ここまで来た「表現の自由」の危機。右翼暴力と警察権力との癒着を批判しなければならない。ー東京新聞「天皇制反対デモを右翼が襲撃」報道紹介
昨日(11月23日)の東京新聞「こちら特報部」欄。見過ごしてはならない重い内容の記事となっている。是非とも拡散したい。多くの人に読んでいただき、この国が歴史的にどんな位置にあるかについて考えていただきたい。このような貴重な記事を提供してこその、さすが東京新聞であり、さすが「こちら特報部」であると思う。
メインの大見出しは「警察 暴挙見て見ぬふり」。サブの見出しとして、「天皇制反対デモを右翼が襲撃」。そして中見出しが、「車ボコボゴ、けが人も 政治的中立性どこに」というもの。これだけで、あらかたは推察できる。
リードに、「特報部」の問題意識が、よく表れている。
「東京都内で二十日、天皇制に反対するデモを複数の右翼団体が襲い、デモを先導する車のフロントガラスが割られたり、負傷者が出る騒ぎになった。警視庁の機動隊が現場で規制をしていたが、逮捕者はいなかった。沖縄県の米軍施設建設反対運動では、参加者を警察官が「土人」と中傷した。昨今の警察は政治的中立性という「建前」すら無視してはいないか。」
問題とされているのは、天皇制の是非やデモの主張の当否ではない。民主主義社会において国民に保障されている「表現の自由」の行使が暴力によって蹂躙されているとき、「警察が暴挙見て見ぬふり」をしたという重大事なのだ。こと、政権が押し進める沖縄の基地拡張問題となれば、あるいは政権を支える右翼勢力にとってセンシティブな天皇制の問題となれば、「昨今の警察は政治的中立性という『建前』すら無視する」ということなのだ。
記事の全文を引用して紹介したい。
襲撃されたのは「11・20天皇制いらないデモ」。生前退位議論に絡んで、東京都武蔵野市のJR吉祥寺駅南口周辺で、約百人が参加して実施された。
インターネット上にアップされた動画を見ると、右翼団体がワゴン車を囲み、左右に揺さぶったり、日の丸を付けたポールでフロントガラスを突くなどした。右翼団体の拡声器からは「殺せ、殺せ」という怒声が響き、ヘルメット姿の機動隊が制止に入ったが、右翼団体はそれを押しのけ、ワゴン車への襲撃を続けた。
このデモに参加した男性(37)によると、ワゴン車はデモの先導車で、デモの開始前、井ノ頭通りに出たところを右翼団体に襲われたという。男性は「車がボコボコにされた後、吉祥寺駅近くまで三キロ弱の距離を一時間半ほどデモしたが、ずっと右翼団体に囲まれ、横断幕は破られ、拡声器を奪われたり、地面にたたき付けられたりした。右翼団体とのもみ合いであごから出血したり、歯が折れた参加者もいた」と話す。
右翼団体は全体で三十?四十人。規制する機動隊は五百人ほどいたという。男性は「右翼団体は何のデモか周辺の人びとに分からないようにすることが狙いだったようだ。私たちの主張が書かれているプラカードや、拡声器を集中的に狙っていた」と振り返る。
当日、デモ隊、右翼団体双方から逮捕者は出なかった。男性は「これまで十年ほど運動をしているが、被害の大きさは過去最高。警察は右翼団体の暴挙を意図的に見逃しているようにしか見えなかった」と憤る。
この点について、警視庁公安部は「現在捜査中なので、回答は差し控える」とコメントしている。
ジャーナリストの斎藤貴男氏は「警察は本質的に体制の擁護者。国家の秩序維持が、その存在意義の一つだということは分かっている。そうだとしても、目の前の犯罪を取り締まらないとは度を越している」と批判する。
沖縄県東村の米軍北部訓練場ヘリパッド移設工事に反対する運動では先月、警備にあたっていた大阪府警の機動隊員が反対派市民に「ぼけ、土人が」などと発言し、戒告の処分を受けた。だが、鶴保庸介沖縄北方担当相が「警察の(土人発言は)差別とは断定できない」と発言した件について、政府は十八日、「謝罪の必要はない」との認識を閣議で決定した。
斎藤氏は、「土人発言を大臣が擁護することは、日本が差別を率先する国になっていることを意味する」と危機感を抱く。「戦後、少しずつ改善された人権意識が全部壊され、社会秩序を守るべき警察が、積極的に社会をぶち壊す側に回っている。ここまでひどいのは戦後初めてではないか」
さらに、こうした警察の振る舞いの影響を危ぶむ。
「今回は天皇制反対のデモだったが、これからはどんなテーマであれ、お上に逆らう人びとに対しては、罵詈雑言を浴びせたり、暴行しても権力が擁護する社会になるかもしれない。この無残さは人の世とは思えない。どれだけ意見に相違があろうとも、デモヘの襲撃は犯罪にほかならない」
東京新聞・特報部の焦慮にも似た問題意識がよく伝わってくる。デモの実行委員会から提供を受けたという「デモの開始前に割られた先導車のフロントガラス」の写真も生々しい。
ところで、この点に関しての他紙や電波メデイアの報道はどうなっているのだろうか。まさか、「天皇制反対の過激デモ、痛い目に遭ってもやむを得まい」と思っているはずはないだろう。しかし、「報道は、天皇制に対するデモを擁護と受けとられかねない」としての黙殺や遠慮が少しでもあるとすれば大きな問題であり、それこそが天皇制の民主主義に対する危険性を物語るものでもある。
声を上げなくてはならないと思う。今ならまだ遅くはない。小さな声の集積が差別者集団のヘイトデモを追い詰めたように、表現の自由を守るべき声を上げなければならない。ことが天皇制の評価に関わるものだからと躊躇していては、「お上に逆らうすべての言論」が封殺されてしまうことになりかねない。
「警察は襲撃者集団を特定して訴追すべきである」と発信しよう。警察が撮影したデモ襲撃現場の動画もあるはずだし、ネットにも動画が掲載されている。警察が犯人を特定して逮捕できないはずはない。
そして、被害者は証拠を保全して告訴すべきだ。暴行、脅迫、傷害、窃盗、器物損壊、だけでなく、
「暴力行為法(暴力行為等処罰ニ関スル法律)第1条 団体若は多衆の威力を示し、団体若は多衆を仮装して威力を示し又は兇器を示し若は数人共同して刑法第208条(暴行)、第222条(脅迫)又は第261条(器物損壊)の罪を犯したる者は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処す」「同法第1条の3 常習として刑法第204条(傷害)、第208条(暴行)、第222条(脅迫)又は第261条(器物損壊)の罪を犯したる者 人を傷害したるものなるときは1年以上15年以下の懲役に処し其の他の場合に在りては3月以上5年以下の懲役に処す」も活用すべきだ。
仮に不起訴となれば、証拠を携えて検察審査会に審査申立をすべきだし、特定できた襲撃者に対しては、損害賠償請求訴訟も提起を考慮すべきだ。附和雷同の襲撃加担者に、軽挙が高くつくことを知らしめなければならない。
いま右翼は、政権も社会も自分の味方だと思いあがっているのだ。政権にも、右翼暴力にも、民主主義社会は毅然たる姿勢を示さなければならない。
(2016年11月24日)