位に関わる。弁護士会の恥といっても過言ではない。この「たより」は、弁護士会の広報紙ではないか。アパホテルや右翼の宣伝チラシではない。

社会がアパホテルの存在を知ったのは、田母神俊雄の名と同時であったと言ってよい。2008年アパホテルは第1回「真の近現代史観」懸賞論文を募集、その大賞を獲得したのが当時現役の航空幕僚長・田母神であった。この件で田母神俊雄は更迭されてその地位を失うことになる。なお、この大賞は、「最優秀藤誠志賞」と名付けられていた。藤誠志とは、アパホテルの創業者元谷外志雄のペンネームである。

「真の近現代史観」というのが元谷外志雄の持論なのだ。通説の歴史は全て嘘だ。あれは、自虐史観でありGHQ史観だ。「日本は西洋列強が侵略して植民地化していたアジアの植民地軍と戦い、宗主国を追い払った植民地解放の戦いを行った。にもかかわらず、東京裁判において、日本が侵略国家であり、中国国民党政府軍が謀略戦としてつくった捏造の歴史によって南京大虐殺を引き起こした悪い国だと決めつけられた」という類の、典型的な歴史修正主義。

2017年1月、アパグループは客室に置いた歴史修正主義書籍『本当の日本の歴史 理論近現代史』で名を上げる。元谷外志雄が書いた、旧日本軍の南京事件を否定する内容。「いわゆる南京虐殺事件がでっち上げであり、存在しなかったことは明らか」というもの。この英語版を読んだ海外客の発信が大きな反響を呼び、国内外からの批判が殺到して、国際問題にまで発展したことが話題となった。

それだけではなく、元谷は「我が国が自虐史観から脱却し、誇れる国『日本』を再興するため…」として、「勝兵塾」を開設し、右翼人脈の改憲派政治家を支援している。稲田朋美やや下村博文など、安倍人脈の政治家が多く挙げられている。

もちろん、人の思想・信条は自由である。陰謀論も歴史学の定説批判も、他人に押し付けない限りは自由である。しかし、人権擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士会がその提灯を持ってはならない。日本国憲法とその理念の擁護から大きくはずれた企業を推薦し支援するような行為があってはならない。アパホテルのような問題企業の宣伝を買って出るような不見識があってはならない。

コロナ禍の時節、格差社会の底辺の人に手を差し伸べている献身的な活動を行っている優れた人々がいるではないか。強者による人権侵害に臍を噛んでいる人々が数多くいるではないか。不当な差別に悔しい思いをしている人も、あちこちにいる。弁護士会が寄り添うべきは、まずそのような人々であろう。断じて、アパホテルではないのだ。

弁護士も、弁護士会も、その社会的使命を忘れてはならない。

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