大阪市廃止の住民投票 ー 「維新側のなりふり構わない姿勢は異様だ」
(2020年10月31日)
本日の東京新聞「こちら特報部」の記事が、実によくできている。説得力十分。明日(11月1日)の「大阪市廃止の住民投票」の重要な資料だ。惜しむらくは、投票までに、この記事に目を通す大阪市民がどのくらいいるだろうか。
見出しだけでも、この迫力。ほぼ事態を把握できる。
大阪都住民投票ギリギリでゴタゴタ
維新流不穏な火消し
「行政コスト218億円増」市試算に「捏造」
市長指摘で財政局長が謝罪
職員、報道に責任すり替え
国会代表質問でも筋違いの反論
専門家冷ややか「情報開示を怠った市長こそ問題」
リードは下記のとおり。
大阪市を廃止し四特別区を設置することの是非を問う住民投票は一日投開票される。だが、直前になってドタバタが。市当局が出した「廃止なら年間200億円分の財政コスト増」との試算に松井一郎大阪市長が激怒。市財政局長が「捏造だった」と謝罪会見をしたのだ。維新側は、国会の代表質問まで利用して火消しに必死だが、この不穏すぎる状況の背景には何があるのか。
以上の見出しとリードで、何が問題となっているかがわかるだろう。そして結論が、以下の「デスクメモ」だ。
「松井市長は特別区の収支は黒字になるとしてきた。それだけに、年二百億円もコスト増になるという試算は、許せなかったのだろう。だからこそ、市財政局長に「捏造」とまで言わせて謝罪させたということか。だが世間には、その強列な火消しぶりの方が目に焼き付いたはずだろう。」
つまりは、仮に住民投票の結果、大阪市廃止が実現するようなことがあれば、財政コスト増が生じる。その額は現状に比較して年間218億にも達するというのだ。素人の算定ではない。プロ中のプロと言ってよい大阪市財政局の試算なのだ。この試算が絶対ではないことも、記事には書き込まれているが、「有力な試算」であることには疑問の余地がない。
問題は二つある。一つは、このような有力な「大阪市廃止のデメリット」に関して、提案側が責任ある説明を回避していること。【専門家冷ややか「情報開示を怠った市長こそ問題」】という見出し。大阪市民に、「大阪市廃止の是非判断に関する情報」が提供されていないのだ。市民は、「廃止のメリットとデメリット」の両者を比較して賛否を決める。ところが、市長から市民へは、「メリット情報だけが伝えられ、デメリット情報は隠匿されているのだ」。住民投票の主役は、投票する市民でなければならないが、実態は市長が諮問を操作しているのだ。東京新聞の記事は、そのことをよく抉り出している。
問題のもう一つは、「維新流不穏な火消し」の見出しに見られる、情報操作の強引なやり方である。なりふり構わぬ手口に。局長を恫喝して試算を撤回して謝罪させ、国会代表質問でも筋違いの反論をぶち上げる。その体質を問題としている。
不利な情報の隠匿・改ざんは、まるでアベ政権なみだ。その点では同様の体質。しかし、アベは、下僚に忖度をさせた。ところが維新には、下僚が忖度してくれない。そこで、強権発動となる。東京新聞の記事は、これに怒っている。怒りが、立派な記事の原動力だ。
「一般的に、住民が多ければ多いほど行政の仕事は効率が上がり、一人当たりのコストが割安になる。大阪都構想は現在の市を四つの特別区に分割する。では、現在の人口を四分割して試算するとどうなるのかー。毎日新聞記者のそんな取材に応じ、市が『スケールメリツトを端的に表し、意味があると思って出した数字』(東山局長)だった。」が、同局長は松井市長の逆鱗に触れ「あり得ない数字だろ、虚偽だろ」と指摘されて、メディアに対して「捏造だった」とまで言わせられたのだ。
記事中のコメンテーターの言が良い。
政治評論家の森田実氏は「国民の負託を受けた国会議員が大阪の問題を(代表質問で)長々と弁ずるのはナンセンス」とばっさり。馬場氏が毎日新聞批判をしたことも「住民投票で形勢が悪くなりそうだとなると、維新の延命のために国会でデタラメをいう。国会議員としての誇りも品もない。辞職すべきだ」と痛烈に批判する。
都構想問題に詳しい立命館大学の森裕之教授(地方財政学)は「四特別区への分割は例えるなら、一家四人の暮らしから、一人一人が家を持つようなもの。教育や福祉などの標準的な住民サービスを維持するためのコストは増えるが、増加分に対する国の補助はない。それで二百億円増加というわけだ。当局の試算も毎日の報道もその限りでは間違っておらず、松井氏の印象操作ははなはだしい」と憤る。森氏も同様の試算を他の研究者ど進めており「政令市でなくなることで減るコストも数十億円分あり、それを合算するとコスト増は二百億円を下回りそうだ」という。だが、「そもそも財政状況がどう変わるかきちんと試算するのは市長の責任。それを怠った松井氏の怠慢こそが問題だ」と話す。
「維新側のなりふり構わない姿勢は異様だ。東山局長の謝罪会見を聞いたジャーナリストの吉富有治氏は「森友学園」をめぐる公文書改ざん問題が重なったという。「松井市長の言い分が正しいと仮定するなら、職員の過ちの責任は松井氏にあり、市民への背信として松井氏がまず謝罪すべきなのに、部下をねじふせて『誤った考えに基づき試算した』とまで言わせた。メディアや職員に責任をすり替え、都合の悪い情報はうそをついてもつぶす。自らを責任のらち外に置き、敵をつくって批判しては勢力を広げてきたのが維新のやり方。今回も賛成多数となれば『勝利』と、なりふりかまわぬその手ロが国政に広がる可能性がある。まゆにつばをつけて警戒すべきです」
厳しいが、全て同感である。明日の投票の結果に期待したい。