沖縄のコロナ禍第6波は、安保法体系がもたらしたものである。
(2022年1月8日)
我が国には日本国憲法を頂点とする法体系が構築されて「法の支配」が貫徹されている…はずである。しかし、現実には「安保法体系」というもう一つの法体系が我がもの顔に日本国憲法の法体系を侵蝕している。
田中耕太郎長官時代の最高裁大法廷が、「統治行為論」という「法論理」で、「安保法体系」の「日本国憲法体系」からの独立性、ないしはアンタッチャブルな正確を容認してしまった。以来、「安保法体系」は、ひっそりと日陰に存在しているのではない。大手を振って堂々と自らを誇示しているのだ。
「安保法体系」が突出するところ、日本国憲法が保障する平和主義だけでなく、人権尊重も影をひそめることになる。いつの間にか安保容認論に毒された世論の下においても、ときに安保法体系の反国民性が無視し得ないものとして映ることがある。いま、沖縄で猖獗を極めつつあるオミクロン株の蔓延はその典型である。
沖縄県における感染状況が急激に悪化している。1月6日の新規感染者は981人、7日は1414人、そして本日(1月8日)が1759人と報告されている。メディアはようやく「地位協定という穴」「日本の主権侵害」として報道を始めたが、問題は以前からのものだ。
「米軍基地が集中する沖縄県で新型コロナウイルスの感染が急拡大している。感染力の強い変異株「オミクロン株」が基地を経由して市中に広がった可能性が高く、5日の県内の新規感染者数は昨夏の緊急事態宣言中以来となる600人台となった。同じく基地がある山口県でも感染者が急増しており、日本の水際対策が米軍に適用できない日米地位協定の規定と米軍の甘い感染防止対策が、国内のオミクロン株流行を早めた形だ。
政府は新型コロナの封じ込め策として、海外からの入国者を制限するなどの水際対策を続けてきた。だが、海外から軍用機などで入ってくる米軍関係者は規制の対象外となる。協定は在日米軍と米軍関係者らの法的地位を定めた取り決めだが、米側に大きな権限が与えられ、日本の主権が事実上及ばないためだ。」(1月6日・毎日)
NHKの集計によれば、昨日(7日)までの1週間における人口10万人当たり感染者数は、都道府県単位で沖縄県がダントツの239.23人、次いで岩国基地を要する山口県が46.91人となっている。
この沖縄の感染者数に驚かざるを得ないが、琉球新報の本日(1月8日)の報道では、基地内の感染密度はこれよりはるか高い。「沖縄米軍のコロナ感染 世界最悪級に…10万人当たり1905人 本紙試算」との見出しで、「基地内の直近1週間の新規感染者数を人口10万人当たりに換算すると2千人に迫り、世界最悪レベルとなる」とされている。
同紙は、「2021年12月26日までの1週間、新規感染者数が最も多い米国は人口10万人当たり358・2人。新規感染者数が米国に次いで多い英国は同901・3人となっている」とも報じており、最悪の基地内感染から、基地外に「滲み出している」ことがよく分かる。沖縄でも、岩国でも、オミクロン株のゲノム解析から、感染の拡がりが基地の中から外に出たことが「確認」されてもいるという。
玉城知事は2日の会見で「県の危機意識が米軍に共有されていない。激しい怒りを覚える」と指摘。「日米両政府はこの問題を矮小化せず、日米地位協定の構造的な問題だという意識を持ってほしい」と強調した。ただ、政府の地位協定見直しの姿勢は消極的と伝えられている。
地位協定は、1960年締結の「新安保条約」に基づいて、旧「行政協定」に替わるものとして締結された。その第9条1項と2項が以下のとおりである。(3?6項略)
1 この条の規定に従うことを条件として、合衆国は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族である者を日本国に入れることができる。
2 合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される。ただし、日本国の領域における永久的な居所又は住所を要求する権利を取得するものとみなされない。
この条文を根拠に、基地内の軍人軍属には、出入国審査・住民登録の義務がない。出入国の際の必須手続であるCIQ(税関 (Customs)、出入国管理 (Immigration)、検疫 (Quarantine))の全てが免除される。だから、日本国法に基づく強制ができない。
米兵は、オミクロンとともに米国から日本国内の基地に直行し、あるいは空港でのチェックをスルーして、フリーパスで基地に入ることができる。そして、基地のゲートから街の酒場へも繰り出すことができる。そう。日本憲法の法体系を凌駕する、安保法体系が健在だからこそなのだ。