「法と民主主義」《特集・第五福竜丸被爆から70年― 突きつけられた課題の今》ご購読のお願い。
(2024年8月1日)
連日の猛暑と豪雨の中で暦は8月になった。間もなく6日と9日を迎え、やがて15日となる。戦争の惨禍を心に刻み、平和を希求すべき季節、8月。
昨日(7月31日)、「法と民主主義」2024年8・9月号【591号】が発刊となった。特集は、この時期にふさわしく、《第五福竜丸被爆から70年― 突きつけられた課題の今》。この時期にふさわしいという理由は、原水爆の禁止を求める平和運動は、1954年の第五福竜丸被爆を期に国民的大運動となったからだ。
なお、今号の責任編集担当は、私である。公益財団法人第五福竜丸平和協会の全面協力を得て、充実した内容になっている。あらためて、協会に篤く御礼を申し上げたい。
リード(抜粋)
「第五福竜丸」がビキニ環礁で被爆してから、今年で70年になる。本特集は、70年前の衝撃を振り返り、この時に提起された課題の現状を確認しようとする企画である。ことは、人類の生存に関わる重大事である。事態は、今なお深刻であるが、人類の叡智と良識に根差した平和を求める運動の昂揚に光明を見出したい。
1954年3月1日、アメリカは南太平洋上で「ブラボー」と名付けられた15メガトンの大気圏内水爆実験を行った。広島に投下された原爆の1000発分の規模である。爆心地から東に160キロの海域で操業中の第五福竜丸船員23名全員が、その死の灰を浴びて「急性放射線症」に罹患した。同月14日、同船が母港焼津に帰港して日本中がことの重大さに驚愕することになる。各地の漁港に水揚げされた「原爆マグロ」が廃棄処分となり、全国に「放射能の雨」が降った。そして、9月23日には無線長久保山愛吉氏が闘病虚しく、国民注視のうちに亡くなった。この悲劇の体験は、あらためて原水爆と放射線の恐怖を国民共通のものとし、原水爆禁止を求める国民運動の発火点となった。
同年3月の内に神奈川県三崎町と静岡県焼津市の各議会が、全国に先駆けて原爆禁止の決議を成立させ、4月からは各地で原水爆反対の署名運動が始まっている。この署名運動は前例のない規模で国内から海外に広がり、最終的な署名者数は日本国内で3000万人、世界では6億人を超えたとされる。
このうねりは、翌1955年8月の第一回原水爆禁止世界大会の開催となり、9月には「原水爆禁止日本協議会」の結成に至る。また、翌56年8月には「日本原水爆被害者団体協議会」(被団協)の結成を見ている。さらに、原水爆の禁止を求める声は世界の良識を動かし、ラッセル・アインシュタイン宣言を経て、核兵器廃絶を目指す国際世論を形成した。
久保山愛吉氏が遺した「原水爆の被害者は、私を最後にして欲しい」という言葉は、幾つかの課題を提示している。まずは、核兵器の廃絶である。核抑止論の神話に支配されて核軍拡と核拡散を進めている世界の異常を正気に復さなければならない。今、その鍵となる現実的な運動課題は、核兵器禁止条約の世界各国での批准の実現である。
次いで、放射線の恐怖から人類を救う課題である。入市被曝・黒い雨・ビキニ被災・福島原発事故・原発の存廃と連なる問題として顕在化しているが、本来は地球史的な環境問題である。核兵器だけでなく、原発事故がもたらした地球規模の環境汚染が人類の生存を脅かしている。
さらに、核被災の被害救済も突きつけられた課題となっている。ビキニで被災した漁船は第五福竜丸だけではなかった。高知船籍船を中心に900隻もの被災漁船があった。もちろん、現地住民の被害は遙かに深刻である。広島・長崎の被爆者救援は十分ではない。被害を確認し責任を明確にすることは、再発の防止に不可欠である。世界終末時計が「設置」されたのは1947年。この時の表示時刻は、終末までの時間は「あと7分」と警告された。米ソの核開発競争が進んだ1954年当時には、時計の針は「2分前」まで進んでいた。幸い、冷戦終結の1991年には、針は「17分前」まで戻ったが、ロシアがウクライナに侵攻して戦術核兵器の使用を口にしている今、終末時計は「90秒前」を指している。危機は、ここまで進行しているのだ。核兵器の恐怖も、放射線の脅威も深刻ではあるが、ビキニ事件を機に世界に昂揚した反核運動は今なお健在である。
本特集には10本の貴重な論稿をいただいた。概要をご紹介しておきたい。
◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆ビキニ事件とラッセル=アインシュタイン宣言 … 奥山修平
◆広島、長崎とビキニを結びつけるもの
── 苦しみと孤独に耐え続けた原爆被害者が立ち上がった … 田中煕巳
◆キャッスル作戦・ブラボー実験と被ばく … 豊?博光
◆核兵器禁止条約 ── その意義と批准に向けた運動の現在 … 川崎 哲/浅野英男
◆地球環境汚染問題としての放射線被曝 ── 人類史的視点から … 樋口敏広
◆核実験による日本漁船の被災 … 市田真理
◆高知のビキニ事件 ── ビキニ被ばく船員訴訟の原告として … 下本節子
◆ビキニ被ばく船員訴訟 ── 力による切り捨てと時間の壁を越えて … 内藤雅義
◆反核運動における法律家の役割 ―― 「原爆裁判」を材料として … 大久保賢一
◆第五福竜丸は航海をつづける … 安田和也
◆資料:「朝日新聞」投書「沈めてよいか第五福竜丸」/美濃部都知事メッセージ
特集以外の記事は以下のとおり。
◆連続企画・憲法9条実現のために(53)
アジアの民主的法律家によるCOLAP日本大会 … 笹本 潤
◆司法をめぐる動き〈96〉
・7月3日優生保護法国賠事件最高裁大法廷判決 ── すべての優生手術被害者の解決へ道開く … 新里宏二
・6月の動き … 司法制度委員会・町田伸一
◆メディアウオッチ2024●《問われるジャーナリズムの役割》
国民の「知る権利」と「公益通報」 知らせる責任、知らせる義務 … 丸山重威
◆とっておきの一枚 ─シリーズ?─〈№30〉
今も「熱血弁護士」 … 梓澤和幸先生×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈№61〉
「憲法問題は先送りできない課題の最たるもの」と発言する岸田首相 … 飯島滋明
◆書籍紹介
◆時評●地獄の門の扉開く地球環境と国際社会の混迷 … 鷲野忠雄
◆ひろば●問われる民主主義と選挙制度 ── 24 東京都知事選 … 丸山重威
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