澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

あらめでたやな ― 吉田博徳さんの『日本と朝鮮の2000年』出版記念と白寿を祝う会

本日(1月17日)は、小平で「吉田博徳さんの出版記念と白寿を祝う会」に出席した。吉田さんは、1921年6月23日のお生まれ。今年(2010年)の誕生日で満99歳となる。少し早めだが、仲間が集まっての白寿を祝う会である。しかも、99歳にして単著の上梓である。重ねての目出度さ。

長寿と健康は、人皆が等しく望むところ。喜寿も米寿も目出度いが、親しい人の白寿のお祝いは、なかなかあるものではない。盛会の末席にあるだけで、慶賀のお裾分けという気分。

吉田さんは、1921年大分県で生まれ、6歳のとき一家で朝鮮(全羅北道金堤邑)に移住している。地元の金提尋常高等小学校を経て京城師範学校を卒業、1941年長安国民学校教師となった。世が世であれば教師だったはずが、翌年招集されて都城に入隊。次いで、ノモンハン事件直後の満州ハイラルに配属となる。そして1945年大分陸軍少年飛行兵学校で終戦を迎えた。

戦後福岡地方裁判所に就職し、労働運動に身を入れる。全司法労働組合中央執行委員として専従活動家となった。全司法労働組合中央本部書記長から,伝説の闘争を担った委員長となる。その後、日朝協会、原水禁、平和委員会で活躍。小平市長選挙にも立候補している。私とは、日民協でのお付き合い。

その多忙な活動の人生で、齢をとることを忘れてしまったのだろう。とても90代の人とは思えない。姿勢も、足取りも、発声もしっかりしたもの。お話しの論理に破綻がない。矍鑠という言葉はこの人にためにつくられたとさえ思わせる。高齢となってもこうでありたい、というお手本のような人。一部では「怪物」ともささやかれている。

今日の吉田さんは、挨拶に立って朝鮮語の歌を唱った。10歳の頃に朝鮮で覚えた、少年と少女の,春の喜びの歌だという。伸びやかで、実に楽しそうな唱いぶりだった。

その人が、昨年、地元小平で2回の連続講座「日本と朝鮮の2000年」を実施し、この連続講座の原稿を出版した。吉田さんは、「われわれは日本史の中で、近現代史をキチンと学んでいない」「日本の学校教育は、日本が朝鮮に何をしてきたかを教えていない」「日朝関係の歴史は、近現代だけでなく、古代からの通史として学び直す必要がある」という。その言を実践したのが、本日(2010年1月17日)発行の「日本と朝鮮の2000年ー日本と朝鮮の歴史を正しく知ろう」である。中学生にも分かるように、との注文で執筆されたという。著者の息遣いが、聞こえてくるような書となっている。

発行は,小平の「学びあい支えあう会」。本文300頁で、頒価は1300円だが、郵送料込みだと1500円となる。
以下、この書物の広告から引用する。

…日本と朝鮮の歴史は学校教育のなかで正しく教えられていません。
…朝鮮は日本に最も近い国ですし、最も長い交流の歴史をもっている外国なのですから、日本と朝鮮の歴史を知ることは、日本人と朝鮮人との真の友好関係を築き、北東アジアの平和と安定のために不可欠なことです。

 少年期、青年期を現地で学び教師として働いた経験を持つ白寿の著者が、労働運動、市民住民運動、平和運動を通じて得た、日朝の真の友好とは何かを提示する。中学生にもよくもわかる「講演」の記録。

申込先 「学びあい支えあう会」
奥 泉 二士夫 090-3806-8440
穂 積 健 児 090-3572-8445
川 村 征 治 090-8589-2660
小 嶋 弘 遵 090-3045-3735

吉田さん、次は何歳のお祝いをしましょうか。

(2020年1月17日)

なぜ、今、安倍晋三告発罪名が背任なのか。

一昨日(1月14日)、学者グループ13名が、代理人弁護士51名を立てて、安倍晋三を東京地検特捜部に告発した。告発罪名は背任罪(刑法247条)。私も告発代理人の一人として,地検に赴き告発状を提出した。
告発状全文は、下記URLを開いてご覧いただきたい。
http://article9.jp/wordpress/?p=14139

昨日(1月15日)、国会で桜疑惑追及の中心メンバーの一人、宮本徹議員から私の事務所に電話での問合せがあって、澤藤大河弁護士が応接した。

問合せの趣旨は、告発罪名が公職選挙法違反や政治資金規正法違反ではなく、なぜ背任だったのか、ということ。さらには、「法律家グループは、公職選挙法違反や政治資金規正法違反では告発は困難と考えているのか」と疑念あってのことのようだ。なるほど、これまでメディアで発信された見解からは、そのような誤解もありえようか。

改めて、なぜ今桜疑惑で背任告発か。飽くまで現時点での私見だが、整理をしておきたい。

1 ことの本質は、安倍晋三の国民に対する裏切りにある。この国民からの信頼を裏切る行為を法的に表現すれば、背任にほかならない。桜疑惑を犯罪として捉えようとすれば、内閣総理大臣が国民から付託された任務に違背する行為として、背任罪が最も適切なのだ。
森友事件・加計学園事件に続く桜疑惑である。なぜ、国民がこれほどに怒っているのか。それは、内閣総理大臣たる者の国政私物化である。国政私物化とは、国民が信頼してこの人物に権力を預け、国民全体の利益のために適切に行使してくれるものと信頼して権限を与えたにも拘わらず、その人物が国民からの信頼を裏切って私益のために権限を悪用したということである。この国民から付託された信頼を裏切る行為を本質とする犯罪が、背任罪である。背任罪告発は、ことの本質を捉え、国民の怒りの根源を問う告発であると考えられる。

2 にもかかわらず、これまで安倍晋三の背任を意識した議論が少ない。この告発によって、まずは大きく世論にインパクトを与え、世論を動かしたい。単に、「安倍晋三は怪しからん」というだけの漠然とした世論を、「安倍晋三は国民の信頼を裏切った」「これは背任罪に当たる」「背任罪で処罰すべきだ」という具体的な要求の形をもった世論とすることで、政権忖度で及び腰の検察にも本腰を入れさせることが可能となる。検察審査会の議決の勝負になったときには、この世論のありかたが決定的にものをいうことになる。

3 国民の怒りは、国政私物化の安倍晋三に向いている。安倍本人を直撃する告発が本筋であろう。
公職選挙法違反・政治資金規正法違反・公用文書毀棄等々の告発の場合、主犯はそれぞれの事務の担当者とならざるを得ない。報告書の作成者、会計事務責任者、当該文書の作成者等々。そこから、安倍晋三本人の罪責にまで行き着くのが一苦労であり、さらに調査を重ねなければならない。
しかし、背任罪なら、安倍晋三の責任が明らかというべきなのだ。何しろ、「桜を見る会」の主催者であり、内閣府の長として予算執行の責任者でもある。そして、何の功績もなく大量に招待させたり、あるいは招待もなく会に参加させた安倍晋三後援会の主宰者でもあるのだ。両者の立場を兼ねていればこそ、国民に対する信頼を裏切って行政を私物化し国費を私的な利益に流用することができたのだ。

4 しかも、安倍晋三に対する背任告発は、報道された事実だけで完結している。基本的に告発状に記載したもの以上の未解明の事実が必要というわけではない。このことは、野党の責任追及に支障となることがないことを意味している。国会で、安倍晋三やその取り巻きに、「告発されていますから、そのことのお答えは差し控えさせていただきます」という答弁拒否の口実を与えることはありえない。

5 背任罪は、身分犯であり、目的犯であり、財産犯でもある。信任関係違背だけでは犯罪成立とはならない。身分と目的を充足していることには、ほぼ問題がない。
財産犯であるから、被告発人安倍が国に幾らの損害を与えているかが問題となる。これを予算超過額とした。合計、1億5200万円である。
厳密には、招待すべからざる参加者に対する飲食費の特定が必要なのかも知れない。しかし、それは告発者に不可能を強いることになる。参加者名簿を破棄しておいて、資料の不存在を奇貨とする言い逃れは許されない。

このことに関して、昨年(2019年)5月13日の衆議院決算行政監視委員会議事録に、次のような、宮本徹議員の質問と、政府参考人(内閣府大臣官房長)の回答がある。

宮本委員 予算を積んでいる額は、今のお話では、二〇一三年は一千七百十八万円、二〇一四年以降ことしまで一千七百六十六万円。支出を聞いたら、三千万円、それから三千八百万、四千六百万、四千七百万、五千二百万と。ことしはもっとふえていると思います。
  予算よりも支出が多いじゃないですか。これはどこからお金が出てきているんですか。

井野靖久政府参考人(内閣府大臣官房長) お答えいたします。
  桜を見る会につきましては、準備、設営に最低限必要となる経費を前提に予算を計上しているところでございます。
  他方、実際の開催に当たりましては、その時々の情勢を踏まえまして必要な支出を行っておりまして、例えば、金属探知機の設置等のテロ対策強化でありますとか、参加者数に応じた飲食物提供業務経費などがございまして、結果的に予算額を上回る経費がかかっております。
  このように、支出額が予算額を上回った分につきましては、内閣府本府の一般共通経費を活用することにより経費を確保しているところでございます。

宮本委員 情勢によってとかいって招待客をどんどんどんどんふやして、予算にもないようなお金をどこかから流用して使っているという話じゃないですか。とんでもない話じゃないですか。しかも、招待客の基準が全く不透明なんですよね。
  安倍政権を応援している「虎ノ門ニュース」というネット番組があるそうです。レギュラー出演している方がブログに書いておりますが、いつも招待をもらっていたが、ことしは例年と異なり、ネット番組「虎ノ門ニュース」の出演者全員でというお招きだったので、虎ノ門ファミリーの皆さんとともに参加しましたと書いてあります。
  こうやって政権に近い人をどんどんどんどん呼んで参加人数が膨らんで、予算にもないような支出がどんどんどんどんふえているという話じゃないですか。
  こういう支出のふやし方というのは、官房長官、国民の理解は決して得られないんじゃないですか。

菅国務大臣 桜を見る会については、準備、設営に最低限必要と考えられる経費を前提に予算を計上しているところであり、来年度以降についても、これまでの計算上の考え方、実際の支出状況などを踏まえつつ対応していくことになるだろうというふうに思います。
  また、この桜を見る会は、昭和二十七年以来、内閣総理大臣が各界において功績、功労のあった方々を招き、日ごろの御苦労を慰労するとともに、親しく懇談される内閣の公的行事として開催をしているものであり、必要な経費については予算から先ほど言われましたように支出しているということであります。

宮本委員 功労、功績といいますけれども、「虎ノ門ニュース」の皆さんがどういう功績があったのかわからないですけれども、安倍内閣になってから、それまで一万人前後であったのが一万八千二百人にふえているわけですよ、参加者が。
  功労を上げた人が急にふえた、政府の基準からいって、そういうことですか。

○海江田委員長 答弁は。(宮本委員「官房長官です」と呼ぶ)
菅官房長官、指名していますから。もう時間がありません。時間が過ぎておりますので、手短に。

○菅国務大臣 いずれにしても、各府省からの意見を踏まえて、幅広く招待をさせていただいているということであります。

○海江田委員長 もう時間が過ぎていますから、手短に。

宮本委員 こういうやり方は、国民の納得は絶対に得られないですよ。

つまり、最低限必要となる見込みの経費を前提に予算を計上し、支出額が予算額を上回った分については、「一般共通経費」で補填しているという。問題は明らかだ。予算で最低限必要なことはできるのだ。「桜を見る会開催要領」に従って、招待者1万人枠を遵守していれば、「一般共通経費」の「活用」は不要なのだ。最初から「一般共通経費」の「活用」を前提として予算を組むことなどありえないのだから。

国会が承認した予算を漫然と超過することは許されない。どのような事情で、何に、幾らかかったかの特定と、根拠となる証票がなければ、「一般共通経費」からの支出が許されるはずはない。

被告発人安倍晋三が遵守しなけばならないのは、「桜を見る会開催要領」と予算である。日本とは、内閣総理大臣自らが法を守る姿勢をもたない情けない国なのだ。まずはこの人物の背任罪の責任を徹底して追及しよう。

(2020年1月16日)

DHCスラップ「反撃」訴訟・附帯控訴状 ― 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第169弾

DHCスラップ「反撃」訴訟控訴審第1回口頭弁論は、1月27日(月)午前11時~ 511号法廷でおこなわれる。ことは、表現の自由にも、政治とカネの問題にも、消費者の利益にも関わる。是非、多くの方に傍聴いただきたい。

昨年(2019年)10月4日、東京地裁民事第1部で一審の勝訴判決を得た。この判決は、DHC・吉田嘉明が私(澤藤)を訴えたスラップは違法であると明確に断じた。だから、認容の金額(110万円)にかかわらず、勝利感の強い判決で、当方から積極的に控訴する気持にはならなかった。

ところが、被告側DHC・吉田嘉明が控訴し、私は被控訴人となった。控訴審に付き合いを余儀なくされる立場に立つと、660万円の請求に対する110万円の認容額の少なさに不満が募る。そこで、昨日(1月14日)、弁護団の議を経て、弁護団長の光前さんから附帯控訴状を提出してもらった。その抜粋を掲載する。

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附 帯 控 訴 状(抜粋)

2020年(令和2年)1月14日

東京高等裁判所第5民事部 御中

附帯控訴人(被控訴人、第1審原告) 澤 藤 統一郎
附帯被控訴人訴訟代理人弁護士    光 前 幸 一 外

附帯被控訴人(控訴人、第1審被告) 吉 田 嘉 明
附帯被控訴人(控訴人、第1審被告) 株式会社ディーエイチシー
代表者代表取締役          吉 田 嘉 明

損害賠償請求附帯控訴事件
訴訟物の価額    550万円
貼用印紙額   4万8000円

被控訴人(附帯控訴人)は、上記当事者間の東京高等裁判所令和1年(ネ)第4710号損害賠償請求控訴事件に附帯して、同控訴事件の第1審である東京地方裁判所平成29年(ワ)第38149号損害賠償請求反訴事件について2019年(令和1年)10月4日に言い渡された判決に対して控訴を提起する。

第1 附帯控訴の趣旨
1 原判決中附帯控訴人敗訴部分を取り消す。
2 附帯被控訴人らは、附帯控訴人に対し、連帯して660万円及びこれに対する2014年(平成26年)8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも附帯被控訴人らの負担とする。
4 仮執行宣言

第2 附帯控訴の理由
1 原判決に対する附帯控訴人の不服
(1) 原判決は、附帯被控訴人両名による前件訴訟等(東京地方裁判所平成26年(ワ)第9408号事件、およびその控訴事件ならびに上告受理申立事件)の提起を附帯控訴人に対する違法な行為と認め、不法行為の成立を認定した。
従って原判決は、本来当該違法行為から生じた被害者(附帯控訴人)の全損害の賠償を加害者(附帯被控訴人)に命じなければならないところ、そうなっていない。財産的損害をまったく認めなかった点において、そのような体裁さえとっていないものと指摘せざるを得ない。
(2) 差額説に立つ限り、不法行為に因果関係を有する積極消極の全損害の金銭賠償によって、不法行為被害者の経済状態が不法行為以前に回復されなければならない。しかし、原判決は、その視点を欠き、附帯被控訴人(原審被告)の有責を認めながら、被害者(附帯控訴人)が打撃を受けた経済状態を回復しようとの観念がない。
原判決には、誠実に被害者の財産的・精神的損害の内容や深刻さに思いを致すところはなく、損害を金額に見積もる際の慎重さも欠いて、名目的あるいは象徴的な損害賠償額を命じる判決をもって足りるとしている。この原審裁判所の姿勢は、その点において明らかに誤っており、原判決の損害に関する判断は是正されなければならない。
(3) さらに、不法行為損害賠償制度の理念には、同種違法行為の再発予防の効果と機能を期待する側面がある。同種の違法行為の再発を予防するためには、相応の金額の賠償を命じる判決が必要である。
附帯被控訴人吉田嘉明は自らの経済力を誇示する人物であって、いわゆるスラップ訴訟の常習者でもある。経済力とスラップ訴訟常習とは無関係ではない。通常の金銭感覚をもつ者にとっては、弁護士費用や民事訴訟費用法に定められた手数料(以下、「貼用印紙」)などの費用負担が障壁となって、勝訴の見込みが薄い提訴には軽々に踏み切ることができない。経済的強者であって、かつ勝訴を目的とせず被告となる者に多大な負担を与える目的をもつ者のみが、いたずらに高額請求の提訴に及ぶことになる。これがスラップ訴訟であり、前件訴訟はまさしくその典型にほかならない。
前件訴訟の訴額は金銭請求部分だけで6000万円であった。その標準的な弁護士費用は、現在なお弁護士界で標準的な規準とされている「(旧)日弁連報酬等基準」によって算定されるべきであり、附帯被控訴人もこの規準に従って弁護士費用を負担したものと推認することに合理性がある。
附帯被控訴人らは、勝訴の見込みのない事件の提訴を訴訟代理人弁護士に依頼したのであるから、弁護士費用としては着手金の支払いだけが負担になるところ、同基準によれば、各審級ごとに必要な着手金額は、249万円である。結局、その3倍である747万円が前件訴訟において附帯被控訴人らが負担した弁護士費用である。確実な反証のない限り、そのように推認すべきである。
また、前件訴訟の訴状に貼付すべき印紙額は、6000万円の損害賠償請求部分に限っても20万円を要し、控訴状には30万円、上告受理申立書には40万円が必要となる。附帯被控訴人らは、少なくとも合計90万円の印紙貼付費用を負担した。
以上のとおり、弁護士費用と貼用印紙とを併せて計837万円となる。附帯被控訴人らはこの支出を負担と感じることなく、勝訴の見込みのない前件訴訟の提訴に及んだものである。
原判決が請求を認容した110万円は、この附帯被控訴人らの実費負担金額に比してまことに過小というほかはない。837万円の費用負担に110万を上乗せしても947万円である。見方によっては947万円の出捐を覚悟しさえすれば、同様のスラップ訴訟の提起を繰り返すことが可能ということなのである。同種事件を10件も提起した附帯被控訴人らにとって、自分を批判する言論を封じるための費用として、さしたる負担ではない。結局、附帯被控訴人らには、この程度の認容金額では到底同種違法行為再発の予防効果を期待することができないことになる。
この点からも、原判決の損害賠償認容額はまことに不十分で、再考を要するものと言わねばならない。

2 原審における損害額の主張(略)
(4) 以上の損害合計金額の内金として、660万円の賠償を請求する。

3 損害額についての原判決の認定
以上の請求に関する原判決の判断は以下のとおりである。
(1) 原告は、前件訴訟に係る弁護士費用500万円を損害として主張する。
しかしながら、原告は、前件訴訟及び本件訴訟を通じて、訴訟追行に関して原告自身が出捐した費用の総額が200万円である旨を供述している(原告本人14頁、15頁)。
当該供述を前提とすると、上記出捐に係る費用には、前件訴訟に係る弁護士費用以外の費用が相当程度含まれるものと推認するほかなく,一方で,原告は、前件訴訟に係る弁護士費用のうち、自らが出損した部分について、他の客観的証拠を提出していない。
以上によれば、前件訴訟の弁護士費用に係る損害の発生を認めるに足りる証拠はないものというほかない。
(2) また、被告らによる前件訴訟の提起等については、原告において、応訴の負担等があったものと認められる反面、以上述べたところに照らせば、敗訴の可能性(多額の損害賠償債務の負担)の観点から、原告の精神的な損害を過大に評価することは困難である。その他、本件に現れた一切の事情を総合すると、原告の精神的損害に対する慰謝料として100万円を認めるのが相当である。
そして、原告が本件を提起せざるを得なかったことについての弁護士費用としては、上記損害額合計100万円の1割に相当する10万円を認めるのが相当である。

4 前件訴訟による財産的損害を認めない原判決の誤り
(1) 以上のとおり、附帯控訴人が主張する損害費目と損害額は次のとおりである。
①前件訴訟応訴のための財産的損害(弁護士費用)少なくとも500万円
②前件訴訟提起による精神的損害(慰謝料)      少なくとも500万円
③本件訴訟提起のための弁護士費用            100万円
④損害合計1100万円の内金660万円の請求
これに対する、原判決の認定は、以下のとおりとなっている。
①前件訴訟応訴のための財産的損害(弁護士費用)   ゼロ
②前件訴訟提起による精神的損害(慰謝料)      100万円
③本件訴訟提起のための弁護士費用        10万円
④合計認容額                 110万円
(2) 以上の3費目の内、前件訴訟提起等による財産的損害(応訴費用)をまったく認めなかった原判決の判断が際だって不当というべきである。
弁護士を依頼して民事訴訟を追行する場合、その費用負担がゼロであることはあり得ない。しかも、原判決は「原告は、前件訴訟及び本件訴訟を通じて、訴訟追行に関して原告自身が出捐した費用の総額が200万円である旨を供述している(原告本人14頁、15頁)。」ことまでは認定している。にもかかわらず、前件訴訟に関しての訴訟追行のための弁護士費用出捐についての特定に欠けるとして、この費目での損害をまったく認めなかった。これは、極めて偏頗な認定というしかない。原告(附帯控訴人)自身が出捐した費用の全額が、違法な被告(附帯被控訴人)らの前件訴訟提起がなければ出捐の必要のない、相当因果関係を有する出捐であることが明らかだからである。
仮に原審裁判所が当該費目の損害額の認定のためには、出捐実額の主張と立証が必要だと考えたとすれば、その旨の釈明を求めるべきであった。あるいは、民事訴訟法248条の活用によって、相当な金額を認定すべきでもあった。このような手続のないまま、不意打ちでのゼロ認定は、民事訴訟におけるあるべき裁判所の姿勢ではない。
(3) 原審での原告(附帯控訴人)の応訴費用の損害額についての主張は、出捐の実額ではなく「通常生ずべき相当額」をもって認定すべきであり、その相当額の認定は「旧弁護士会報酬規程」における「弁護士報酬標準額」によるべきであるとの主張であった。附帯控訴人は、当審においてなお、主位的にはこの主張を維持するものである。
不法行為による損害の有無や金額の認定には、個別性の高いものとして、実損害額の証明を必要とする範疇のものと、損害実額の証明には馴染まず、規範的な相当額を認定すべき範疇のものとがある。
民事訴訟の被告とされた者が訴訟追行のために弁護士を依頼することはごく自然なことであり、その依頼には費用の負担が伴うことも自明である。必然的に生じるこの負担を損害として把握するに際しては、その額は実出捐額ではなく、規範的な相当額として認定すべきものである。
仮に、弁護士費用としての出捐実額が相当額を超えたとしても、その超過分は相当因果関係ある損害とは見なしがたい。また、仮に、実出捐額が相当額に満たないとしても、その偶然的事情を不法行為者の利益とすることは許されない。
また、不法行為制度における違法行為抑止の効果を期待する側面からも、被害者の出捐実額によらない「通常生ずべき相当額」を損害として認定することが求められる。そのことが、いたずらに高額な請求におよぶ不当訴訟の横行を抑止することになるからである。
(4) 原判決も、本件訴訟提起の弁護士費用については10万円を認めているが、これに関して出捐実額の証明を求めてはいない。個別の具体的証明ないまま、「相当の」損害額を10万円として、同額の賠償請求を認容している。
これは、不法行為被害者が、訴訟追行を余儀なくされたことに付随する財産的損害である訴訟追行費用を、出捐の実額を損害とするものではなく、規範的に定まる「通常生ずべき相当額」を損害と把握していることを示している。
本件訴訟の訴訟追行費用をこのように認めながら、前件訴訟の訴訟追行費用をまったく認めなかった原判決の判断には、明らかな矛盾がある。
(5) 前件訴訟における附帯被控訴人ら(前件訴訟・原告ら)の一連の違法行為は、提訴だけでなく、請求の拡張であり、控訴であり、上告受理申立でもある。本来訴訟委任契約は各審級ごとになされ、弁護士費用の負担も各審級ごとになされる。応訴費用の「相当額」は、各審級ごとの着手金と事件終了後の成功報酬となる。附帯控訴人は、依頼した弁護士の努力によって勝訴を得たのであるから、当然に標準的な各審級ごとの着手金と成功報酬を支払わねばならないことになる。旧弁護士会報酬規程から、その標準額を算出すると、
着手金は、249万円×3=747万円
成功報酬は、6000×0.06+138万円=498万円
総計では、1245万円となる。
この訴額を設定したのは、附帯被控訴人ら自身である。それに相応する負担を甘受すべきである。そのようにして始めて、違法行為を抑止し、再発防止を期待することが可能となる。
(6) これまで、違法な提訴による損害賠償を認容した判決例において、応訴費用(弁護士費用)を損害と認定することについて論じたものは極めて少ない。
しかし、最近いわゆるスラップ訴訟が横行する状況下に、応訴費用を違法な提訴の損害として認定する判決が現れている。
その典型判決が、判例時報2354・60に紹介されている、2017年(平成29年)7月19日東京地方裁判所民事第41部判決(平成28年(ワ)第29284号損害賠償請求事件)である。
同誌は、同判決の「判示事項」として、「NHKの受託会社の従業員が放送受信契約締結勧奨のために訪問したことが不法行為に当たるとして提起された別件訴訟につき、権利が事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら、業務を妨害する目的であえて提訴したもので、裁判制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠く不当訴訟であるとして、別件訴訟の原告と提訴を促し訴状の作成に関与した者との共同不法行為責任を認めた事例」と紹介しているが、より注目すべきはその損害の認定である。
同事件においては、原告の請求が「別件訴訟」の応訴費用についてだけのものであり、判決は訴訟追行に必要な弁護士費用として原告(別件訴訟被告)が支払った54万円の全額を、「相当」と認めた。
このNHKを被告とする「別件訴訟」は、訴額10万円に過ぎない。しかも、本人訴訟である。松戸簡裁に提起されて、千葉地裁松戸支部に移送されたのが2015年(平成27年)10月8日。その後NHKが弁護士費用を支払い、翌16年(平成28年)2月19日には判決に至っている。考えうる限り迅速に審理が終了して判決に至った簡易な事案であって、この判決は控訴なく確定している。
引用の東京地裁民事41部判決は、訴額10万円の損害賠償請求事件における被告NHK側の応訴費用である弁護士費用54万円全額を損害として認定し、その賠償を命じた。
これに比して、本件附帯被控訴人DHCと吉田嘉明が提起した、本件における前件訴訟は訴額6000万円の損害賠償請求事件である。しかも原告側は本人訴訟ではなく訴訟代理人が付いている。さらに、一審だけでなく、控訴審も上告受理申立審まである。それでいて、応訴に不可欠な弁護士費用の負担を損害額としてまったく認めず、その部分の認容額がゼロだという。この極端な不権衡は明らかに不当というほかはない。
(7) なお、同判決の損害額に関する下記の判示が注目される。この考え方は、本件においても、十分に斟酌されるべきである。
「被告らは、訴額が10万円にすぎない別件訴訟の弁護士費用として54万円もの費用をかける必要はなく、因果関係がない旨主張する。しかしながら、応訴の費用として通常生ずべき金額は、弁護士に対する委任の有無、当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力等の諸要素を考慮して判断すべきものであるところ、受信契約締結の勧奨が不法行為に該当するとして、原告に対する損害賠償請求訴訟が相当数提起されており、その勝敗が、係属中の他の訴訟や今後同種の訴訟が提起される可能性に影響を及ぼし得るものであること等を踏まえれば、前記認定金額が不相当であるとか相当因果関係がないということはできず、被告らの主張は採用することができない。」
以上のとおり、同判決も、応訴費用の損害額を「応訴の費用として通常生ずべき金額」としている。また、その通常生ずべき金額の多寡を決するには、「当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力等の諸要素を考慮して判断すべきもの」「原告に対する損害賠償請求訴訟が相当数提起されており、その勝敗が、係属中の他の訴訟や今後同種の訴訟が提起される可能性に影響を及ぼし得るものであること等を踏まえ」るとしていることが、重要である。本件においても、前件訴訟の勝敗がスラップ訴訟提起常習者としての附帯被控訴人らが今後同種訴訟を繰り返し提起する可能性に影響を及ぼし得るものであるからである。
(8) 附帯控訴人は、違法な前件訴訟を提起されたために220万円の出捐を余儀なくされた。
なお、原審での本人尋問では附帯控訴人は自らの出捐額を200万円と述べているが、これは正確な金額ではない。同人は確実な記憶だけを控えめに述べたもので、その後確認したところでは、合計出捐額は220万円である。具体的には後述する。
これに対して、原判決が経済的損害として認めたものは、わずかに10万円に過ぎない。2件の民事訴訟の追行を弁護士に依頼し、しかも、いずれも上訴の審級を重ねるに至っている。その弁護士費用が10万円で済むはずはない。
違法な行為あれば、それに起因する損害を賠償せしめるということが法の正義である。原判決がその正義を実現をしていないことがあまりに明かというべきである。
前述のとおり、そもそも前件訴訟で成算もないままに6000万円という高額な訴額を設定したのは、違法な訴訟を提起した両名の反訴被告(附帯被控訴人)自身である。裁判所が、この不当訴訟の高額請求についての応訴費用負担の重大性を看過して、これに対する標準的な弁護士費用の損害賠償を認めないのでは、違法なスラップ訴訟の横行を黙認するばかりか、スラップ訴訟提起を奨励するに等しい。経済的強者である反訴被告(附帯被控訴人)らは自由に不当訴訟を提起することができる一方、訴訟提起を受けた者は応訴費用の負担をまかなうことができなくなるからである。このことは、表現の自由が逼塞した恐るべき社会を招来するすることに繋がる。
以上のとおり、附帯控訴人の前件訴訟における弁護士費用負担の損害は、出捐実額ではなく、標準的な弁護士費用である(旧)日弁連報酬等基準によって算定されるべきであり、その額は少なくとも500万円を下らない。

5 前件訴訟における精神的損害
(1) (略)
(2) なお、原判決は「敗訴の可能性(多額の損害賠償債務の負担)の観点から、原告の精神的な損害を過大に評価することは困難である。」と説示する。
つまりは、一見して請求認容となり得ない訴訟なのだから、こんな提訴の被告とされたところで痛痒を感じるところはなく、精神的被害が大きいとは言えない、との趣意だが、それは一面的な見方に過ぎない。
敗訴の可能性が小だということは、提訴の違法性がより大であることを意味する。一方敗訴の可能性が大だということは違法性の程度が小ということを示している。とすれば、原判決は、違法性が大なる場合には慰謝料額を低額とし、違法性が小なる場合には慰謝料額が高額になるという奇妙な相関を認めていることになる。通常の法感覚も、訴訟実務もその逆である。違法性の高い行為による被害には、高額の慰謝料をもって、精神的損害の慰藉が行われなければならない。
また、現実には、不当訴訟の被害者は、当該不当訴訟における敗訴可能性の有無・濃淡にかかわらず、応訴のためには全力を尽くさざるを得ず、その割くべき時間や労力にさしたる差異はない。荒唐無稽な不当提訴であればあるほど煩わしさや腹立たしさは募るものでもあって、精神的な被害は大きいというべきである。

6 本件訴訟追行費用について
(1) 原判決は、慰謝料として認容した損害額100万円の10%を本件訴訟追行費用とみとめた。当然に十分な金額ではない。10万円の弁護士費用で、訴訟追行が可能であるはずはなく、まったく非現実的で形式的な「損害」の認定である。
原審裁判所のこのような姿勢は、違法行為による損害回復のために不可欠な費用を非現実的で形式的なものにとどめるものとして、違法な被害を被った被害者に対して、被害回復の法的措置への意欲を抑制して、加害者の立場に加担するものと言わざるを得ない。
(2) この点についても、前記引用の2017年(平成29年)7月19日東京地方裁判所民事第41部判決の次の説示を参考にすべきである。
「応訴の費用として通常生ずべき金額は、弁護士に対する委任の有無、当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力等の諸要素を考慮して判断すべきものである」
これは本件訴訟追行費用については、次のように読み替えることができる。
「不法行為による損害を賠償すべき訴訟追行のための弁護士費用として通常生ずべき金額は、当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力、事件の複雑さ等の諸要素を考慮して判断すべきものである」
前述のとおり、同引用判決では訴額10万円の事件で、応訴費用として54万円の弁護士費用を損害として認めた。この程度の費用なくしては、弁護士を依頼しての本格的な訴訟追行は現実的に不可能なのである。この理は、本件訴訟追行費用においても、生かされなければならない。
(3) 事件の規模、社会的影響力、複雑さ等々の諸要素を考慮すれば、前件訴訟による損害額の如何にかかわらず、本件訴訟追行費用たる弁護士費用としては、100万円が相当である。

7 前件訴訟追行費用についての主張の追加
(1) 附帯控訴人は、前述のとおり、飽くまでも前件訴訟追行費用としての損害額は、現実の出捐額ではなく、規範的な意味での損害と把握して、当該訴訟に必要な標準的弁護士費用額とすべきことを主位的主張として維持する。
しかし、貴裁判所の心証が必ずしも附帯控訴人の主位的主張に与しない場合に備えて、以下の負担実額の主張を追加する。
(以下略)
8 結論
以上のとおり、損害額の認定において過小な原判決の附帯控訴人敗訴部分は取り消されなければならず、改めて附帯被控訴人ら両名に、附帯控訴人に対して連帯して660万円及びこれに対する2014年(平成26年)8月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう、求める。

附 属 書 類

附帯控訴状副本                  2通

(2020年1月15日)

被告発人安倍晋三に対する「桜疑惑」での背任罪告発状

本日(1月14日)、桜疑惑での安倍晋三に対する告発状を東京地検特捜部に提出した。告発人は、上脇博之さんら憲法専攻者を中心とする研究者13名。代理人は、阪口徳雄君を筆頭とする51名の弁護士。告発罪名は、背任である。

告発人の上脇博之さんと、代理人である阪口徳雄・澤藤統一郎・児玉勇二の3弁護士が午後1時地検に赴き、告発状を提出。その後、記者会見をした。

桜疑惑は多くの犯罪成立の可能性に満ちている。公職選挙法・政治資金規正法・公用文書毀棄等々。もしかしたら、贈収賄までも。森友疑惑の既視感がある。

しかし、多くの場合、安倍晋三本人の罪責にまで行き着くのは一苦労である。背任罪なら、安倍晋三の責任が明らかというべきなのだ。何しろ、「桜を見る会」の主催者であり、内閣府の長として予算執行の責任者でもある。その立場にある者が、国民に対する信頼を裏切って、行政を私物化し、国費を私的な利益に流用して国に損害を与えているのだ。

いかに、告発状本体の全文を掲載する。1月20日から始まる通常国会での安倍内閣追及の一助にもしていただきたい。
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 告 発 状

2020(令和2)年1月14日

東京地方検察庁 検察官 殿

告発人
別紙告発人ら目録記載の上脇博之含む13名
告発人ら代理人
別紙告発人ら代理人目録記載の51名共同代表

弁 護 士   阪 口 徳 雄
弁 護 士   澤 藤 統一郎
弁 護 士   徳 井 義 幸

 〒100-0014  東京都千代田区永田町2丁目3-1
被告発人   安 倍 晋 三

第1 告発の趣旨
被告発人安倍晋三の下記告発事実に記載の所為は、刑法第247条背任罪に該当すると思料しますので、捜査のうえ厳重に処罰されたく告発いたします。

1 告発事実
被告発人は、2015年(平成27年)から2019年(平成31年)まで、内閣総理大臣の地位にあって、下記の「会開催日」記載の各年月日に、新宿御苑(東京都新宿区内藤町11所在)における「桜を見る会」の主催者として、国の事務である「桜を見る会」に関する業務全般を統括・管理し、いずれの会においても予算額として定められた金1766万6000円の範囲で、内閣官房及び内閣府が定める各年の「桜を見る会」開催要領に基づき、「皇族、元皇族、各国大公使等、衆参両院議長及び副議長、最高裁長官、国務大臣、副大臣及び大臣政務官、国会議員、認証官、事務次官及び局長などの一部、都道府県の知事及び議会の議長などの一部、その他各界の代表者等」として制限列挙され合計約1万名と定められていたのであるから、招待者を上記開催要領に従い適正かつ慎重に厳選し、国家財政にいたずらに損害を与えることのないよう当該予算の範囲内で合計約1万名の招待者枠を厳守して当該事務を遂行すべき任務を有するところ、その任務に違背し、主催者であることを奇貨として、自己が主宰する後援会員,自己が所属する与党議員、妻の安倍昭恵夫人などの利益をはかる目的で、招待者枠を恣に大幅に拡大して多数招待して参加させ、しかも後援会が配布する招待状には知人、友人であれば誰でも「コピーして参加出来るよう」安倍後援会の桜を見る会の参加申し込み用紙を大量に配布する等して、下記「会開催日」欄記載の日に各「参加者」欄記載の通り約1万5000人ないし約1万8200人も開催要項に決められた人数を大幅に超過した人数を招待して参加させ、その為の飲食代金等を国に各「支出額」記載の通り支出せしめ、もって国に各「予算超過金額」欄記載の財産上の損害を各「会開催日」欄記載の各日に与えたものである。

会開催日    参加者   予算額   支出額   予算超過額
2015年4月18日 約15000人  17,666,000 38,417,000 20,071,000
2016年4月09日 約16000人 17,666,000 46,391,000 28,725,000
2017年4月15日 約16500人 17,666,000 47,250,000 29,584,000
2018年4月21日 約17500人 17,666,000 52,290,000 34,624,000
2019年4月13日 約18200人 17,666,000 55,187,000 37,521,000

2 罪名及び罰条
背任罪、刑法第247条

第2 告発の理由
1.はじめに
被告発人安倍晋三は、2012(平成24)年12月第二次安倍内閣の組閣以来、四次にわたり内閣を組閣し、既に7年余りの長期間にわたってその政権を組織してきた。昨年11月20日には、内閣総理大臣としての在任日数は2,887日となり、憲政史上最長となっている。この間、森友学園事件、加計学園事件を通じて、「国政の私物化」の強い疑惑をもたれ、国民の強い批判にさらされながらも、自己に関する事実に関しては全て否定し、官僚達はその意向を忖度して、関係証拠を隠匿、隠蔽等するなどして説明責任を果たさず長期政権が維持、存続されてきた。
今回発覚した「桜を見る会」の「私物化」は、この政権の長期化に伴うモラル・ハザードが治癒しがたい事態にまで立ち至っていることを示すものであり、安倍内閣は、国会内やマスコミの追及の前に早くも来年度の「桜を見る会」の開催の中止を発表したが、単なる中止によってモラルハザードは治癒するものではなく、真相の解明と法的責任の明確化によってのみ治癒するものである。
本件告発は、そのことを念願してなされたものである。

 2.「桜を見る会」の概要
(1)この会は、皇族、元皇族、各国大使等、衆議院議長と参議院議長及び両院副議長、最高裁判所長官、国務大臣、副大臣及び大臣政務官、国会議員、認証官、事務次官等及び局長等の一部、都道府県の知事及び議会の議長等の一部、その他各界の代表者等、計約1万人が招待され(甲1)、酒類や菓子、食事が振る舞われる公的行事であり、招待客の飲食費や新宿御苑の入園料は無料であり、これらの費用は税金から拠出される。安倍内閣は「内閣総理大臣が各界において功績、功労のあった方々を招き、日頃の御苦労を慰労するとともに、親しく懇談する内閣の公的行事として開催しているものであり、意義のあるものと考えている」と答弁している。
(2)この会は内閣総理大臣が主催するが、招待客の選定は各府省庁からの意見を踏まえて内閣官房と内閣府が最終的にとりまとめる(招待者名簿の作成、推薦者名簿の作成)とされるが、実態として、与党国会議員に推薦枠が割り振られているとも言われ、「桜を見る会」の案内状の発送は内閣府が一括し、必ず招待客一人ひとりに宛てて送付を行うとされている。芸能人やスポーツ選手が多数参加する様子が毎年メディアで取り上げられており、テレビ報道でその様子を見たことのある国民も多い。
(3)「桜を見る会」の前身として「観桜会」が戦前にはあった。この観桜会は1881(明治14)年に吹上御所で「観桜御宴」が行われたのを前史とし、1883(明治16)年から1916(大正5)年までは浜離宮、1917(大正6)年から1938(昭和13)年までは新宿御苑に会場を移し、いずれも国際親善を目的として天皇主催の皇室行事として開催されていた。戦後この観桜会を復活させる形で1952(昭和27)年に吉田茂が総理大臣主催の会として始めたのが「桜を見る会」であるとされている。
由緒ある「桜を見る会」を私利私欲のために汚れた行事としているのが被告発人安倍晋三である。

 3.第二次安倍内閣の下での「桜を見る会」の異常な肥大化
(1)戦後の「桜を見る会」は吉田茂によって、内閣総理大臣が主催する公的行事として開催されてきたが、第二次安倍内閣が登場するまでの「桜を見る会」は、その招待客数は計約10,000人前後であり、その予算の規模は1700万円台で、その支出も予算額程度であったと思われる。
回次 開催日  首相   出席者数
51 2004/4/17 小泉純一郎 約8000人
52 2005/4/09 小泉純一郎 約8700人
53 2006/4/15 小泉純一郎 約11000人
54 2007/4/14 安倍晋三  約11000人
55 2008/4/12 福田康夫 約10000人
56 2009/4/18 麻生太郎 約11000人
57 2010/4/17 鳩山由紀夫 約10000人

(2)ところが、第二次安倍内閣成立後に開催された「桜を見る会」の招待者数と支出額は以下のとおりで、明らかに異常な肥大化を遂げてきた。
回次 開催日   首相   招待数   出席者数  支出額
58 2013/4/20 安倍晋三 調査出来ず 約12000人 17,180,000
59 2014/4/12 安倍晋三 約12800人 約14000人 30,053,000
60 2015/4/18 安倍晋三 約13600人 約15000人 38,417,000
61 2016/4/09 安倍晋三 約13600人 約16000人 46,391,000
62 2017/4/15 安倍晋三 約13900人 約16500人 47,250,000
63 2018/4/21 安倍晋三 約15900人 約17500人 52,290,000
64 2019/4/13 安倍晋三 約15400人 約18200人 55,187,000

第二次安倍内閣になって以降の招待者数は、従来の約10,000名前後から2019年4月の「桜を見る会」では15,400名に、また出席者数は招待者数を大幅に上回り約18,200名に、経費の支出額も予算額の1766万6000円の3倍を超える5518万7000円にまでも拡大して肥大化したのである。
この規模の拡大・肥大化の原因は、与党議員への推薦枠の拡大等だけでない。「安倍事務所」が桜を見る会への参加者への申込書に『参加される方はご家族(同居人を含む)、知人、友人の場合は別途用紙でお申し込み下さい(コピーしてご利用下さい)』と招待者を自らの後援会の会員に拡大するだけではなく、無原則にその「知人、友人」の場合でも参加申し込みを認め、しかも申し込み用紙を「コピー」でも良いとした事に起因すると思われる。
(3)安倍晋三による自身の後援会会員850名余りが招待されたと報道されているが、真実は、それ以外に安倍事務所の後援会会員の「知人、友人」が申し込み用紙をコピーして参加申し込みしている者が、大幅に参加して増えたと思われる。

4.「あべ晋三後援会」会員の「桜を見る会」への招待の実態
(1)参議院議員田村智子は、この問題を昨年11月8日の国会質問で取り上げ、その実態を以下の如く告発している(甲2)。
「安倍首相の地元後援会のみなさんを多数招待している」が「友田(有・山口)県議、後援会女性部はどういう功労が認められたのか」などと指摘して開催要項の定める招待者の範囲外の後援会員を選定しているとして、批判した。これに対し大塚幸寬内閣府大臣官房長は「具体的な招待者の推薦にかかる書類は、保存期間1年未満の文書として廃棄している」と述べ、被告発人安倍晋三は「各界で功績、功労のあった方々を招いて開催している。地元には自治会やPTAなどの役員をしている方々もいるので、後援会の方々と重複することも当然ある」と述べた。安倍総理の地元の自治会やPTA役員などが各界の功労者、代表者であるとは到底言い難いものである。そして、この「招待者名簿」は既に廃棄されたとされるが、廃棄は宮本徹衆議院議員よりの資料提出要求のあった昨2019年5月9日当日であったことも発覚している。都合の悪い「招待者名簿」の隠蔽工作と言わざるを得ない(甲3)。
現に各省庁の推薦者名簿は保存されていたのであり、いわゆる政治家枠のもののみが破棄されていた(甲4)。
また、田村議員は「安倍事務所に申し込んだら、内閣府から招待状がきた」という下関の後援会員の証言があると指摘し、「税金の私物化が行われている」と指摘している。さらに、開催前日の後援会員との懇親会に被告発人安倍晋三の妻である安倍昭恵が出席している事を指摘し、「(桜を見る会が)まさに首相の後援会の一大行事になっている」と指摘している。これらのことから野党議員がこれが「事実だとすれば、内閣総理大臣がその地位を利用して個人の後援会活動にそれを利用していたこと。いわば税金で主催するこの国の公的行事で接待していたと受け取られかねない事案だ」と述べているのは当然のことである。
さらに、自由民主党の若林健太元参議院議員はブログで「大臣政務官(在職当時)としてご招待出来る枠を数件頂いたので、後援会役員の方に声を掛けさせて頂いた」「私が許された枠は5組だけ。お世話になっている地元関係者へご案内を申し上げている」と自身の権限で招待したと述べているのである。各界での功績・功労の有無とは無関係に政治家の後援会員へのサービス行事として悪用されている事態を示している。
(2)具体的に見れば、「あべ晋三後援会」は、この「桜を見る会」への後援会員の招待を前日の都内の有名ホテルで開催される前夜祭と称するパーティーへの参加と一体として取り組んでいることも判明しており、この点からも開催要領が招待者の範囲としている各界の功労者・代表者とは無縁の人を自己の後援会会員を招待していることが明白である。
すなわち、安倍晋三事務所が事務所名で「『桜を見る会』のご案内」と題する文書を後援会員に配布し案内したうえ、「出席を希望される方は、2月20日までに別紙申込書に必要な事項をご記入のうえ、安倍事務所または担当者までご連絡ください」との文書を発行し、この文書では前日にホテルニューオータニで関係される「あべ晋三後援会主催前日夕食会」の開催案内をセットで実施していることも明白である(甲5)。
さらに安倍事務所は「内閣府主催『桜を見る会』参加申し込み書」(甲6)、「『桜を見る会』について(ご連絡)」(甲7)、「『桜を見る会』アンケート(4月12日~4月13日)」(甲8)、「桜を見る会「懇親会」についてのお知らせ」(甲9)、「桜を見る会注意点」(甲10)の各文書を後援会員に配布して、「桜を見る会」への参加を案内しているが、これらの文書の記載よりして、「あべ晋三後援会」の主催する後援会行事であるホテルニューオータニで開催される前夜祭やその前に実施されるA、B、Cの三つのコースに分かれた安倍事務所ツアーと内閣総理大臣安倍晋三の主催する「桜を見る会」とは完全にセットになっており、後援会行事と「桜を見る会」は完全に一体化していることが判明する。
また、安倍晋三事務所自身が内閣総理大臣安倍晋三の主催する「桜を見る会」への参加申込をその後援会に配布して、募集しており、「各界の代表者」には該当しない人を開催要領に違反して招待者としていることも歴然としているものである。すなわち、この申込書では「桜を見る会」への参加資格を問題とすることが全くないことが前提となっているのである。
(3)そして、被告発人安倍晋三は、11月20日開催された参議院本会議において、「私自身も事務所から相談を受ければ推薦者についての意見を言うこともあった」として、招待者の選定に直接自ら関与したことを認めた。また当日の国会審議においては、招待者の内訳について各省庁推薦の各界功労者・大使などが6000人、自民党関係者が6000人、官房長官や副総理が1000人、安倍首相よりの推薦が1000人でその中には総理夫人の昭恵氏の推薦分まで含まれていたことが明らかにされている(甲11)。
森友学園事件において総理夫人昭恵氏の関与が重大な疑惑となったが、今日の「桜を見る会」をめぐる問題においても同夫人の関与が明らかにされたのである。同夫人は、私人であると内閣は位置付けており、何ゆえに私人が総理大臣主催の公的行事の招待者を推薦することができるのか、被告発人安倍晋三のモラル・ハザードと「国政の私物化」はここまでの腐敗に至っているのである。
(4)以上の通り、被告発人安倍晋三は「桜を見る会」という内閣総理大臣が主催する公的行事への招待を自己の後援会行事と一体化して実施し、開催要領にも明白に反する招待者の選定などの任務違背のあることは歴然としているものである。

5.背任罪の構成要件該当性
(1)背任罪について
刑法第247条は、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えた」ことを背任罪の構成要件とし、「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と法定刑を定める。
以下に、本件に即して、背任罪の構成要件としての「主体」「図利加害目的」「任務違背」「財産上の損害」について、略述する。
(2)主体
背任罪は身分犯であって、その主体は、「他人のためにその事務を処理する者」である。憲法第15条に基づき、「全体の奉仕者」として公共の利益のために職務を行うべき公務員が、身分犯としての背任罪の主体となり得ることは判例通説の認めるところである。内閣総理大臣の職にある者においてはなお当然というべきで、この点に疑問の余地はない。
本件の場合、「他人」とは国であって、被告発人は、各年の「桜を見る会」の主催者である。同「会」の遂行に関する一切の事務について国の利益のために適切に企画し実行すべき立場にある者として、構成要件における「他人のためにその事務を処理する者」に当たる。
(3)図利加害目的
背任罪は目的犯であって、「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」が必要とされる。本件の場合は、「自己若しくは第三者の利益を図る」図利の目的が明白なので、「本人(国)に損害を加える」積極的な加害の目的の有無は問題とならない。被告発人自身の利益、ならびに第三者である被告発人の妻・被告発人の政治的後援会員・被告発人と所属政党を同じくする国会議員らの利益をはかる目的があっての任務違背であることは、自明のことというべきである。
(4)任務違背
背任罪の本質は背信であると説かれる。被告発人の国に対する任務に違背する行為が、構成要件上の犯罪行為である。当該任務は、「法令、予算、通達、定款、内規、契約等」を根拠とする。その根拠にもとづく「任務に反する行為でその行為が、国に財産的損害を生ぜしめる性質のものである限り原則的に任務違背が成立する。」(西田典之著『刑法各論第6版』258頁など)
被告発人は内閣府の長として、本件各「桜を見る会」を企画し実施して必要な経費を支出するに当たっては、「桜を見る会開催要領」(甲1)と予め定められた歳出予算額とを遵守すべき義務を負っていたものである。
歳出予算は拘束力を持ち、いわゆる「超過支出禁止の原則」にしたがって、予算計上額を上回って超過支出することが禁止され、予算外支出も認められない。「会計年度独立の原則」にしたがって、それぞれの会計年度の支出は、その会計年度の収入によって賄われなければならないという原則も予算の拘束力を示す一例である。
にもかかわらず、被告発人は、前記の通り「桜を見る会開催要領」をまったく無視して、招待者の範囲を恣に拡大し、約1万名と限定されていた範囲を大幅に逸脱して無原則に招待者を拡大し、予算の制約を大幅に超えて費用を支出した点において、その任務に違背したものである。
(5)国の財産的損害
被告発人は、総理大臣になって以来、前記の通り毎年「桜を見る会」への招待者数を増やし、国に予算を超過する支出を余儀なくさせて、毎年前記各予算超過額に相当する損害を生じせしめた。その金額の総計は、1億5121万5000円にも及ぶものである。

年月日      予算額      支出額      予算超過額
2014年4月12日 1766・6万円 3005・3万円 1238・7万円
2015年4月18日 1766・6万円 3841・7万円 2075・1万円
2016年4月09日 1766・6万円 4639・1万円 2872・5万円
2017年4月15日 1766・6万円 4725・0万円 2958・4万円
2018年4月21日 1766・6万円 5229・0万円 3462・4万円
2019年4月13日 1766・6万円 5518・7万円 3752・1万円
予算超過総計                  1億5121・5万円

6 結論
以上のとおり、被告発人の行為が背任に該当することは明らかと言わねばならない。しかも、国が支出を余儀なくされた超過支出金額の大半は、「桜を見る会」に本来参加すべき資格なき者に提供された飲食費等としてのもので、被告発人は、本来自らが主宰する後援会が負担すべき支出を国費で賄ったという点において、総理大臣の職務の廉潔性を汚したものである。さらには、公職選挙法や政治資金規正法が重要な理念とする政治に関するカネの流れの透明性を侵害し、総理大臣としての職権を濫用して国政を私物化したと弾劾されるべき行為でもある。議会制民主主義擁護の観点から到底看過し得ない。
この被告発人の長年にわたる国政私物化と,忖度にまみれた安倍内閣のモラルハザードを一掃するには、御庁の巨悪を逃さない強い決意による捜査権限発動が不可欠である。
告発人らは、広範な国民の世論を代表して、本件告発に及んだ。御庁にあっては事案の真相を徹底して解明したうえで、被告発人に対する厳正な処罰をされるよう、強く求めるものである。

証拠目録
1の1. 甲1の1 「桜を見る会」開催要領(平成24年2月28日付)
1の2.  甲1の2 「桜を見る会」開催要領(平成31年1月25日付)
2.甲2    しんぶん赤旗日曜版 2019年11月17日
3.甲3    朝日新聞 2019年11月21日
4.甲4    しんぶん赤旗 2019年11月23日
5.甲5    「桜を見る会」のご案内 平成31年2月吉日 安倍晋三事務所
6.甲6    「内閣府主催『桜を見る会』参加申し込み書」 あべ事務所
7.甲7     「『桜を見る会』について(ご連絡)」
平成31年2月吉日 あべ晋三事務所
8.甲8     「『桜を見る会』アンケート(4月12日~4月13日)」
あべ事務所
9.甲9     「桜を見る会「懇親会」についてのお知らせ」
平成31年3月吉日 安倍晋三事務所
10.甲10    「桜を見る会注意点」
11.甲11     朝日新聞記事 2019年11月2日

添付書類

 1 甲各号証写し       各1通
2 委任状          11通

(2020年1月14日)

市民運動が公の施設を利用する権利について

暮れから正月にかけて、市民団体の機関紙や活動報告が夥しく郵送されてくる。草の根で地道に活動している多くの人々がいることに、この上ない心強さを覚える。
その中の,いかにも手作りの一通が提起している問題をご紹介したい。

「学校と地域をむすぶ板橋の会」という市民団体がある。略称は「むすぶ会」。公立校における「日の丸・君が代」強制を、地域の問題として受けとめようという貴重な運動体。その機関紙が、「手と手 声と声」という。不定期の刊行なのだろうが、そのN0.19が暮れに届いた。

その中に、板橋区男女平等推進センターでチラシ配架を拒否される」という看過しがたい記事がある。チラシ「配架」とは、来館者の誰もが取っていけるよう「棚にチラシを置いておく」ことだという。市民運動用語では、「置きビラ」である。

「政治的なチラシは、配架して便宜をはかることができない」と拒否されたという。これは、地域に訴えようという市民団体には、切実な問題である。おそらく全国のあちらこちらで,同様の問題が起こっているのではないだろうか。行政が市民運動を「政治的」と色づけて、「政治的な活動には一切の協力お断り」というありがちな構図。これは、考えさせられる。やや長文だが、全文転載させていただく。

板橋区男女平等推進センターには、私たち登録団体が依頼すれば窓口のラックにチラシを置けることになっています。来館者が自由にチラシを取ることができます。
会は、7月に日比谷で開催された「日の丸・君が代」問題等全国学習・交流集会に賛同し、この集会チラシに「むすぶ会は賛同団体です」と連絡先を明記したシールを貼り、7月8日にラックに置いてほしいと依頼しました。しかし、センターから「政治的なものはダメ。登録団体連絡会のルールにもある」と拒否の電話がありました。

私たちは忙しくて直ぐ話に行けないが、判断した責任者と話したいと返事をしました。9月5日に担当の係長と話をすることになりました。係長の見解は課長も当然承知している内容とのことです。

区の判断
板橋区男女平等推進センター「スクエア・I(あい)」のチラシ類の取り扱い基準(登録団体用)の「3 配架をお断りするもの(3)政治的なもの」にあたると判断した。

区として、地方公務員法36条(政治的行為の制限)の「2 職員は、特定の政党その他の政治団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもって、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもって、次に掲げる政治的行為をしてはならない。(略)四、文書又は図画を地方公共団体又は地方独立行政法人の庁舎(略)、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体又は特定地方行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。」とあり、地方公務員として、行なってはならないことであるから断った。

私たちの反論
チラシ裏面に「安倍政権下で教育は危機から崩壊へ」と書かれていますが、「安倍政権という言葉をもって拒否するのはおかしい。」「特定の政権を言葉に出すと政治的となるのか。政治的で問題とされるのは選挙のことではないか。現政権の施策について考えようというのは全く問題ない。」「職員の政治的行為の制限の規定を住民にまで及ぼすのはおかしい。」「公務員は憲法に基づき全体の奉仕者だ。表現の自由を保障すべきだ。」「板橋区は政権が推進しているオリンピックパラリンピックを推し進めている。実際の仕事はどちらかの立場で行っている。」「政治的とは何か? 社会生活の何にでも関係する。」「仮に、オリンピックを成功させよう、とか憲法を考えようとかでも政治的だからダメというのか。」「区は、反対しているからダメと言っているに過ぎない」「9条俳句の裁判で公民館は負けた」「勝手な判断で団体の活動に介入するべきでない」
等と抗議しました。

2014年にも区は、区民祭り時に男女平等推進センター掲示の登録団体紹介用に提出した会のポスターに対して、「議員の目にとまる可能性があり、」政治的と捉えられる心配があるから」と文章中の「『日の丸・君が代』強制反対!を掲げた活動紹介として添付した講演写真の「『日の丸・君が代』強制に反対!板橋のつどい」との文字をボカシてほしいと言ってきました。その時は期間が追っており他の部分でも趣旨は伝わると判断し掲示を優先しました。ところがその後の話合いの場では、「男女平等に関係ないから」と言い方を変えてきました。それ以降は、このような問題は起きませんでした。

今回、区は、一貫して「政治的」を理由に 「区施設の管理責任を持つ必要がある」「会の活動を否定している訳ではない」と言い私たちの意見について「弁護士に確認してみます」と答えました。私たちは、今後、配架依頼した時の対応を見ていく、ということでこの日の話し合いを終えました。

その後、会が実行委員として参加している「わいわい祭り」のチラシ(戦争させない!なくそう原発!と記載)は、何の問題もなく配架されました。今回同封の「板橋つどいのチラシ」は、これから配架依頼しますが、区の対応によっては速やかな話し合いを要求し、配架を獲得したいと考えます。ご注目ください。

理不尽な行政側の言い分に、活動家が位負けすることなく頑張って抗議し反論している様子が彷彿とする。できれば、このような場合には行政側の文書が欲しい。問題のチラシの何が「政治的なもの」なのか理由を確認したいところ。

ややはっきりしないが、板橋区の言い分は、次のように整理できるだろう。
(1) 「男女平等推進センター・チラシ類の取り扱い基準(登録団体用)」に、「配架をお断りするもの」として「政治的なもの」と規定されているところ、当該のビラはその「政治的なもの」に当たるので配架をお断りする。

(2) 地方公務員法36条(政治的行為の制限)2項・四号を根拠に、地方公務員として、「政治的活動に庁舎を利用させてはならない」とされているから、配架お断り。

言うまでもなく、この問題のベースには、憲法がある。「むすぶ会」の会員には、思想・良心の自由(19条)があり、思想・良心に従って表現する自由(21条)が基本権として保障されている。板橋区には、区民の基本的人権を尊重し、その施設を区民に利用させるに際して、一切の差別的取り扱いをしてはならない。これが大原則である。

法律レベルで問題とすべきは、地方自治法第244条社会教育法第23条である。
(1)「男女平等推進センター・チラシ類の取り扱い基準」の内容は詳らかにしないが、係長が言うような内容であれば、明らかに両法に違反している。違憲・違法で無効である。早急に取り扱い規準を作りかえなければならない。

(2)問題は、区民の権利の有無なのだから、職員の地位を定める地方公務員法の規定を持ち出すのは筋違いである。しかも、担当職員の地公法36条解釈は、明らかに間違っている。

地方自治法第244条を確認しておこう。市民運動が行政施設を利用する際の大原則である。お上に、施設を使わせてもらっているのではない。私たち主権者・住民の権利としての公の施設の合理的使用方法を条文化したものである。

第1項 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
第2項 普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
第3項 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。

市民運動活動家は、地方自治法第244条2項を暗記しておくとよい。板橋区は、むすぶ会のセンター利用を拒否してはならない」のだ。

もう一つは、社会教育法第23条である。いわゆる「公民館」に関する法的根拠。
関連条文を引用しておこう。

社会教育法「第五章 公民館」
第20条(目的) 公民館は、市町村その他一定区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もつて住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

第22条(公民館の事業) 公民館は、第20条の目的達成のために、おおむね、左の事業を行う。
五 各種の団体、機関等の連絡を図ること。
六 その施設を住民の集会その他の公共的利用に供すること。

第23条(公民館の運営方針)
第1項 公民館は、次の行為を行つてはならない。
一 もつぱら営利を目的として事業を行い、特定の営利事務に公民館の名称を利用させその他営利事業を援助すること。
二 特定の政党の利害に関する事業を行い、又は公私の選挙に関し、特定の候補者を支持すること。
第2項 市町村の設置する公民館は、特定の宗教を支持し、又は特定の教派、宗派若しくは教団を支援してはならない。

これで十分だろう。問題は、社会教育法第23条1項2号である。公民館の運営において禁止されているのは、「特定の政党の利害に関する事業を行い、又は公私の選挙に関し、特定の候補者を支持すること。」に限定されている。市民運動における安倍政権批判が、「特定の政党の利害に関する事業」になろうはずはない。

手と手 声と声」の主張はまことにもっともなのだ。
「安倍政権という言葉をもって拒否するのはおかしい。」「特定の政権を言葉に出すと政治的となるのか」「政治的で問題とされるのは選挙のことではないか」「現政権の施策について考えようというのは全く問題ない」「職員の政治的行為の制限の規定を住民にまで及ぼすのはおかしい」「公務員は憲法に基づき全体の奉仕者だ」「表現の自由を保障すべきだ」「板橋区は政権が推進しているオリンピックパラリンピックを推し進めている。実際の仕事はどちらかの立場で行っているのか」「政治的とは何か? 社会生活の何にでも関係する。」「仮に、オリンピックを成功させよう、とか憲法を考えようとかでも政治的だからダメというのか。」「区は、反対しているからダメと言っているに過ぎない」「9条俳句の裁判で公民館は負けた」「勝手な判断で団体の活動に介入するべきでない」
すべて、自信をもっていただきたい。

ほとんど無関係だが、地方公務員法36条2項にも触れておきたい。その条文は以下のとおりである。
36条2項
職員は、
・特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、
・あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、
次に掲げる政治的行為をしてはならない。

四 文書又は図画を地方公共団体庁舎、施設等に掲示し又は掲示させ、その他地方公共団体の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。

一見して明らかなとおり、これは公務員の規律の問題である。本件に関係するとすれば、「職員が、特定の目的をもって、庁舎、施設を利用させること」という禁止規定に触れるか否かである。重要なのは、36条2項の目的である。下記のどちらかがなければならない。

1 特定の政党その他の政治団体・特定の内閣・地方公共団体の執行機関を支持又は反対するという目的
2 公の選挙・投票において特定の人または事件を支持または反対するという目的

注意すべきは、目的をもつ主体は職員である。「むすぶ会」のチラシが、そのような職員の目的を推認させることになるとは、到底考え難い。「安倍政権下で教育は危機から崩壊へ」と記載されていたとしても、その配架を許可した職員が、安倍内閣に反対する目的で配架したことになろうはずはない。

のみならず、同法36条には次の第5項の規定がある。

5 本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない。

担当職員は、安心してビラの配架を認めてよい。うっかり禁止すると大ごとになる。板橋区は憲法と法の趣旨立ち返って、言いがかりに等しい社会教育施設の濫用的運用を改めるべきである。

なお、この通信の最終ページには、次の集会案内が掲載されている。このビラの配架がどうなったか。興味津々である。

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「日の丸・君が代」強制反対!
2020板橋のつどい

【開催要項】
2020年2月1日 開場17:30 開会18:00 閉会20:30
場所:板橋グリーンホール601号室
東武東上線大山駅・都営地下鉄三田線板橋区役所前駅共に下車5分
講演:現代の教育政策とこれからの課題
講師:現代教育行政研究会代表 前川喜平さん
1955年奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て、2016年文部科学事務次官。17年同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

報告:CEART(セアート、国連の合同専門委員会)報告を生かす取り組み
「日の丸・君が代」ILO/ユネスコ勧告実施市民会議 準備会
2014年、アイム89東京教育労働者組合は、東京都教育委員会が発した10・23通達が、国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「教員の地位に関する勧告」(1966年発出)に違反していると申し立てました。その結果、19年春「日の丸・君が代」強制に対する、是正勧告が両機関で承認され、公表されました。国際機関からのこの問題に関しての是正勧告が出されたのは初めてのことだそうです。
しかし、文科省は日本語訳を行おうともせず、できるだけ知られずに忘れ去られることを願う姑息な対応をしています。それに対して、勧告の拡散・実現を求め、 「日の丸・君が代JILO/ユネスコ勧告実施市民会議を組織し、3月1日に発足集会を開催する準備が進められています。
つどい当日には、勧告内容、今後の取組みについてのアピールが市民会議準備会メンバーから行われます。

報告:八王子「天皇奉迎」に子どもたちは動員されなかった
元東京教組八王子支部役員 水谷 辰夫さん
4月23日に天皇が退位の報告に昭和天皇の墓を訪れた際、二小、横山二小、浅川小の子どもたちが「日の丸」の小旗を振らされ「天皇奉迎」に駆り出された。それに対して……。

(2020年1月13日)

台湾総統選は、「民主主義を守ろう」対「みんな金持ちになれる」の抗争。

台湾総統選の結果には注目すべきだろう。時事の記事には、蔡英文氏が再選 過去最多得票で韓氏に圧勝―「一国二制度」拒絶」と見出しが打たれている。取材者の印象が「圧勝」だというのだ。

昨日《1月11日》の投開票で、投票率は75%と高い。前回が66%だから、選挙民のこの選挙への関心の高さがよく分かる。民進党・蔡英文の得票が817万票(57%)で過去最多であったという。対する最大野党国民党の韓国瑜は552万票(38%)だった。

各紙の報道は、対中関係での強硬路線と融和路線の争いと見て、強硬な姿勢で臨んだ蔡氏に絶大な支持が集まり、対中融和路線派に圧勝した」とする。なお、同時に行われた立法院(定例113)選でも民進党は61議席を得て過半数を維持した。

時事によれば、蔡候補の訴えは、
「台湾の主権と民主主義を守ろう」
これに対する韓候補のフレーズは、
「中国と関係を改善すれば、台湾は安全になり、みんな金持ちになれる」
というもの。

もう少し敷衍すれば、
蔡「なによりも、主権の確保・民主主義の貫徹・自治の防衛が重要ではないか。けっして、大国である中国に呑み込まれてはならない。目先の経済的利益のために、あるいは政治的摩擦を恐れての安易な妥協は将来に取り返しのつかない禍根を残す」
韓「所詮中国の政治的・経済的影響を排除することなど無理なこと。現実的に考えれば、対中融和こそが、望ましい安全保障政策であり、台湾経済を豊かにすることができる」

理念派対実利派の対抗関係でもあり、政治重視派対経済重視派の争いでもあり、短期利益重視派対長期利益重視派の論争でもあると言えよう。

日本各地でもありふれた政治抗争パターンである。原発立地問題や基地建設問題、アベ友学園建設問題、カジノ誘致…、みんなこの手の争いである。日本では、実利派が圧倒的に強く、理念派の旗色が悪い。しかし、香港でも台湾でも、また韓国でも、良識ある理念派の層の厚さに敬意を表せざるを得ない。

なお、4年前の蔡政権発足以後、政権への民衆の支持は必ずしも高揚せず、世論調査による政権支持率は低迷していたという。しかし、中国が事態を逆転させた。2019年1月、習近平が将来の台湾統一に向けて「一国二制度こそが最良の形だ」と発言した際には、蔡氏は即座に「絶対に受け入れられない」と反発した。

そして、同年6月以来の、「一国二制度」の悲劇が香港で繰り広げられた。香港の運動に共感する人々が蔡政権への支持を高揚させた。反対に、台湾でも中国への警戒感が高まり、対中国融和派には、強い逆風となってしまったという。

逆風の源は香港だけではない。たとえば,昨年暮れには上海からこんなニュースが発信されている。

上海に復旦大学という名門がある。日本の大学になぞらえれば京都大学に相当するという。その大学規約の改正が話題となった。毎日の年末の報道では、大学規約から『思想の自由』削除に抗議 中国の名門・復旦大で異例の集会」という見出し。

中国では大学の規約改正に教育省の許可が必要。同省が12月5日に許可した復旦大の新規約によると、序文にあった「学校の学術・運営理念は校歌にうたわれている学術の独立と思想の自由」との部分が削除された。そして「学校は中国共産党の指導を堅持し、党の教育方針を全面的に貫徹する」となった。

 大学では学生らによる抗議集会が18日以降、断続的に開催されている。中国当局は大学での思想管理を徹底。名門大でのこうした集会は極めて異例だ。

 この動きは、ネットで伝えられたが、12月末、既にネット上では関連投稿がほぼ削除されている。検索サイトでも「復旦」「自由」などのキーワードで検索できなくなっている。復旦大当局は18日に「改正手続きは合法的に行われ、党の指導をさらに徹底するものだ」とのコメントを出した。

これだから、香港の人々も、台湾の人々も、中国には呑み込まれたくないと必死にならざるを得ないのだ。
(2020年1月12日)

安倍内閣は、わが国の「健全な民主主義の根幹」を揺るがしている。

各地でロウバイが見頃だという。梅の蕾の綻びもほの見える。桜はまだまだ蕾が固いが、今年の桜はいつもにまして楽しみだ。とりわけ、新宿御苑の桜は,どうしても見に行かねばならない。もちろん、誰からの招待もなく、昨年から500円に値上げされた入場料を支払ってのこと。

もうすぐ、1月20日から始まる通常国会では、まずは徹底した「桜疑惑」追及が期待される。御苑の桜が散る頃に、アベ政権も散れぞかし。

そんな期待を抱かせる根拠は、野党追及本部の合同ヒアリングが充実しているからだ。昨年臨時国会終盤での野党による桜疑惑追及の矛先は鋭く、政権・与党は、野党側の会期会延長要求を頑なに拒んだ。しかし、閉会中も野党の合同ヒアリングは続き、その成果を挙げている。この政権の正体が少しずつ明かされているのだ。

野党合同ヒアリングの成果が、官房長官記者会見に活かされている。昨日(1月10日)官房長官は、記者会見で安倍晋三首相主催「桜を見る会」をめぐり、2013~17年度分の招待者名簿について「行政文書ファイル管理簿に記載していなかった」のは「公文書管理法の関連規定および内閣府の文書管理規則に違反する違法な対応だった」と認めた。これは、大問題である。

この菅長官説明は、「前日の野党追及本部の合同ヒアリングでの野党側の指摘を事実上認めたもの。文書管理をめぐる相次ぐ法令違反を引き起こした安倍政権の重大な責任が改めて問われます。」というのが、本日(1月11日)赤旗のトップ記事。

東京記事が端的にこうまとめている。

 安倍晋三首相主催の「桜を見る会」を巡り、菅義偉官房長官は10日の記者会見で、2013~17年度の招待客名簿を行政文書の管理簿に記載していなかったことは「公文書管理法の関連規定、内閣府の文書管理規則に違反する対応だった」と述べた。名簿を廃棄する前に首相と協議して同意を得る同法の手続きを踏んでいなかったことも明らかにし、これも違法だとの認識を示した。桜を見る会を巡る問題は、政府が公文書管理の違法性を認めざるを得ない異例の事態になった。 

違法は、2013~17年度の5回にわたる「桜を見る会・招待者名簿」の管理についてのもの。2013年は、第2次安倍内閣発足直後に当たる。第2次安倍内閣発足以来、ずっと違法な文書管理が行われてきたのだ。では、18年と19年はどうだったか。これは、もっとタチが悪い。この招待者名簿は、17年までは保存期間が「1年」とされていた。だから、行政文書管理簿にも廃棄簿にも記載が義務付けられていた。それを、18年に「1年未満」に変えたのだ。こうすれば、管理簿にも廃棄簿にも記載することなく、都合の悪いときにはすぐに廃棄して、知らん顔ができるのだ。

だから、13~17年度の招待客名簿についてだけ、政府『違法』 管理簿不記載 首相同意なく廃棄」なのだ。第2次安倍内閣成立以来、この内閣のやり口は、姑息千万。残しておくには不都合に過ぎる文書だから、追及を不可能にするために、策を弄したとしか考えられないではないか。アベシンゾーとその取り巻き、この件に限らず、小狡いし、国民をナメ切っている。主権者は本気で怒らねばならない。

東京新聞記事には、「立憲民主党の安住淳国対委員長は記者団に『行政府の立法府に対する挑戦であり、国民の財産を毀損する許しがたい行為。場合によっては犯罪に近い』と批判。20日召集の通常国会で追及する考えを表明した」とある。まったく、そのとおりである。

何度でも繰り返す。公文書とは、「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」なのだ。アベシンゾーとその一味は、この国民共有の財産を私物化してきた。これまでも、隠匿し、改ざんし、廃棄してきたのは、自分たちの行政を隠しておかねばならなかったからなのだ。こうして、わが国の「健全な民主主義の根幹」が,今揺るぎつつある。
(2020年1月11日)

新体制のNHK経営委員会に意見と質問を申しあげる。

本日(1月10日)、NHK経営委員会に赴き、下記の「新体制のNHK経営委員会に対する意見と質問」書を提出してきた。この意見をご覧いただけたら、申し入れの趣旨がお分かりいただけようが、新体制のNHK経営委員会に反省の姿勢が見られないのではないか、ということである。

「クローズアップ現代+」の制作フタッフは、郵政グループによるかんぽ生命不正販売の事実を生々しく暴いた。これを日本郵政の上級副社長鈴木康雄が、元総務次官の肩書にものを言わせてもみ消しに動いた。情けないことに、NHK経営委員会がこれに同調し、NHK会長がこれに屈した。この事件の後、かんぽ生命不正販売の事実は「クロ現代+」の報道の通りであったことが確認され、昨年暮れに、日本郵政グル―プ3社の社長が引責辞任することとなり、更に鈴木康雄の辞任も発表された。また、NHK経営委員会も、石原経営委員長から森下俊三新委員長に交替した。この新体制の真摯な反省の有無が問題なのだ。

本日、提出に出向いたのは醍醐聰さん、小田桐誠さん、渡辺真知子と私の4人。応接されたのは、経営委員会事務局副部長以下3名の事務職員。1時間に近い口頭でのやり取りがあった。

最初に醍醐さんが各経営委員に対する「意見と質問」書を提出し、そのコピーを配布して「意見」の趣旨を詳細に説明した。「質問」個所は全文を読み上げた。

次いで、小田切さんが自己紹介の後、ジャーナリズム本来のありかたからみてのNHK経営委員会のありかたの批判をし、渡辺さんも短く国民の意見を代表するものとの立場からの短い意見を述べた。

本日の私の発言の大要は以下のとおり。このように整理された形でしゃべったわけではないが、まとめればこう言うこと。

私は、これまでNHKのあり方には厳しい批判をしてきた。しかし、けっして一面的に批判だけをしてきたつもりはない。実は、NHKには親近感をもっている。本来あるべきNHKになっていただきたいのだ。
 私は、中退ではあるが東大文学部社会学科の出身。当時の学科の同級生は圧倒的にジャーナリズム志望で、中でもNHK就職希望者が多かった。もしかしたら正確でないかも知れないが、私の記憶では31名の級友の内9名がNHKに就職した。私がそのうちの1人だった可能性もある。当時、ジャーナリスト志望の若者には、NHKは輝く存在だった。
 しかし、今、どうだろうか。NHKは若者にとっての輝きを失っているのではないだろうか。政権との距離が近く、財界との関係のみ深い。ジャーナリズム本来の仕事ができる環境と言えるだろうか。とりわけ、今回のかんぽ不正問題を、現場スタッフが見事な取材をし報道をしたことに対して、取材先の圧力を受けて経営委員会とNHK会長が現場を押さえ込んだ。国民のNHKに対する信頼は地に落ちている。これを回復するための、真摯な反省の弁を聞きたい。
 私は、優れた現場スタッフが、存分に働けるNHKであって欲しいと願っている。けっして、どんな回答でも揚げ足をとってやろうなどと思っているわけではない。国民世論を代表する立場で、経営委員諸氏の真摯な回答をお待ちしている。

  なお、私は、「経営」と「制作」の分離は当然と考えている。分離とは、「制作」が「経営」の意向を気にすることなく、思う存分活動できること。そのためには、「経営」は、外部から制作への圧力を受けとめる防波堤でなければならない。
 NHKにおけるコンプライアンスとは憲法と一体となった放送法の理念を忠実に守って、国民の知る権利に奉仕すること。ガバナンスとは、そのために必要な制度の運営に幹部が責任を果すべきこと。上命下服の経営秩序をコンプライアンスと言いガバナンスと言って現場を締めつけているのなら、明らかに、そんなものはメディアには有害というしかない。

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 2020年1月10日

NHK経営委員長 森下俊三 様
同経営委員各位

「日本郵政と経営委首脳によるNHK攻撃の構図を考える
11. 5 シンポジウム」実行委員会

世話人:小林 緑(国立音楽大学名誉教授・元NHK経営委員)/澤藤統一郎(弁護士)/杉浦ひとみ(弁護士)/醍醐 聰(東京大学名誉教授・「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」共同代表)/田島泰彦(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)/皆川 学(元NHKプロデューサー) 

新体制のNHK経営委員会に対する意見と質問

2019年12月27日、日本郵政グル―プ三社長が引責辞任し、更に鈴木康雄日本郵政上級副社長の辞任も発表されました。私たちは、鈴木副社長がNHK「クローズアップ現代+」の「かんぽ不正問題」続編放送に対し不当な圧力を掛け続けたことを批判してきましたが、それとともにNHK経営委員会が、副社長の「かんぽ不正」もみ消しに加担した責任は重いと考えます。
ところが、2018年9月25日、鈴木副社長と面会し、日本郵政からの抗議を経営委員会に取り次ぐなど続編の放送中止に加担した森下俊三氏が、あろうことか新しい経営委員長に選ばれました。しかも森下氏は、反省するどころか、今なお筋違いな「ガバナンス論」を盾に、上田NHK会長への厳重注意を正当化し続けています。森下氏は、12月24日の経営委員長就任記者会見で、次のように発言しました。「現場が”経営と制作は分離している”と認識しているとしたら、ガバナンス上の大変な問題である」。私たちはこの発言は重大な誤りであり、NHK経営委員長としての資格に欠けた認識であると考えます。
以下、私たちの見解を述べ、貴職と経営委員会の回答を求めます。

別の市民団体が2019年10月15日に、石原NHK経営委員長(当時。以下、同じ)、森下委員長職務代行者(同上)、経営委員各位に提出した質問書、「日本郵政によるNHKの番組制作への介入に係る経営委員会の対応に関する質問」に対して、石原経営委員長と貴委員会は10月29日、回答をされました。そこでは、経営委員会は、NHKの自主自律を損なった事実はないとして、次のように表明されています。
「去年9月25日に森下委員長職務代行者が鈴木副社長と面会した後、経営委員会は、昨年10月に郵政3社から書状を受理し、10月9日、23日に経営委員で情報共有および意見交換を行った結果、経営委員会の総意として、ガバナンスの観点から、会長に注意を申し入れました。 なお、放送法第32条の規定のとおり、経営委員会が番組の編集に関与できないことは十分認識しており、自主自律や番組の編集の自由を損なう事実はございません。」
この回答に対する私たちの見解は以下のとおりです。

森下職務代行者は、日本郵政三社の社長が連名で経営委員会あてに文書を送った10日前に日本郵政鈴木康雄上級副社長と個別に面会し、NHKへの不信を聞き取り、正式に経営委員会に申し入れるよう伝えたとされています。こうした行為は、経営委員が、自社商品の不正販売が社会的に大きな問題となり、当該問題を取り上げたNHK番組の取材対象となった法人の首脳と非公式に面会し、そこで聞き取ったクレームを経営委員会に取り次ぎ、続編の放送計画に影響を与えた行為ですから、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることはない」と定めた「放送法」第3条に抵触します。また、NHKの全役職員は「放送の自主・自律の堅持が信頼される公共放送の生命線であるとの認識に基づき、全ての業務にあたる」と定めた「NHK放送ガイドライン2015」に明確に違反しています。
「ガバナンスの観点」とは、当初当該番組幹部が郵政に出向いて「番組制作と経営は分離し、会長は番組制作に関与しない」と発言したことを批判してのことと思われますが、放送法第51条は、「会長は協会を代表し、・・・業務を総理する」とあって、これはいわゆる「編集権」が意味する番組内容に関する決定権が会長にあることは意味していません。実際の業務の運営は、放送総局長に分掌され、その上で個別の番組については、番組担当セクションが責任を持って取材・編集に当たっています。
「経営と制作の分離」とは、個別の番組に対して経営者が介入し、政治的判断でゆがめることのないよう、長い言論の歴史の中で培われてきた不文律で、一部の独裁的国家を除いて、世界のジャーナリズムではスタンダードのシステムです。経営委員会が放送法で個別番組への介入を禁じられているのも同様の所以です。
森下俊三新経営委員長は、職務代行者時代、「ガバナンスの強化」を理由とすれば、行政や企業が経営委員会を通して放送に介入できる回路を作ってしまいました。また経営委員会は「総意」としてそれを追認してしまいました、「コンプライアンスの徹底」が求められるのは、経営委員会自身だと考えます。そこで質問です。

[質問―1] 今後も、個別の番組について、「ガバナンスの問題」として申し入れることはあり得ますか?

[質問―2] 森下氏は、経営委員会の席上で、「ネットで情報を集める取材方法がそもそもおかしい。非はNHKにある」と発言しました。しかし、ネットで情報提供を呼び掛けることは「オープンジャーナリズム」の名で放送業界では広く定着している手法です。森下氏は今も「非はNHKにある」と考えていますか。
 また、取材も番組編集の一環ですから、上記のような森下氏の言動は、「放送法」が禁じたNHKの番組編集への経営委員の干渉に当たると私たちは考えます。森下氏の見解をお聞かせ下さい。

[質問―3] 今回経営委員として異例ともいえる三選をされた長谷川三千子氏は、「2012年安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の代表幹事に名前を連ね、経営委員就任時に自らを「安倍氏の応援団」と公言されました。政治的公平が求められる経営委員として、真に適格性があるとお考えですか。
「経営委員会委員の服務に関する準則」は不偏不党の立場に立つことを謳い(第2条、) 「経営委員会委員は、日本放送協会の信用を損なうような行為をしてはならない」(第5条)と定めていますが、上記のような発言を公開の場で行うのはNHKの不偏不党、政治からの自律に対する視聴者の信頼を失墜させるものだと私たちは考えます。長谷川委員の見解をお聞かせ下さい。

以上の質問に別紙住所宛に、1月23日までに各項目に沿ってご回答下さるようお願いします。誠実な回答をお待ちします。

以上
(2020年1月10日)

法務大臣の刑事司法観に私見をコメントする

法務省のホームページに法務大臣・森まさ子の「コメント」が3件掲載されている。いずれも、カルロス・ゴーンの動静に関するものだが、一国の法務大臣たる者が、一被告人に対してこれだけのことを言わなければならないものだろうか。やや大人げない印象を禁じえない。

いずれ、貴重な法務大臣の刑事司法観。全文転載して、私見を付しておきたい。もっとも、この人は、弁護士である。おそらくは弁護士としては、この法務大臣コメントとは別の刑事司法観を持っているはず、と思うのだが。

http://www.moj.go.jp/danwa_index.html

森法務大臣コメント(カルロス・ゴーン被告人関係)ー令和2年1月5日

昨年12月31日,保釈中のカルロス・ゴーン・ビシャラ被告人が,日本の刑事司法制度を批判するとともに,レバノンにいるとの声明を発表したとの報道がなされた。

私は,法務大臣として,この問題を覚知した後,速やかに,事実関係の把握を含め適切な対処に努めるよう関係当局に指示をした。

事実関係については,現在も確認中であるが,ゴーン被告人が日本を出国した旨の記録はないことが判明しており,何らかの不正な手段を用いて不法に出国したものと考えられ,このような事態に至ったことは誠に遺憾である。

我が国の刑事司法制度は,個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相を明らかにするために適正な手続を定めて適正に運用されており,保釈中の被告人の逃亡が正当化される余地はない。

既に,ゴーン被告人に対する保釈が取り消され,また,国際刑事警察機構事務総局に対して我が国が要請した赤手配書が発行された。

検察当局においても,関係機関と連携し,迅速に捜査を行い,ゴーン被告人の逃亡の経緯等を明らかにするため全力を尽くし,適切に対処するものと承知している。

引き続き,法務省としても,関係当局,関係国,国際機関と連携しつつ,我が国の刑事手続が適正に行われるよう,できる限りの措置を講じてまいりたい。

また,出入国在留管理庁に対し,関係省庁と連携して,出国時の手続のより一層の厳格化を図るよう指示したところであり,同様の事態を招くことがないよう,今後とも必要な対応を行ってまいりたい。

註 「赤手配書」とは、国際手配書(INTERPOL Notices)9種の内、「引渡し又は同等の法的措置を目的として、被手配者の所在の特定及び身柄の拘束を求めるもの」をいう。

法務行政の責任者が、「ゴーン被告人が…何らかの不正な手段を用いて不法に出国したものと考えられ,このような事態に至ったことは誠に遺憾である。」「関係省庁と連携して,同様の事態を招くことがないよう,今後とも必要な対応を行ってまいりたい。」ということは、当然であろう。

とは言え、「我が国の刑事司法制度は,個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相を明らかにするために適正な手続を定めて適正に運用されており,保釈中の被告人の逃亡が正当化される余地はない。」には、「おや、そこまで、ムキになって言うかね」という印象。

「保釈中の被告人の逃亡が正当化される余地はない。」は、そのとおりだと思う。しかし、「我が国の刑事司法制度は,個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相を明らかにするために適正な手続を定め」は、理想を述べるもので、現実に「適正に運用されており」は、言ってる本人も、こそばゆいのではなかろうか。

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森法務大臣コメント(カルロス・ゴーン被告人関係)ー令和2年1月9日

先ほど,国外逃亡したカルロス・ゴーン被告人が記者会見を行ったが,今回の出国は犯罪行為に該当し得るものであり,彼はICPOから国際手配されている。

ゴーン被告人は,我が国における経済活動で,自身の役員報酬を過少に記載した有価証券報告書虚偽記載の事実のほか,自己が実質的に保有する法人名義の預金口座に自己の利益を図る目的で日産の子会社から多額の金銭を送金させた特別背任の事実などで起訴されている。

ところが,ゴーン被告人は,裁判所から,逃げ隠れしてはならない,海外渡航をしてはならないとの条件の下で,これを約束し,保釈されていたにもかかわらず,国外に逃亡し,刑事裁判そのものから逃避したのであって,どの国の制度の下であっても許されざる行為である。しかも,それを正当化するために,国内外に向けて,我が国の法制度やその運用について誤った事実を殊更に喧伝するものであって,到底看過できるものではない。

我が国の刑事司法制度は,個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相を明らかにするために,適正な手続を定めて適正に運用されている。
そもそも,各国の刑事司法制度には,様々な違いがある。例えば,被疑者の身柄拘束に関しては,ある国では広く無令状逮捕が認められているが,我が国では,現行犯等のごく一部の例外を除き無令状の逮捕はできず,捜査機関から独立した裁判官による審査を経て令状を得なければ捜査機関が逮捕することはできない。このように身柄拘束の間口を非常に狭く,厳格なものとしている。

刑事司法制度は各国の歴史や文化に基づき長期間にわたって形成されてきたものであり,各国の司法制度に一義的な優劣があるものではなく,刑事司法制度の是非は制度全体を見て評価すべきであり,その一部のみを切り取った批判は適切ではない。

身柄拘束に関する不服申立て制度もあり,罪証隠滅のおそれがなければ妻との面会なども認められる。全ての刑事事件において,被告人に公平な裁判所による公開裁判を受ける権利が保障されている。

そして,我が国は,これまでの警察や検察,司法関係者と国民の皆様の努力の積み重ねにより,犯罪の発生率は国際的にみても非常に低く,世界一安全な国といってよいものと考えている。

もちろん,様々なご指摘があることは承知しており,これまでも,時代に即して制度の見直しを続けてきたものであり,今後もより良い司法制度に向けて不断に見直しをしていく努力は惜しまない。

我が国の刑事司法制度が世界中の方々に正しく理解していただけるよう,今後も,情報提供を行い疑問に答えてまいる所存である。
ゴーン被告人においては,主張すべきことがあるのであれば,我が国の公正な刑事司法手続の中で主張を尽くし,公正な裁判所の判断を仰ぐことを強く望む。

政府として,関係国,国際機関等とも連携しつつ,我が国の刑事手続が適正に行われるよう,できる限りの措置を講じてまいりたい。

「被疑者の身柄拘束に関しては,ある国では広く無令状逮捕が認められているが,我が国では,現行犯等のごく一部の例外を除き無令状の逮捕はできず,捜査機関から独立した裁判官による審査を経て令状を得なければ捜査機関が逮捕することはできない。このように身柄拘束の間口を非常に狭く,厳格なものとしている。」というパラグラフには驚いた。こんなことは言うべきではない。「我が国の公正な刑事司法手続」とは、「無令状の逮捕はできない」という程度のものと思われてしまう。実際そうなのかも知れないが。

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森法務大臣コメント(2)(カルロス・ゴーン被告人関係)ー令和2年1月9日)

昨日のカルロス・ゴーン被告人の会見においては,ゴーン被告人から,我が国の刑事司法制度に対し,様々な批判的な主張がなされた。

その多くが,抽象的なものや,趣旨が判然としないもの,根拠を伴わないものにすぎないものであったが,広く世界に中継されるなどしたものであり,世界中に誤った認識を拡散させかねないものであることから,正しい理解を得るために,昨日申し上げた点に加え,一般論としてではあるが,何点か,冒頭において指摘しておきたい。
なお,個別具体的な事件における捜査・公判活動は,検察当局の責任と権限において行われるべき事柄であることから,法務大臣として,それらに関する主張に対し,事実関係や所感を述べるものでないことを申し添える。

つまりは、すべて一般論だけでコメントをするというのだ。法務大臣という立場からは、そうせざるを得ない。具体的な案件に立ち入ることはでないのだ。おそらくは隔靴掻痒であろう。ならば、的確な反論にはなりようがないのだらら、無理にコメントなどせぬ方がよかったのではないか。

☆我が国の司法制度が「人質司法」であるとの批判がなされたが,昨日も申し上げたとおり,我が国の刑事司法制度は,個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相を明らかにするために,適正な手続を定めて適正に運用されており,批判は当たらない。

   我が国の刑事司法が「人質司法」であるとの批判は多くの法曹に,とりわけ弁護士に共有されているところである。被疑者・被告人の人権が厳格に保障されているとは到底言うことができない。
  その最近での典型事例が、倉敷民商弾圧禰屋事件。民商の事務局員であった禰屋町子さんは、14年1月21日に逮捕され法人税法違反(脱税幇助)と税理士法違反の罪で起訴されたが、徹底して否認を貫き、何と428日間の勾留を余儀なくされた。一審岡山地裁は有罪判決を言い渡したが、懲役2年・執行猶予4年であった。執行猶予を言い渡すべき事件で、428日間の勾留である。これを人質司法という。しかも、この件は控訴審の広島高裁岡山支部で、18年1月に有罪判決が破棄それて差戻されている。以来1年、まだ検察差し戻し審の公判が始まらない。検察の立証計画が整わないのだ。
  法務大臣知悉の事件のはずだが。

☆有罪率が99%であり,公平な判決を得ることができないとの批判がなされたが,我が国の検察においては,無実の人が訴訟負担の不利益を被ることなどを避けるため,的確な証拠によって有罪判決が得られる高度の見込みのある場合に初めて起訴するという運用が定着している。また,裁判官は,中立公平な立場から判断するものである。高い有罪率であることを根拠に公平な判決を得ることができないとの批判は当たらない。

  起訴事件における有罪率の高さは、一面起訴の慎重さを物語るが、他面起訴した事件はなにがなんでも有罪にしないわけにはいかないという検察の悪弊を語ってもいる。このことを水掛け論にするのではなく、多くの冤罪が、後者の側面がら生まれていることを具体的に検証しなければならない。なお、ゴーンのケースが、どういうものか、法務大臣は語ることができない。

☆取調べが長時間であること,弁護人の立会がないこと等取調べ全般に対する批判がなされたが,そもそも,我が国においては,被疑者に黙秘権や,立会人なしに弁護人と接見して助言を受ける権利が認められている。また,適宜休憩をとるなど被疑者の人権に配慮した上,録音録画の実施を含め適正な取調べを行っている。

  この法務大臣の「反論」は、説得力に欠ける。「取調べが長時間であること」「弁護人の立会が認められていない」ことは真っ向から否定することができない。「そもそも」などと言い出すことがゴマカシである。「適宜休憩をとる」「弁護人と接見して助言を受ける権利が認められている」程度のことしか言えないことが、批判されているのだ。

☆検察が公判を引き延ばしており判決まで5年以上かかるというのは問題であるとの批判がなされたが,そもそも,検察当局は,公判手続が速やかに進むよう様々な努力をしている。

  多分これは、法務大臣の言い分が正しかろう。むしろ問題は、公判手続が速やかに進み過ぎることにある。被告・弁護側に、十分な防御の時間が与えられない。とりわけ、ゴーンのように、当該の事件に専念できる弁護人を有する被告人は例外である。多くの被告人は、このような手厚い弁護を期待し得ない。明らかに、経済力による弁護権保障格差が存在するのだ。常に、検察官の迅速な公判進行に対応できるとは限らない。

☆保釈中に妻と会うことを禁止するのは人権侵害であるとの批判がなされたが,そもそも,逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがなければ特定の者との面会制限などはなされない。

    これも当然のことだろう。通常、保釈中の制限住所は自宅となのだから、配偶者と会うことを禁止するなどということはありえない。ゴーンの場合は、例外的に、配偶者との接触が、具体的な逃亡や証拠隠滅の恐れがあると考えられたのだろう。日本の司法一般の問題としての,ゴーンの批判は当たらない。

☆日産や日本政府関係者の陰謀によって行われた捜査であるとの批判がなされたが,そもそも,検察当局においては,特定の利害関係者の陰謀に加担して,本来捜査が相当でないものを捜査するようなことはあり得ない。

  あってはならないことは確かだし、ゴーンの会見の主張に具体性はない。おそらくはないことだろうと思われるが、さりとて、あり得ないだろうか。今のところ、藪の中としか言いようがない。

☆この他にも,ゴーン被告人は,自身の刑事手続に関して,るる主張を繰り広げていたが,いずれにしても,これらの主張によって,ゴーン被告人の国外逃亡が何ら正当化されるものではない。

   それはそのとおりであろう。ゴーンは、弁護団とともに、法廷で自身の刑事手続に関する主張を展開すべきであったし、それができたはずだ。法廷の主張は、メディアも耳を傾ける。レバノンでなければ、主張できなかったはずはない。

☆また,個別事件に関する主張があるのであれば,具体的な証拠とともに,我が国の法廷において主張すればよいのであり,ゴーン被告人においては,我が国の公正な刑事司法手続の中で主張を尽くし,公正な裁判所の判断を仰ぐことを強く望む。

  「我が国の公正な刑事司法手続」「公正な裁判所の判断」というフレーズに、違和感は残るものの、この点については、概ね同意できる。

(2020年1月9日)

 DHCスラップ「反撃」訴訟控訴審では、附帯控訴を予定 ― 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第168弾

DHCスラップ「反撃」訴訟控訴審第1回口頭弁論は、1月27日(月)午前11時~ 511号法廷でおこなわれる。ことは、表現の自由にも、政治とカネの問題にも、消費者の利益にも関わる問題である。是非、多くの方に傍聴いただきたい。

昨年(2019年)10月4日、東京地裁民事第1部で一審の勝訴判決を得た。この判決は、DHC・吉田嘉明が私(澤藤)を訴えたスラップは違法であると明確に断じた。だから、請求認容額(110万円)にかかわらず、勝利感の強い判決で、当方から積極的に控訴する気持にはならなかった。

ところが、被告側DHC・吉田嘉明が控訴し、私は被控訴人となった。控訴審に付き合いを余儀なくされる立場に立つと、660万円の請求に対する110万円の認容額の少なさに不満が募るようになった。そこで、附帯控訴をすることとなった。

原審で原告が請求した損害は以下の3費目である。なお、前件訴訟というのが、DHC・吉田嘉明が私に仕掛けたスラップ訴訟のことであり、本件訴訟が反撃訴訟のことである。
①前件訴訟応訴のための財産的損害(弁護士費用)
②前件訴訟提起による精神的損害(慰謝料)
③本件訴訟提起のための弁護士費用
この三者を合計した損害の内金として660万円を請求した。

これに対する、原判決の認定は、以下のとおりとなっている。
①前件訴訟応訴のための財産的損害(弁護士費用)ゼロ
②前件訴訟提起による精神的損害(慰謝料)     100万円
③本件訴訟提起のための弁護士費用        10万円

まず慰謝料の額が低い。その理由を判決は、「敗訴の可能性(多額の損害賠償債務の負担)の観点から,原告の精神的な損害を過大に評価することは困難である。」という。噛み砕いて言えば、「こんな荒唐無稽の訴訟をされたところで、被告(澤藤)が負けるはずもないのだから、大した心配をすることはなかったでしょう」というのだ。それはなかろう。訴訟が荒唐無稽であればあるほど腹立たしさは募るものなのだ。また、敗訴可能性の濃淡にかかわらず、応訴のための時間と労力を割かねばならない煩わしさには多大なものがある。到底100万円では納得しがたい。

なによりも、前件スラップ訴訟に応訴のための弁護士費用負担分を認めなかったことが不服である。

この金額は本来多額である。訴額6000万円の事件だと弁護士費用の標準額は旧弁護士会報酬規程に則って着手金が247万円である。しかも、これが各審級で必要となる。成功報酬は678万円である。私が、この標準額を弁護団に支払うとなれば、1425万円となる。その一部でも、違法なスラップを提訴したDHC・吉田嘉明に支払わせなければならない。

実は、これまで、違法なスラップ提訴による損害賠償を認容した判決例において、弁護士費用を損害と認定したものは極めて少ない。ところが、最近N国がこの種の判例を作ってくれている。その典型が、判例時報2354号60頁に紹介されている、2017年7月19日東京地方裁判所民事第41部判決。

同判決は、「NHKの受託会社の従業員が放送受信契約締結勧奨のために訪問したことが不法行為に当たるとして提起された別件訴訟につき、権利が事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら、業務を妨害する目的であえて提訴したもので、裁判制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠く不当訴訟であるとして、別件訴訟の原告と提訴を促し訴状の作成に関与した者との共同不法行為責任を認めた事例」と紹介されている。

端的に言えば、N国の指示に従って、視聴者の一人がNHKを被告とする10万円の損害賠償訴訟を提起し,当然のごとくに敗訴した。ところが問題はそれで収まらない。この訴訟をスラップと考えたNHKが、逆に54万円の弁護士費用について損害賠償訴訟を提起してその全額が認容されたという事件である。

注目すべきはNHKの請求が「別件訴訟」の応訴費用についてだけのものであり、判決は訴訟追行に必要な弁護士費用としてNHKが弁護士に支払った54万円の全額を、「相当」と認めた。「別件訴訟」は訴額10万円に過ぎない。しかも、原告2人(視聴者とN国幹部)とも弁護士をつけない本人訴訟である。考えられる限り迅速に審理が終了して判決に至った簡易な事案であって、この判決は控訴なく確定している。

それでも、東京地裁民事41部は、訴額10万円の損害賠償請求事件における被告側の応訴費用である弁護士費用54万円全額を損害として認定し,その賠償を認定した。

これと比較すれば、DHC・吉田嘉明の私(澤藤)に対する前件スラップ訴訟は、訴額6000万円の大型損害賠償請求事件である。しかも原告側は本人訴訟ではなく弁護士が訴訟代理人として付いている。さらに、一審だけでなく、控訴審も上告受理申立審までフルコースを闘った。それでいて、応訴に不可欠な弁護士費用の負担を損害額としてまったく認めず、その部分の認容額がゼロだという。この極端な不権衡は明らかに不当というほかはない。

 N国事件判決中に次の説示がある。不当提訴の応訴費用を相当な損害として認定するには、「当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力等の諸要素を考慮して判断すべきもの」「原告に対する損害賠償請求訴訟が相当数提起されており、その勝敗が、係属中の他の訴訟や今後同種の訴訟が提起される可能性に影響を及ぼし得るものであること等を踏まえ」る、というのである。

DHC案件においても、DHC・吉田嘉明から私(澤藤)に対する前件訴訟の勝敗が、スラップ訴訟提起常習者としてDHC・吉田嘉明の行動に、大きく影響する。私が十分な勝ち方をすれば、吉田嘉明はこれに懲りて、今後同種のスラップ訴訟の提起を断念することになろうる。しかし、私が十分な勝ち方をしなければ、吉田嘉明は懲りることなく、またスラップを続けるだろう。

私の勝訴は社会を益することになり、吉田嘉明が勝てば社会を害することになるのだ。
(2020年1月8日)

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