「絶対に票入れぬよう名をメモる」
毎日新聞に毎日掲載の「仲畑流万能川柳」欄。時事ネタ・政治ネタは必ずしも、この川柳欄の得意分野ではないが、世事万端に多様多彩、眺めて楽しいし感心すること頻り。高踏趣味でなく庶民の目線であることが誇らしげである。毎日18句掲載のうち1句を秀逸句として筆頭に挙げるが、「秀逸」句の選定にはおそらく誰も得心しない。ということは、厖大な没句の中に、多くの秀句が隠れているのだろう。この点、人生模様と変わらない。
句の感想や解説など野暮は承知で、11月19日から本日(23日)まで最近5日の掲載句から、各日1句を牽強付会に引用して紹介する。はからずも、常連ばかりの作となった。
19日 絶対に票入れぬよう名をメモる 愛知 舞蹴釈尊
これは、落選運動支援句である。戦争法に賛成し、我が国の立憲主義・民主主義・平和主義をないがしろにした、自民・公明両党を中心とする国会議員を落選させなければならない。安倍政権との親密さを隠さず改憲勢力の一端をなす大阪維新の候補者も「絶対に票入れぬよう、名をメモって」おかなければならない。
「安保関連法賛成議員の落選運動を支援する・弁護士・研究者の会」(略称 落選運動を支援する会)は、満を持して明日(11月24日)活動を開始する。ホームページも正式に起ち上がる。もちろん、落選運動対象議員を具体的に特定して、「絶対に票入れぬよう」呼びかける。票入れぬよう呼びかけるだけでなく、それぞれの予定候補者について、徹底した「身体検査」の実施に参加するよう呼びかける。違法を確認できたものから、順次告発を続けていく。
ぜひご注目いただきたいし、積極的に運動にご参加いただきたい。最低限、票を入れてはならない議員・候補者を、会のホームページからメモしていただきたい。そして、大いに拡散していただきたい。
20日 見るからに社会の縮図組体操 和歌山 破夢劣徒
運動会での組み体操は、昔もあった。が、規模は小さいもので、崩れることは滅多になく、仮に崩れたところで、やり直せば済むだけのものだった。それが今組み体操は、観客からの見映えよろしき大規模なものに進化し、それ故に危険なものになっているという。この句は、これを「社会の縮図」と着眼している。
段数を増し規模を拡大することによって、下層にあって上層を支える者の重圧は増すことになる。上層に位置する者は高みにあって安定感に乏しく、落下したときの被害は大きくなる。何よりも組み体操全体が、規模の拡大に伴ってリスクも増大する。崩壊の危険が増し、崩壊時のダメージが修復不能なものとなる。これこそ、社会の縮図ではないか。言い得てまことに妙である。
21日 抑止力最後は核に辿りつく 矢板 次男坊
この句は限りなく替句の応用範囲が広い。抑止力というものの本質が、実にファジーだからなのだ。
抑止力最後は憎悪に辿りつく
抑止力最後は増税に辿りつく
抑止力最後は徴兵に辿りつく
抑止力最後は国家総動員に辿りつく
抑止力最後は密告社会に辿りつく
抑止力最後はファシズムに辿りつく
抑止力最後は戦争に辿りつく
抑止力はなから戦争狙ってる
22日 桃太郎鬼のいる島侵略し 取手 崩彦
桃の実伝承はともかく、鬼ヶ島征伐説話は戦前日本の対外進出と符節を合わせたものなのだろう。1930(昭和5)年初版発行の柳田国男「日本の昔話」(108話)の中には桃太郎話しは採話されていない。昔から不思議に思っていた。鬼はどんな悪事を働いたというのだろうか。鬼の宝物を奪ってくれば、明らかに強盗ではないか。桃太郎が押し入ったのは、本当に「鬼」の住む島だったのだろうか。
川柳子は、桃太郎一味を一国になぞらえて「侵略」と喝破した。軍事大国とその目下の同盟国による、集団的自衛権行使を名目とする侵略行為。その侵略行為が、侵略する側の国民には、童話や説話として抵抗感なく子どもたちにも語られるのだ。鬼の子どもたちには、恐るべき侵略者へのジハードが語られているかも知れない。
23日 経験が邪魔な上司と足りぬ部下 八尾 立地Z骨炎
本日の秀逸句である。面白い句であるような、ないような。
作者は常連中の常連。大阪府八尾の人。大阪なればのパロディいくつか。
経験が邪魔な橋下と足りぬ吉村
経験が邪魔な維新の衣替え
大阪人欺される経験まだ足りぬ
経験が邪魔して進まぬ都構想
(2015年11月23日・連続967回)