私は、新天皇の即位を祝わない。祝意の強制は、まっぴら御免だ。
天皇の交代が近くなると、いろんなことが起きてくる。とりわけ、今回は天皇の生前退位である。象徴天皇制となってから、はじめてのことだ。政権の祝意ムード強調の意図が透けて見える。そのことから、象徴天皇制の政権にとっての利用価値が見えてくる。
一世一元を発明した明治政府は、天皇の生前退位を想定していなかった。おそらくは、生前退位を認めれば、政治の力学によって天皇への退位強制があり得ると考えられたからであろう。旧皇室典範第10条は、下記のとおり規定していた。
第十條 天皇崩スルトキハ皇嗣即チ踐祚シ祖宗ノ?器ヲ承ク
「践祚」(次の天皇への地位の承継)は、「天皇が崩ずるとき」に限られ、譲位は想定されていなかった。つまり、新天皇の即位は、常に前天皇の死去とセットになっていたから、皇位の承継は弔意と祝意とが、合い交じるものとされた。ところが、今回はその弔意の必要がない。あっけらかんとした、新天皇即位の祝賀だけとなった。
ついでに、旧皇室典範第2章(踐祚即位)3か条の条文を挙げておこう。
第二章 踐祚即位
第十條 天皇崩スルトキハ皇嗣即チ踐祚シ祖宗ノ?器ヲ承ク
第十一條 即位ノ禮及大嘗祭ハ京?ニ於テ之ヲ行フ
第十二條 踐祚ノ後元號ヲ建テ一世ノ間ニ再ヒ改メサルコト明治元年ノ定制ニ從フ
これが、「天皇は神聖にして侵すべからず」(大日本帝国憲法第3条)とされた時代の皇位承継法だった。旧天皇が死ぬと、新天皇が直ちに即位して、皇位の正統性を証する「三種の神器」を受け継ぐ。その上で、「即位の礼」と「大嘗祭」が挙行される。そして、「元号を制定して一代の間に元号の変更はしない」というのだ。
ここに出てくる天皇位承継の小道具は、「三種の神器」「即位の礼」「大嘗祭」、そして「元号」である。天皇が神だった時代の、この小道具やらクサイ演出やらが、今の今、真面目くさってそのとおりに行われつつあることが、たいへんに不気味であり、恐いと言わざるを得ない。
この不気味と恐さの由来は、政権が躍起になって天皇フィーバーを盛り上げようしている異様さにある。こんなバカバカしいことを、よい齢をした大人たちが大真面目でやっていることだ。魂胆があるに違いなと思うのが、あたりまえの健全な感覚。
旧天皇制を支える、大道具小道具は無数にあった。その最大のものは、皇軍であり、旧憲法であり、伊勢神宮以下の神社であり、これとは系統を異にする靖国神社であり、教育制度であり、大逆罪であり、不敬罪であり、治安維持法であり、特高警察であり、憲兵であり、思想検事等々であった。
いま、象徴天皇制を支える小道具は、元号・祝日・「日の丸・君が代」・叙位叙勲・恩赦・賜杯・天皇賞・恩賜公園……等々である。
天皇交代フィーバーを盛り上げるために、象徴天皇制を支える小道具も総動員されている。まずは、4月1日以来の新元号フィーバーである。バカバカしくも、このナショナリズムの空気が恐ろしい。
次いで、祝日である。新天皇即位当日の5月1日を休日とすることによる「10連休」が、祝意のムードを盛り上げる。さらに、即位礼正殿の儀の10月22日まで休日となる。その趣旨を内閣府は、こう述べている。
「天皇の即位に際し、国民こぞって祝意を表するため、天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日を休日とする法律が平成30年12月14日に公布され、即位の日及び即位礼正殿の儀が行われる日が休日(祝日の扱い)となりました。」
そして、国旗・国歌(日の丸・君が代)である。本年4月2日に、下記の閣議決定が行われた。
御即位当日における祝意奉表について
御即位当日(5月1日)、祝意を表するため、各府省においては、下記の措置をとるものとする。
記
1 国旗を掲揚すること。
2 地方公共団体に対しても、国旗を掲揚するよう協力方を要望すること。
3 地方公共団体以外の公署、学校、会社、その他一般においても、国旗を掲揚するよう協力方を要望すること。
「御即位当日における祝意奉表」という言葉使いがまことに怪しからん。国民への奉仕者である公務員には、「御即位」と尊敬語を使い、主権者国民の行為に「祝意奉表」と謙譲語を使っている。これは、主客転倒であり、倒錯ではないか。
「地方公共団体以外の公署、学校、会社、その他一般においても、国旗を掲揚するよう協力方を要望すること」は、出過ぎた行為だ。公権力が、主権者国民に天皇への祝意の要請などしてはならない。国旗掲揚の要請など、もってのほかだ。
ことは、国民主権の揺らぎをもたらしかねない。惑わされることなく、主権者意識をしっかりともたねばならない。国民こぞっての祝意のムードに乗せられているうちに、天皇批判がタブーになりかねない。天皇交代への祝意の要請は断固拒否する。祝意の強制など、絶対にあってはならない。はっきり言おう。今回の天皇の交代は税金むだ遣い。なんの目出度いことがあろうか。
(2019年4月24日)