集団的自衛権「限定容認」閣議決定の無理無体
本日(6月10日)の各紙朝刊が、「集団的自衛権:『限定容認』で20日にも閣議決定へ」「閣議決定骨子判明」と報じている。これまでの「与党で一致することが極めて重要。時間を要することもあるだろう」という首相の構えからは、急旋回の方針転向。安倍政権は、どうしてこんなにも焦っているのだろうか。集団的自衛権行使容認問題では、無理に無理を重ねて、国民の不信と保守陣営の軋みや亀裂を招いている。まったく余裕が感じられない。
それでも、強行しなければならないとする判断は、「やれるとしたら今しかない」「議席数も支持率も、今が最大瞬間風速の時」「この機を逃せば、永遠に憲法解釈変更は不可能」との認識に基づくものであろう。
おそらくは、政権中枢には、「現在の政権与党の議席占有率は小選挙区のマジックで掠めとったもの」「国民の支持の実態は、議席数の見かけとは大きく離れている」「第1次安倍政権も、政治問題を前面に出して支持を失いみっともなく崩壊した」「現政権が順調なのは経済が好調なうち」という意識が強いものと思われる。
この点を、本日の朝日は、「首相が閣議決定を急ぐのは、今年後半にかけて景気回復が鈍化し、高い内閣支持率を維持してきた政権の勢いがそがれる事態を懸念しているためだ。安倍政権の命運がかかる経済政策では、政府が今月まとめる新たな成長戦略と『骨太の方針』に対する市場の反応が見極めにくい。首相は今年末に消費税率10%への引き上げの判断も迫られる。」と解説している。
毎日の報道では、「集団的自衛権の行使容認など安全保障法制整備のため、政府が今国会中を目指す閣議決定の原案が9日、判明した」とし、その内容を「集団的自衛権は『自国の存立を全うするために認められる必要最小限度の武力行使』に含まれるとの考え方を表明。その上で『集団的自衛権を行使するための法整備について今後検討する』と明記する。行使は認められないとしてきた現行憲法解釈を事実上変更し、日本の武力行使を個別的自衛権に限ってきた長年の憲法9条解釈を根本から転換する内容だ」と報じている。
また、その時期については、「閣議決定は20日にも行う案が政府内で浮上しており、政府高官は『調整局面に入ってきた』と述べ、公明党の理解は得られるとの期待を示した」「安倍晋三首相は今国会中の20日にも閣議決定する構え」としている。明らかに、与党協議が進展しないことに業を煮やした政権が、公明党に期限を切って最後通牒を突きつけたのだ。このまま20日閣議決定するとなったら、公明党から閣議に参加している太田昭宏国土交通大臣は窮地に陥ることになる。
公明党が、「平和の党」としての立党の精神を守り抜けるか、それとも政権の「下駄の雪」でしかなかったことになるのか。公明党の正念場でもある。
一方、読売は相変わらずの安倍政権提灯持ち役。従来型保守のイメージではとらえられない極端な論調で、「集団的自衛権『容認』閣議決定へ調整を急げ」という社説を掲げている。
さすがに、冒頭の一文は、「日本の安全保障を左右する問題だけに、徹底した議論は必要だ」となっている。そのとおり、徹底した議論を尽くすべきで、押し付けや恫喝をすべきではない。また、「徹底した議論」の透明性確保が重要で、密室での取引で収めてはならない。これまで公表されている議論の経過を追えば、「必要な徹底した議論」がなされていないことは明瞭ではないか。
にもかかわらず、これに続く文章が「一方で政府・与党は、時期が来れば、きちんと結論を出す責任がある」という。今、問題は、今会期内の閣議決定が必要かという文脈。到底、議論を尽くしての「きちんとした結論を出す』時期が到来しているとは考えがたい。それこそ、「無責任」と言わざるを得ない。
読売社説の意味のある見解は次の部分だけ。
「必要最小限の集団的自衛権に限って行使を認める『限定容認論』は、過度に抑制的だった従来の見解とも一定の整合性が取れる、現実的な解釈変更と言える」
微妙な表現である。限定容認論は、集団的自衛権の行使を違憲としてきた従来の政府解釈との「一定の整合性が取れる」というのだ。「一定の」という言葉の選択を微妙と言わざるを得ない。もちろん、「従前の解釈と整合」しているとは言えない。「従前の解釈と違う」とはなおさら言えない。そこで「かろうじて」「ギリギリ」「何とか」「曲がりなりにも」「どうにかこうにか」などとは言わず、「一定の」整合で収めたのだ。
あらためて、5月15日の、集団的自衛権に関する安倍記者会見の一節を記しておきたい。
「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許されるとの考え方です。憲法前文、そして、憲法13条の趣旨を踏まえれば、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために、必要な自衛の措置を取ることは禁じられていない。そのための、必要最小限度の武力の行使は許容される。こうした従来の政府の基本的な立場を踏まえた考え方です」
さすがに、読売もこの安倍の牽強付会には付いてはいけなかったということだ。
(2014年6月10日)