澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

トランプのスラップを違法として、フロリダ地裁が1億円超の支払いを命令。

(2023年1月22日)
 スラップとは、自分に対する批判の言動を嫌って、これを牽制し萎縮させる目的で提起する民事訴訟を言う。侵害された自分の権利を回復しようという提訴ではなく、提訴自体で被告やその周辺に対する言動の萎縮効果を狙うものとして、ダーティーなイメージ甚だしい。

 そのスラップを多発する常習者と言われる者がいる。かつては武富士、つい先日まではDHC・吉田嘉明、そして今は統一教会など。それぞれにスラップ専門弁護士が付いている。その責任は、弁護士という職責に照らして重大である。

 スラップの本場はアメリカだったが、スラップの猛威を食い止めるために、アメリカの各州に反スラップ法が制定された。そのため、アメリカではスラップは過去のものかという印象があった。が、必ずしもそうではないようだ。やはり、うさんくさい人物がスラップの常習者となっている。その典型人物が、懲りずに再度の大統領の座を狙っているドナルド・トランプ。彼にとって、スラップは麻薬のごとき、妖しい魅力があるもののごとくである。

 そのトランプが、フロリダの地方裁判所から、スラップ提起を理由に、1億円超の支払いを命じられたという。一昨日(1月19日)のこと。トランプとスラップ、なるほどイメージがよく似合う。それにしても、1億円である。日本とはケタが違う。

 「トランプ氏は訴訟乱用 フロリダ地裁が1億円超支払い命令」(共同)、「訴訟は『政治目的の乱用』 1億円超の支払い命じられ」(朝日デジタル)、などと報じられている。

 問題のスラップは、トランプが2022年3月にフロリダ州の連邦地裁に提起したもの。「16年の大統領選で、自分の陣営がロシアと共謀したという虚偽情報を広げた」などと主張し、その大統領選を争ったヒラリー・クリントンや、ロシアの動きについての捜査を指揮したコミー元連邦捜査局(FBI)長官らを被告としたもの。裁判所は、わずか半年後の同年9月トランプの請求を退けた。

 おそらくは、その後に反スラップ法に基づく審理が進行したものと思われる。4か月で裁判所は、トランプと代理人となった弁護士らに、賠償を命じた。その迅速さに驚かざるを得ない。

 朝日デジタルはこう伝えている。
 「19日の決定で、裁判所は『訴訟は、最初から提起されるべきではなかった。常識的な弁護士なら提訴しなかった。(提訴は)政治目的であり、訴状には理解できる法的主張が一つもない』と指摘。また、『トランプ氏とその弁護士たちによる裁判の乱用は、法の支配を損なう』と厳しく批判した」

 共同は、判決の説示を「理性的な弁護士であれば提訴することはなかった」と伝えている。その上で支払いを命じられた賠償額は、「約93万8000ドル(約1億2000万円)だという。この金額の根拠はよく分からないが、この金額なら、十分に応訴費用をまかない、さらに抑止効果も期待できよう。「トランプ氏はこれまでも、他の政治家やメディアを相手に訴訟を乱発してきたが、こうした行動に影響を与える可能性もある」と報道されている。

 なお、私(澤藤)の、DHC・吉田嘉明に対する、(スラップ被害の)損害賠償請求での認容額は、165万円に過ぎなかった。これでは、訴訟費用実額にも足りない。予防効果も十分ではない。

 報道は、いずれも短い記事で十分には分からない点が多い。フロリダ州の反スラップ法の内容もよく知らないし、それが、本事件でどう機能したか、よく知りたいところである。

 それでも、注目に値するいくつもの点を指摘できる。

 まず、裁判所の判断の迅速性に驚かされる。
 トランプ側の提訴が2022年3月、これを裁判所が「退けた」のが同年9月。そして、トランプ側に100万ドルに近い支払いを命じたのが、今年の1月19日。おそらくは、通常の訴訟手続ではない。反スラップ法あればこその迅速な審理なのだろう。この迅速性は、スラップがもたらす社会の言論の萎縮効果を減殺するために、不可欠というべきであろう。

 次いで、トランプだけでなく担当弁護士にも賠償が命じられていることに注目せざるを得ない。
 これが、反スラップ法による効果なのか、一般法での共同不法行為なのか、興味を惹くところ。いずれにせよ、弁護士の専門家としての倫理に反した行為の責任は重い。

 そして、1億円を超える賠償金額である。
 おそらくは、懲罰的損害賠償が働いているのだ。日本ではこの高額賠償は、考えられないが、このような高額判決あってこそ、表現の自由が守られることになる。
 
 さらに、「トランプ氏とその弁護士たちによる裁判の乱用は、法の支配を損なう」という地裁の決定が興味深い。
 日本の最高裁判決では、「裁判を受ける権利」(憲法32条)の濫用論での違法性認定にとどまる。これに比較して、「法の支配を損なう」は、最大級の違法非難ではないか。

 日本にも反スラップ法が欲しい。喉から手が出るほどに欲しい。
 

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