澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

安易な弁護士懲戒請求は、損害賠償請求の対象となり得る。

この国は、いまだにヘイトスピーチ天国なのか。臆面もない民族差別の横行を恥ずかしいとも、腹ただしいとも思う。

「懲戒請求:弁護士会に4万件超」「『朝鮮学校無償化』に反発」「インターネットに文書のひな型掲載」という見出しの記事が報道されている。

朝鮮学校への高校授業料無償化の適用、補助金交付などを求める声明を出した全国の弁護士会に対し、弁護士会長らの懲戒を請求する文書が殺到していることが分かった。毎日新聞の取材では、少なくとも全国の10弁護士会で計約4万8000件を確認。インターネットを通じて文書のひな型が拡散し、大量請求につながったとみられる。

各地の弁護士によると、請求は今年6月以降に一斉に届いた。現時点で、
▽東京約1万1000件
▽山口約6000件
▽新潟約6000件
▽愛知約5600件
▽京都約5000件
▽岐阜約4900件
▽茨城約4000件
▽和歌山約3600件--などに達している。

請求書では、当時の弁護士会長らを懲戒対象者とし、「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、活動を推進するのは犯罪行為」などと主張している。様式はほぼ同じで、不特定多数の賛同者がネット上のホームページに掲載されたひな型を複製し、各弁護士会に送られた可能性が高い。

請求書に記された「声明」は、2010年に民主党政権が高校無償化を導入した際に各弁護士会が朝鮮学校を含めるよう求めた声明や、自民党政権下の16年に国が都道府県に通知を出して補助金縮小の動きを招いたことに対し、通知撤回や補助金交付を求めた声明を指すとみられる。 (以下略)

弁護士に対する批判を遠慮する必要はない。しかし、この懲戒請求は、弁護士懲戒に名を借りた朝鮮学校に対する悪罵であり民族差別である。少数者の側、弱者の側の人権を擁護すべき弁護士の使命に対する不当な攻撃でもある。

この、特定弁護士や弁護士の特定業務への大量懲戒請求呼びかけ戦術は、2007年に橋下徹が始めたものだ。殺人事件被告の弁護団への懲戒請求をテレビで呼び掛け、同年中に約8000件の請求が届いたという。橋下を被告とする民事訴訟は、最高裁が2011年に「表現行為の一環に過ぎず、不法行為に当たらない」として終了した。一方、別の訴訟で最高裁は07年に「懲戒請求の乱用が不法行為になり得る」ことを明言している。

私は、DHCスラップ訴訟の被告となって、この種の事案に敏感となっている。スラップ訴訟は民事訴訟制度を濫用して表現の自由を侵すものだが、同じことは刑事告訴でもできるし、弁護士に対しては懲戒請求という戦術で達成できる。DHCスラップ訴訟弁護団で、この3者が違法となる要件について比較検討したことがある。

この点については、私は何か言わねばならないと思っていたところ、先を越された。親しい弁護士から、こんなメールをいただいた。抜粋して紹介させていただく。

「問題は、弁護士懲戒制度が自分の気に入らない意見や立場を攻撃する手段として濫用させることが一般化しつつあることです。この風潮を止めないと、制度そのものが破壊され、弁護士自治が揺らぎかねません。さらに、本件で標的となっている朝鮮学校支援のような類の問題に関わりを持つ弁護士の行動に制約がかかったり、弁護士会がこの種の問題に関わることを躊躇させる危険もはらんでいます。

このような事案について、ありがちな態度は『馬鹿は相手にしない』という大人の対応です。しかし、そのような『大人の対応』がこれまでどれほど排外主義や反知性主義を増長させてきたでしょうか?私は、そのような『大人の態度』は断固拒絶し、強く批判したいと思います。」

「被害者である各弁護士に訴えたいのですが、このような濫用的懲戒については、毅然とした対応をしましょう。具体的には、民事の不法行為を根拠とした損害賠償請求がもっとも有効だと思われます。これについては、最高裁平成19年4月24日第三小法廷判決(民集61巻3号1102頁)が明確な基準を示していますから、決然と行うべきです。」

なんと素晴らしい毅然たる姿勢。そう、弁護士は逃げてはならないのだ。不当な攻撃とは精一杯闘わなければならない。それが、弁護士が享受する自由に伴う責任というものだ。

同弁護士が引用する、懲戒濫用に対抗の武器となる最高裁判例の一部。
「…懲戒請求を受けた弁護士は、根拠のない請求により名誉、信用等を不当に侵害されるおそれがあり、また、その弁明を余儀なくされる負担を負うことになる。そして、同項が、請求者に対し恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定でないことは明らかであるから、同項に基づく請求をする者は、懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように、対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査、検討をすべき義務を負うものというべきである。そうすると、同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」

つまり、「通常人としての普通の注意を払うことなく」軽々に弁護士懲戒請求をすれば、不法行為として損害賠償請求されることを覚悟しなければならないのだ。

当然のことながら、懲戒請求は請求者の住所氏名を明記しなければ、受け付けられない。うかうか、扇動に乗せられると、ある日、裁判所から損害賠償請求の訴状が届くことになりかねない。
よく考えるべきなのだ。
(2017年10月12日)

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Published in 金曜日, 10月 13th, 2017, at 00:00, and filed under ヘイトスピーチ, 弁護士.

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