澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

成熟した市民社会は、オリンピックを道具としたナショナリズム発揚を受け容れない。

(2021年7月15日)
 東京五輪開会まであと10日。本日の東京のコロナ新規感染者数は1308名。小池百合子は、疫病神バッハとおしゃべりなどする暇があったら、感染対策に奔走しなければならない。コロナ禍を押してまで、やろうと言う恐るべきオリンピックとはいったい何なのか。

 一昨日(7月13日)発表の東京五輪に関する国際世論調査が、各紙に紹介されている。朝日は、「東京五輪「反対」28カ国で57% 米仏など世論調査」という見出し。共同通信は、「五輪開催反対57%、日本78% 28カ国世論調査」だ。「色褪せた東京五輪」「中止すべき東京五輪」というのは、開催国日本での印象だけではない。世界中が同意見なのだ。それだけでない。この調査、細部を見るとなかなかに興味深い。オリンピックの性格を読むこともできそうだ。

 この世論調査は、グローバル・マーケティング・リサーチ会社IPSOS(本社・パリ)が行ったもの。国際的な世論調査も仕事の内だという。13日、米国やフランスなど28カ国を対象にした、今夏の東京五輪についての世論調査結果を明らかにした。28カ国の計1万9510人が回答したという規模の大きなオンライン調査だが、実施日は5月21日?6月4日だというからやや古い。最新の意識調査ではないのは惜しい。

 東京五輪に関心があるかとの質問には「まったくない」(29%)、「それほどない」(25%)の合計が、「ややある」(30%)、「とてもある」(16%)の合計を上回った。五輪への関心が高かった上位3カ国はインド(70%)、南アフリカ(59%)、中国(57%)で、ベルギー(28%)、韓国(30%)、日本(32%)が下位3カ国だった。

 2022年に北京冬季五輪を控える中国は57%が「関心がある」と回答した一方、24年パリ夏季五輪を開催するフランスは、68%が「関心がない」と答えている。

 この中仏の対比は興味深い。直接的にはフランスと中国との、国民意識の多様性の差だが、多様性は成熟度と言い換えても大きくはな間違ってないと思う。最大人口国家中国は、国民意識の均質化ないし統合化が顕著なのだ。伝統的国民性というものではあるまい。国民意識統合操作が成功している結果と見るべきだろう。

 東京五輪開催の是非については、28カ国の平均で「開催すべき」と答えた人は43%、「開催すべきでない」と答えた人は57%。反対の市民は、韓国(86%)、日本(78%)、カナダ(68%)で多かった。米国は48%が反対だった。東京五輪開催の支持率が高いのは、トルコ(71%)、サウジアラビア(66%)、ロシア(61%)、ポーランド(60%)。開催国である日本での「開催すべき」が22%、「開催すべきでない」が78%は、ほぼ実感の通り。

 注目すべきは、中国の東京五輪賛成派は41%にとどまり、59%が反対であること。つまり、「オリンピックに関心はあるが、東京五輪開催には反対」というのが、中国人の意見の代表なのだ。

 オリンピック選手に優先的に新型コロナウイルスのワクチン接種を行うべきだという意見に同意か否かを問う質問がある。これに、平均71%が賛成している。賛成多数の国を並べると、中国(92%)、サウジアラビア(89%)、インド(88%)、トルコ(87%)となり、ドイツ(50%)、イギリス(52%)、ベルギー(54%)、オランダ(56%)の順で低い結果となっている。

 また、オリンピックは「国を団結させる」という意見への同意の有無を聞いている。厳密には、客観的認識についての質問か、賛同の意見を聞いているのか分かりにくいが、全体の65%がこれに同意している。

 国によって回答のばらつきは大きく、賛同上位国は、中国(92%)、インド(84%)が突出している。日本が賛同36%で、ドイツ(37%)とともに最下位であることは、現在のコロナかでの五輪当事国としてオリンピックのバカバカしさに直面しているという事情があるとは言え、誇って良いことだと思う。

 確かに、オリンピックには各国の国民統合作用がある。権力にとって、オリンピックに感激し、自国の国旗を打ち振る国民は、御しやすさにおいて大歓迎なのだ。オリンピックこそは、ナショナリズム発揚の最高の舞台である。

 しかし、東京2020は、はからずもコロナ禍によってその神話崩壊の第一歩となったのではないか。成熟した市民は、オリンピックごときに精神の動員を受け付けないのだ。そして思う。2022北京冬季五輪が、この神話復活の舞台となることはないだろうか。

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