澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「リツィート」も「いいね」も法的責任追及の対象となる。ネトウヨ諸君、中傷誹謗は慎まれよ。

(2020年8月22日)
伊藤詩織さんの大逆襲が始まった。私は、その勇気を称え、その行動を強く支持する。

弱い立場の者が被害に遭ったとき、泣き寝入りをしてはならない。泣き寝入りは破廉恥な加害者を図に乗らせることになる。社会に同種の被害を繰り返させることにもなる。被害者は泣くよりも怒りもて立ち上がらねばならない。

とは言うものの、実はそれはたいへんに困難なことなのだ。被害を受けた者に冷酷なのがこの社会の現実である。被害者の「落ち度」を意識的にあげつらう心ない言葉が、2次被害、3次被害を生み出す。ネット社会では、その被害がたちまちにして巨大なものにふくれあがる。被害者は、直接の加害者に対する責任追及だけでなく、2次被害、3次被害の加害者の責任をも追及しなければならない。その困難を覚悟で、泣き寝入りを拒否して、立ち上がる人に敬意を表せざるを得ない。

伊藤詩織さんは、明らかに刑事事件の被害者である。しかし、官邸に近いとされる加害者は、逮捕もされず起訴も免れた。その不自然な経緯は、官邸の守護神たちが加害者を擁護したとの説を大いに頷けるところとしている。そこで、やむを得ず民事的な手続による反撃を選択せざるを得なくなった。

2017年9月、加害者山口敬之を被告として1100万円の損害賠償を求める民事訴訟を提起したのに対して、山口は2019年2月慰謝料1億3000万円を求める反訴を提起した。

東京地裁〈鈴木昭洋裁判長〉は2019年12月18日、伊藤側主張のとおりの事実認定にもとづき、本訴請求を330万円の限度で認容。山口の反訴請求を全部棄却した。認容額には不満はあっても、紛れもなく伊藤側の勝訴である。山口側からの控訴があって、現在その控訴審が東京高裁に係属中である。

続いて、伊藤詩織さんは2次被害の克服にも着手した。実名で被害を名乗り出て以来、ネットの書き込みによる中傷は目に余る事態となっている。伊藤弁護団からの依頼で、荻上チキをリーダーとするチームが調査したところ、この件に関わる書き込み総件数は70万件に上っていたという。そのうち、名誉毀損相当のものだけでも3万件と報告されている。

最初に手を付けたのが、今年(2020年)6月8日に、漫画家はすみとしこに対する東京地裁への提訴である。虚偽の内容のイラストと文言で違法に名誉を毀損したという請求原因。損害賠償請求額は330万円である。

注目すべきは、同時に、はすみの名誉毀損表現を「リツイート」(転載)したとして男性2人を被告とする訴訟を併せて提起していることである。うち、1人は医師であるという。はすみとしこの名誉毀損行為を2次被害とすれば、この2人のリツィートは3次被害を生じたこととなる。こちらの請求額は、各110万円である。

そして一昨日(8月20日)、自民党の杉田水脈衆院議員に対する220万円の損害賠償請求訴訟の東京地裁への提訴となった。今度は、中傷ツイートに「いいね」ボタンを押すことの法的責任を問うている。弁護団は「何とか誹謗中傷の連鎖を止めたいと思って起こしたアクション」と説明しているという。

杉田が相次いで「いいね」を押したという第三者による中傷ツイートは下記のようなものである。

「枕営業の失敗ですよね。」
「娘いますが、顔を出して告発する時点で胡散臭いです。」
「自称#伊藤詩織は、そもそもレイプの事実関係が怪しすぎる。」
「お前は本当のキチガイか?」
「こいつ詩織が被害者だってマジで思ってんのかな?馬鹿じゃねえの?」
「なんだこいつ 品性ねえのはあんただ」
「確信犯…彼女がハニートラップを仕掛けて、結果が伴わなかったから被害者として考え変えて、そこにマスコミがつけこんだ!」
「ニコニコ顔で自分のレイプ体験を語るヤツが被害者って変だと思わないのかなぁ!?」

ほかにも、伊藤擁護のツイッターアカウントに対する「キチガイ」「見苦しい」「品性ねーよ」などのリプライ(返信)にも「いいね」を押していたという。

表現の自由の限界をめぐっては、常に論争が生じる。「いいね」といえども表現の一態様であって言論の自由の保護を受けてしかるべきだという立論は当然にあり得よう。しかし、そんな一般論ではなく、具体的な場と文言を見なければならない。杉田が「いいね」を押した表現の内容が、明らかに犯罪被害者の心情を傷つけるものであり、国会議員としての影響力をもっ杉田が「いいね」ボタンを押して中傷に同意することで、傷口を広げ深くして痛みを大きくしているのだ。「リツィート」のみならず、「いいね」もまた、2次被害、3次被害を生じさせていることが明らかではないか。

なお、前同日、伊藤詩織さんは、元東大特任准教授の大沢昇平に対しても、ツイートで名誉を傷つけられたとして110万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴している。
大沢は、「刑事裁判でレイプが認められなかったにもかかわらず、その後の民事裁判の結果をレイプを関連付けている」などと投稿。また、破産事件に関する官報の一部と思われる写真とともに「伊藤詩織って偽名じゃねーか!」とツイートした。

匿名に隠れて誹謗中傷をこととするネトウヨ界の住人諸君。他人の人格の侵害には、責任が問われることを知らねばならない。たとえ、「リツィート」であっても、「いいね」でさえも。

もっとも、天皇などの社会的権威や、安倍晋三などの政治的権力者に対する批判の言論については自由度が高い。しかし、弱い立場にある者への寄ってたかっての攻撃は許される余地がない。心していただきたい。

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Published in 土曜日, 8月 22nd, 2020, at 23:17, and filed under 表現の自由.

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