澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「空」とは、空っぽ政治家の捨てゼリフ。

立憲主義をないがしろにし、憲法への敵意を剥き出しにしてきたのが安倍晋三「壊憲」内閣。かつての保守本流とは明らかに一線を画した危険な政権と指摘せざるを得ない。無理矢理に国費を金融市場に注ぎ込んで株価を押し上げ、「他の政権よりマシだから」という目眩まし国民世論の消極的支持を得てここまで命脈を保ってきた。その安倍政権が、ようやくにして崩壊寸前となっている。まさしく「築城3年、落城1日」の趣き。もう一息だ。

その落城寸前の安倍政権に打撃を与えた最大の功労者は、安倍晋三本人を除けば、稲田朋美という獅子身中の虫と万人が認めるところ。そのオウンゴール功労者が、「大臣としての資質に欠ける」「無能」「無責任」「隠蔽体質」「嘘つき」と火だるまになって、防衛大臣を辞任した。誰もが、いろんな角度から「辞任は当然だが、遅きに失した」と述べている。

昨日(7月28日)午後1時半すぎ、不名誉な辞任会見を終えて防衛省を去るに際して、記者団から「今の心境は」と尋ねられ、この人は、意味不明のにやけ顔で、「空(くう)ですね」と述べている。ことの重大さと自分の責任をまったく自覚していない風の不遜な態度。この人には、現実感というものが感じられない。常に、学校劇を演じてセリフをしゃべっているような浮遊感が漂っている。国民をなめきった所作と言葉。最後の最後まで、自らの資質の欠如、政治家としての「不適材」ぶりを誇示して、安倍晋三の人選の過誤、任命責任の深刻さを印象づけた。さすがに、オウンゴール名手としての名に恥じない。

おそらくは、あの記者会見は内閣支持率の幾ばくかの低下に確実に寄与した。こうして、安倍政権が崩壊し改憲・壊憲の動きにストップがかかれば、振り返って稲田朋美こそが日本国憲法の危機における救世主だったともなり得る。いずれは、感謝状を贈らねばならない。

ところで、稲田が言った「空」とは何だろう。言葉は社会的存在であるから、主観の忖度を離れて「空」の客観的な意味を探らなければならない。

「空」とは形声文字で、「穴」に音符の「工」を付したものという。「穴」は穴居生活の住居の象形(「偕老同穴」が分かり易い)で、くぼみ、へこみの「あな」を表す。「工」は、ノミなどの工具の象形文字で、この場合は音符となっているが元の意味を失っていない。大漢語林(大修館)では、「工具などでつらぬいた穴の意味から、むなしいの意味を表し」「転じてそらの意味を表す」。また「工は、広いの意味。広い穴、そらの意味とも考えられる」とされている。つまり、「大きな空っぽの穴」が原意であり、派生して「そら」になったという。

もともとが、「むなしい」「中身がない」「空っぽ」「実がない」という意味であり、やや転じて「うそ」「いつわり」「落ち着きを失った状態」「かいがない」「いたずらに」「むだに」との意味となったというのだ。

根も葉もない言葉を「空言」あるいは「空語」という。和語では「そらごと」。いつわりの涙は「空涙」。空虚・空吟・空耳・空理・空論・空文・空名・空想・空談…と、「空」とは実の伴わない空っぽのことなのだ。なるほど、中身なく責任感に欠けた「空っぽ政治家」が大臣辞任時に口にするに、まことにふさわしい言葉ではないか。

稲田朋美は、民主党政権時代に国会質問で、舌足らずながらもやたらと攻撃的な言葉使いで話題を提供した人物。当時の菅直人首相が、「私も野党時代、かなり厳しい言葉を使っておりました。 しかし、これほど汚い言葉は使わなかったつもりであります。」と反論したほど。

その稲田が、本会議でこう言ったことがある。
「民主党政権には日本の主権を守る意志がない。領土を守る意志がない。家族と地域社会を守る意志がない。そして何よりも国家観がない。この国がどんな国を目指すのかという理念もない。つまり、意志も国家観も理念もない、からっぽの政党なのです。」

いま、自らを「からっぽの政治家なのです」と自覚し、自嘲した言葉が「今の心境は空ですね」という意味かと、その捨てゼリフに納得がいく。
(2017年7月29日)

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Published in 土曜日, 7月 29th, 2017, at 19:52, and filed under 安倍政権.

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