沖縄知事選序盤情勢 「デニー優勢なれども予断を許さず」
注目の沖縄知事選。その帰趨が、辺野古新基地建設の成否を大きく左右する。のみならず、政局や改憲問題にも大きな影響を及ぼさざるを得ない。
沖縄とは、安保体制と日本国憲法体制との矛盾の結節点である。安保体制派(政権与党)と、日本国憲法派(市民と野党の共闘)が、総力でせめぎ合う最前線。その地の民意の動向は常に注目の的となる。しかも、今回知事選の最大の争点は、アベ政権による辺野古新基地建設強行の是非である。
県民の意思が、辺野古新基地建設強行反対であることは論を待たない。沖縄経済が基地依存を脱して久しい。沖縄の基地は、県民の生活の安全にも経済にも、摘出すべき病巣以外のなにものでもない。
昨日(9月19日)の琉球新報が、世論調査の結果を「承認撤回『支持』7割 辺野古埋め立て」の記事を載せている。「70、60歳代で多く 自民支持層も一定数」の小見出しもある。
国が辺野古新基地を建設するためには、大浦湾の海面を埋立てなければならない。公有水面埋立法は、県知事の許可または承認がなければ海面の埋立はできないこととしている。仲井真元知事は民意を裏切って国にその承認を与えた。翁長知事は、「オール沖縄」勢力の与望を担って、前回2014知事選で仲井真陣営に圧勝して、まずは「承認を取り消した」。
紆余曲折はあつたが、法廷闘争で知事の「承認取消し」は認められないとして確定した。しかし、万策尽きたわけではない。翁長知事は、膵癌末期の症状を押して「承認撤回」の手続に着手し、同知事の死後の8月31日知事職代行者の副知事によって、正式に「承認撤回」の処分がなされた。
今回選挙において選出された新知事の最初の仕事は、「翁長前知事の意向に沿って、仲井真元知事がした辺野古新基地建設のための国の大浦湾海面埋立工事に対する承認の撤回を維持する」のか、あるいは「(翁長知事の)承認撤回を(新知事において)撤回する」のか、判断が迫られることになる。
今回知事選の争点が、「辺野古新基地建設強行の可否」を問うものとは、具体的には、(翁長前知事の)承認撤回を支持するか否かである。世論調査の結果は、県民の7割が「支持」派なのだ。「支持しない」派は2割にとどまる。民意の所在は明らかという所以である。
琉球新報社が沖縄テレビ放送、JX通信社と合同で14日から3日間に実施した電話世論調査の結果、辺野古新基地建設に伴う埋め立て承認を沖縄県が撤回したことについて、「強く」と「どちらかといえば」を合わせて約7割が支持していることが分かった。支持しないと答えたのは約2割だった。県民の間に、米軍普天間飛行場の辺野古移設を阻止したい意思が強いことが改めて浮き彫りになった。8月31日に県が埋め立て承認を撤回してから、その判断についての県民の評価が示されるのは初めて。
承認撤回に「強く支持する」が56・8%、「どちらかといえば支持する」が12・5%だった。一方で「全く支持しない」は12・1%、「どちらかといえば支持しない」は9・2%だった。「分からない」は9・4%あった。
同じ、琉球新報社世論調査については、9月17日に次のような結果が報道されている。
「調査で投票先を決める際に重視する政策」では、
「基地問題」が 41・6%
と最も高い。ついで
「経済、景気、雇用」が 26・7%、
? 「医療、福祉」が13・0%、
? 「教育、子育て」が7・5% と続いた。
知事選の最大の争点となる普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題については
「県外に移設させるべきだ」の割合が最も高く28・1%、
「国外に移設させるべきだ」が21・2%、
「無条件に閉鎖し撤去するべきだ」が19・7%と続いた。
これに対し「辺野古に移設させるべきだ」は17・1%、
「辺野古以外の県内に移設すべき」は4・3%だった。
分からないは9・7%。
約7割が辺野古移設に反対の意見だった。
以上の調査結果は、おそらく沖縄県民の率直な心情なのだろう。この意見分布なら、選挙結果は、翁長承継を標榜し、承認撤回を前面に掲げているデニーの勝利、それもダブルスコアでの圧勝以外にはない。しかし、有権者の現実の投票行動が必ずしもこのような調査のとおりにならないことは、名護市長選で「オール沖縄」の稲嶺候補が敗れたことに表れている。
この知事選は、本来はまぎれもなく「辺野古新基地建設の賛否を問う県民投票」である。県民の多くは辺野古に新基地を作らせたくないと思っている。辺野古移設容認派は2割に満たない。にもかかわらず、「辺野古新基地建設反対」を明言し、翁長知事の埋立承認撤回の立場を承継することを公約に掲げるデニー圧勝の予測とはならない。強大な政権与党が対立陣営に肩入れしているからだ。与党側候補を勝たせるために、辺野古問題での投票行動をひっくり返すだけの経済的利益供与をチラつかせることができるのだ。
だから、自公は、徹底したステルス(争点隠し)戦術をとっている。名護でも成功した「対立よりは協調」「経済振興策をこそ」と訴えている。しかも、県民の一部には、「どうせ国には勝てない。司法も国の味方じゃないか。公正な判決など期待できない」「ならば少しでも、よい条件の獲得を」との気持がある。自公が県民世論を覆して、佐喜真を当選させる目はあるのだ。
だから、序盤情勢についての電話世論調査報道では、慎重な琉球新報としてはデニー優勢とは打てない。
琉球新報社は沖縄テレビ放送、JX通信社と3社合同で14?16日の3日間、県内全域の有権者を対象に実施し、選挙戦序盤の情勢を探った。調査結果に本紙の取材を加味すると、県政与党が支援する無所属新人で前衆院議員の玉城デニー氏(58)と、無所属新人で前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=が接戦を繰り広げている。一方、投票先を決めていない有権者も一定数おり、その投票動向によって情勢は流動的な要素がある。
どちらが優勢とは書かずに、「接戦」となっている。デニーを先に、佐喜真をあとに書くのは、調査の限りではわずかながらもデニー有利の読みなのだろう。それでも「接戦」である。
もう一つの世論調査が公表されている。リサーチコム社のもの。
「沖縄県知事選 投票意向は国政の与野支持層で二分も、序盤は玉城氏が先行」「内閣支持率は全国平均を大きく下回り、支持しないが6割強」とこちらの方が歯切れがよい。
つまりは、国政の与党支持層が佐喜真を応援し、国政野党支持層がデニーを支持している構図だという。「告示直後は玉城デニー氏先行、佐喜真氏追い上げるか」とまとめられている。これは、9月15?17日の調査限りのもの。
電話調査の結果に選挙ドットコムが取材で得た情報を加味したところ、佐喜真氏は8月の調査時点から手堅く支持を広げているものの、玉城氏が幅広く浸透し、先行しています。ただ、調査時点から投票日の30日までは2週間ほどあることから、情勢が変わる可能性もあります。
また、沖縄タイムスの伝えるところによれば、期日前投票が前回と比較して倍増しているという。
「30日投開票の沖縄県知事選で、14日から始まった期日前投票者数が前回2014年知事選と比べ倍増している。16日までの3日間で、11市の総数は1万4628人で、前回同期比で約1・96倍に上っている。市の中で最多は那覇市の3327人で、前回の3・39倍に上っている。最も増加率が高いのは沖縄市の3・95倍で、既に2107人が投票を済ませた。」という。
名護市長選の期日前投票者が異様に多かった。期日前投票者数は異例の当日有権者の44.4%。これが、「オール沖縄」稲嶺候補の思わぬ敗北の一因と言われたことが気にかかる。民意を撹乱することなく、適切に反映する選挙であって欲しいと切に思う。
(2018年9月20 日・連続更新1999日)