「今年訪れるべき世界の52カ所」― その第2位に盛岡
(2023年1月19日)
本日は憲法も人権も民主主義も無関係。私の故郷の話題である。「それがどうした?」と言われれば、「いえ、どうもしません。つまらぬ話題で済みません」と謝るしかない。
あのニューヨークタイムズが、毎年の年頭に独自の情報を集め独自の基準で旅行先を紹介しているのだそうだ。今年も、1月12日に「2023年に行くべき(世界の)52カ所」を発表した。そのトップは、イギリスの首都ロンドン。世界に知られた大都会、歴史に溢れた街でもある。これには驚かない。さもありなんと思わせる。
これに続く第2位が、なんと盛岡だという。私の故郷だ。これは驚くべきことではないだろうか。東京・大阪ではない。奈良・京都・鎌倉でもない。札幌・小樽・函館でも、倉敷・津和野・日田でもなく、那覇・金澤・静岡でもない。いったい、どうして盛岡なのだろうか。
盛岡、けっして印象深く目立った街ではない。NHKラジオで全国の天気予報を聞いていると、仙台の次は秋田に飛び、その次は札幌となる。土地の人のプライドは高いが、全国では認めてもらえない。東北では、仙台以外は、なべて「その他」の街でしかない。
盛岡市が選ばれた理由の第一は、「大正時代に建てられた和洋折衷建築や、現代的なホテルのほか伝統的な旅館もある。城跡も公園になっていて、歩いて楽しめる街」との評価だという。なんという薄弱な世界第2位の根拠。これなら、仙台も、会津若松も、山形も、二本松も、みんな2位ではないか。
もっとも、推薦理由はそれにとどまらず、東京から新幹線で数時間で行ける便利さや、山に囲まれ川が流れる風景を紹介し「混雑を避けて歩いて楽しめる美しい場所」「完全に見落とされてきた街」と、盛岡を再評価する内容になっているともいう。そうか、「完全に見落とされてきた街の魅力」なのか。やや複雑な評価。褒められているのやら貶されているのやら。
さらに、名物の「わんこそば」やコーヒー豆にこだわった喫茶店など、食についても紹介されているという。結局はその程度なのだ。その程度なのだが、訪れた人に、文章にはしにくい他にない魅力を感じさせるものなのだと理解しておきたい。
52都市の中には、19番目に福岡市が選ばれているという。「焼き鳥やラーメンだけでなくワインやコーヒーなども屋台で楽しめる」と博多の中洲を紹介しているとか。これも、大した推薦理由とは思えないが、博多も魅力的な街である。どうして、2位と19位かは分からない。定量的評価は難しいのだ。
ニューヨークタイムズのホームページには、秋の紅葉の時期に盛岡城跡公園で撮影したと見られる動画が掲載されている。これを「人混みを避けて歩いて楽しめる美しい場所」と言われれば、まったくその通りである。世界で何番目かは問題ではない。
この山に囲まれ川が流れる美しい穏やかな街の風景は、乱開発から守られなければ維持できない。また、ここに住む人々の生業の持続なくしては維持できない。人々の文化的営みなくしては訪れる旅人を楽しませる街の空気の醸成もあり得ない。
人々の経済活動と、環境の保護と、住民自治と…。やっぱり、こんな話題にも、人権や民主主義が関わらざるを得ないようだ。
それにしても、盛岡の5月は、生命の息吹にあふれた地上の天国である。いや、盛岡に限らない。東北のすべてがそうだろう。いや、そう言えば秋も捨てがたい。
汽車の窓 はるかに北にふるさとの山見え来れば 襟を正すも(啄木)
方十里 稗貫のみかも稲熟れて み祭三日 そらはれわたる(賢治)